縄張りについて
という事で早速俺は龍皇とグウィバーさん、そして精霊王を呼んだ。内容は当然俺が魔王となる事の話し合い、そして縄張りについてだ。
俺としては龍皇や精霊王の縄張りに手を出すつもりは全くない。
だと言うのに……
「それでは我らの縄張りと統合してしまうか?その方が得であろう」
「そうですね。オウカと結婚するにあたって『魔王』として格を見せつけるっと言う意味でもとても良いですからね」
「僕の方は同盟って形で主張してもいいよ。これは女王の方からも了承してもらってる」
「ちょっと待て。え、なんでそんなにノリがいいの?突然縄張りを統合したりすれば結構問題とか起きるんじゃないの?」
土地の問題とか、政治の問題についてはまだまだよく知らない事の方が多いが、そんなあっさりと決めてはいけない問題と言うのはよく分かる。
だと言うのに代表3人は構わないというのだから当然驚く。
「それじゃせめて理由を教えていだたけませんか?」
「我々龍族の間ではオウカとじき正式に結婚する事を通達する。その上で縄張りの問題がどうしても生じるのだ。同じ龍族であれば問題ないのだが……リュウは森の東側を縄張りとしている。よって縄張り問題はいずれ現れる問題だったのだよ」
「さらに詳しく言いますと、若い龍族の中にはこの街で生活してみたいと言う者もそれなりに居るのです。近く、同じ森の中であっても縄張りが違うのですから色々と問題が出やすいのですから統合してしまった方が楽だと考えたのです」
う~ん?それって本当に良い事なのか?
そりゃ土地が増えればさらに色んな事が出来るだろうが、俺管理できる自信ないぞ。いや管理の事は口に出してないから今まで通り龍皇に任せればいいのかも知れないけど。
とりあえず龍皇の話は聞いたから次、精霊王の話を聞く。
「で、なんで精霊王まで俺の方に付こうとしてんの?中立はどうした?」
「まぁ色々あるんだけどさ、精霊は前よりも生きにくくなったから、いっその事変えちゃおっかって話が出てたからね。思い切って中立の立場を破棄する事にしたんだ」
「だから理由は」
「だから今の人間って精霊の事を酷く扱うでしょ。敬意が足りないと言うか、道具のように扱う人間が増えたと言うか。だからこのまま中立を保つ必要はないんじゃないか?って声も上がってたんだよ。そしてこの前の事件。精霊やエルフを捕まえて奴隷として扱う存在がとても増えた事を確認した。それなら人間への攻撃を加えないという条約は撤廃し、僕達も戦うって姿勢を見せるべきだと思うんだよ。それでも積極的に戦う気にはなれないけど。それになんだかんだでリュウは精霊達の事を大切にしてくれてるからね」
………………え、誰今の?今の本当に精霊王?
あの軽くて人に頼りっぱなしの精霊王なの?
「……ちょっと失礼じゃない。僕だって精霊の王様。きちんと動くべき時は動くよ」
「それでも数1000年ぶりだと思うがな」
「煩いよドライグ!僕だってやる時はやるんだ!という事で僕も戦える後ろ盾は欲しい。その役をリュウに任せたい。ダメかな?」
精霊王は不安そうに聞いてくる。
俺は1度みんなに目配せをしてから聞いてみるが、俺に任せると言った感じだ。
なら答えは1つだ。
「構わねぇよ、俺だってお前に頼んでいる事があるんだ。戦闘でなら役にたてるだろうよ。アオイ、マークさん」
そう言うと2人は1歩前に出る。
「2人には龍皇と精霊王から話を聞いて縄張りの詳しい線引きを引いてもらいたい」
「「承知しました」」
こうして縄張りに関する話し合いはアオイとマークさんに任せた。
後日、アオイとマークさんから聞いた内容は本当に驚いた。条件付きとはいえすべての土地を俺に譲ると言う内容だったからだ。
龍皇の方はオウカと確実に結婚する事を条件に、精霊王からは精霊たちを庇護下に加える条件に成立する。
ただそれではいくら何でも土地がいきなり広くなり過ぎて手が付けられないので、龍皇と精霊王はこれまで通り配下たちをまとめる中間管理職の様なものになるそう。で、何故かトップは俺。
精霊側からは特に問題は起こらないが、ドラゴン側からは当然不満の声が響いた。
何でこれは一応仮となり、俺が正式に『魔王』のお仲間入りを果たしたら、と言う条件で無理矢理納得させたらいい。
そして嬉しい事に俺に対して肯定的なドラゴン達も居た。
俺と喧嘩した事のあるドラゴン達で、俺の強さなら問題ないと言う意見や単に俺と言う人間が面白いからとの理由などなど。そいつらは既に俺達の町に引っ越す準備を進めているとかいないとか。
まだ決まってもいない話なんだけどな……気が早過ぎる。
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「な~んて事があった」
「って勇者の前でそんな話しないでよ!え、リュウ魔王になる気なの!?」
「なるよ。それで群れを守れるのなら」
ちょっとした息抜き感覚でティアと久しぶりに組み手をしていた。ちなみの他の勇者パーティーは見学してる。
俺はロウと蒼流の2振りで相手をしている。もうかなり馴染んでは来ているが、やはり2振りとも自己主張が激しい。
俺を使え、私を使えって言われている気がするのは気のせいか?多分気のせいじゃない。
そしてティアの様子だが、ため息を付きながらも俺に斬りかかってくる。自然と意識が敵に行っている様なので修業の成果がよく出ていると思う。
