実家に帰省してみた
すみません。
思っていた以上に長くなってしまったので分けて書きます。
その後の話は少々お待ちください。
「リュウ。これおばさん達からの手紙」
今日も執務をこなしているとティアからそう言われながら手紙を差し出された。
「ありがとティア。なんか大切な用事とかあったっけ?」
「大切な用事とかではないけど、やっぱり会いたがってたわよ。特におばさん。おじさんの方は……まだ怒ってるけど」
「そりゃ当然だよな。勝手に家を飛び出していつの間にか魔王やってるんだから」
俺は手紙を読みながらティアにそう言った。
当然ではあるがあの戦争の宣言により俺が魔王になったことは両親にも知られている。
なんとなく顔を合わせ辛い、勝手にいなくなって魔王になって家に帰るのも変、というか魔王になったことで実家に気軽に帰る事が出来ない状況にしてしまった。
自業自得と言ってしまえばそれまでだが、こうして手紙を読んでいるとやっぱり帰った方が良いとは思う。
でも帰るにも様々な準備が必要なのだ。
「でもおじさん、本当はおばさんに全然顔を見せない事みたいだよ。心配してるから早く顔を見せに行かないと本当にこの森に突入してくるかもしれない勢いだったから」
「それは色んな意味で困るな……親父たちにこの森を突破するだけの力はないぞ。というか知性のない魔物に襲われたら本当に危ないって」
「それならリュウの方から会いに行くべきなんじゃない?」
「でも実際に会いに行くとしても色々手続きをしないと動けないっと言うか、動かないといけない。そうしないと人間の国が混乱する」
「ライトライト限定なら大丈夫だよ。私が許可をもらってきたから」
「は、はぁ!?」
意外な言葉に俺は驚いた。
「お前、いつの間に……」
「元々おじさん達に頼まれてたからそのまま国王様にも頼んでおいただけ。ただ条件として私とタイガ、ヒカリが一緒に行動する事と、私以外の奥さんを連れてこない事、だって」
「つまり護衛はお前以外認めないって事か。安易にリル達をライトライトに入れないよう対策してたわけだ」
「そんな風に受け取られちゃうよね……でも王様の気持ちも分かってほしいな~……なんて」
「まぁ魔王とその妻が国に来るって言うのはかなり怖いだろうからな。多分やろうと思えば俺達の誰か1人で国を半壊させるくらいまでは出来るだろうし」
「連合国を倒した魔物達が国1つくらい簡単に倒せるでしょ。それくらいの戦力差があるって分からせられたんだからさ」
「それでも限界はあるっての。でも予定取れるかな……」
「それは私の方でいつ行くか国王様に伝えておくから大丈夫」
「……頼む」
こうして俺は久しぶりに実家に帰る事になった。
――
実家に帰る当日、リル達には申し訳ないが約束通り一緒に行くのはティアとタイガ、そしてヒカリの3人で行く。
一応お忍びという事になっているので顔を隠せるくらいのフード付きのローブを着ている。
これは俺だけではなくティアたちもだ。
「何で私まで……」
「ヒカリは教会代表で本当にリュウの事を殺そうとするからどうしても呼ばれちゃうんだよ」
「私はティアに負けた。それなのにティアより強い魔王を相手に勝てるとは思えないんだけど」
「でも倒す努力はまだ続けてるんだよね?教会聖騎士団総団長様」
「タイガこそ、よく好きだった幼馴染をあっさりと渡したわよね。奪い返してくれたら私も安心できるんだけど」
「昔からティアはリュウの事が好きだったのは知ってたからね。それにこうして隣で一緒に頑張れるんだからまだいい方だよ」
ティア、タイガ、ヒカリは話しながら俺の後ろを歩く。
俺が勝手にどこかに行かないように見張っているらしいが、仲間同士の会話が弾んでいて緊張感がない。
それからかなり離れた位置からライトライトの騎士か情報機関が俺の事を見張っている。
完全に俺達4人だけって事にはならないか。
「お前らなぁ。一応目の前にいるの魔王様だからな?もう少し緊張感持てよ」
「緊張感ってヒカリ以外はここで暴れるつもりがないって分かってるんだからいいじゃない。ヒカリも少しずつ分かってくれてるし」
