密会開始
フォールクラウンに到着して2日後、枢機卿達が到着した。
密会は明日ではあるが軽い顔合わせ程度はしておくべきだと判断し、ドワルの城で軽い顔合わせだけを今行っている。
「初めまして、私が新たな魔王リュウです」
「初めまして、わたくしは枢機卿の1人であるクルエル。こちらは同じく枢機卿のマリエル」
ナレルよりも年を取った爺さん枢機卿がそういう。
そして後ろに控えているのはナレルと同じぐらいの年に見えるのがマリエルか。
ちなみ今の俺の後ろにはまだナレルは居ない。ここに来るまでそれなりに疲れているだろうから、感動の再開は明日にしようと思った。
その代わり彼らの後ろにはティアとタイガがいる。
勇者と賢者が護衛をしていると思えば彼らも少しは安心する事が出来ると思っての配慮だ。
その考えはてきめんだったようで、勇者と賢者の事を見て2人は少し安心した様に見える。
勇者と賢者が人類の支えとなっているのは間違いなさそうだ。
話し合いは明日本格的に行うので今日は本当に挨拶だけ。
ドワルが用意した部屋に枢機卿達は戻って行った。
ちなみに現在の護衛はマークさんとコクガである。この密会が終わった後再び彼らが担当する国に送り届けるまでが仕事なのだが、その間休んでていいよ。っと言ったのだがマークさんとコクガは俺の護衛をすると言ったのでそのまま頼む事にした。
護衛の居ない王様がいるはずないでしょ?っと言われれば反論することは出来ない。
そして翌日。
昨日会ったよりも疲れが取れた表情で枢機卿達が現れた。
今日はナレルも俺の隣にいるので2人は本当に驚いた表情をしていた。
「ナレル枢機卿……本当に生きておられたのですか……」
「クルエル様お久しぶりです。魔王の気まぐれにより私は生き残る事が出来ました」
まぁ他の連中はほぼ全員殺したからね。
とにかくナレル本人がここに居るのだから早速話を始めよう。
「ナレルの手紙にも書いてあったと思うが、俺は別に人類と積極的に敵対したいと言う意志はない。そちらがどこで何をしようが基本的に干渉するつもりはない。そこだけは本当だ」
この会談ではあえて普通に話させてもらうとしよう。
変な敬語で伝えたい意思が間違って伝わっては元も子もない。
「あの手紙に嘘は書いていない。大森林の資源や魔物の素材が必要と言うのであれば当然販売しよう。冒険者の仕事が減る事に関しては……諦めてくれ」
「左様ですか。そして販売とは具体的にどれ程の値で売るおつもりで……」
「マークさん」
「はい。それに関してはこちらの資料をお読みください。現在はこの値段で販売しようと考えております」
「……薬草に関しては現在の相場よりずいぶんと安いようですが」
「こちらに居るリュウ様はエルフ、そして精霊の力を借りて薬草の方も栽培しております。なかには人類には栽培できない薬草の類も存在します」
現在外交の手札になりそうなものは色々手を出している状態だ。
薬草に関してはエレンが中心となって花畑や畑と似たり寄ったりの感じで規模を少しずつ広げている。
後人間が素材などとして利用する事の多い魔物に関しては、こちら側で養殖する事が出来ないか実験中だ。
と言っても元々は魔物、繁殖などの概念はないし特に美味い訳でもない魔物を育てるという概念は存在しない。なのでここは龍皇国の人達に頼んで養殖し、一定の感覚で卸す事が出来ないか模索中である。
ちなみに『調教師』として久しぶりに調教師らしい仕事で俺は懐かしく思いながら作業に取り組んでいる。
「……た、確かにこの相場であれば人間社会に大きな影響を与える事はないでしょう」
「さらに言えばリュウ様はそれらの薬草に関しては一年中安定した供給を目指しております」
「な、なんと……」
「販売に関しては問題ないかな?」
「確かにこれなら何の問題もありません」
では今度はそちらの意思を聞いてみたいな。
「では次にそちらから質問はないか。この場で答えられる事は何でも答えよう」
そう言うと枢機卿達は緊張した面持ちで俺を見る。
マークさん曰く、質問してきた時どんな質問がどの順番で質問されたかによって意外と分かるというのだ。
口調の強弱、どれぐらい緊張しているか、目線はどうかなどを見極める事で相手の意図が分かるらしい。
これに関しては経験としか言えないので俺には出来ない。
たぶんできるのはアオイかマークさんだけだろう。
