会議、始まります
女の戦いとは物理的な意味だったけか?なんて考えながらも集会当日の夜となった。
集会を行う会場は常に魔王が用意した場所で行われるらしい。それ以外の場所で行うことあるが、その場合は大抵俺の様な新参者が現れる時には使われないそうだ。
と言っても……既に魔王が2名いるんだよな……残りの2名がどんな奴なのか一応アトラスとカリンの母親から聞いている。
それから魔王ではないがもう1人会議に参加している者がいるそうだ。そいつは魔王ではなく、調停者、と呼ばれる存在だそうで、魔王があまりにもバカにした行動をした場合にその調停者が殺しに来るそうだ。
それって……相当ヤバい奴なんじゃないか?魔王の抑止力って名乗っている時点で相当の実力者って事だろ。
敵対する気はないが、下手にちょっかいを出して滅ぼされる様な事はしたくない。
実際アトラスとカリンの母親はそいつにだけは手を出すなと言われている。それだけでも敵対するのは現実的ではないという事がよく分かる。
ま、目に見える敵対者は教会連中だけだからな。それ以外には今の所敵対する理由はない。
その後については……しばらく落ち着いて街造りに専念したいと思っているし。
そして俺の従者として付いて来るのは、前に宣言した通りリル、カリン、オウカ、アオイ、ダハーカの5名。ついでに言うとウルはお留守番で俺の中にはいないという事だ。滅多にしない事なのだが、その調停者様がどんな奴か分からないし、俺の体内に1人隠して従者を連れてきた、何て事になった場合どのような事が起こるのか分からない。なのでお留守番させる事にしたのだ。
当然ウルは猛反対。滅茶苦茶駄々をこねた。
それをなだめるのは、何故か俺だけではなくアオイも一緒になだめる事になったのはよく分からない。どうもウルはドラゴンにとって特別な存在のようだ。理由までは知らないけど。
とにかくなだめるために色々手を尽くして、現在のウルはふて寝してる。
俺の中にいるのが普通になっていたせいか、ちょっと歩きがおぼつかなかったのが気になる。やっぱ俺の中に居るだけでは健康に良くないんじゃないか?
たまには外に出すべきだったか。
それから俺の側にはアトラスの従者であるビークイーンも居る。そしてカリンの母親にはいつも通りカリンの叔母が従者として付いている。
どうやら力ある魔王に従者はそう多くなくてもいい様だ。俺の場合は新人だからって理由で少しでも強く見える様に限界まで従者は並べるべきだと言われた。
それで限界の5名を揃えたっという事だ。
ちなみにそれぞれの格好や姿だがリル、カリン、ダハーカは人型にはなっていない。すぐに戦えるように用心して、との事だ。
相手は本物の魔王なのだから戦いになる様な事は避けたいんだけどな……
そしてオウカとアオイはドレスを着ておめかしをしている。
え、その恰好でいいの?と思ったのだが、戦闘の時は直ぐに着替えられる仕様になってるそうだ。そしてドレスを着ているのはただのおめかしではなく、財力のアピールのためらしい。
ちなみに俺の服装もいつもの冒険者的な服装ではない。
エレン達が育てた蚕の糸で作られたスーツだ。見た目以上に魔術的な攻撃から身を守れる服でもある。ちなみにその付与はダハーカがやりました。
そして腕にはリング。このリングはカリンの母親から貰った物であり、リングの価値だけではなくカリンの母親と仲がいいと言うアピールでもある。
それから胸元には大粒のエメラルドを使ったブローチが止められている。これはアトラスから貰った物であり、カリンの母親同様に仲がいいアピールのためである。
こんだけ仲がいいアピールをしないと了承はもらえないものなんだろうか?
