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調教師は魔物に囲まれて生きていきます。祝コミカライズ  作者: 七篠
アフターストーリーと言う名の好き勝手に書くお話し
233/238

ジューンブライド

どうにか6月中に書き終わった。

アフターストーリーなので現代の言葉が使われていても気にしないで下さい。

 ジューンブライドっと言う言葉があるらしい。

 意味はよく知らないが6月に結婚すると何か縁起がいいのだろう。個人的には梅雨に結婚式など、天気が気になって集中できないと俺は思うが。

 だが結婚そのものはとても喜ばしい事だ。

 見ず知らずの他人同士だった男女が誓いを上げて家族になる。それは誰もが素晴らしいと言うだろう。


 何故急にこんな事言うかというと、この国で結婚式を挙げる事になったからだ。


 そして6月の珍しく晴れた日。

 1組のカップルが俺の国で結婚式を挙げる事になった。

 もちろん事前に相談されていたので国民総出で祝いの席を設けた。

 最近忙しくしてるナレル教皇に神父役をやってもらい、これでもかと言うぐらい派手に結婚の準備をしたのだから。

 と言ってもここは魔物の国、教会は建てていないので、急遽簡素ながら祝福の鐘と教会の内装を出来るだけ再現した野外で式を上げる。


 花嫁は父親代わりのお世話になった上司と共にバージンロードを歩き、花婿はそわそわと落ち着かない様子で花嫁の姿を追いかけていた。

 そこまで緊張しなくても、と俺は思うが人生の思い出の中に深く刻まれるのだから仕方がないか。


 花嫁は俺とナレルの前まで歩き、花婿の隣に並ぶ。

 ナレルの教会式誓いの言葉の後に俺が改めて祝いの言葉を言う。


「おめでとう2人とも。きっと2人はこの国の新しい未来を切り開く事になるだろう。頑張れよ」

「はい!ボスにそう言っていただけるのは光栄です!!」


 花婿はそう言って誇らしげにする。

 俺は満足しながら頷くと、今度は花嫁の方に向かって言う。既にベールは上げられているので顔ははっきりと見えている。

 花嫁は顔を赤くしながら言う。


「あの……リュウさん。これどう言う事ですか?」

「どうって、結婚式だが?」

「そうじゃなくて!私もっと地味なのでいいって言いましたよね!?何故いつの間にかこんなにも大々的に行なっているんですか!!」


 花嫁の顔が赤いのは気恥ずかしさではなく、怒りだった様だ。

 だがこれには俺にも理由がある。


「仕方ないだろ?うちの妻達が張り切ってたし、それにこの国で1組目の魔物と人間のカップルだぞ。そりゃ大々的にしないとダメだって」

「それは……それは……」

「それに嬉しくない訳じゃないんだろ?」


 一応確認するように言うと、花嫁は花婿をチラッと見て小さく言う。


「そりゃ……嬉しいです」

「なら祝われとけ。てなわけで誓いのキスと行きましょうか」


 そう俺が言うと花婿と花嫁は緊張した面持ちで顔を合わせる。

 少し長めに呼吸を落ち着かせた後、2人は誓いのキスをした。

 その瞬間、周りに居た者達はみんなで祝いの言葉を投げかける。

 花嫁は恥ずかしそうではあるが、それ以上に嬉しそうなのだから俺もとても満足だ。


 今日はめでたい結婚式。

 その花婿はフェンリル族のついこの間大人になったばかりの子であり、お相手は小柄でドジっ子なアリスである。


 なぜこのように結婚式を行ったのかは、少々時間を遡る。


 -


 戦争が終わって1年ぐらい、平和な日々は書類仕事をしながら時間が過ぎていく。

 今日も修業と仕事をバランスよくしながら今日もまったりと済むと思っていたが、この日はちょっと違った。

 ノックの音が聞こえたので妻兼メイドのアオイが扉を開ける。


「し、失礼します」


 そう言って入って来たのは珍しくアリスだった。

 アリスは完全にグランさんからこの国担当になるように命令されているのでこの国には居る。でも基本的には昔の俺のような生活、つまりフェンリルの爺さん達と狩りをしながらこの森の中を転々としながら暮らしていた。

 なので報告は常に言葉だけ。俺が頼んだ仕事の時のみレポートに纏めて提出すると言う感じだったのだ。

 そのアリスが珍しくこの都市に来たのだから声は聞いていても懐かしいと言う感じがどうしてもしてしまう。


「久しぶりだなアリス。何か仕事頼んでたっけ?」

「い、いえ。今日はその、この国の法律について聞きたくて……」


 法律?