今までは意識して相手をどう切るか、どう自身が動くかなど考えている様だったから反応が遅かったんだよな。今じゃそう言った考えている素振りは少なくなり、自然と身体が反応している。
だからこそ今の速度でも無駄口叩くぐらいには余裕があるんだろう。
「はぁ。せめて勇者とその仲間である私達の前で言ってどうするの?下手すれば戦う事になるのに」
「その時は素直に俺の所に逃げな。歓迎するぞ」
「アリスさんから聞いてるんだからね、リュウが異端にされちゃったって!」
そう言いながら強めに剣をぶつけてくる。
多分怒りの様なものが混じっているんだろう。と言っても別に異端になる様な事はした覚えがないんだけどな……
「外の事、意外と知ってるのか?」
「アリスさんとかコクガさん経由でね。そして異端の理由だけど、多分魔物と契約してるのがバレちゃったんじゃないの?教会って魔物って聞くと絶対に討伐しに行くから」
「ホント迷惑な連中だよな。別に襲うつもりはないってのに」
「……それだけ魔物を恐れてるって事なんだよ。そして魔物の被害に遭った人たちが大勢いるって事」
「流石にそればっかりはな……でも基本的に大森林の魔物は外に出ないし、俺の管轄外でもあるんだよな。だから別に騎士達が不要とは思わないさ」
人間の場合、力の有無は大きく関係しない事の方が多い。
ほとんどの人間は農業や商人、武器なんかを作れる技術さえあれば力はそう必要ないからだ。それに人間同士ならともかく、魔物と戦える人材となると更に戦える人間の数は減少する。
弱い魔物ならともかく、この大森林に住んでいる魔物となればさらに状況は変わってくるだろう。力だけでなく、長い時間生きてきた知識と言うか知恵と言うか、とにかく人間にも引けを取らない頭の良さが備わっているのだからただ力尽くと言う訳にもいかない。
だからこそこの大森林では力だけでなく、相手を狩る技術や知識も重要となってくるので知能の低い魔物はあまりこの大森林では脅威とは言い辛いのだ。
それをこの大森林に住んでいる訳でもない人間に同じ事をしろ、と言ってもそう上手くはいかないだろう。それこそあっと言う間に殺されるだけだ。
外で獣同然に生きているだけの魔物などただの雑魚である。
そんな魔物と戦えない人間から守ってきたのが教会の騎士達と言う所だ。
「つまりリュウが魔王になっても世界が平和になる訳じゃないのか。残念」
「それって勇者様のお仕事じゃねぇの?何故魔王に頼る」
「だって……情けないけどリュウの方が強いし、リルさん達もいるし……あ、リルさんってもう帰ってきたの?」
「帰ってきてるよ。今は疲れて俺の中で寝てる」
急いで帰って来たリルはそのまま俺の中に入ってお眠だ。
爺さん達はもうしばらく獣王国に滞在する。何でも獣王がもうちょっとだけ、もうちょっとだけ居てくれませんか!と頼まれたからだと言う。
寝る前のリルが言うには、爺さんと親父さんが獣王国の戦士相手に指導したり、戦いの相手をしているとか。おまけで爺さんや親父さんに求婚してくる相手も居たそうだが、そこは婆さんと奥さんが踏み潰して回ったと聞く。
「それじゃもう既に皆いるんだね。リュウの奥さんたち」
「久しぶりの全員集合だよ。と言っても今はガルダの魔王が居るから、カリンは魔王の相手してるけど」
あの親バカ本当にはなれないからな……俺よりもべったりしてるんじゃないか?例の魔王集会までこの街に居るつもりみたいだし。
そう思いながら俺とティアは離れ、互いに礼をして終えた。これでティアとの組手は終了だ。
マリアさんが俺とティアの分の布を持ってきてくれた。
本当にありがたいです。
そうやって汗を拭いていると、こそこそとティアとマリアさんが小声で話している。
なんだか「ここで言っちゃいましょう」「え、でも……」「ここで逃したらリュウ君もっと忙しくなるから今の内に言っちゃえ」と言っている。
また修業の内容についてだろうか?
そう思っていると、ティアがユウキと覚悟を持った表情で言う。
「リュ、リュウ。お願い聞いてもらってもいいかな」
「聞いてってわりには強い口調だが、どうした」
「勝負させて、リュウの奥さん達全員と」
どういう意味だろう?そう思っていると堂々と言い放った。
「私を強いって感じたら、私もリュウと結婚させて!!」
…………………………え。それって……俺に言っても意味なくね?
そう思っていたが何故か急に空気が重くなった。いつの間に来たのか、俺とティアの間に割り込むようにリル、カリン、オウカ、アオイ、そして本当に久しぶりの登場、ウルがその場に現れた。
そして冷たい空気を放ちながらウルが聞く。
「それは私達への決闘と受け取っていいのよね?」
「構いません。私だってリュウの事は諦めきれません。ならこうして戦うしかないでしょう」
戦うの意味違くない?女の戦いって物理的な意味だっけ?
ちなみに勇者パーティーの男性陣はすでに怯えた表情になっている。その表情したいのは俺だって。
少しウル達全員が品定めをするようにティアを見ていたが、ウルがリル達に確認するように見渡すと、リル達は頷き返した。
「では決闘はリュウが魔王になった後に行います。試合内容はその後に決めましょう」
「よろしくお願いします」
ごめん、もっかい聞いていい?
女の戦いってこういう意味だっけ?




