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教会での戦闘

 俺、ウル、リル、カリン、オウカ、アオイ、ダハーカ、マークさん、ティアの9人はダハーカの転移により教会本部がある教国の門から少し離れた位置に転移した。

 門の上の方には教会騎士がおり、すぐさまに俺達の事を発見した。

 ティアが前に出て門番に聞こえる様に言う。


「私は勇者ティア!魔王リュウは教会及び世界連合に対して降伏する事を――」


 ティアが話している最中に、明らかにティアを狙って矢が飛んで来る。

 ティアは突然の矢に対して冷静に腰に収めている剣で矢を破壊した。

 俺はそれを見てみんなに言う。


「出来るだけ建物は壊すな。後でここはナレルにあげるんだからな」


 話を聞く気がない教会に対して俺は攻撃する事を許可した。

 あとはただの蹂躙じゅうりんの始まりである。

 まず動き出したのはダハーカ。いつぞやの時の様に自身の身体を傷付けて配下を召喚し始める。

 俺は門に向かって飛び出して、結界ごと蹴って破壊した。

 それにより結界が消えた瞬間ウルとアオイ、ティア以外動き出す。


 リルは素早く壁の向こう側に跳んでフェンリルとして愚かな人間を切り刻み、食い千切る。

 カリンは弓兵や魔術師などの長距離攻撃を得意とした壁の上にいる者達を中心に塵も残さず燃やす。

 オウカは大人状態のまま主に分厚い鎧を着た騎士達を中心に殴って殺す。

 ダハーカは配下達をこの国全体に放ち、騎士も平民も関係なく食い殺させている。

 マークさんは俺が教皇の元に行くまでの道を掃除をしてくれている。道の邪魔となる者は強者も弱者も関係なく俺の道を飾る赤い道を作ってくれる。

 俺、ウル、アオイはその道を平然と進む。流石にティアは顔をしかめていたけど。


「……ねぇリュウ。これってやっぱり戦争とは呼べないわよね」

「まぁ一応戦争とは言ったが、ここまで弱いものなのか?一部よく分からない強化をされている感じがする者がいるが」


 主にマークさんに殺されている者を中心に、教皇を守る者達が奇妙な強化をされている事だけは理解できる。

 俺の中で知っている存在で例を上げるとすればエルフ達だろうか?彼らは精霊との契約により強化しているのだが、それと似たような感じだ。

 ただ契約している存在は精霊や悪魔でもない“何か”。俺はこの存在を知らない。

 そう思っているとウルが言う。


「多分契約してるのは天使だね。本当に愚かな連中」

「天使?精霊や悪魔とはまた違った種族か?」

「ええ。古き神の遺産。古き神の置き土産。色々言われているけど所詮は滅んだ神が作った生き人形、リュウが気に掛ける様な物ではないわ」

「性質や精霊と悪魔との違いは」

「分かりやすい所で言えば感情がない点ね。神の手であり足であり耳であるそれらに感情は全くない。むしろ不要の産物として登録されているから感情のある天使は皆無かいむなの。だから生き人形」

「なるほど。納得だ」


 少し先でマークさんに殺されている天使と契約している者達は感情の色が全く見えない。

 それは恐怖などの感情だけではなく、喜びのような感情も全く見えない。

 恐らく契約した者達も無感情になるのだろう。そしておそらく教皇の命令のみに反応する。それ以外自由の意思はなく、ただの道具として一生を終えるのだろう。


 ちなみに俺達に襲い掛かろうとするバカ共はそれなりに居る。

 それでも悠然と歩を進められているのはアオイのおかげだ。アオイは俺とウルの護衛として隣にいる。なので俺達が戦わずに歩けている。

 それからティアに関しては元々攻撃しないように登録されているのか、誰からも攻撃されない。


 俺は周りにいるみんなを信じているので特に構えない。そうやって歩いていると1つ覚えのある顔があった。

 それは以前聖女のパレードの時に襲ってきた子供の顔。哀れだと思いながらその横を通る。

 そんな感じで教会本部の中を歩いて数分。マークさんはとある扉の前で待っていた。


「ここに教皇が居るのか」

「少々舞台を整えさせていただいております。この部屋の中には枢機卿達の死体しかございません」

「なら教皇はどこにいる」

「自室に戻られております。護衛である大司教と聖女を連れて」

「ならそこに行こう。すでに死んだ奴らの事など興味ない」


 ナレルと同僚だった連中が死んだ部屋を素通りし、教皇の自室を目指す。

 会議室からまた少し歩いて着いた大きな扉をアオイとマークさんが開ける。


 そこには既に完全装備と言える聖女と教皇が待ち構えていた。

 目立った武装が見当たらないのは教皇の右隣に居る大司祭はシスター服のままだ。

 魔術による支援がメインなのだろうか?

