ティアの試練。そして暗躍
『リュウ様予定通り枢機卿の1部がこちらの話に乗りました。予定通りフォールクラウンへと移動します』
『お~助かる。それじゃ1週間後のフォールクラウンで会おう』
『承知しました』
現在の俺は龍皇国の闘技場に居た。
何故ここに居るかと言うと、とうとうティアのハーレムメンバーに相応しいかどうかのチェックが始まったからだ。
チェックと言ってもイメージしていたような家事だの料理だのと言う項目はない。魔物らしく戦闘力の確認である。
アオイやオウカ曰く、家事だのなんだのは使用人にやらせるから別にいいとの事。う~ん金持ちの感覚と言える。そしてそれなら何故アオイはメイドやってるの?という疑問も生まれるが答えてくれた事はない。
それよりも大切なのが俺と釣り合うかどうかという部分だそうだ。
釣り合わない者との結婚は国民から反感を持たれるという。だから釣り合うかどうか見せつけるべく、龍皇国の闘技場を借りて釣り合うかどうか試験している。
ちなみにこれはティアがどれだけ強くなったのかと言う確認でもある。
この森に住み付いてそれなりに時間が経過した訳だが、そろそろ国に帰らないといけない時期に差し掛かっているのだ。
それなら森の外に出していい程強くなったかどうかの確認と、ハーレム入りを認める試合を一緒に行ってしまおう、という事になった。
そしてその試合内容なのだが……とてつもない事になっていた。
ティア対ウルを筆頭とした嫁達なのだが……1体1の試合を連続で行うというものだった。
つまり俺の嫁と戦って認められればティアの勝ちなのだが、勝った後すぐに別の嫁が出てきて勝負を続けるという内容である。
しかも認める条件が何なのかは告げられてないし、認められない限り試合は続く。
あ~これ相当厳しくない?
確かに俺も龍皇とか爺さん相手に連続試合する事あるけどさ、10分間試合して次、また10分試合して次って感じでやってる事もあるけどさ。
時間制限決まってない中でいつ終わるかも分からない状況で試合続けるのって精神的に結構きついぞ。
もう既にマリアさんが回復系の魔術使おうとしているのをローゼンさんが止める。
ちなみこの試合勇者パーティーはお休みである。
あくまでもこれはティアが俺の嫁に相応しいかどうかの試合なので他の者がサポートする事を許さなかった。なので完全にティアは1人で戦い続けるしかない。
そしてタイガが聞いてくる。
「リュウ。ティアの勝率ってどんな感じなの?」
「さ~な~?勝利条件ってのは俺も聞かされてないし、そこまで理不尽な物ではないっとは言ってたが……どっちかって言うと体力面と精神面の方が不安か。この試合既に10分過ぎてるし」
現在戦っているのは3試合目のリルだ。
1試合目はカリン、2試合目はオウカだったのだがこの2つは10分前後で勝利条件を満たしていた様だ。だがリルの場合は未だに勝利条件を満たせていない。
その勝利条件が何なのか当てる事も力の見極めとして試合内容に含まれている。
「そんな……それじゃティアの勝利はかなり難しいじゃないか!」
「俺だって人間相手にこの内容はキツクないか?って言ったんだぞ。でもティアは勇者だし、俺の嫁になるのなら種族なんか関係ないって聞かなくて……」
「それでもこの内容は……」
「分かってる。でも1度でも挫けたら2度と立てなくなる。信じるしかない」
ティナは3試合目を迎えているが肩で息をしている様な事はない。
相当体力が付いたようだ。それに人間の目には追えない速度も気配を察するスキルで防いだり避けたりする事が出来ている。
これだけでも十分強くなったと言えるだろう。
この森に来たばかりのティアなら既に負けている。
それだけでも十分に成長と言えると思うが。
そして20分ほど経っただろうか、突然リルが戦うのを止めた。
アオイが相手になりそのまま戦闘を続行させる。
「どうにか4試合目だな」
「だね。にしても今のはどういう勝利条件だったんだろ?」
それに関してはおそらく体力が勝利条件だったのではないかと予想している。
戦闘において体力の維持とはとても重要だ。仲間が居るならともかく、1人で戦うのであれば疲れ切って動けなくなるという事は死を意味する。
それを回避するための試練と言う事なんだろう。
となるとアオイの勝利条件は攻撃の一点化か?