「魔王リュウ。貴方が人類の裏切り者なのは変わりません。だから少しでも妙な動きを見せたら殺します」
「ついさっき勝てるとは思えないって言ってた奴のセリフとは思えないな」
「一矢報いる覚悟は出来ているという事です」
レイピアに手をかける聖女に俺はため息をつく。
「もう教会と戦争する理由はないんだが」
「それはそうでしょう。今の教会は貴方の傀儡になってしまいましたから」
恨んでいると言ってもいいくらいの厳しい視線を向ける聖女。前の教皇の考え方からかけ離れたものになってしまったのだからそう言われても仕方ない。
だがこれにより人類と魔物の関係は少しは良くなると思う。
そのために必要な住み分けだと俺は今も思っている。
「それでも人間の被害を抑えるためにやってる。実際に被害は抑えられてるはずだが?」
「大変気に入りませんが、結果だけは認めます。確かに魔物による被害は減少傾向にあります……」
大森林の知性のある魔物達を俺が支配している事で最低でも知性のある魔物達と人間の衝突は避ける事が出来ている。
後は野生動物と変わらない程度の知性しかない魔物達に関してはこちらで監視したり、発見して危険と判断したら倒したりもしている。
だがそれだと冒険者達が倒す魔物が完全にいなくなってしまうので少し抑えてだが。
そのため冒険者達が大森林の魔物を狙い、返り討ちに会ってしまった場合は放置している。
こればっかりは自業自得だし、戦闘中に俺達魔物が入ったら一緒に攻撃されてしまう可能性も高いので助けには入らない。
そのため完全に被害を抑えることは出来ない。
「最近は冒険者達の人数も減ってきてるみたいだしね」
「情報によると大森林での活動が出来ないからって言われているけど、リュウは何もしていないよね?」
「流石に何もしてないって訳じゃないが……別に冒険者の活動を邪魔してるわけじゃないぞ。最近はダハーカとエレン達エルフのおかげで希少な薬草の栽培にも成功して来たし、薬草採取に関しては全く手を付けてないぞ。大森林の魔物に関しては基本的にすべて監視してるし、放置してるのは動物と変わらない魔物だけだ」
「ちなみにその知性があるないの線引きは?」
「人間の言葉に対してただ反応するのではなく理解しようとすること。つまり人語を理解できてるかどうかってところで判断してる。そのまま人語を覚えたら住んでもらってる」
「……それってどれくらい?」
「ほんの3種族だぞ。オーガとかアーマンとかドリアードとか」
「それどれも危険な魔物じゃなかった?オーガは怪力で殺しに来るし、アーマンは水中に引きずり込んで殺そうとする、ドリアードは蔓で人間を締め付けながら養分を吸ってミイラにされる」
「人並みの知識を得たら落ち着いたぞ。今は色んな所で他の種族達と関わりながら知識を向上させてる」
俺がそう言うとなぜかタイガは引きつった笑みを浮かべた。
何故引きつった笑みを浮かべるのかが分からない。人間への被害が減るのだから良い事だと思うのだが?
そう思っていると聖女から言われる。
「今あなたが何故こちらの反応に対して疑問を浮かべているのか全く分かりません。本当に自分の行動を顧みてはいかがですか」
「……無駄な犠牲が出なくていいじゃないか」
「本当に理解できていないのですね。良いですか魔王。先ほど言った貴方の行動は魔王の戦力を向上させる行為としか人間から見る事が出来ないからです。しかも魔物の知性が高い事で討伐しにくくなることはあの戦争でよく理解しました。それをあなたは現在進行形で行っている。人類の敵を増やしている。本当に分かっていないようですね」
あ、あ~。そういう風に見られてたのか。
確かに俺は仲間を増やしたが、それで人類の敵としてさらに戦力を増しているという意識は全くなかった。
「本当にそんなつもりはなかったんだけどな……」
「でもヒカリが言っている事も結果的にだからさ、あまり気にしなくても――」
「気にします。人類の脅威がまた増したのですから」
ヒカリの俺を見る目はずっと変わらない。
いつか必ず戦う相手として一切油断せず見続けている。
きっと人間としては正しい判断なのかもしれないが、そんなに気を張っていて疲れないのか?