そしてクルエル枢機卿が聞いてくる。
「……あなた様は教会の事をどうお考えでしょうか?」
「人類の最後の砦、かな。どの国にも兵は居るが、魔物との戦闘に特化した教会が魔物に対して最後の希望となるのは目に見えている。と言っても弱いがな」
「……教会は取るに足らない相手だと?」
「俺は強い教会の騎士と出会った事がない。強い者もいるのかも知れないが……ほとんどは片手間で倒せるだろう」
一部の者、それこそ今俺達を倒そうとしている教皇を筆頭に聖女など1部の者は魔物だって油断すれば倒されてしまうかも知れない。
警戒するべき相手とは思うが、本当に聖女が俺を殺せるか?っと聞かれたら殺されるイメージすらわかない。
そして言ってしまえばそんな人間が教会側に大勢いるのか?と言う疑問も残る。
なんにせよ、いざと言う時に龍皇や精霊王も相手する事が出来る人材が豊富に居るとはとても思えない。
そんなに人材に余裕があるのなら、とうの昔に俺は倒されていただろう。
「それは勇者様も含めて、ですか?」
「あれ?俺の認識ではティアはライトライトに所属する騎士と認識していたのだが?」
「そちらに面も否定しません。ですが人類側から見ると勇者様は教会に協力しているお立場、なので基準としてお教えいただけると助かります」
「殺そうと思えばいつでも殺せる」
実力だけで言えば俺とティアの実力はとても離れている。
今の状態でならあの偽物魔王は倒せるだけの実力は得ただろうが、ダハーカを相手にした場合生き残れるかどうか微妙な所だ。
当然他の魔王たちを倒せるだけの力はもっていない。
時々カリンの母親がティア達にちょっかいを出して遊んでいたが、それですらティア達はカリンの母親に本気を出せる事すら出来ていなかった。
それにぞっとしたのか、マリエル枢機卿は身体を震わせている。
クルエル枢機卿はそんなマリエル枢機卿を落ち着かせながら俺に聞いた。
「分かりました。それでは魔王様は教会を破壊するおつもりはないと?」
「むしろ俺としては敢えて残しておいて、新たな教皇としてナレル枢機卿を教皇に推奨してほしい。それで今までの魔物を殺す対象から共存できるように説得してもらいたい。俺達だってなにも戦場でしか生きられない獣じゃない。平穏を楽しむ心ぐらいある」
もし本当に魔物が戦いの中でしか生きられない様だったらこんな話は必要ないし、まず俺が魔王となる事もなかっただろう。
俺が魔王に成れたのはリルが、カリンが、オウカが、アオイが、ダハーカが、マークさんが、そしてウルが決して戦いの中でしか生きられない獣ではなかったからだ。
もし獣であった場合、みんな仲良くなんて出来ていないはずだ。
出来ているのだから平穏の中で生きる事が出来る。
そんな子供にだって分かる事でしかない。
「……そう……ですか。なる程、戦いの中でしか生きられない獣ではない。ですか」
何故か遠い目をしながら言うクルエル枢機卿に疑問を持ったが、追求はしなかった。
その後会談は進み、最終的に非戦闘派は担当している国と共に戦争には参加しない事を約束してくれた。
ただし現在教皇の権力は凄まじいので他の名目が必要と言われた。
それは想定通りなので戦わない者達はティアの提案で戦いを避けるというシナリオを進める。
まさか本当に勝てそうにないから、とは言えないので教皇が攻めなら勇者は守りに徹する。っと言う形でライトライトを通して協力する事となった。
別に俺はライトライトと通じている訳ではないが、ティアの発言もかなりの力を持っているらしく、国王も戦争に乗り気ではないだろうから大丈夫とティアが言う。
俺個人としてはこれは選別だ。
魔物と共存する気がある人間と共存する気のない人間の選別。
別に戦いに参加しない人類全てが俺の様に魔物に対して理解があるとは思っていない。
魔王への恐怖、魔物への恐怖、打算的な者、今はまだ戦うべきではないと考える者、様々な者達がそれぞれの考えで静かにしているだけだろう。
でもまずはその一時の静寂が必要だ。
害があるかないか関係なく、互いに考える時間を設ける必要があるだろう。
この戦いが終わった後、第2第3の現教皇の様な者が現れないという保証はどこにもない。
その後の事は時間の流れに任せるしかない。
俺達の敵となる者が多いのか、俺達と共に歩む者が多いのか、そればかりは遠い未来が現在にと言える時にならないと分からない。
 