アオイの防御力はとても高い。そんなアオイに通じる攻撃をし続けるだけでも体力が減るんだけどな……
俺のように自然な動きのまま一点化するにはおそらく数か月では足りていないと思える。
一点化を意識しながら攻撃するのは難しいぞ。
「ふむ。意外と強くなっているではないか」
そう言って俺の隣に座ったのはカリンの母親だ。
炒った豆をポリポリ食べながら観戦しているのを見ると完全に観客だな。
俺以外の勇者パーティーやドラゴン達はカリンの母親を警戒する。俺と仲がいいと知っていても警戒するのは仕方ないだろう。
ドラゴンの天敵であり、魔王であるのだから。
「意外とって酷くない?」
「そう言っても仕方なかろう。あのピリオドにすら負けていたのだろ?ならばもっと弱いと思っていてもおかしくあるまい」
「それを言われるとそんな気もするが……ま、勇者なんだから俺よりも当然成長率は速いんじゃない?」
「ふん。職業による適性など関係あるまい。調教師殿」
俺を表に出されると確かにその通りなんだが……
そう思いながら観戦しているとカリンの母親は言う。
「それで、教会の枢機卿の件はどうなった。わざと教会に自身の存在を強調してまで」
「ああ、その件に関しては順調に進んでる。思っていた通り教会内部で2つの派閥が対立、教皇がいる俺を倒す派が穏便にいこうって連中を締め出したとさ。なので今度は俺がそいつらを懐柔する。教皇はいらないが教会は必要だからな」
正直に言って現教皇は俺達魔物にとって最も邪魔な人物だ。
魔物と言うだけで殺し、戦いに向かう。食うためでも縄張りのためでもなく暴れる連中はとても邪魔だ。
最初こそは短絡的に教皇1人を潰せばそれで済むと思っていたが、ナレルの話を聞くと現教皇の息がかかった枢機卿達が大勢存在する。なので現教皇を殺した所で第2、第3の現教皇の様な者が新たな枢機卿になるのは確実だと言う。
なので俺の考えを改めた。
俺達魔物と聞くだけで殺そうとする連中全員を掃除してしまおうと。
その後はナレルに教皇になってもらい、最低でも下手に魔物を刺激しないという方針に変えてもらう。
最も良いのは共存関係になる事なのだが……これは高望みと言うものだろう。魔物側でも人間は弱い者、取るに足らない弱者としか考えていない者も多い。
俺やティア、コクガ達を見て若者を中心に考えを改めている者もいる事はいるんだが……長老達の1部には人間によって絶滅しかけた種族もいるのでたった数年では流石に無理だろう。
こう言う意識改革というものは長い月日が必要なのはバカな俺でも分かる。ならまずはお互いに見定めるだけの時間を設けるのが先のはずだ。慌てずゆっくり歩めばいい。
急な改革に付いて行ける連中はそう多くはないはずだ。
なのでまずナレルと同じ思想をしているであろう枢機卿達とコンタクトを取り、人間側も緩やかに意識を改革する事が出来ないか相談したい。
そのためにフォールクラウンに枢機卿達を呼び、こちらの意思を伝えるだけ伝えてみようと思う。
そしてその枢機卿達の護衛はマークさんとコクガ達黒牙のギルドメンバー。この森に住んでいる者達が護衛しているのだから並大抵の連中や魔物ならどうとでもなるだろう。
「だが……教会が不安定な間はリュウが他国を守ると言うのは少々やり過ぎではないか?人手など全く足りないだろう」
「その辺は大森林周辺の国々のつもりだよ。それに人間同士の戦争の場合は静観するし、どちらか一方に与する気もない。まぁフォールクラウンの場合は協力せざる負えないだろうけど」
