カリンの帰省 前編
お久しぶりです。
新しく書籍が出るという事で書いてみました。
思っていた以上に長くなったので前後編に分けさせていただきました。
後編はお昼の12時にアップしますのでお待ちください。
今日は少し遠出をしている。こういう時ついて来るアオイは今回お留守番、その理由は行き先が大変ドラゴンとは仲が悪いからである。
今回は向こう側から招かれたので俺達は賓客として扱われるらしいが……何と言うかむず痒い。
転移魔方陣などでパッと行くのでなく、乗り物に乗っていくのでちょっと大掛かりな感じだ。
ちなみにその国に行くのは俺にリル、カリンの3名だけである。
「楽しみだね!パパ!!」
「そうだな。どんな場所なのか俺もとても興味がある」
「私もカリンの姉として見てみたいわ」
そんな俺達の両隣に堂々と立って胸を張っているのがカリンの母と叔母である。
「それでは参ります。ゴンドラは最初の内は揺れますが、すぐに安定するのでご安心ください」
「ではゆくぞ皆の者!!娘を、カリンを我らの国へと導くのだ!!」
つまり今回の話はカリンの帰郷である。
話はおよそ5日前に戻る。
――
「のう魔王リュウよ、そろそろ娘を我が山に連れてきてはくれんか?」
平和な今の時期、夏で知性の少ない魔物達の生存競争は激しいがこの国に被害が及ぶ事はまずない。俺は窓を開けっぱなしにして涼しい風を部屋に入れながら執務をこなす。
そんな中もはや日課と言う感じでカリンの母である迦楼羅天がやってきて言ったのだ。
「カリンを迦楼羅の総本山に?そりゃ行けるなら行きたいが……そっちの都合とか大丈夫か?」
「むろん準備だけは問題ない。カリンと交流を持った日からいつでも迎えに行けるよう万全の態勢を敷いている。しかしカリンが来てくれぬから出番が一切ない!」
「もうちょっと魔王様らしい事しよう。娘の里帰りに全力投球過ぎるだろ」
「貴様が言うな!魔王の妻として役目を持つのは仕方がないだろうが、その前に親への挨拶と言う物が必要である!そしてカリンは我が娘!引いては一族全体への挨拶をする必要はあるであろう!!」
それを言われると……弱い。
確かにカリンを見付けた後カリンを故郷に帰した事は1度もない。それはカリンの母である迦楼羅天がこうしてよく遊びに来るから必要ないと思っていたと言う事もあるが……確かに挨拶は必要だ。
それに後から知った事だがカリンはお姫様らしいし。
「っと言われてもな……突然来いと言われてもすぐに行ける程予定はがら空きじゃないぞ。まずカリンに聞かなきゃいけないし」
「それは分かっている。ただ我らを崇める者や我が配下達も一目でもカリンの姿を見たいと言う者は多いのだ。そう言った願望をかなえるのも長の務めだろう」
「確かに。とりあえずカリンに聞いてからだな。話はその後だ」
っと言う訳でカリンを呼んで聞いてみた所。
「私も……見てみたいかな。私の故郷。確か火山なんだっけ?」
「うむ。本来迦楼羅は生命力の強い火山の加護を受けて卵から孵るもの、故に我々は火山に巣を作る。それによって火山の活動などを下の人間に伝えている間に神と崇められるようになったのだがな」
迦楼羅と火山は思っている以上につながりが深いらしい。
しかもその火山のおかげで迦楼羅天の縄張りは自然がとても豊からしく、木の実やそれを狙う昆虫、そこから更に動物などもよって来るそうなので、この大森林に近い豊かさを持っていると言う。
「来てくれれば全力でもてなすぞ」
「だってさ、カリン。どうする?」
「……帰ってみたい。お母さん良い?」
そうカリンが聞くと迦楼羅天は満面の笑みで頷いた。
「もちろんだ!元々カリンの故郷でもある故いつでも帰ってきて良かったのだぞ?では今すぐ用意をせねば。いつにする?いつこちらに来れる?」
「落ち着けよ迦楼羅天。今確認するから。えっと……落ち着いてそっちに行けそうなのは……」
「5日後から2泊3日でしたら可能です」
後ろに控えていたアオイが即答してくれた。
ホント助かるよ。
「だってさ。初めての帰郷にしては短いかも知れないが……それでもいいか?」
「うん!またいつでも帰ってもいいんだよね?」
「もちろん!むしろ我が領地よりこの大森林に通うと望むのであれば!」
「流石にパパと離れたくないな」
そう言って俺の腕にくっ付く俺は優越感。迦楼羅天は悔しそうにハンカチを噛み締める。
それじゃ今のうちに予定を詰めてしまおう。
「先に言っておくがドラゴンは縄張りに入る事を禁ずる。余計な問題が起こるのでな」
「何でだよ。そうなったらオウカとアオイとダハーカが行けねぇじゃねぇか」
「仕方がない。我々がドラゴンを食らっている事を忘れたか?それに何より恐ろしいのは人間の信仰心よ。奴らは自らドラゴンを狩る事で力と信仰心を我らに示して来る。そのような所に高位のドラゴンが来れば確実に仕留めに来るだろう」
「え?何そのバーサーカー集団。お前の信者ってそんなに強いの?」
所詮ただの人間だろ?ドラゴン狩れるの?
