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お久しぶりのフォールクラウン

 馬車の乗り心地は……正直言ってあんまりよくなかった。

 ある程度舗装されている道であっても地面の凸凹は当然あるし、石ころを踏めば当然ガタガタする。

 貴族や王族の見栄ってのは大変なんだな……歩くなり直接馬に乗っている方が楽な気がする。


「この馬車揺れが少ないね」

「ええ。流石ドワーフの技術力ですね」


 ティアとタイガがそんな事を言う。

 え、マジで?っと思ってナレルを見ると笑いながら言った。


「リュウ様は馬車に乗るのは初めてで?」

「ああ。昔マークさんの荷馬車に乗せてもらった事はあるが馬車は初めてだ。荷馬車の時よりは揺れも少ないとは思うが……」

「従来の馬車に比べるとこれでも大分揺れは少ない方なのですよ。揺れが少ない分速く走れてますし、大きな時間短縮にもなります」

「この程度で?え、これって車輪が悪いの?それとも道そのもの?」

「恐らく……道そのものですね。この辺りの道は魔物が出にくいと言う所から使われているだけでして、どこかの国が舗装している訳でもないのです。明確な国の領地となればもっとよくなると思いますが」


 う~ん。そのうちこういう道も俺が直してやらないとダメなんだろうか?

 いや、でも俺の領地はあくまでも大森林だけ。森の外にまで力を注げば周囲に警戒されるか?


 ちなみこの最新馬車、どこが最新かと言うと軸と車輪らしい。

 ドルフが言うには車輪とくっ付いている軸の間にバネを挟む事で今までとは違い、1本の車輪が原因で馬車全体が傾いたり乗り上げたりしなくなったそうだ。


 そしてドルフが1番興奮していた新しい車輪。

 何でもこれはアトラスの森で伐採した樹魔の樹液を利用したものらしい。

 樹液を加工したものを車輪に塗り付ける事で車輪の強度を上げると同時に多少の小石を踏んだ程度ではガタガタする物ではなくなったそうだ。


 周囲に樹魔がなかったのでよく知らなかったが樹魔は結構色々な物に使える。

 単に木材として使っても問題ないし、木刀として作れば普通の剣と同じぐらい堅い。

 樹液は今回ドルフが見つけた利用方法もあるし、使えない部分がまるで見つからないんだよな……

 今じゃドルフはもっとないかと聞いてくるぐらいだし、この反応にはアトラスも苦笑いしていたような気がする。


「なぁティア。そのうちライトライトと結ぶ街道みたいなの用意した方がいいのか?」

「え?リュウって外国と関係を結ぶ気あったの?」

「いや、そんな鎖国的な思想はないからな?それにフォールクラウンとは既に関係を結んでるし、爺さん達のおかげで獣王国とも関係は良好。最低でもこの2つの国とは深い関係を結びたいし、そうなると必要かな~っと思って」


 そう言うと納得したように頷く。


「あ、なるほど。それなら納得。そうなると必要になってくるかもね。すべて転移系の魔方陣に頼るっていうのは現実的じゃないし、色んな人を呼び込むつもりなら作っておいた方がいいんじゃないかな?」

「その代わり危険な連中も呼び込む事になりかねないけどね。その辺はリュウの判断次第だろうけど」


 ティアはそう言い、タイガは警告するように言う。

 まぁすぐに人間と仲良くするつもりはないけどね。


 まずは教会をどうにかした後になるだろうし、その時に恐らく俺達の恐ろしさは知れ渡る。その後に仲良くしましょうと言ったって恐怖で支配している様な物になるだろう。

 取り合ず間を置くとして……やっぱ100年単位で間を開けるしかないのかな?とりあえず100年は大人しくして街造りに力を注ぐ、ある程度安定したら……ドワルに協力してもらいながらちょっとずつ手を広げていく事にしよう。


 100年もすれば直接戦った戦士や騎士の類は爺さん婆さんになってるだろうし、表立ってアピールしなければいいだけだ。

 焦らず少しずつ、まずはこちら側の地盤を整える。

 他の連中に手を出すのはその後でいい。


「ま、なんにせよ今すぐって話じゃねぇよ。魔王らしく玉座にでもふんぞり返ってタイミングを見計らってりゃいいんだから」

「……しっくりこない」

「だね」

「リュウ様の周囲はにぎやかですからな」


 ティア、タイガ、ナレルがそういう。

 あれ?何でそんな反応になる?