 何かライトライトの方から命令が下されたのだろうか?


「法律の事ならリルに聞いた方が手っ取り早いんじゃないか?」

「あ、誤解を与えてしまったらすみません。その、かなり個人的な事なのであまり気にしなくていいと言うか……ちょっと確認したいな~ぐらいの話と言うか」


 どうも歯切れが悪い。

 確かに命令とかではない様だがちゃんと聞いておいた方がいいかも知れない。


「まぁいつまでも立ってないで座れよ。俺の仕事も一段落ついたところだし」

「あ、それじゃ失礼します」


 そう言ってアリスは来客用のソファーに座る。

 そしてアオイは既に用意していた紅茶を淹れて俺とアリスの前に置く。

 アリスはアオイに「どうも」と言って紅茶に口を付ける。

 ちょっとは落ち着いたかと思いながら聞く。


「それで法律って一体何の法律だ?人間を裁く方は作ってないぞ」

「いえ、もっと穏やかな内容と言いますか。本当に個人的な内容でして……」

「それならハッキリ言ってくれ。何が聞きたい?」


 そう聞くとアリスは何度か口を開けるだけで、言おうとしているが閉じて、また開いてを繰り返す。

 俺は決意が固まるのを待ち続けるとアリスはようやく言った。


「その……この国の結婚に関してどんな法律になっているでしょうか……」


 最後の方は蚊の鳴くような声になっていたが俺の耳にはちゃんと聞こえていた。


「結婚?結婚に関しては特にないからな……」


 何度も言うがこの国は魔物の国である。

 フェンリルの爺さん達はちゃんと結婚し、一生を夫婦で過ごす。1度結婚すれば離婚する事はまずない程のおしどり夫婦になるのだ。


 そして何度も世話になった食虫の猿の長老達の種族は結婚をしない。特に一夫一妻とか一夫多妻とか気にする事なくとにかく繁殖すると言う感じだ。

 子育てを終えた雌に求愛しても必ず前に子供を作った雄との間に作るとは限らない。

 雌側もより魅力的な雄が居ればそちらに求愛し、上手くいけば子供を残す感じ。


 そして迦楼羅さんの所から来た鳥系の魔物達は一妻多夫制だったりする。

 何でも迦楼羅と言う種族は雌しか生まれず、子孫を残す場合は単為生殖か適当な鳥の雄達から種をもらって卵を産むらしい。

 それにあまり愛し合うと言う感覚ではなく、かなり作業的な感じだとか。


 そしてガイが居るところの獣王国では一夫多妻。単純に強い雄の所に雌は惹かれ、ハーレムを形成する。

 なので実は偉い武人には何と10人以上の妻が居ると言う。

 時にはハーレム制の動物と変わらず1人の強い雄が一族の雌全員と交わる事もあるらしい。

 だがシビアな現実としてより強い者が現れたら雌たちはその強い雄の子供を残そうとするそうだ。

 ハーレムの維持って大変だよね。


 っとまぁこんな感じで種族によって、一夫一妻、一夫多妻、一妻多夫とバラバラなのでどうしようもない。

 厳格に結婚のルールを作ると、今までそれで成り立っていた種の繁栄などに影響を与えそうなので結婚に関しては好きにしろと言うのが現状なのだ。

 その事をアリスに説明する。


「それを聞くと本当にこの国は多種族で成り立っているってよく分かります」

「だから本当に結婚のルールは決めてないぞ。まぁ一応一夫一妻制の種族には結婚したっていう証拠として婚姻届けぐらいは出すように頼んでる。これに関しては結構上手くいってる。国のボスが認めたって言うのが結構な安心を与えてるみたいだ」

「安心ですか?」

「たまに暴走する連中が居るんだよ。つまり人妻を狙っての決闘とか色々。後はこっそり分捕ろうと計画してたりな」

「ど、どこにもいるんですね。そういう人」

「まぁ人間みたいに一夫一妻かどうかはっきりしてない種族も居るからな。とりあえず軽く注意はし続けてるけど」


 そんな事で喧嘩して大事になっては欲しくない。

 だからとりあえずきちんと別れた女性を狙いなさいっと言っている。

 にしてもアリスがそんな事を聞いてくるのは……


「アリス。お前好きな人出来たか?」


 そうストレートに聞くとアリスはむせた。

 あ~これは大当たりだ。

 俺はアオイと共に微笑ましく笑う。


「な~んだ。そういう事か~。それなら大々的に式を挙げてやるよ。お前を上手く仕留めたのは誰だ?」

「す、すすす、好きとかそう言うじゃないんですよ!ただその、求婚されたからこの国の法律って大丈夫なのかな~っと思っただけで!それに私こんな見た目ですよ?大人っぽい大人の女性からほど遠く……変態っぽい人からしか相手にされなくて……挙句の果てに夜に情報収集してたらその国の騎士に補導されたり……」