オーバーだと思いながら聞くと頷いて言う。
「そこら辺の人間に比べればはるかに上であろうな。この森に棲む人間とほぼ同じ事と言えるし、何より我らの死後与えた爪やくちばしを武器として加工している。骨剣と聞けば弱そうなイメージがあるかも知れんが、我らの文字通り血肉であった事を忘れるな」
あ~。それは武器として最高品質と言っていいかも知れない。
この世界では魔物の爪や骨は希少な金属を手に入れたり作ったりするよりも、はるかに高性能なのだから当然と言えば当然だ。
しかも伝説の迦楼羅一族の物となればさらに特上の品質と言って間違いないだろう。
ドルフだったら国の金庫を開けてでも手に入れたがるほどの値打ちなのは察しが付く。
「と言う訳でドラゴンは連れてこない方が余計な問題が増えずに落ち着いて帰郷する事が出来るだろう。納得してくれるか?」
「こればっかりは仕方がなさそうだ。悪いな、アオイ」
「構いません。元々その焼き鳥と反りが合いませんから。今回はカリン様の事を第一にお考え下さい」
「おいそこのトカゲ。我が炎で消し炭にしてくれようか」
何て事があり、一緒に行くのは俺とリル、カリンの3名のみとなった。
本当はみんなで行きたかったが……こればかりは仕方がないか。
そしては迦楼羅天が全力を出した結果、ゴンドラと言われる逆三角形の乗り物で移動する事になった。
移動方法は迦楼羅天の配下である鳥系の魔物達。
烏天狗、セイレーン、などの知能の高い魔物であり、人間のように手足があるのは烏天狗やそれに近い種族だけ。ハーピーの上位種であるセイレーンは肘から先は翼となっているので指の様な物はないわけではないが、とても物を持つ事は出来ないほど小さい。
なのでほとんど身体にベルトを巻いて紐で持ち上げている。総勢100人ぐらいだが大丈夫なのだろうか?
