王城
王城の門をくぐり、右手に少し進むと今乗っている舟と同じ型の舟が何隻も停まっている船着き場に着いた。
「こちらは騎士団専用の出入り口になります。フラン様は騎士団の所属ではありませんが、他全員が騎士団ですのでこちらからの入場になります」
私の手を取り、舟から降ろしてくれるレヴァンが申し訳なさそうに話しかけてくる。
「本来であれば正面からご案内すべきなのでしょうが、なにぶん今回の事情が事情なのでご容赦下さい」
「気にしてないので大丈夫ですよ」
正直どこから入るかなんて今の私にとっては些細なことなんだけど、侯爵令嬢という肩書きを持つフランに対して配慮してくれたみたいだ。
船着き場から階段を上り、騎士団の本部と思われる部屋を通り過ぎ、廊下をしばらく進んだ所で私は一つの部屋に通された。
二十畳くらいかな? 結構広めの部屋にテーブルがあり、その上には高そうなお菓子が置かれていた。どうやら食べて良いらしい。
なんかテレビに出てくる芸能人の楽屋みたいだと思って眺めていた。
来客用の控え室か何かなのかな?
「これから私は騎士団本部への報告と、国王陛下への謁見の手配をして参りますので、フラン様はこちらでお待ち下さい」
どうやらレヴァンはこの後仕事があるみたい。って王への謁見? 初耳なんですけど? まあ確かに詳しいこと聞かなかった私も悪いんだろうけどさ。
とりあえずいきなり謁見は無いでしょ? 心の準備をさせて下さい。
「着いた当日にいきなり謁見なんて無理じゃないですか? 国王陛下はお忙しい方だと存じておりますが」
「本日の帰還となることは先んじて手紙を届けさせておりますので、何事も無ければ本日中の謁見は叶うと思います」
「それと私は騎士団の方との面会は聞いておりましたが、国王陛下の剣は私聞いておりませんけど?」
「本来は私一人で帰還の報告をするだけだったんですが、道中の盗賊の剣もありますから、直接国王陛下へフラン様がお話しされる事も必要かと思いまして。まあ国王陛下への謁見に関しては今日か後日かはまだ決まっておりません」
そう言うことですか。後日になることを、いや謁見の必要が無いことを全力で祈ります。
「と言うことですので今後の動きが決まるまでフラン様はこちらでお待ち下さい」
そう言ってレヴァンは控え室から出て行ってしまった。
「暇だ」
控え室には何も無い。いやお菓子とかお茶とかは出して貰えてるけどさ。
それ以外に本も無ければ暇を潰せそうな物の類いが一切無い。
従者の人は居るには居るんだけど、私従者の人と世間話ができるほどこの世界の話題持ってないし。
なので一人で時間をつぶすことになり、とにかく時間が長く感じた。
仕方が無いので、外に聞こえない程度の大きさで歌でも歌って気を紛らわせよう。
一時間弱くらい経っただろうか。私の一人リサイタルも七曲目にさしかかったところでドアがノックされる。
「失礼いたします」
そう言うとレヴァンが入ってきた。ここまで連れてきてくれた時の鎧装備ではなく、正式な騎士団の制服に身を包んでいた。
ピシッとしたその格好はとても格好良く、道中のあのくそ真面目っぷりや強引に従者になるなんて行動が無ければあこがれを抱いていたかも知れない位。さすがは騎士隊長といったところね。
「どうかされましたか?」
私が何も言わずレヴァンを眺めていたのを不思議に思ったのかレヴァンが首をかしげる。
「いえ、なんでもありません。もうよろしいのですか?」
「はい。国王陛下がフラン様を連れて謁見の間に来るようにと仰いました」
「では行きましょうか」
「ではこちらに」
私はレヴァンの手を取り控え室を出る。
謁見の間の前に付くと、入り口の両脇に近衛騎士が居た。
二人の槍を交差させ入り口をふさいでいる。良くある奴! 漫画とかでよく見る奴!
こんな光景でテンションが上がってしまった自分に対して、徐々にこの世界に染まり始めてるなぁ。なんて思い気を引き締め直そうとしていると、そんな私の挙動が可笑しかったのか近衛騎士は怪訝な顔で私を見ていた。
まずいまずい。下手なことしたら犯罪者になっちゃうね。
改めて姿勢を正し、身なりを整える私を見て近衛騎士は軽く咳払いをすると、クロスさせていた槍をどけてドアノブに手をかけた。
「それではお入り下さい」
近衛騎士がそう言うとゆっくり扉が開き、私とレヴァンはそのまま中へ通された。レヴァンが私の手を引き連れて行ってくれる。
玉座の付近まで来たときレヴァンが小声で話しかけてきた。
「ここで跪いて下さい」
そう言うとレヴァンは立て膝を付いて国王陛下へ跪く。
私もそれに倣い跪く。アニメや漫画で見た知識を必死でたぐり寄せ、見よう見まねでやるしか無かった。これで作法がなってないとか無礼とか言われたらアウトだよねー。牢に入れられちゃうかな?
そんな心配を余所に、私に対して非難の言葉がかけられることは無かった。
あんな適当な作法で問題なかったらしい。まあ当然と言えば当然なのかな? いくらなんでもこの世界の貴族の礼儀なんて設定する訳無いしね。
「苦しゅうない。フラン・ボワーズ、レヴァンドロス、面を上げよ」
この世界に何の縁も無い私にも伝わる威厳のある声だ。
私とレヴァンは顔を上げ、国王陛下の方を見た。
うん。どっから見ても王様だ。それはもう王様と言われれば、誰しもが想像する立派な髭の王様だった。
レヴァンは普通にしてたらかっこいいです。
ただちょっと真面目すぎて残念なだけです。
お付き合いありがとう御座いました。