謁見
「此度の件は誠に残念であった。ソナタの心中察するに有り余る」
国王陛下は淡々とそう告げる。
「陛下にご心配頂けるなど、この身に余ります」
「うむ。ボワーズ家は長年我が王家に仕えて来た由緒ある家柄。其方の後見も含めてできる限りの支援を居たそう」
「ありがたき幸せに存じます」
緊張する。というかこういう言葉遣い慣れてないから、いつ無礼なことを口走っちゃうかひやひやですよ。
「して、早急に何か必要な物や、困り事はないか?」
「いえ、まだ心の整理も付いていない身ですので」
「そうか」
国王陛下はそう言うと髭をいじりながら何かを考えているようだった。
口を開いたのはレヴァンだった。
「失礼を承知で申し上げてよろしいでしょうか?」
その言葉に国王陛下はじっとレヴァンを見つめる。
「よいぞ。申してみよ」
「道中ドレアノ伯爵領に滞在した折、悪意有る視線を度々ぶつけられました。ドレアノ伯爵が関与してるとはもうしませんが、襲撃の件とその視線の関連が無いとも言えません」
国王陛下の表情が険しくなる。
「我が国の貴族が、ドレアノ家が関与してると申すか?」
「いえ、まだ確証はございません」
「では何が言いたい」
「陛下もご存じの通りボアーズ侯爵家は名門でございます。その侯爵家が治めている領土は我が国有数の地域でございます」
レヴァンは淡々と話し続ける。
「我が国の貴族に限らず、その領土を狙っている物がどこかに潜んでいるかもしれない。という事です」
「なるほど、不用意にボワーズ家の令嬢の後見を決めると貴族の権力争い。最悪の場合外交問題になる可能性があると?」
「可能性としては低いかも知れませんが、あり得ない話ではないかと」
国王陛下は険しい表情を変えること無く何かを思案しているようだ。
謁見の間に少しの沈黙が流れる。
「では、フラン・ボワーズよ。其方はどう考える?」
うっわ。私に振られちゃったよ。何も考えてなかったよ。
この場合どう答えるのが正解なのかな?
でも下手な権力争いに巻き込まれるのも面倒くさいよね。
「私はまだ領政のいろはも知らぬ身でございます。しかし、父上と違い他の貴族の方々とのご縁も少なく頼るべき方がどなたなのか皆目見当が付きません」
正直どの貴族の名前を出されても、今の私にとっては誰それおいしいの? ってレベルでしかない。
「では我が王家が後見となろう。であれば余計な争いもある程度防げるのでは無いか?」
まさかの王家が後見ですか? ちょっと話がうますぎませんか?
「陛下がそう仰るのならば大丈夫かと」
レヴァンってば即答しちゃってるし。この状況で私が断る事なんてできないじゃない。
「恐れ多いことですが、私としてみれば願ってもない事でございます」
うん。こう言うしかないよね。言わされてる感満載ですけど。
「では早速その方向で手続きさせよう。他に気がかりは無いか?」
うーん。特に思いつくことは無いんだけどなー。
あ、でも後々私が動きやすいように何か手を打っておく必要はあるかもしれない。ダメ元でお願いしてみよう。
「私からよろしいでしょうか?」
私は国王陛下を見つめ伺いをたてる。
「申してみよ」
「王家の後見をいただけるとのこと、誠に感謝しておりますが、領政のことに関して私はまだ何かを成すことが出来る程の器ではありません。できれば各地を回り、見聞を広めてみたいと考えております」
もしこの提案が通れば貴族社会に縛られずにすむかな? なんて打算込みの提案なんだけど……。あ、なんか国王陛下難しそうな顔してる。無理かな。
「其方の考え方は解った。しかし侯爵家の令嬢が旅をする以上相応の護衛をつける必要がある。伯爵家の使用人や護衛も居るだろうが、王家が後見となる以上国からも相応の人数の護衛を出さねばならぬ。次期を見て判断するとしか答えられぬな」
やっぱり難しいかー。なら他の手段だ。
「であれば時期が来るまで騎士団にて剣術を学ばせて頂けないでしょうか? 先の襲撃の件もあり、少々身の危険を感じておりますので、万一の時に自らを守れる手段が欲しいのです」
「それならば何とかなるな。しかし正式に騎士団に配属することは出来ん。騎士団に配属となれば万一の戦の折、戦場へ赴かねばならぬからな。侯爵家の本家筋は其方しかおらぬ。みすみす途絶えさせ良い血筋では無い」
当然です陛下! 私だってみすみす死にに行くような事はしたくないです。
「領土は王家預かり、其方の身柄は騎士団預かりという形でいかがか?」
「格別のご配慮ありがとうございます」
「うむ。ではその件も進めておこう。この後騎士団の所に行き、今後のことを相談すると良い」
うん、上出来。とりあえず政治がどうとかそういう難しい話からは当面遠ざかることが出来そうだね。こっちの剣にあわせた剣術も覚えられるしね。
「では此度の話はこれで終わりで良いか?」
「はい。この度は誠にありがとうございました」
私は国王陛下へ向かって深々と頭を下げた。
「そう何度も頭を下げなくとも良い。其方の父は幼い頃からの友人だ。成人してからは国事に関し度々良い助言を貰った。その友人の遺した娘は我が娘も同然。何かあればいつでも頼ってくると良い。其方が自由に王宮へ出入り出来るよう、余から計らっておく」
「何から何まで、本当にありがとう御座います」
こっちの世界の見たこと無いお父さん。あなたとても凄い人だったんですね。だから王家の後見とか色々ぶっ飛んだ展開になってるんですね。
正直お礼を言うべきかどうか混乱しすぎてよくわからないけど、せめて家名に泥を塗らないよう頑張ります。
そんな事を思いながら、私とレヴァンは謁見の間を後にした。
お付き合いありがとう御座いました。