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 魔物の縄張り周辺の人類の軍は森へと進行した。

 と言っても広大な大森林、どこに魔物の国があるのか探りながらとなるので動きはとても遅い。

 教会の預言者が占いやスキルを利用してある程度調べてはいるが、それでも大まかな位置までしか分からない。

 預言者が言うには大森林のほぼ中心と聞いているのでそこまで歩いて行かないといけない。未開拓の地であり、木々の根が邪魔をして馬などを使って動く事が出来ないからだ。

 こうして各国から集められた騎士や軍人は煩わしそうに進む。


「くっそ!この木の根をどうにか出来ねぇのか!」

「出来る訳ないでしょ。大森林の樹木ですよ?普通に切り倒しただけで金何枚になると思ってるんですか」


 大森林の木々は濃い魔力を浴びているため、他の木々に比べるととても頑丈で鉄に比べると軽い。

 しかも精霊の影響あってか、樹魔に変ぼうする事がないので安心して取れる木材でもある。

 金のある人間は、鉄の金庫より大森林の木々で作った木材で作った金庫の方が優秀と言う者もいる。

 そんな木々を簡単に切り倒す事は出来ないので仕方なく木々の間を縫うように軍は進む。


 大森林の外側は見えても、大森林の中はそう簡単に見えはしないだろうと思い人間達は規定通りに進む。

 だがそれは大きな間違いである。

 ここは大森林に棲む魔物にとって慣れ親しんだ場所だからである。

 大森林の中に安全な場所など初めからない。


 最初の犠牲者は音もなく殺された。

 すぐ隣に居た仲間は周囲を探すが見当たらない。当然だ。彼は木の上で猿型の魔物が既に殺し終えた後なのだから。

 襲った猿型の魔物はとても手足が長い。尻尾に関してはその長い手足の3倍はあるほど長い。

 尻尾で木にぶら下がり、音もなく待ち構え、彼らが目前に迫った時に木の上にさらい、自慢の握力で首を掴んで絞め殺すのだ。


 魔物の軍勢にとってはまだまだ手加減している。

 ろうと思えばこんな待ち伏せをする必要などどこにもない。しかしこれは粛清であるとともにリュウ達のための時間稼ぎでもある。

 リュウ達はこの戦争を始めたきっかけである人類の群れの頭を殺すとこの戦争が始まる前に告げていた。

 なので初めから派手に行なうのは控えて欲しいと言われていたのだ。


 だがそう言われたからと言ってそう難しい話であるかと言われればそうでもない。

 彼らは人間の様に家畜を殺して生きている訳ではない。ある程度発展しても、肉に関しては家畜を殺している訳ではないからだ。

 自然の恵みである他の魔物を殺し、食す。常日頃から獲物を確実に狩っている彼らにとってそれはただの日常である。

 そしてまた愚かな獲物が自身の真下に来た時、獲物はただ狩られる。


 仮に慈悲と言う言葉を使うのであれば、それは獲物をいたぶる習性がない事だけだろう。


 -


 南の精霊の縄張り付近。

 ここの騎士達は魔物よりも想定以上にこの森に入る者達が居ない事に腹を立てていた。


 それはおしゃべりな妖精の言葉が切っ掛けである。

 何でも精霊王は魔王と手を組み、人間を見放した。っと言う内容だったからである。

 気まぐれでおしゃべりな妖精の話は精霊信仰をしている国家に直ぐ知れ渡った。

 教会はこれを機に我らが神に信仰を移さないかと言ってくるが当然断った。

 改宗に関しては置いておくが、彼らは宗教と言うよりは精霊への感謝の形として精霊信仰を続けている。


 伝説によれば大陸南側は死の砂漠だったと言う。

 そこで生きる人間を不憫に思ったのが精霊王である。

 精霊王は少しずつではあるが、精霊の森から精霊を少しずつ南下させながら精霊の領土を広げた。