「この乗り物でどれぐらいで着きそうだ?」
「およそ1時間ぐらいじゃろう。この敷物には風を避ける魔方陣もおられておるから、食事でも遊びでも何でもできるぞ」
俺の質問に迦楼羅天は答える。
そしてカリンは端の方に移動してそこから地上を見下ろしている。
「私、自分で飛んでる以外で地上を見下ろすの初めてかも」
「そういや俺も久しぶりだな。今でも飛ぶ訓練は続けてるし、カリンとかオウカ、アオイにも教えてもらってるけど背中に乗せてもらう事は少なくなったからな」
「私はあまり見た事ないから新鮮ね。空から見る大森林はこんな風に見えるのね」
俺は久しぶりに見た光景を楽しみながら、カリンとリルは珍しそうに見ている。
そんな様子を見ながら迦楼羅天は言う。
「確かに普段自ら飛んでいる者から見ると不思議な物よな」
「ですね姉さま。しかし今回の人選は大変でした」
「あ、やっぱりこれ運ぶの大変だったとか?」
そう聞くと妹さんの方が首を横に振ってから言う。
「その逆です。志願者が多過ぎて選別するのが大変だったのです」
「我らを乗せて運ぶのは名誉ある事、しかも今回はカリンのお披露目と言う特に重要な役割を持つ。それにカリンを一目見たいと志願者が殺到したのだ」
「一目ってこれから会いに行くのに?」
「先に見てみたいと思ったのだろう。必ず運ぶ前に顔を合わせる。そうなれば誰よりも先にカリンを見る事が出来る故な」
そう言うもんか。
そう思うとガイの奴がリルを見たとずっと自慢していたのはそう言う理由などもあるのかも知れない。
俺は常に一緒にいるし、夜はみんなで一緒に寝てるし、特別感は少ないかな。
「では進むか」
迦楼羅天の言葉に反応した鳥の魔物達が迦楼羅天の縄張りに向かって強く羽ばたいたのだった。
――
周りの景色を楽しみながら進んでいると、以前見た極東に繋がる街路樹の先へと入っていった。
その先は思っていたよりも森が深い。大森林よりも樹木が密集しているのではないだろうか?
それに大森林よりも暑い。モクモクと煙を上げる火山の姿を見て少しだけ納得した。
「あの火山がこの暑さの正体か?」
「左様。そしてこの熱こそが卵を孵す際に重要な物となる。我々親鳥が卵を孵す際に自らの力のみでは少々大変なのだよ、そのため大地の熱をもらいながら卵を孵す」
「必要な熱を火山からももらってるのか……ウミガメは熱を維持するために卵を砂浜に産めるとは聞いた事があるが、まさか迦楼羅もそれに近いとはな」
「近いかどうかは分からんが、巣はきちんと作るぞ。燃えにくい木の枝でな」
それはそれで気になるな。
大森林とは違う樹木なのか、アトラス達への良い土産にもなるかもしれない。普通に木に棲み処を作る魔蟲達は居るのでそいつらの好みかどうかにもよるか。
良い香りのする木なら純粋に香木として育てるのもいいかもな……
なんて思いながら眺めていると、火山の手前にあるちょっとした広場の様な所に降りる様だ。
そこは丁度このゴンドラが収まる様に穴が空いており、近くには鳥の羽をふんだんに使った伝統衣装を着ている人達が居た。
恐らく彼らが迦楼羅天達を信仰している人達なのだろう。
伝統衣装を着ている人が偉いのか、その遠くで待機している人達は東の国に居る人達と同じ服を着ている。
ゴンドラが到着すると、一気に歓声が広がった。
人間の数は大した事はない。だいたい100人前後と言う所だろう。
だが人間の中ではかなり強い方だ。ライトライトとかでは英雄と言われてもおかしくないくらい強そうな人間が数名いる。確かにそのレベルの人間が集団で戦えば弱いドラゴンなら倒せるかもしれない。
彼らは他の鳥型の魔物に敬意を表すためか、それとも憧れなのか鳥の頭を模倣したお面を付けて叫ぶ。
お面には鳥の羽をふんだんに使い、非常に精密なつくりだ。
他にも鳥系の魔物達もかなりの種類が存在する。見た目通り鳥の姿だったり、鳥頭を持つ人間のような姿だったり、人間の姿に変化させている者もいる。
だが圧倒的に多いのは鳥の姿のままの魔物であり、それに比べると人型の種族は非常に少なく感じる。
歓声の中そう冷静に分析していると迦楼羅天がそっとカリンの手を引いてゴンドラに立てかけられた階段を下りて地上に着いた後にここに居る人達全員に聞こえる様にはっきりとした口調で言う。
「みなの者!この者が我が娘、カリンである!!」
それだけで大歓声が鳴り響き、リルは慌てて耳をペタンとするだけでなくその上から手で押さえている。
俺もここまで大歓迎されるとは思っていなかった。
いや、冷静に考えると当然の反応か?