 アリスの過去は悲しみばかりの様だ。

 でも俺は確認する。


「でもそいつとは結婚してもいいって思えたんだろ?」

「それは………………はい」


 顔を真っ赤にしながら認めた。

 ならば全力で応援しないとな。


「そうかそうか。それはめでたい話だ。なぁアオイ」

「はい。とても好ましく、おめでたい話だと感じます。それにこれはリュウ様の願いの礎にもなるでしょう」

「え?リュウさんの願いですか?」

「忘れたのか?一応俺の最終目的は魔物と人間の共存だ。だったら魔物と人間の壁なんて関係なく一緒になれるって言う良い証拠になるじゃないか」

「あ、そう言えばそうでしたね」

「忘れてたのか?」

「っと言うよりはついこの間教会を叩き潰した人が世界平和を言うとは思ってもみませんでした」

「よし。お前の結婚式は思いっきり派手にしてやる。龍皇や精霊王も巻き込んで超派手婚にしてやる」

「止めて下さい!!私目立ちたくないんですから!!」

「はっはっは。そう遠慮するな。ウエディングドレスから祝い酒に飯の準備まで任せるといい」


 そう言うとアリスはギャーっと叫んだが別に嫌がらせではない。

 祝福しているのは本当だし、それに見合った結婚式にしたいのも本当だ。

 なので人間と魔物の夫婦1号達を全力で祝福したいと思う。


 俺の結婚式?

 もうしたし1週間も祝われ続けるのって本当に大変なんだぞ?

 しかも他の魔王達まで来て大変だったんだから。


「それで誰と結婚するんだ?せめて種族ぐらい聞いておかないと」

「………………」


 黙った。

 言おうとはしているのだが声は出ておらず、開けては閉じて、開けては閉じてを繰り返す。

 少し気長に待っていると小さな声で言った。


「フェンリル族の……私の相棒君です」

「よし、それなら一夫一妻制だな。婚姻届けとかも渡すからちゃんと書いておけよ」

「って何であっさりOK出しちゃうんですか!?ついこの前まで子供だった子ですよ!」


 ………………俺もあまり言いたくないのだがな、アリスよ。


「お前はまだマシ。俺なんか生後1年未満のカリンとエロい事したんだからな。押し切られたとはいえ未だに早すぎたんじゃないかな~っと思う時がある」


 そう言ったらアリスは黙り込んだ。

 年だけで考えると普通にアウトな人と俺結婚してるんですよ?

 オウカだってまだまだお子様だし……

 それに別ベクトルで結構思い切った結婚だってしている。


「あのなアリス、人間と魔物の寿命や時間の概念は大分違うんだ。人間の場合16年ぐらい生きれば大人扱いされるけど、魔物の場合は種族によってバラバラ。数年で大人になる種族も居れば、数100年かけて大人になる種族だっている。人型でもドワーフやエルフだってかなり寿命が長いだろ?だから気にするな」

「それは……そうかも知れませんけど」

「それに俺オウカの祖母であるアオイとも結婚したんだぞ。俺に比べればまともと言える」


 そういう背景があるから色々大変なのだよ。

 家族関係が複雑すぎて。


「リュウさんのは極端すぎますよ……まぁその通りだからどうしようもない部分もあるんでしょうけど」

「そういう事だ。愛し合っているなら生きた時間の事なんて気にするな。堂々としろ」

「分かりました。堂々とします」

「それからやっぱり魔物と人間の結婚第1号として盛大にやるからその辺も覚悟決めておけ」

「お、お手柔らかにお願いします」


 -


 っと言う事があったのだ。

 誓いのキスも終わり、後は宴会とそう変わらない。

 ドルフ達が作った酒が出て、各種族が持ちあった食糧を使って料理を山の様にこしらえみんなで食べる。

 もちろん最近成長してきた人型の魔物達にも協力してもらったウエディングケーキなど、これでもか、と言うぐらい用意したのである。


「ちっきしょー!!アリスが、アリスが1番最初に結婚するだなんて思ってなかったわよー!!」

「そう言わないで下さいよ。めでたい席なんですから」

「そんな事言ったってね!結婚する時は相手が同じような他国からの情報収集目的じゃないか、敵対組織の者じゃないかどうか調べられるのよ!!しかも全員情報収集目的だった……これで悔しくない訳ないでしょ!!今日はやけ酒よ!!」


