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終戦

 教皇とぶつかって分かったが、意外と強い。多分ティアじゃ勝てない強さだ。人類最強はこいつかも知れない。

 蒼流で受け止め、ロウで連続の突きを繰り出すが素早く避けた。

 う~ん、やっぱり人間の中では1番強い。


 だが何をどう考えても負ける気がしない。

 単にフェンリルの爺さんや龍皇と戦った事があるからという感じではない。根拠はないが何故か負ける気がしないのは何故だろう?


 俺はのちにここをナレルにあげる気だから建物にあまり傷がつかない様に気を遣いながら戦っているが、教皇はそんな事を全く気にせず全力で剣を振るっているから部屋中が既に傷だらけだ。

 もったいない。

 詳しい事は分からないが文化的価値?と言うものがあるんだろ?ソファーとかテーブルとかお高そうな感じがするし。


 教皇にとっての猛攻は俺にとっては見慣れたものに劣っている。

 最強を称する魔王や魔物達の方が激しく、油断できない攻撃ばかり。俺は教皇と彼らを比べて改め人間と魔物の基本的な身体能力の差を思い知った。

 どれだけ人間が鍛えようと決して届かない存在。

 それが彼らだ。


 そう感じながら俺は教皇に質問をする。


「お前はどうしてそこまで魔物を憎む?お前はティア達の様に人類の平和を望んでいるんじゃないのか?」

「その人類の平和のために貴様達魔物が邪魔なのだ!どれだけ多くの者達が魔物に怯えて暮らしていると思う!町や村を守るために建てる壁すら建てられない町村がどれだけあると思う!!そんな彼らのために魔物は全て駆逐する!!絶滅させるのだ!!」

「絶滅とかどれだけ時間がかかっても無理。それは俺が1番よく知ってる」


 そう言うと教皇の剣が一瞬強くなった。

 そして激しく俺を睨みつける。その顔をはまさに鬼の形相と言う奴だ。

 俺に対して激しい怒りを向けている。


「お前が1番知っているだと。魔物と仲良くつるんでいるお前が知ってるはずがないだろう!!お前は狂っている!!本来敵である魔物と手を取り、挙句の果てに共存などとうつつを抜かすものに、魔物の恐怖を知らぬからこそ言えるのだろう!!」


 剣先を向けながら教皇は吠える。

 それに対して俺は首を横に振った。

 会話を続けながらも激しく剣と刀がぶつかり合い、火花を散らす。

 もう既に部屋は切り傷だらけになってしまった。


「まさか、魔物と一緒に暮らしているからこそ分かる事もある。彼らは強者だ。俺達人間よりも強い生命体でどれだけ見上げてもてっぺんが全く見えない存在達。どれだけ追いつこうとしたところで決して届かない最強の頂、それが俺が知っている魔王やフェンリルの爺さん達だ」

「だからこそ次世代に繋ぎ、新たなる者に力を託してきたのだ!それを何世代も重ねればいつか!!」

「無駄だよ。仮に俺が最強の称号欲しさに全ての魔王や強者達に挑んだところで、1勝も挙げられずに殺されるだろうさ。それだけ俺達人類は、弱い」


 俺がティアやタイガに勝てたのはそんな強者達に力を借りていたからだ。

 確かにある程度は無理矢理同じ環境で暮らす事で強くなれただろう。だが、それだけだ。所詮それは人間の限界内での話だ。

 俺もいまだに人間の枠を捨てきれていない。


「だがそれではダメなのだ!絶対の安静、究極の安住のために我々は希望を捨ててはならないのだ!!」


 希望か……そんな希望は――


「最初っからそんな選択できる程俺達は強くない。だからこそ、共存という道を選ばざるを得ないんだよ。いつだって選択肢を得られるのは、強者だけだ」


 寂しいかな?悲しいかな?でもそれが現実だ。

 弱者に選択肢はない。


「貴様あああああぁぁぁぁぁ!!」


 教皇は魔術で自身を強化しながら再び剣を振るう。

 時に魔術で姿をずらしたり、消えたりしながら教皇は俺を切り伏せに来る。

 その余波でこの部屋どころか教会そのものが大きなダメージをおう。もう高そうな家具や絵はみな切り刻まれてしまっている。


 きっとこれはあれだ。

 人類が勝つと希望を捨てなかった教皇ものと、人類は勝てないと諦めたものの戦いなのだ。

 ただの物語ならきっと希望を捨てなかった者の勝ちだろう。諦めた者が悪として散るべきなんだろう。

 でも所詮この世は弱肉強食。正しいか正しくないかではなく、強いか弱いかだけで決まる事なのだ。


 俺は俺が正しいと思った道を行く。

 それに俺は人類よりも魔物達かれらを選んだ。人類への慈悲はあっても、俺が大切だと思うのは魔物達。

 それだけだ。


 それにしても俺はどうしてこんな事を考えたのだろう?