カリンはこの国から見て行方不明になってしまったお姫様であり、ようやく国に帰ってきてくれたのだから当然なのかも知れない。
でもここまで熱狂的だと、俺とリルは置いて行かれてるよな……
「これはまた凄い事になってるわね」
「本当にな。これじゃ迦楼羅天が早く来いって急かすのも納得だ」
熱烈すぎる歓迎に俺達は圧倒されながらも迦楼羅天を先頭に俺達は住民達の間を進む。
その間もカリンは花弁のシャワーを上空からかけられ、非常に神秘的な姿を見せた。
カリンもその光景を見て喜んでいるし、様々な色の花弁がカリンをより綺麗にしてくれる。
夫と言うよりは父親目線でカリンが歓迎されているのを俺は喜び、リルも嬉しそうに視線を細める。
そしてカリンが過ぎ去った後に俺にも視線が送られた。
一応迦楼羅天から説明されているのか、こそこそと俺の事を噂している。
小さな声であれが姫様の夫か、本当に人間が神と結婚したのか、神の他に妻として娶った者がいるのか、あの隣にいる獣人がそうなのか。
そんな感じの話をこそこそとしている。
これに関しては当然の反応であるし、俺がハーレムを築いている事に対して疑問を持っているのではなく、本当にカリンと結婚しているのか?っと言うところに疑問を感じているようだ。
そのまま進むとそこは背の低い雑草すらない土しかない場所に出た。
そこは三角形の布を組み立ててできたテントのような建物があり、なんとなくあれが家なんだなっと想像する事が出来る。
その家の前に花を持った子供や年寄り、女や男が歓迎していた。
さらにその先に進むと分かりやすいくらい宴会場だと分かる場所に来た。
中心に巨大な木の丸太が積み上げられ、それを囲むようにフルーツや肉が並んでいる。
まだ肉などは焼いていないようで生のまま巨大な葉っぱの上に置かれているが料理の仕込みの最中だったのだろうか?
そんな料理の席には丸太が転がっており、もっと奥にはおそらく迦楼羅天が座るであろう玉座がピラミッドのような階段の上に鎮座している。
その周りにも席があり、そこだけは椅子と分かる形をしており、どれも金と鳥の羽をあしらった豪華な椅子だ。
席は全部で5つあるが、1番豪華な席の隣にその次に2つの豪華な席、残りの2つは金で作られているようではあるが鳥の羽はあしらっていない。
多分あそこが俺とリルの席だろうなっと感じながらとにかく進む。
予想通りその巨大な階段を上がり俺とリルはカリンの伯母の指示通り金で作られた席に座った。
そして迦楼羅天は真ん中の席に座り、カリンをその隣の席に座った後声を出した。
「皆の者!!聞け!!我が隣にいる迦楼羅こそ我が娘、カリンである!!」
それだけで人間、鳥型の魔物と関係なく歓声が上がる。
その歓声に負けないほどの大声で迦楼羅天は続けた。
「この度カリンが我らの地に帰ってきたことを喜ばしく思う!しかしそれはカリンの力だけではなく、カリンの夫となった男と姉となったこの娘の協力があっての事である!よってこの者達を含め、我らは新たな翼を得たことを宣言する!!」
そう言うとさらに歓声は大きくなった。
迦楼羅天は満足そうに頷きながらもカリンに言った。
「カリン。1度迦楼羅の姿に戻りあの気に火を点けてくれないか」
「ん?何で??」
「これは迦楼羅の成人の儀でもあるのだ。新たな翼とは迦楼羅の仲間入りをしたという意味でもある。よってリュウとリル殿もあの木に炎を放ってほしい」
「俺は蒼流を使ってもいいか?」
「本来ドラゴンの炎はあまり良くないが……構わん。リル殿はどうだ」
「ただの魔力を炎に変えた物でも構わないのなら」
「それで構わぬ。ではその証を見せよ!!」
迦楼羅天に言われた俺達は同時に炎を放った。
カリンは金が混じった真紅の炎を、リルは漆黒の炎を、そして俺は蒼い炎が渦を巻き木に火が点いた。
炎は勢いを失うことなく混じりあい超巨大な火柱として天に届くほどだ。
それを見た他の者達は驚愕と興奮が混じった歓声でさらに声を上げる。
「これより、宴を始める!!」




