蹂躙
「よし。準備完了だな」
俺達は教会本部に攻め込む準備を整えた。
今日のため、と言う訳でもないがドルフの協力の元、俺だけではなくリルやカリン達にも装備と言えるものが開発されたのである。
と言っても魔物の状態ではなく、あくまでも人型でいる際限定の装備となってしまった。
流石に魔物状態での装備はとても難しく、それに俺の眷族達はみな元から最強の存在達。人間やドワーフが作った物など不要であると判断された。
しかしカリンやオウカに関してはとても強く装備を欲した。
最強の種族と言っても2人に関してはなまだまだ幼いと言う点と、アトラスの部下達に対して苦戦した記憶があるからだろう。
それから単に俺が武装しているから真似したくなった。とも言えそうな気がするが。
これにより俺の眷族達にはドルフが滅茶苦茶頑張って製作した武具が送られた。
その際精霊王も細かい所で炎や水などの素材を提供すると言う形で手伝ってくれた。
「どうですかリュウ?この新しく作った装備は?」
「ああ。とてもいい仕上がりだ。助かったよドルフ」
「以前燃えてしまった装備から更に性能とデザインを向上させました。これなら魔物の王として相応しい一品でしょう」
以前カリンの母親に防具を燃やされてから俺は防御系スキルなどに頼ってあまり防具を整えていなかった。
だがそれではいけないとアオイを中心に俺の新しい防具製作が始まる。
それによりできたのが今着ている服だ。
素材は基本的に全て俺の眷属であるリル達から。
大元となる生地はリルの体毛を紡いで1つに纏めたもの。そこからカリンの羽やオウカ、アオイ、ダハーカの鱗などを1つに纏め、宝石のようにちりばめられている。
さらに服の強度を上げるため、マークさんと精霊王が共同でこの服にさらに付与した。
デザインは黒い生地に散りばめられた星のように光る、ダハーカの卵を服に変えたようなデザイン。
俺はこの服をとても気に入った。
「これって普段から着てても大丈夫かな?それともやっぱり特別な時用?」
「リュウ様がお気に召したのであれば常にその服装がよろしいかと。その服の製作にはこの国の者が一丸となって製作したものですから」
「リュウ様……これにより愚かなる人類はあなた様にひれ伏すでしょう」
アオイとマークさんが言う。
ちなみにアオイはいつもの戦闘服にさらに精霊王が戦闘に優位な付与を付け加えてくれた感じだ。
マークさんは何故かいつもの執事服。戦闘でも大丈夫な作りにしてあるから問題ないらしい。
「ま、格好も重要だからな。それじゃ行こうか」
『少し待てリュウ。どうやら聖女はこの大森林にはおらず、教皇の護衛をしているそうだ。勇者に一応伝えておくべきではないか?』
カッコよく出るかと思った時にダハーカが待ったをかけた。
ダハーカは久しぶりに見るドラゴン状態。ただの布に見える服は実は昔の友人と共に製作したものらしい。なのでこの状態で出撃すると言っている。
「確かにな。一応ティアには教えておかないとな」
そう思って俺はティアに念話を送る。
少し待つと繋がった。
『リュウ?もう戦争は始まってるけど大丈夫なの?』
『大丈夫だ。それより一応聞いておかないといけないと思って連絡した』
『なに?』
『これから俺と俺の眷族達で教会本部を落とす。ただその教皇の護衛に聖女が居るそうだ。殺してもいいか?』
個人的な感情で言えば聖女はここで殺しておきたい。
あれは魔物と共に生きていけない人間だろう。ならばここで殺しておくべきだ。
そう思っての質問だ。
『ちょっと待って。それなら私が相手をする』
『相手って。お前は人間を守る最後の要だろ?俺と一緒に行動したら何言われるか』
『でも私は共存の道が最も平和につながると信じてる。その事をヒカリに伝えたい。それに出来れば……殺してほしくない』
………………それもそうか。
確かにたどっている道はバラバラだし別々だろう。
でも根幹にある望みは同じ。人類の平和か。
聖女は魔物を殲滅する事で人類に平和をもたらそうとしているし、ティアは魔物との共存で人類に平和をもたらそうとしている。
同志と言うのはティアと聖女の様な関係を言うのかも知れない。
『………………分かった。ならいつでも出撃できる準備は整えておいてくれ。迎えに行く』
『ありがとう。必ずヒカリは説得してみせる』
こうして念話は終えた。
「もうちょっとだけ待とうか。ティアも連れて行くとするとよりタイミングが重要になる」
「それならこの森に居る人間を全滅させてから行くのはどう。そして勇者を連れて降伏させてる。これなら問題ないんじゃない?」
大人状態のオウカが俺の後ろから抱き付いて甘える。
普段の子供状態だと抱き付かれる方が好きなはずなのになんでだろ?