 そんな中ティアが教皇と聖女に向かって言う。


「教皇様、ヒカリ。降伏を。すでに連合軍は壊滅しました。これ以上の犠牲は意味がありません。これ以上の被害を出す前にどうか降伏を」

「……勇者ティア。貴女には失望した」

「え?」


 ティアは何を言われたのか理解できないかのように呟く。

 そして教皇は憤怒と言う言葉ぴったりな表情で言う。


「勇者と認められた者が魔王と共に教会に降伏させようとするなど言語道断!!魔に堕ちた外道が!!それほどまでに魔王に肩入れするか!!」

「で、ですが魔物を絶滅するなどあまりにも現実離れした話!ドラゴンや他の魔王を敵に回し、勝てる事が出来るとお考えなのですか!!」

「出来る!!我々人類は常に強大な力を持つ魔物達と戦い、勝利を収めてきた!その願いは直ぐに叶うものではないと言う事は理解できている!だからこそ勇者や聖女達を次の世代に受け継いでもらおうと導いてきた!!だと言うのになんだそのザマは!!我々教会の敗北は人類の敗北!!決して負ける事の許されない世界最大の戦力であり、正義でなければならないのだ!!」


 その言葉に怯んだティアに聖女も言う。


「ティア。私は貴方の言葉が信用できない」

「ヒカリ……何で……」

「より正確に言うとティアじゃなくてその後ろに居るリュウと言う魔王の事が信用できないの。人間の癖に魔物の味方をして、私達人間を平然と殺せるその男の何を信用しろと言うの?人間を平然と殺せる男に人類の未来を託す事なんてできない」

「で、でもそれは私達騎士だって犯罪者を断じてきた!魔物だけではなく同じ人間を断じてきたじゃない!!」

「それでもあなたはその場で人間を殺した?違うでしょ。あの場で捕縛してしかるべき場所で断罪した。その男が殺してきた何の罪もない人間を殺してきたのとはまるで話が違うのよ!!」


 ティアは悔しそうに拳を強く握る。

 そして小さな声で話す。


「でも……魔物にだっていい子はいた!!」

「何を言って――」

「リュウの言う様に魔物にも色んな子が居たって事!優しい子、賢い子、悪戯好きな子、ちょっと抜けてる子、魔物にも色んな子が居て、中には人間と仲良くしてくれる子も居た!!私は勇者で魔物を倒す立場なのに!優しくしてくれた!!色々教えてくれた!!そんな彼らを何も見ず、何も知ろうとせず、魔物って理由だけじゃ私はもう剣を振るえない!!魔物だけで悪と決め付けたくないの!!」


 正直に俺が思うのは感情論。これではきっとあいつらを説得する事はできないだろう。

 だが俺は素直に嬉しく思う。

 勇者と言う立場の者が魔物に理解を示そうとしてくれた。その場にいるだけで悪と決め付けられる存在ではないと言ってくれた。

 それがどうしようもなく嬉しい。


 だから俺はティアの頭を撫でながら教皇と聖女に向き合う。

 ここからは俺の番だ。


「教皇。それから聖女。俺の求める人類との共存は、はっきりと言えば人間と魔物の住み分けをはっきりとする事だ。俺は人類に対して何かしようとは思わない」

「それだけの戦力を持っていて、今現在この国の民を殺しておいてか!」

「ああ殺すよ。殺さないために手紙を送ったが見事に裏切られたからな。ならいっその事魔物を悪という連中を纏めて掃除したいと思ってた。ありがとうね、おかげで一気に掃除できた」

「魔王リュウ!あなた、本当に人間じゃなくなったのね!これだけの人間を殺しておいて何とも思わないの!?」

「思わない。お前らは俺達に対して拳を振り下ろした。振り下ろされた拳でただ殴られるわけにはいかない。群れのボスとして、国の長としてただ殴られるわけにはいかない。それとも何か?お前らは正義だから俺達悪はそのままおとなしく殴られ続けろとでも?そう言う訳にはいかない。俺は俺であいつらに平和って奴を感じて欲しいために戦ってるんだからな」