 前に一緒にバーベキューをしたアリスの同僚たちの姿もある。

 ここに来たばかりの時は緊張気味だったようだが、酒を飲んだからか大分はっちゃけている。


「うう、私達の妹分が最初に結婚か……この後のブーケトス全力で行くわよ。だからお酒もその辺にしておきなさい」

「うるっさいですよ!こんな簡単に国どころか大陸支配できそうな魔物達の中で酔わずにやってられますか!それに、その時は敵ですよ」

「私は協力してくれている人の前で変な姿は見せないように言ってるの。それに敵はお互い様、ね」


 未婚女性陣が怖い雰囲気を出しているのは理由がある。

 それこそがさっきから言っているブーケトスなのだが、そのブーケには精霊女王の加護が宿っているからだ。

 精霊女王のブーケ、実はこれ立派な魔道具だったりする。

 精霊女王が自ら花畑で花を摘み、花束にすると言うだけのものなのだがこれにはとある加護が宿っている。


 その加護の内容は、未婚女性には必ず運命の相手と出会えるという加護だ。


 この国はまだ慣れない、まだ怖いと言いながらも人間の女性が多いのはそれが理由だ。

 実はライトライト国に仕えている組織の女性達は独身が多い。

 理由は様々で女騎士でありながら男よりも強いせいで結婚しにくいとか、アリスみたいな裏側の地味な仕事で出会いがないとか、そういう理由らしい。

 つまりこの後に行われるブーケトスはまさに独身女性、しかも出会いがあまりない人達にとって絶対に手に入れたい伝説の魔道具級の憧れなのである。


 ちなみ俺が結婚した時も精霊女王にブーケを作ってもらった。

 俺の嫁の数だけブーケを投げられたのだが、なんとそれをキャッチした男性女性に関係なく全員がめでたく結婚までたどり着いたらしい。

 そのうわさを聞き付けた女性人たちがこぞってこの会場に来たという訳だ。


 だが俺の時はウル、リル、カリン、オウカ、アオイ、ティアの6人分だったからブーケも6つあったのだが……今回は1つしかないのでとんでもない事になりそうな気がする。

 ちなみに今回の対決はマリアさんが筆頭と言われている。

 出会いがないわけではないらしいが、どの人も憧れと言う感じだし、結婚まで考えてくれる相手は見つからないそうだ。

 ちなみに聖女ヒカリも居るがそちらはあまりやる気がない。

 結婚よりも世界の事の方が先だそうだ。


 ちなみに魔物の独身者たちは参加していない。

 理由は寿命がとても長いので焦る必要はないとか。


 そんな独身女性によるブーケの奪い合いは、もうすぐ行われる。

 宴会を一時中断させて太陽が真上に来た時にブーケは投げられる。その日の天候によっても変わるそうだがその時は正午に投げるのがお決まりだそうだ。

 それに少ないとはいえ自分も素敵な出会いが欲しいと独身男性も参加していたり。

 顔に自信がないとか、太っているとかそんな理由だったりもするらしいが、まぁ参加は自由だ。好きに奪い合えばいい。

 あそこに投げるかもしれない、こっちに投げるかもしれないと予想しながら配置を決めていく。


「それじゃブーケトスするぞ~。アリス、準備」

「は、はい……それにしても……凄い気迫ですね」

「独身女性の執念だな、ビビらず思いっ切り投げろ」

「は、はい!」


 俺とナレル、新郎と共に見守るブーケトス。

 アリスは独身たちに背を向けて投げる準備を整えた。

 そして獲物を待ち構える様な独身女性達。ちょっと動機が弱いが真剣な表情の独身男性達。

 ブーケを求める者達の願いはただ1つ。


 結婚して幸せになりたい!!