「まぁそんなところだろうな。最低でも全滅しかけている状態で乗り込む方が説得力もいいだろう。もうお前達は終わりだってな」
「それではリュウ様。全軍に本気を出してよいと通達してもよろしいでしょうか」
「頼む」
そうマークさんに伝える。
マークさんは喜んで頷いた。
それでは残りをさっさと終わらせよう。
-
魔物の森に居る軍は少しずつ数を減らしながら進んでいるが、いまだにその数は驚異的であった。
既に森の魔物と思われる敵に数を減らされているのは分かっていたので、より固まって行動する事で安全を保つ。
これにより不意打ちで数を減らされない事に成功した。
「これより大森林中間部分に差し掛かる!十分に気を付けろ!!」
団長が全体に声をかけ、注意を高める。
騎士や軍の人間はそれにより一層注意を高めた後、明らかに森の空気が変わった。
全員が思わず足を止める。
これは命令でも何でもない。ただの生存本能による警告だ。
最も先に異常を感じたのは最も弱い騎士。
何故だか呼吸が苦しい。突然の息苦しさを衛生兵に伝え、調べると原因は魔力の過剰摂取である。
魔力は本来人間にはなじまない。
なので当然魔力を許容量も少ないし、勇者や聖女、英雄などと呼ばれる様な優れた者にしか魔力を大きく手に入れる事が出来ないのだ。
だがしかし、だからと言って森の魔物達は手を抜く事はない。
マークから伝わったリュウからの狩りの許可をもらった彼らは静かに動き出す。
そして狩りが始まった。
だがそれは一方的な蹂躙としか言いようがない。
リュウの血を飲んだ魔物達は全て最低でも1段階、長老クラスとなれば2段階3段階ほどの進化を果たしている。
それに狩りの基本は自分達よりも弱い者を選ぶのだから彼らは確実に勝てる者の前に姿を現す。
当然人間の騎士や軍人の中に英雄級と呼ばれる強者たちは存在する。彼らは単独で多くの魔物を倒す事が出来る程の猛者だ。
だがそんな彼らを狙うのはとある1族。フェンリル族が狙っていた。
リュウからの命令で誰1人として死ぬ事は許されていない。それに彼らはリュウのためと言ってもやはり自分達の命は惜しい。もし絶体絶命の危険であれば素直に逃げる。
だからこそ進化しても相手との力量は見極める事は難しくないし、それは普段から行っている事だ。
勝てない強者には勝てる強者をぶつける。リュウの群れなのだから種は違えど素直に頼る事は何の恥でもない。
そんな英雄級の騎士達にフェンリル達が襲い掛かる。
どれだけ英雄と持ち上げられようと、どれだけ人間の限界を超えてきても所詮は人間から見たレベル。魔物、しかも伝説の魔物であるフェンリルから見れば少し強いだけの人間。
自分達の命を脅かす人間はリュウの他に見た事がない。
魔物達は愚かな人間達をただ殺す。死ななくても動けなくなればそれでいい。それは何故か?