 もう俺達は止まれない。

 ここで見逃せばこいつ等はどこまでもつけあがる。ここで止めておかないといけない。

 出ないと魔物おれ達に平和は訪れない。

 そう思って剣を抜こうと思っていると、大司祭が俺と教皇の間に入る。

 そして初めて口を開いた。


「失礼ながら、ご質問宜しいでしょうか」

「構わない。何が聞きたい」

「私の両親は魔物に食い殺されました。それについてどう思いますか」

「悲しい出来事だと思う」

「私はその恨みで力を得ようとしました。ですが結局どれだけ魔物を殺しても私の心は晴れず、いまだに憎しみだけがくすぶっています。この燻ぶりをなくすことはできますか?」

「それはできない。すでに済んでしまった事をどうこうできる程の力はない。だが」

「だが?」

「大司祭の様に憎しみを持たせないようにする事はできる。最低でも大森林に居る魔物達に関しては俺が管理する。俺の群れに入っていようと入ってなかろうともだ。そうすれば森から魔物が溢れ、人間を殺す魔物は減るだろう」


 そう言うと大司祭は小さく「そうですか」とだけ言って俺の目の前に立つ。

 最初に戦うのはこいつか?っと思っていたのだが大司祭は俺に向かって膝をついた。

 その光景に俺達だけではなく、教皇や聖女も驚いている。


「試す様な事をしてしまい申し訳ございません。わたくしはギルド黒牙の狼に所属する“乳歯”の役目を受けたまっております、パピーと申します。マスターよりお話は聞いています」

「え?お前が?コクガの言ってた教会に居るお孫さん?」


 コクガの情報収集部隊のトップ、“乳歯のパピー”。

 教会からの情報はその人からの情報であると聞いてはいたがまさか大司教だとは思ってもみなかった。

 それにコクガはパピーの事をとても大事にしている様で、コウガやカガ達から見ると本当の祖父と孫に見えると言っていたがまさか女性とは……

 そしてとくに驚いているのは教皇だ。と言うか護衛もしてたぐらいだし、信頼は厚いんだろう。


「な、何故魔王にその様な態度を取る!!お前も魔物に対し憎しみを持ち、復讐の炎に包まれていたではないか!?」

「はい。それは事実です。私の父と母は魔物に食われて死にました。その復讐を果たすために黒牙の狼のマスターの所で力を付けましたが、所詮1人では限界があります。そのために教会で地位をあげ、魔物に復讐する道を選んだ……つもりでした」

「つもりだと?それはどういう事だ!?」

「ただ滅ぼすのではなく、私のような人間が現れない様にしたくなったのです。その目的を果たすためには教皇様、あなたの所ではそれはできないと確信いたしました」

「な!?」

「魔物を滅ぼすだけでは救いたい命を救う事が出来ませんでした。であれば、魔王と言う強大な力を使って魔物と人間の住み分けをする。その方がより成功する確率が高いと考えました。なので教皇様、私はマスターと共に魔王の元に参ります。今までお世話になりました」


 ……あ~何と言うか……ティアに言われた時以上にショック受けてるぞ?

 そんなに大事な子だったの?

 とりあえず危ない雰囲気なる前に保護しよう。


「アオイ、マークさん。2人は彼女の護衛を頼む」

「「承知しました」」

「ティア。約束通り聖女はそっちに任せる。死ぬなよ」

「当然。新婚ほやほやで死にたくない」


 なるほど。そりゃ俺だって失いたくないな。

 俺はロウと蒼流を構える。ティアは聖女に向かって言う。


「少し離れた所で戦いましょう。お互い邪魔されたくはないでしょ?」

「ええ、ティア。貴女の目を覚まさせてあげる」


 そう言ってティアと聖女は中庭と思われる方に歩いて行った。

 さて、俺は残った教皇の相手をするのだが……さっきからろくに反応しないんだよな。

 どうするかな~っと考えていると、ティアが持っている聖剣によく似た剣が教皇の手に現れた。

 それを握って教皇は俺に突貫してくる。


「これ以上奪われてたまるかあああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


 そう叫びながら教皇と俺はぶつかり合った。

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― 新着の感想 ―
最後は魔物(種族不明。多分人間?)に長年の部下をNTR(言葉)て奪われるのか…… なんて不憫な
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