攻勢に出る
「……勇者ティアよ、そしてその仲間である賢者や騎士団長達よ、これが魔王リュウの力か?」
「そうです陛下。これに映し出されたのは魔王迦楼羅天のみですが、おそらく森の内部ではさらに厳しい戦いとなっているでしょう。それだけの力を有しているのです」
ライトライト王国。
ここでは人類の防衛側最大の拠点となっていた。
勇者の生まれ故郷であり、人類を守ると言う点においては教会よりも柔軟な思考をしている。
勇者ティアは修業期間に魔王と行動を共にしていた事を国王陛下に打ち明けた。その上で魔王リュウと敵対する事は愚行だとティアは国王に告げる。
国王も勇者の言葉に耳を疑ったが、それが事実であった場合敵対する事は人類の終わりを告げるのではないかと考えた。
大森林に住まう龍皇、精霊王、そして大森林に既は居ないものの天の魔王と昆虫の魔王と通じており、しかもとても親しい仲であるというのであれば魔王3柱を相手にするのだから勝てるはずがない。
そう判断したからこそ国王は防衛という形で前に出る事を止めた。もしこの情報がなければ教会に言われて兵を出していただろう。
そして兵を出さないと言う判断は正しかったと判明した。
巨大な通信魔法によって映し出された物はあまりにも現実離れした光景である。
そして最低でも天の魔王と協力し合う関係である事は事実である事を見せつけられた。
「南の森の魔王、アトラスとも親しいと言うのは冗談ではないのだろう?」
「国王陛下に冗談など言えません。実際魔王アトラスは魔王リュウに忠誠を誓っています。魔王を名乗っているのはリュウに魔王を名乗る事を許されているからだと聞いています」
「それつまり魔王アトラスは実質魔王リュウの部下だと?」
「はい。すでに側近の1体としてリュウは扱っています。魔王アトラスはそれに従っております」
国王とその側近達は頭を抱えた。
つまりリュウは既に魔王の1柱を手中に収めていると言う事だ。これで魔王リュウと敵対すれば確実に魔王2柱と戦わざる負えない。
国王はどうにか魔王と敵対しないよう思考を巡らせるが突如として国王の前に魔方陣が現れた。
魔方陣を見る限り転移用。国王の前に直接転移してくる物などまずいない。
周囲に居る兵士達は武器を構えて出現するのを待つ。
魔方陣からの光が治まると、そこには魔王リュウがそこに居た。
「あれ?ティアが居る場所に向かって転移したつもりだが……まさか王様の目の前だとはね」
魔王リュウもこの場に転移してくる意図はなかったのか、首を傾げながら言う。
国王を守る騎士達は武器の先を震わせながらも王の前に立つ。無駄だとは分かっていてもせめて国王には近付けまいと勇気を振り絞る。
そんな様子を見たリュウは何てことないように言う。
「あ~警戒するのは当然だがそんな震えながら武器を構えなくていい。俺だって今回の敵は教会と決めてるし、この国に攻撃するつもりはないよ。それよりもティア、準備はいいか?」
「全く、こんな登場の仕方しなくてもいいんじゃない?今リュウは世界の敵よ」
「そんなの知ってる。それじゃさっさと行くぞ」
「ええ」
そう言って勇者ティアは魔王リュウの元に歩く。
それを見て国王はリュウに声をかけた。
「少し待っていただいてもよいかな、魔王リュウ」
「ん?どうかしました?」
とりあえず国王は魔王リュウの機嫌を損ねない事に安堵する。
「彼女、勇者ティアを連れて行く理由をお聞かせ願いたい」
「え?ティアお前話してなかったのか?」
「話そうとしたけどあなたの攻撃の解説で大変だったのよ。あんな派手に攻撃しちゃって……」
「いや~あれはカリンの母親が見せつけるとか言い出すからさ、と言うかあんな圧倒的な火力で塵に帰すとは思ってなかったんだよ」
国王の前でもまるで何でもないように話すリュウとティア。
そしてリュウは咳払いをした後国王に言う。
「ライトライト国王、今回彼女を連れて行くのは2つの理由があります。1つは教会へ降伏させるための交渉役として、2つ目は聖女を殺さないためです」
「聖女を殺さない?先程貴殿は教会を敵と発言していたが」
「正確に言うと殺したくないのは勇者ティアの意思です。ですので俺はこう言いました、なら自分で止めてみせろと。なのでこれから彼女には聖女と会わせようと思います。どうせ降伏しないのは目に見えていますから」
そう言うリュウの目にはすでに教会と話し合うつもりはないと、目で語っていた。
だが国王も聞いておかなければならない。
「この国にも教会がある。その教会も壊すのか」
「そんな面倒な事はしません。とりあえず今は教会本部に居る魔物を敵としか見ていない連中を殺すのが目的です。やり方は強引ですがこれでも人間との共存方法は模索しているんですよ?でもその前に頭の固い、共存できない者を手始めに殺しておかないと次の段階に進めないと確信したからです。共存する意思があるのなら無理に殺す必要が有りません」
そう言うが国王の目にはリュウが共存する意思があるようには見えない。
人間と言う種に対して何の興味もないように感じられたからだ。共存ではなく、不干渉を望んでいる様に強く思った。
「分かった。止めてしまってすまない」
「勇者は人類最後の希望ですからね、当然だと思いますよ。で、ティア。行くのはティア1人だけか?」
「うん。他のみんなは防衛に居てもらわないと困るから」
「そうか。んじゃ行こうか」
「国王陛下。申し訳ありませんがこれより魔王と行動を共にし、共存の意思があるのかどうか見定めて参ります」
「しっかりと見定めて欲しい」
そう言って勇者ティアと魔王リュウは転移で消えた。
玉座の間にはようやく緊張の糸が切れて、みな疲れ果てた様に肩で息をする。
国王はそんな側近達と騎士達に言う。
「決してあれの怒りを買うな。あれは放っておけば何もしない」
「では後日改めまして魔王リュウに国際会議へ出席する願いを出したいと思います」
「そのように手配しろ」
国王は短い邂逅ではあったがリュウの本質を大体知った。
あれは自身の気に入らない事をしなければ何もしてこない類であり、その怒りに触れた際には天災に近い悲劇を平然と相手に行う無慈悲な存在だと決めた。
ならば国王として見定めるべきは、どのような行動によって怒りを買うのか知る事である。
国王はあの魔王にだけは決して手を出してはならないと後の王達に語る役割を得る。
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「で?大丈夫なのか?ティアが俺達の所に来て」
「その辺はタイガとローゼンさんが上手く話してくれた。いざって言う時のための見張りと抑止力のためだって」
「そんな感じでいいんだ」
1度俺達の国の中心に戻り、改めて教会本部に攻め込む。
そしてすでにこの大森林に侵入した大連合は絶滅した。生き残った者、死んだ者関係なく全てアトラスの部下にお土産として渡した。
死体に卵を産み付けて数を増やし、生き残った者は奴隷として働かせるそうだ。
この国に奴隷なんていらないし、邪魔な存在など不要だ。目障りでしかない。
それなら死体を利用してくれる誰かに渡す方がよほど世のためだろう。敵対者に慈悲など一切与えない。奴隷となった者達がそのうちどうなるのか一応アトラスに聞いておいた方がいいのかな?
どうでもいいと言う所は変わらないけど。
「さてと、そんじゃ行きますか」
俺達は教会本部に向けて転移するのだった。