やはり魔王になるにはそれなりの実力と、魔王に認められているかも判断基準に含まれているのかも知れない。
「で、いつごろ来るんだ?」
「恐らく我々が最後になると思います。ここには既に2柱の魔王が居るのですから」
「そうだろうな。今頃巨人とあの下らない女の所にでも行っているのだろう」
カリンの母親とアトラスが言う。
毎回調停者の方から使者が現れ、会議場に転移されるらしい。なので今はその内来るであろう使者を待っている。
すると、目の前に黒い穴の様なものが丸く広がった。
「来たな」
「その様だ」
黒い穴から2人のメイドが現れる。アオイが来ているメイド服よりもかわいさを重視した感じがするが、これって趣味か?
メイドは俺達の前に現れると丁寧に頭を下げた。
「ガルダ様、アトラス様、リュウ様。そしてその従者様、ご準備が整いました。こちらにどうぞ」
……流石調停者の使者、とでも言うべきなのかな?
この雰囲気はマークさんと似た雰囲気を放っている。悪魔なのは確実だし、かなりの実力者というのも確実だろう。
そんな存在にメイドさせるとか、贅沢な使い方だなおい。
「そんじゃ留守番よろしく」
「お任せを」
みんなに向かって言ってから悪魔メイドの後を追う様に穴の中に入る。
穴を通り抜けるとそこはどこかの通路だった。細やかな装飾がされた巨大な通路、ドラゴンなどの大型の魔物が通れるように設計されているんだろうか?
高さ、幅ともに10メートルぐらいはあるか。
そんな道をカリンの母親、カリンの叔母、アトラスにビークイーンの次に俺が通る。その後はリル、カリン、オウカ、アオイ、ダハーカの順で歩く。
そしてダハーカが念話で俺に警告を出す。
『リュウよ、少し気を付けた方がいい』
『と言うと?』
『知った気配が奥からする。おそらく私の同類だ』
……それは気を引き締めないとな。
ダハーカと同等の存在、さらにほかの魔王たちと喧嘩したくない理由として挙げさせてもらう。興味が無いと言えば嘘になるが、教会と1つケリを付けたい身としては争いたくはない。
無難に過ぎ去る事を願おう。
長い通路を歩いていると、ようやく扉が見えた。通路と同様にバカでかい扉だ。装飾として何かが描かれている。
人やコウモリの翼を持った人、獣のような絵、家畜のような絵など、多種多様な生物が描かれた扉だ。これがどんな意味を持っているのかは分からない。
ただ1番上の絵はよく分からない。人型には見えるのだが、何の特徴もない。それ故にただの人の様にも見える。
そんな扉が開かれた時、とても強い気配が俺達を襲った。
強者の気配を抑える様子のない、先に座っている3人。特に真ん中に座っている男が最もヤバい気配がする。当然他の者達も油断ならない気配を発している。
左に座っている男は2メートルほどの大男で、見事な肉体を見せるかのように腕を組んでいる。
右側に座っている女はぱっと見まだ幼いような印象を受ける。だがその気配は凍っているような冷たさを感じた。
そしてそれと同等にヤバいドラゴンが2体、各両人の後ろに立っている。姿こそは人型を保っているが、その身体から自然と溢れるドラゴンの気配は全く抑えていない。
男の後ろに立つドラゴンは黒髪金目、その鋭い眼光で1度だけ俺を見て面白そうにそっと笑う。
女の後ろに立つドラゴンは俺、というよりはダハーカを見てため息を付く。ダハーカの奴が昔何かをしたんだろうか?
そして2体のドラゴンとも、俺に強い興味を持っている。男の方は強い興味を持って、女の方は俺を値踏みするような目線で。
そして最もヤバいと思われる真ん中の男、その後ろに立つのはここまで俺を連れて来たメイドの2人だ。恐らくこいつが調停者なのだろう。
赤髪金目の男は意外な事に見た目だけは普通だ。だが溢れ出る気配からは異常としか感じられない。
だがこの様子はどこかで感じた事がある……様な気がする。
そして男は言った。
「歓迎しよう。新たなる魔王となる候補のリュウ君。君の席は、私の前だ」
こうして俺の新人魔王となるかどうかの会議は始まった。