そう思いながらもいつの間にか実家に着いていた。
俺が働いていた牧場から少し歩いたところにある普通の一軒家。
どんな顔をすればいいのか、どんな風に声をかければいいのか分からず、ついティアとタイガに視線を向けてしまう。
しかし2人は俺にさっさとドアを開けろと促してくるだけなので、俺は一度深呼吸をしてから腹をくくった。
ドアをノックして少し待つと、ドアの向こうから荒々しい声が聞こえる。
「ちょっと何する気!?」「これくらいが普通だろ」片方からは必死に声を上げるがもう片方は非常に落ち着いた感じでこちらに向かってくる。
何してんだ?っと思っているとドア越しに銃弾が飛んできた。
爆発音は当然ドアの向こうから聞こえ、弾はまっすぐ俺に向かって飛んでくる。
と言っても今の俺なら銃弾くらい簡単につまんで止める事が出来るので問題ない。
それでも他の3人は驚いていたが。
「ちっ。生きてやがったか」
穴が開いたドアの向こうから開けたのは俺よりも背が高く、がっしりとし、髭を生やした大男。肩に猟銃を乗せており、白い煙が銃口からこぼれていた。
これが俺の父親だ。
元猟師であり現在は後任を育てているが今でも十分猟師として生計を立てていく事が出来る元気な親父だ。
「ちょっとリュウ!?本当に大丈夫!!何ともない!!」
そんな父の腰にしがみついていたが、慌てて俺の身体を触りながら無事であることを確認しているのが俺の母親だ。
俺より背は低く、本当に俺の母親なのかと聞きたくなるくらい優しい性格。
家に入ってきた虫も殺さず外に逃がすような性格だ。
「大丈夫だって母ちゃん。親父の方はいつも以上にご立腹な」
「当然だ家出息子。何も言わずにどこかに行ったかと思えば大森林で魔物の王をやっていると突然届いた。足を出せ。一発ぶち込ませろ」
「父親が息子に対して何言ってるの!?殺す気!!」
「今のこいつならそれくらいでくたばるわけないだろ。一発ぶち込まないと気がすまん」
「リュウと喧嘩はしてたけど銃を取り出して本当に撃つ馬鹿がどうしてここに居るの!?冷静になりなさい!!」
「冷静になるのはお前の方だ。見ろ、俺がさっき撃った弾を持ってやがる」
親父は気に入らなそうに俺の眉間に銃を向けてあっさりと引き金を引いた。
爆発音と同時に俺は飛んでくる銃弾を掴んで止めた。
しかし母ちゃんは顔を青ざめて親父を前後にゆする。
「また撃った!!実の息子に向かって撃った!!」
「だから見ろ。血の一滴どころか傷1つねぇ。だから問題ない」
「問題ないじゃないの!!父親が息子に向かって銃を撃ったって事実が信じられないの!!いくら怒ってるからって撃つ人がいますか!!」
そう言いながら母ちゃんは親父から銃を奪い取った。
でも母ちゃん。銃を持ったまま抱き着くのは少し怖いからやめてほしいんだ。
「本当に大丈夫なのよね?怪我無いのよね??」
「ないから。親父の言う通りもう俺普通の人間とは言いにくいし、怪我してないから。大丈夫だって」
「そうなの?とりあえず家に入って。ティアちゃん達も入ってちょうだい」
「お邪魔します」
こうして俺達は久しぶりに実家に帰ってきた。
実家は特に変わった様子はなく、俺がリルに連れていかれる前と特に変わらない。
リビングの椅子に座って母ちゃんから色々な事を聞かれる。
大森林での出来事、そして現在はちゃんとやっているのかどうかなど、ティアたちも混じりながら現状について報告した。
「そう。ちゃんと働いてるようでよかった。それじゃこれからもその子達と一緒に頑張っていくのね」
「そういう事。だから心配ばっかりじゃなくて安心していいから。頼りになる仲間もいっぱいできたし、もう心配しなくていいから」
「それならいいけど……」
「それに逆に聞くけど、俺が魔王になったことで困ってたりしない?すぐ噂になったでしょ」
正直両親の事で心配していたのはその事だ。
俺が魔王になったことで両親が周りから迫害を受けていないかどうかが気になっていた。
その事をこめて言うと母ちゃんは苦笑いを浮かべながら適当にごまかす。
これは困っていて本当にどうしようもない時の笑み。
やっぱり俺が魔王になったことで迷惑をかけていた。
「悪いな。やっぱり何かされたか?」
