ドレアノ伯爵領(2)
「ではちょっと失礼しますねー」
ヴィエラさんがてきぱきと採寸してくれる。
慣れた手つきで仕事をする姿はとても綺麗だ。私みたいなお子様と比べるのは良くないけど、仕事のできる女性は格好良い。
「ではこちらのサイズを元にちょうど良いサイズのドレスをいくつかご用意しますので、店内をご覧になりながらお待ちくださいませ」
そう言うとヴィエラさんは小走りで店内の服を集めに行ってしまった。
店内は広々として、煌びやかだ。日本の服屋さんみたいにハンガーラックにまとめて掛けたりとかそういうことは一切無く。全てマネキンに着せてある。そりゃあ店も広くなるわ。こっちの世界はどの店もこんななのかな?
「お待たせいたしました。こちらが今ご用意できるサイズの中でも、特に人気のデザインでございます」
そう言って並べられたドレスはどれも美しく、とても日本に居た頃の私なんかには縁の無い様な逸品ばかりだった。
「正直どれが良いか迷ってしまうわ」
こんな綺麗なドレス着たことないし、どれが良いかなんて全然解らない。
もういっそ適当に選んでしまおうかな?
「フラン様でしたらどれも見事に着こなせますよ」
レヴァンがそう声をかけてくる。
そうだ! どうせ自分じゃ決められないし、レヴァンの中じゃもう私の従者確定なのだし、選んで貰おう! そうしよう!
「じゃあレヴァンが選んでくださる?」
「私が選ばせて頂いてよろしいのですか? 武芸しか取り柄の無い男ですよ?」
「いいわ。私一人では迷ってしまって決められそうにないもの」
「承知いたしました。ではこのレヴァン、フラン様にふさわしいドレスを選ばせて頂きます」
レヴァンはそう言うと真剣な表情でドレスを選び始めた。
「これは少し胸元が開きすぎか……。こちらは少し年齢層が高めのような……。いや、フラン様の魅力ならば……」
なんかぶつぶつと独り言を言いながらドレスを眺めるレヴァン。これ私が居なかったら不審者よね。
レヴァンはしばらく悩んでいたが、最終的に一つに絞れたようだ。
「こちらの青いドレス。フラン様の瞳の色によく似ていますので、これが良いかと思います」
それは青色が綺麗なドレスだった。デザインもシンプルで、あまり華美にになりすぎていない物だった。
「ではそれにしましょう。あ、でも私今持ち合わせがありませんよ?」
なにしろナイトドレスだけで逃げてきた身ですから。お金なんて持っている訳がありません。
「大丈夫です。私が持っておりますので。伊達に騎士隊長はしておりませんよ」
おいおいレヴァンさん。あんた自分の身銭を切ってまで主人(仮)にドレスを買うって言うんですか? 結構な値段するでしょ?
「ちょっとレヴァン! そこまでして頂く必要は無いのでは?」
「どうせ使い道の無い金ですから、フラン様の貯めに仕えるならむしろ光栄です!」
あーもう駄目だこの人。現代日本だったら確実に社畜になるね。
いくら自ら従者に名乗りを上げているとはいえ、ドレスを貢がせるとか正直私の心が痛みます。
「いやさすがにそれは駄目です! いくら何でも駄目です!」
「そうは言ってもドレスが無ければ伯爵に挨拶はできませんでしょう? であれば必要経費です。フラン様は何も言わず受け取って頂ければ良いのです」
うーん。これは引いてくれなそうだ。どうしよう。ここで受け取ってしまったらレヴァンを従者として認めてしまったという既成事実ができてしまう。なんとしても回避しないと! どうしよう!
正直焦っていた私だったけど、ふと良いアイディアがひらめいた。
「では立て替えと言うことにしましょう。王都の別宅にも蓄えは多少有るでしょうし、王都に着いたら立て替え分はお渡しいたします」
「なるほど! ではフラン様がそう仰るならそう致しましょう」
何とか貢がせは回避できたみたいだ。
「ではこちらでお会計させて頂きます。従者様はこちらへ」
いやいやいや! 何言ってるんですか会頭さん! レヴァンは従者じゃ有りませんから! 王都までの付き添い護衛ですから! 王都に着いたらお役御免の予定ですから!
「うむ。解った」
レヴァンもなにその気になってるんです? 勘弁してください!
「伯爵様へご挨拶されるのなら、こちらでお召し替えするのがよろしいでしょう。さぁ侯爵令嬢様はこちらへ」
私の悲痛な心の叫びは理解されること無く、私はフィッティングルームへ連行されるのであった。
「非常に良くお似合いで御座います。フラン様」
「ありがとう」
レヴァンはとても満足げだ。まあ自分が選んだドレスを着て貰ってるんだから仕方ないのだろうけど……。
「さすが侯爵家のご令嬢で御座います。とても良く着こなせておりますよ」
会頭も褒めてくる。褒めても何も出ませんよ。
「ドレスも準備できましたし、早速伯爵の屋敷へ行きましょうか」
「そうですね、あまり遅くなっても伯爵にご迷惑でしょうし」
店員さん一同に見送られ、大通りに出る。
店の前には救援隊の皆様が待っていました。うん。この集団を外で待たせてお買い物とか……。すっかり忘れてたけど超目立つじゃ無い私。
「お待ちしておりました」
と、一同が声をそろえてお出迎え。やめて、これ以上目立たないで! 街ゆく人たちの視線が痛いから! 超痛いから!
「では馬車にお乗り下さい」
レヴァンに促され馬車に乗ろうとした時、ふと刺すような視線を感じる。
はっとして振り向いてみたけど、そこには町の雑踏しか無かった。
「フラン様? どうされました?」
レヴァンが不思議そうに声をかけてくる。
「いえ。何か視線を感じたような気がしたんですけど……」
「きっとフラン様が素敵だからですよ。皆みとれるのでしょう」
本当にそうなのかな? 感じた視線はなんかこう……敵意というか悪意というか。あまり良い感情では無い気がしたんだけど……。
「そうですかね……。まあ良いわ。行きましょう」
私はそのまま馬車に乗り込み、伯爵亭へ向かうのだった。
お付き合いありがとう御座いました。
3/26追記:微妙に修正しました。