 教皇に何故と聞かれたから?パピーと言うコクガの孫に聞かれたから?

 ………………何でだろ?


 そう思いながらも教皇は力を溜める。全力と言うのが相応しい程の剣技に魔術、ただの人であったら俺はとっくに死んでいただろう。

 でも俺はもう既にただの人間ではない。

 俺は魔物達と生きると決めた。人類よりも魔物の方が大事、見ず知らずの誰かより近くの家族の方が大事、それだけだ。


 いい加減終わらせるとしよう。

 これは試合ではなく殺し合い。どちらかが死ぬまで決して終わらない。

 俺は久々に全力を出す事にしようとしたのだが……右腕だけバランスが悪い。

 必要以上に力が入り過ぎてしまっている。

 10の力で殺せる相手に100の力を使って倒そうとしている様な感じだ。

 みんなが求めた象徴として新しくなった右腕。これの力を使う事が出来るんだろうか?


「どうやら私もここで全力を使わねばならないらしい!!」


 そう言って教皇は懐から瓶を取り出した。

 ふたを開けて中身を飲み干すと教皇の身体から煙があふれ出る。

 なんだろうと思っていると、教皇は若返っていた。


 年齢はおそらく40代から50代だろうか?

 若過ぎず、かといって年を取り過ぎている様子もない。

 個人的には何故そんな年齢に戻したのかよく分からない。


「これが教会の教皇のみが使用できる霊薬だ。飲んだ者の肉体を全盛期にまで戻す薬である。これで私は最強に戻った!」


 そう言って振り下ろす剣の重さは先程よりも確かに速くて重い。

 さらに魔術による攻撃も何故だか上がっており、確かに先程よりも強い。


「貴様の言うように受け継ぐ事が出来ないと言うのであれば!私1人で行って見せよう!!私1人でも魔物を絶滅させ、世界に平和をもたらして見せようではないか!!」


 調子よく言うものだ。

 それでも教皇は弱い。

 俺にはそう見えるし間違っていない。


 では現在の俺の全力を見せよう。

 そう思った時不思議と右腕が疼いた。

 痛みは一切なく、力が噴き出るのを押さえつけている様な感じだ。

 ならばその力を解放しよう。

 押さえつける必要はないのだから。


「スキル『神格化』起動」


 そのスキルを使用した直後だった。

 俺も右腕から異常なほどの魔力が吹き荒れる。

 でもその力は決して恐ろしいものではなく、むしろなじみ深い温かさと心地良さが入り混じっている。

 吹き荒れる魔力は俺の中で自由自在に使え、外に吹きだした物は俺を守る血肉と化した。


 それは俺と血の盟約を交わした者達の特徴をまとめ上げ、肉体の変化が起きている。

 頭の後頭部からはドラゴンの様な角、背には迦楼羅天の翼、手足はフェンリルの爪、肉体を守る鎧はアトラスの外骨格の様。

 見た目だけの変化はそのぐらいだが、体内に渦巻いているこの力はそれ以上の魔物達の魔力を感じる。


 これが今の俺か。


 気が付けばロウと蒼流も共鳴する様に反応するので近付ければ1つの巨大な刀になった。

 だが大きさは今までとは段違い。

 刀身だけで2メートルを超え、1太刀で何百人の人間を叩き伏せる事が出来るだろう。


「化物め!!貴様は既に、人間ではない!!」


 どこか怯えた様な、臆している様な声が教皇から聞こえる。

 俺はそんな教皇を見てさっさと切り伏せた。

 時間で計測しても1秒未満の速度で切り伏せ、何の価値もない教皇は青い炎に包まれて塵1つ残さず燃え尽きた。

 断末魔もなく、おそらく痛みを感じる暇すらなかっただろう。

 それ程までにあっけなく、終わった。


 そして俺を見ている視線に気が付くとそこにはティアと聖女が俺を茫然として見ていた。

 俺はティアに聞く。


「ようティア。そこの聖女は降伏したか?」

「え、ええ。降伏するって」

「そうか。それじゃこの戦争は終わりだな」


 俺はロウと蒼流が1つになった刀を地面に突き刺し、全ての死体を燃やし尽くした。

 もちろん俺の仲間や降伏した者は燃やさないように調節済み。ティアの隣に居た聖女は驚いていたがまぁ問題ないだろう。

 そして俺は言った。


「これで戦争は終わりだ。帰るぞ」

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― 新着の感想 ―
見せ場を数行で終わらせんなよ……
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