「何かされたと言うよりは何もされなくなったというか……」
「お前が魔王になったことでほとんどの連中から無視されるようになった。ま、腫れものを扱ってるって奴だ。俺達を傷付けることで魔王に皆殺しにされると思っているらしい」
「あなた!!」
「別にいいよ母ちゃん。はっきり言ってもらった方がむしろ助かる」
「おかげで後任の育成もうまくいかなくなったし、牧場の方もみんなこそこそしてる。お前のせいだぞ」
「分かってる」
分かっているがどう解決するかはこれから決めないといけない。
最も簡単なのは……
「親父、母ちゃん。俺の国に、大森林に来ないか?」
「……ほう」
「それっていいの?」
親父は興味深そうに、母ちゃんは心配そうに聞いてくる。
「まぁなんだ。しっての通り魔物ばっかりの場所だけど少しずつ人間の事も教えてきたいと思ってる。つまり普通の人間枠として色々あいつらに教えてほしいって面もある」
「狩りは出来るのか」
「毎日やってる。さすがに森を開拓して畜産するわけにはいかないから、基本的に肉は狩猟で賄ってる。狩猟犬が欲しいならフェンリルがおすすめ……にならないか。あいつらは強すぎて狩猟犬に向かないかも」
「貴族だったらペット自慢に良いかもしれないがな。だが狩猟犬に良いと思う魔物は自分で選ぶから気にするな」
「あなた意外と乗り気ね。私は少し不安だわ」
「だがここに居てもつまらないだけだ。お前だって息苦しい思いをしているんだろ」
「少し……ね。でも周りに魔物しかいない環境と言うのもちょっと……」
「正直金の文化はまだまだ根付いてないから物々交換が主流だし、人間がいたとしても戦える連中ばかりで母ちゃんみたいな普通の人間はほぼいない。でも冒険者の女性もいるし、俺の母親だと言っておけば怖い目には合わないぞ」
「それって本当?」
「まぁ……あいつらがちゃんと加減してくれれば」
魔物と普通の人間の身体能力の差はかなり開いている。だから教会は普通の人間のために魔物を絶滅させることを目標にしていたのだから。
それに母ちゃんにとっての怖いが俺と同じものとは限らないからな……
「それに人型って言う意味ならドワーフとかエルフとかもいる。魔物が怖いって言うならその辺りから慣れてくれると助かる。本当に嫌ならここに残ればいいしさ」
「…………一緒に行きたいって言ったら家はどうなるの?」
「しばらくは俺が住んでる屋敷に居てもらうかな?そのあと2人の家が欲しいなら建築する。どんな家が良いのかは要相談だけど」
「……小さな庭園が作れるくらいの庭は欲しいわ」
「了解。頼んでみる。それじゃ2人はこっちに移住するって事でいいか?」
俺がそう確認を取ると両親は頷いた。
その姿に最も驚いていたのは聖女だ。
「ほ、本当によろしいのですか?あ、すみません。ご家族の事に他人の私が口をはさむ事ではないと分かっているのですが、魔物の国に移り住むことに抵抗はないのですか?」
「俺は別に構わない。息苦しい所で腫れ物扱いされるよりはマシだ」
「それに不安がないわけじゃないのよ。でもここに住み続けるのもちょっと大変になってきたから、これも選択肢の1つだと思うの。でもこんな急に引っ越すと言って大丈夫なの?」
「2日時間をくれ。そっちも引っ越し準備があるだろ?」
「5日だ。引っ越しの準備はそれくらいかかるんだよ。お前みたいに身に付けた物だけ持って行くのはバカがすることだ」
「元々引っ越すつもりはなかったんだよ。というか本気で魔王なんて目指してなかったからな」
一応の言い訳をしてから俺は念話でアオイにこの事を伝える。
するとすぐに「準備します」と帰ってきたのでこれでいいだろう。
「さてと、久しぶりに息子が帰ってきたからごちそうにしましょうか。ティアちゃん手伝って」
「分かりました」
「リュウも一泊くらいはできるでしょ?」
「ああ。今日は大丈夫だ」
「猪肉出すか」
こうして両親は俺のいる大森林への移住が決まった。
やっぱり俺が原因だからどうにかしたいと思っていたが、意外とあっさりこっちに来ると言ってくれて助かった。
こうして1日だけゆっくりした後、俺は国に帰って両親を受け入れる準備を始めるのだった。