 結果、死の砂漠と言われた土地は綺麗に消え去り、代わりに自然豊かな土地に変わったと言う。

 数百、もしくは数千年も前の話ではあるがその感謝は親から子へ、子から孫へと代々語り告げられている。


 なのでもしそんな精霊の加護が大地より失った際、また死の砂漠になってしまうのではないかと言う恐怖もあった。

 これ以上精霊王に不敬と思われる事が有ってはいけないと、大陸南側から騎士や軍が動く事はなかった。

 それにより南側、精霊の森付近では想定以上に人数が揃わなかったのである。


「今時精霊精霊って言わねぇよな?」

「確かに時代遅れと言うか何と言うか。精霊なんてそこら辺にいるだろうに」


 教会騎士にとって精霊は取る足らない存在、ただその場にいるだけの無力な存在、精霊は神に劣る存在である。などの教義によって精霊は軽視されている。

 そして精霊の森に踏み入れた彼らは最も悲惨と言えるだろう。


 初めは順調であった。

 木々が生い茂っているだけで何かが現れる様子はない。時々見かける精霊は下位の精霊でこちらの様子を見てくるだけだった。

 巨大な大木に脚を取られていはいたが誰かが欠けると言う事はなく、順調に進む。


 そして休憩をしている時だった。

 ふと霧が立ち込めてきたのである。

 これを異常と取った教会騎士団は塊り攻撃に備える。だがいくら待っても攻撃は現れない。

 だがそれは誤りである。


 音もなく飛んで来たのは矢。それが硬い鎧を易々(やすやす)と貫いて肩に突き刺さったのである。

 防御陣形として盾を傘の様に構えるがその盾すら貫く。もしくは足に突き刺さりうずくまる。

 騎士団長は「撤退!!」と言ったがもう遅い。


 1本の木の上で弓矢を構える絶世のエルフの美女は微笑む。

 騎士団は彼女の誘導にまんまと引っ掛かり、とある方向に逃げていく。

 他の仲間であるエルフ達や精霊達の魔術によって発生された霧である。その霧によって方向感覚を失った騎士団は、こちらの思惑通り誘導される。


 彼女の笑みは満足感。直接リュウより言われた役目を見事に果たしたからだ。

 後は悲惨としか言いようがない未来が彼らを待っている。

 負傷した戦友に肩を貸し、共に逃げる姿は美しい友情と言えるだろう。陳腐ちんぷな小説なら彼らは見事に逃げ切り、生還を果たすだろう。

 だが彼女に向かって言ったリュウは、絶滅させろと命令を下した。


 彼ら人間に対して同情の念も、心が痛む事もないが、彼女は感謝する。

 これでまたリュウに恩が返せると。これでまた自分がリュウにとって有能な存在である事を示す事が出来るからだ。

 決して深追いはせず、目の前の騎士団を目的地まで弓矢で誘導するのだった。


 -


 西側、ドラゴンの領域から目指す者達は緊張に包まれていた。

 目的はリュウと言う魔王ではあるが、ドラゴンである彼らの縄張りに侵入している事は変わらない。もっとマシな経路があっただろうと彼らは嘆く。


 魔物の中で魔王よりも自由であると言う噂のあるドラゴン達。その自由の象徴こそがドラゴンの強さである。

 曰く龍皇の力は魔王数体分であると、曰く龍皇は調停者の役割を持つと。


 調停者とは世界のバランスを保つ者の事である。そこに種族は関係なく、精霊王も調停者の1人であると1部では噂されている。

 故に最も有名な調停者、調停者の魔王の他にもいると噂されている。


 そんな調停者かも知れないドラゴンの縄張りにだ、少数精鋭で行かざる負えない不満や不安はどうしても出てしまうのである。

 だが彼らはこの戦争中では最も幸運だっただろう。

 恐怖もなく、死を確認する事もなく、死ねるのだから。

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