 そしてブーケは今、投げられた。


「「「「「うおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」」」」」


 まるで長い時間エサを食べていなかった獣の様にブーケに群がっていく。

 それはまさに奪い合い。勝者と敗者しか存在しない空間。

 ちなみにブーケは最初に取った者の物である。

 つまり早い者勝ち。


 だがここでアクシデントが発生!!彼女達は読みを大きく間違えていたのだ。

 アリスはご存知のように合法ロリであり、その見た目から遠くに投げる事はできないと多くの女性達は予想していた。

 しかしアリスもなんだかんだでこの森で普通に過ごせるだけの実力を持っている。

 つまり思っていたよりも腕力はあるのだ。


 しかも角度は遠くに飛ばすには丁度いい角度。

 つまりこの時点で手前の女性は――


「だらくそー!!」


 跳んだ!?ブーケに向かって高く飛ぶ女性達の姿が!!

 しかし残念な事に前過ぎて既に間に合わなかったり、同じように飛んだ女性同士でぶつかってしまったりと上手くはいかない。


 綺麗な弧を描くブーケは後ろの方に行く。

 そして大本命であるマリアさんが飛んだ!どう見ても身体強化を利用した大ジャンプ!俺の目にはマリアさんが手に取れると思った。

 だがしかし、ブーケはマリアさんの手をはじきさらに遠くに行ってしまう。

 しかも丁度そこに居た女性はブーケがちょうど目の前に来たので両手で優しくキャッチした。


 その幸運な女性は、何と聖女ヒカリだった。


「しゅ~りょ~!今回のブーケトスはこれにて終了となります!手に取った女性に拍手をお願いします!!」


 こうして取れなかった独身者たちと、参加しなかった他のテーブルに座っていた者達が拍手を送る。

 まぁ参加者の中には泣きながら拍手を送る者も居たけど。

 特にマリアさん。惜しかったです。


 その後は結婚式という名の大宴会をして幕を閉じた。

 ある者は素直に祝福し、ある者はブーケを手にする事が出来ず泣きながら酒を飲み、またある者は次回のブーケトス(戦い)の相談をもう始めている。

 俺はそんな光景を眺めていると精霊女王が珍しく俺の所に来た。


「あなたの所は騒がしいわね」

「申し訳ありません。めでたい席ですからちょっとだけ目をつむっていただけると助かります」

「今日だけではないわ。あなたがこの国を作ってから毎日が騒がしい」

「あはは……そんなにですか」

「ええ。でも、楽しげな雰囲気は嫌いではない」


 そう言って精霊女王はかなり甘めの酒を精霊用のグラスで飲んでいた。

 そんな女王にとって騒がしい光景を見ながら好奇心で聞いてみる。


「ところであのブーケに本当に結婚の加護みたいなのは付いているんですか?」

「そんな加護はない」

「あ、やっぱりジンクスか」

「でも半分は間違いでもない」

「えっと?」


 半分と言う所に引っ掛かりを感じる。

 俺は首を傾げるとネタ晴らしをした。


「あのブーケは次の結婚を祝福する物。だから最初から近くに相手が居るのに気が付いていない者の場所に勝手に行く」


 ………………1部の独身女性から暴動が起きそうな情報だった気がするぞそれ。

 つまり最初からお相手が居るところにしか飛んで行かないじゃん。あのブーケ。

 そうなるとマリアさんが結婚できるのはもう少し先か。

 それでもあの行動力なら自力で結婚できるような気がするんだけどな。


 そして気になるのは聖女のお相手。

 女王が言う感じだと聖女が気付いていないだけでお相手は直ぐ側にいるという話だ。

 となると聖女と距離が近いのは……まさかね。

 きっと酒が回り過ぎたのだろう。俺はあまり考えられない聖女のお相手を妄想し過ぎてしまったようだ。

 どうせ明日も宴会なのだから楽しみながら飲もう。


 -


 後日談。


 アリスの結婚からおよそ3年後にヒカリの結婚式が挙げられた。

 場所はライトライトの最も大きな教会で行われ、ブーケトスにはもちろん精霊女王の加護があるブーケだ。

 その時は俺の国の時以上の、国中の女性達がブーケ目当てに集まったとか。

 そしてその時のブーケトスの結果は、見事マリアさんがゲットしたらしい。

 精霊女王のブーケの加護は決して消えない。

 だからこれは幸せのおすそ分けだ。


 こうして幸せは繋がっていく。

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― 新着の感想 ―
次の話開いて気づいたけど「アフターストーリーという名の〜」もパクリっちゃパクリだよな あんだけ転スラに寄せてなければ突っ込まれなかったのに……
ん?誰だろ?賢者くんかな?
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