「確かこの街を正式に国と認めるのだったな。その前に調停者によって正式に縄張りと決められているのだから必要ない気もするが」
「その辺はただのアピール。国同士の取り決めを行う会議とかあるらしいが参加する気はないし、武力による威圧は全く意味ないし」
「魔王、龍皇、精霊王とくればどうしようもあるまい。人間にとってこれほどの脅威が近くにあると言うのは確かに恐怖かも知れんな……」
まぁそればっかりは諦めてもらうしかない。
苦笑いをしながらも試合に目を向けていると4試合目、つまりアオイとの試合が終了した。
ティアは肩で息をしていたが足はしっかりと地面を踏みしめているし、剣も真っ直ぐ向けている。
これなら次も大丈夫と言いたいところだが……次の相手の戦闘力が未知数なんだよな……
アオイがさがって最後の試合。ウルが前に出た。
今回は人型で現れたので人によっては初めて見るものも居るだろう。
「ところでリュウ。彼女は?」
「あいつはウル。俺の正妻」
「正妻?リルさんじゃないの?」
タイガが不思議そうに言う。
確かに何も知らない奴から見れば不思議に思うだろうな。
ウルは基本的に俺の中に引きこもってるし、滅多に姿を現さない。
それよりもよく一緒に居るリルの方が正妻に見えてもおかしくはない。
「ま~付き合いの長さで選んだところもあるからな。ガキの頃から一緒だぞ」
「それって僕達が本格的に教会で訓練を受ける様になってからって事?」
「まぁ~そのあたりだな。一緒に遊んでる内に仲良くなって……で、従魔の契約を結んだ」
「1番最初だから正妻か。それじゃティアがこの試験で認められたらティアが正妻?」
「それは絶対他のみんなが許さないって。でも最後の試練って何だろうな」
そこが1番気になる。
ウルはティアに何らかの修業を付けた事はない。
俺に魔力操作について教えてくれたり色々してくれたが……それだけで直接戦闘に混じった様な事はしていない。
なので本当に未知数なのだ。
だが予想する事だけはできる。
ウルは強い。おそらくこの中で1番強い。
観客が全員ウルとティアを見ているとウルはまず拍手をした。
だがティアは警戒を解かずに剣を構え続ける。
「まずはおめでとう。ここまで挫けずよく頑張ったね」
「……どうも」
「そう言えばティアちゃんってどうしてリュウが強くなりたいか聞いた事あるっけ?」
「いいえ」
「それじゃこの試験を突破できたら聞いてみるといいよ。それじゃ最後に為うのは勇気だから。気を引き締めてね」
「勇気?このタイミング――」
静かに、ウルの魔力が高まっていく。
それだけのなのに周りの空気が静かに震えだし、精霊達が逃げ出した。
これを観戦しているのはほとんどドラゴンだと言うのに、誇りも何もかにも捨て去って逃げ出す。
残っているの俺と嫁達、そしてタイガだけ。他の勇者パーティー達はみな既に気絶している。
「リ、リュウ!この魔力なんだよ!?こんな恐ろしい魔力感じた事がない!!」
ダイガが半狂乱気味に言うが俺は慣れている。ずっとこの魔力に助けられてきた訳だからな。
問題はウルの方だ。
勇気を試すという事はおそらくこの魔力の中で戦えるかどうかという事なんだろう。
ティアの表情を見ると、まだ余裕がありそうだ。
こんな状況だと言うのに、笑っている。
そしてウルは大きく息を吸い込んで、吐き出した。
それは俺も初めて見るウルのブレス。漆黒のブレスはティアに当たる寸前で軌道を変え、上空に飛んで行った。
そしてウルは言った。
「お疲れ様、これで試験は終了。無事合格だよ」