 最近はそんな派手に動いてないはずなんだけどな……

 そう思っているとノックの音が聞こえた。


「フォールクラウンが見えましたよ」


 アリスの声だ。

 どうやらもう直ぐフォールクラウンに到着するらしい。


「……やっぱり早い。そして快適だったな」

「そうですな賢者様。これほど早く動け、快適な馬車は他にないでしょうな」


 何てタイガとナレルは言うが……他の馬車に乗った事がない俺には全く分からないのだった。


 -


 フォールクラウンの門では何の問題もなく通過できた。

 ドルフが前もって連絡を寄こしてくれていたという事もあるし、俺や勇者メンバーの2人の顔があった事も関係しているらしい。

 それでも子供とは言えフェンリルが馬車を引いていた、という事実は少し怖がられている。

 伝説の魔物の子供なのだから当然と言えば当然だ。

 それに俺が魔王になった事はこの国ではとっくに知れ渡っているらしく、前のように親しく接して来る冒険者はあまりいなかった。

 そんな俺と行動を共にしている勇者と賢者、そしてナレル枢機卿というメンバーに驚いていただけなのかも知れないが。


 とにかく次に向かうのは王城だ。

 今回はどちらの縄張りでもない土地での会談をしたいのでいい場所はないか、ドルフにも聞いてたみたらドワルに連絡し、王城の一室を使ってもよいと許可が下りた。

 何故そんなあっさりと貸してくれるのかも教えてくれた。


 フォールクラウンは種族に関係なく中立を名乗る商業都市。この中立という部分を使って国王や貴族たちがこの地で相談する事もあるらしい。

 なので俺と枢機卿達との会談で使われても問題なしとの事。


 まぁおそらく裏では会談の内容を盗み聞きしているとは思うが……そのぐらいは許そう。それにどうせ後からドワルに聞かれる事間違いないし。

 と、言う事で久々にドワルと会った。


「よ、久しぶり」

「久しいなリュウ。そちらから来るのは連絡ぐらいのもので冷や汗をかいていたところだ」

「何で冷や汗?最近は大人しくしていたはずだけど」

「大人しくだと?魔王アトラスを倒し、調停者に魔王として認められる事が大人しくか?そして今度は枢機卿との密会。これで本当におとなしくしていたと?」

「人間に迷惑を掛けてないんだから大人しくって言ったっていいだろ。それより枢機卿達との密会会場は整ってるんだろうな?」

「ふん。当然だ、部屋だけは既に用意してある。後は枢機卿達が来るのを待つだけだが……」

「そっちはマークさんと黒牙の連中が護衛をしてるから状況は知ってる。後……3日掛かるがどうかって所らしい」


 その辺は一緒に居るマークさんからの連絡で知っている。

 馬車の中で俺に対して様々な予想を立てながら向かっているとか。途中野盗に襲われる事もなく順調だという。

 一応教会の方に居る黒牙のメンバーの方からの連絡だと、俺を倒そうとしている連中は今回の密会について気付いてはいないらしい。

 より正確に言うと、1部の枢機卿がフォールクラウンに向かっている事は知っているが俺との密会であると言う点は気付かれていないそうだ。


 過激派はそんな事よりも俺を倒すだけの戦力を集める方が重要らしく、様々な国に声を掛けて少しでも多くの兵を集めようとしているそうだ。

 特に意外だったのは極東、ハガネの師匠がいる場所にまで声を掛けているという話が出ているらしい。

 何でもカリンの母親とガイに挟まれているのだから少しでも魔王に対抗する術を知っているのではないかという期待からだそうだ。


 多分無駄だと思うんだけどな……1番知っているであろうカリンの母親を祀っている人間達には近付けないだろうし、獣人達は教会の人間にとって敵だ。聞けるはずがない。

 ほんっと教会ってのはこういう時弱っちいと思う。


「そうか。それではこちらもそれに合わせて部屋の準備などをしよう。それで密会は直ぐに行なうのか?」

「まさか。そんな急ぐ様な話……ではあるんだが、疲れた状態で俺の言葉をちゃんと聞いてくれるとは思えない。できれば着いた日の次の日に話したいと思ってる。まぁ疲労が溜まってる様ならさらにその次の日でも問題ないけど」

「承知した。それでリュウ、少々頼みたい事があるのだが……」

「なんだよ、改まって?俺が用意できる物で何か欲しい物でもあるのか?」


 そう言うとドワルは言う。


「最近弟が見つけたという新素材について教えて欲しいのだ」

「新素材?……何に使う素材だ?」

「お前が乗ってきた馬車の車輪に使っている塗料だ。ナレル枢機卿や勇者の言葉を聞く限り、随分と優れた素材のようではないか」

「あ~樹魔の樹液ね。あれ今こっちでも研究中なんだよ。ドルフから聞いてるんじゃないの?」

「ほほう。素材の正体は樹魔の樹液だったか。だが残念だ。素材が何なのか判明しても肝心の樹魔がない……」

「研究したいならこっちに研究員を更に送り込むか?ちょっと準備いるだろうけど」

「うむ。話が早くて助かる。それから私自身も少し実験をしてみたい。いくつか卸せるか?」

「その辺はドルフと相談してみる。あいつ最近テンション高くってな……」

「だろうな。弟は元々素材コレクターだからな」

「あ、そういやそうだった」

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