簡単だ。
ただ単に不味いだけである。
そして同じく大森林の外で待つ補給部隊は緊張感に包まれながら待機する。
いつ森に入った部隊から救援を求められるか分からないし、ボロボロで帰ってくるかもしれない。その際には治療を施さなければならないし、自分達も大森林の魔物に襲われかねないのだから緊張しない訳がない。
さらに言えば森に入った部隊に比べれば治療や補給として集められた者達が多い。なので自分達が弱いことは百も承知である。
そんな緊張感に包まれたまま外で待つ部隊に大きな影が彼らを包む。
雲か何かと思って見上げた者は悲鳴を上げた。
そこには金の混じった紅い巨大な鷲が群れを成して飛んでいたからである。多少の大きさに差はあるが全て10メートルを超えている。
その中で最も高く飛んでいる2羽がひときわ大きい。
騒ぎにより拠点のテントから出てきた指揮官は驚きに目を疑った。
現れたのは迦楼羅の群れ。それを動かせるものなど1柱しかいない。
教会の敵である異教徒の神。魔王迦楼羅天。
空を飛ぶのはほんの20羽前後だが魔王と同種の魔物がこの補給部隊の上を飛んでいる。
それだけで指揮官は死期を悟った。そして魔王リュウの恐ろしさを感じる。
このタイミングで魔王が現れるとは考えにくい。しかも丁度前線の部隊と連絡が取れなくなった時にだ。
ならば呼ばれたのだろう。あの人類を裏切った元人間の魔王、リュウに。
誇り高き天の魔王は群れと共に輝く。
その輝きは太陽のごとき優しき光でありながら、目は潰れ、一瞬でチリも残らず燃え尽き、何もできずに死んだ。
後にリュウは言った。彼らは幸福である。なぜなら彼らはまさに天に直接召されたのだからと。
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大森林南側。精霊の森付近。
何者かの攻撃から逃げていると霧が晴れた。逃げた騎士達は安堵の息を吐くが負傷者はそれなりに居る。
彼らの治療を施してから再び戻ろうとする前に魔物が現れた。
それは人と同程度の大きさのアリであった。
「敵襲!」
そう言って素早く武器を構えるがそれよりも早くアリは動き、奇妙な槍で騎士を捕らえた。
その槍は二股になっておりどう見ても倒すには不向きな形をしているからである。
だが脅威なのはその数。1体見付けたかと思えばあっという間に10を超えて50、また超えて100体ものアリの魔物に囲まれてしまったからである。
無論騎士達は教会騎士の中でも上位に君臨する。
1体1体確実に倒していくが、それでも数の暴力にはかなわなかった。
誰かが捕まって陣形を崩され、また更に誰かが捕まって陣形を崩され、アリの魔物達も確実に1人1人捕まえて無力化したのである。
様々な大きさの槍に捉われた騎士達は最後にアリの腹の先にある蜂の様な針に刺された。
すると騎士達は軽い痺れにより力が全然入らない状態になってしまう。
動けない事はないが戦えない。そんな痺れである。
そして彼らは生きたままアリの巣穴に持ち帰られた。
どのように使われるかはまた後日、語るとしよう。
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最後にドラゴンの縄張り。
少数精鋭で乗り込んだ教会騎士達は絶望していた。
現れたのは名のないドラゴンではない。赤いドラゴンと白いドラゴンの2体である。
見た事はなくても誰もが知っているドラゴンなのは、この場に居れば想像に難くない。圧倒的な存在感に、人間では決して倒す事が出来ないと確信できる程の威圧感。
そしてその気配は何故か赤いドラゴンよりも白いドラゴンの方から強く感じる。
『さらばだ。愚かな人間よ』
そう言って赤いドラゴンはとても簡単な仕事を果たした。
縄張りに侵入した愚かな人間を踏み潰す。それだけだ。
だが赤いドラゴンの行動に白いドラゴンは不満そうである。
『どうした?』
『別に。ただ小汚い血が付いてしまったと気になっただけです』
白いドラゴンから見れば夫が絨毯の上で虫を潰したような嫌悪感がある。
それを感じた赤いドラゴンは急にオロオロとしだす。
それを見て白いドラゴンは微笑んだ。
『ですが久しぶりにカッコいい姿を見たので不問とします』
『それは助かる』
赤いドラゴンはほっとしながら白いドラゴンを見た。
白いドラゴンは冗談半分だったのだが、久しぶりに縄張りに入る侵入者を排除した姿に胸をときめかせていた。
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これにより生き残ったのは南の森から侵入した教会騎士と、あしらわれた東から侵入した大連合のみである。
他の者達は全て戦いにもならずにただ、魔王と言う理不尽な存在を知らしめるだけの贄となった。




