マナさん達の帰宅
とりあえず結果から言おう。マナさん達との交流がちゃんとしたのは2日目からでした。
1日目はフェンリル達にべったりと言うか何と言うか、憧れの存在に会った者とはみんなこんな感じなのだろうか?
ドルフ達の技術で発展した建物や建築物、ダハーカやナレルの作った結界を見学したりと、様々な所で交流を深めた。
個人的にもっとも利があったのは作物系ではないだろうか。
エレン達エルフを筆頭に、獣王国での野菜の栽培とこの国における栽培方法はやはり違った。詳しい話は分からないが、エレンが目を輝かせて話をしていたところを見ると有意義なものだったのだろう。
逆に不評……なのかどうかよく分からなかったのが魔物による定期的な生産場だ。
こちらは俺が半部趣味的な感じでやり始めたスカイシルクの繁殖、そして糸の回収だ。アトラスの援護もあり、暖かい小屋で飼育させ、ストレスのない環境で育てると質の良い絹が多く取れる事が判明した。
苦笑いしていたのはおそらく、女性達だったからだろう。いくら蚕でも幼虫は幼虫だもんな。女性にはキツイか。
そんな形で様々な情報、文化などを交換しながら早6日。明後日には帰るそうだ。
そして現在はマナさんとゆっくりと話している。
「それでどうでしたか、この街は」
「とても素晴らしい国だと感じました。我が国との友好も必ずいい方向にいくでしょう」
「それはよかった。お土産は何がいいです?」
「それでは絹をお願いします。母国に帰って反物にしましょう」
それからガイ達の姿だけを見ていたので知らなかったのだが、獣王国ではシャツなどではなく極東の浴衣の方が多く好まれていると聞いた。
理由は多くの獣人が居るから。
それぞれの獣人によって身長や体格が大きく変わる。そのため浴衣の様に前で合わせる服のようが好まれているらしい。
そして絹で作られた浴衣は高級品だそうだ。
「こちらも反物に関する知識をありがとうございます。服を作る者達が喜んでいましたよ」
「ふふ。それなら反物の職人を派遣いたしましょうか?指導者は必要でしょう」
「助かります。となると……こちらも友好として誰か送るべきでしょうか?」
「その際にはフェンリル様でお願いします」
本当にブレないな。でもそんな事したら獣王国も大変だろうな……
そんな風に思っていると、マナさんは真剣な表情で言う。
「最近教会の動きが激しくなっていると聞きます。どのような対策を」
「特にありませんよ。滅ぼすだけです」
簡潔に言うとマナさんは口を閉じる。対策らしい対策を言ってないし、そりゃ呆れるか。
そして聞く。
「滅ぼすと容易に言いますが、相手はあの教会ですよ?確かに私達の縄張りにまでやってくることは滅多にありませんが、それでも強者がそれなりに居るとの噂です」
「それは当然考慮しています。こちらから敵対するつもりはありませんが、来たら必ず殺します」
「……教会に属するはずのナレル枢機卿にお会いしました。彼はどうするのです?」
「彼は我々に協力的ですよ。教会の後釜は彼に任せ、人間と無駄な敵対は避ける様にさせるつもりです。そうすればこちらもそれなりに平穏で居られる」
「……その後の教会は」
「敵対しない限りどうこうするつもりはありません。ナレルには人間たちの魔物に対する意識改革をさせる事ぐらいでしょうか?」
ティア達にも協力してもらってな。
そう言うとマナさんは困った様な表情をする。
「しかしそれにはかなりの時間が掛かるのでは?」
「元からすぐに改変できるとは思ってはいません。ですが私達魔物は人間より圧倒的に寿命が長い。そのうちナレルの後釜になる者が現教会の様な思考をしているのなら、そっと消えていただきます」
マナさんは乾いた笑みで笑う。あまり賛同していないみたいだな。
少し和ませるためにもそっと笑いながら言う。
「この計画は流石に数100年単位の時間が必要でしょう。今すぐどうこう出来るものじゃありません」
「そうですよね……リュウ様なら簡単にできてしまいそうですが」
マナさんがぽつりと言うが、こればっかりは少し難しい。
もし教会が攻めてきたとしても、この大森林は俺の土地と言う訳ではない。勝手にこの森に住んでいる者の1人程度の話だ。
さらに言ってしまえば龍皇や精霊王と言う古くからこの森に住み、縄張りを主張している者達が居る。彼らの言葉なら一考しなければならないだろうが、俺の言葉じゃ教会の偉い連中にまで届く事はないだろう。
…………人間が無視できない権力的なものを得ないといけないんだろうか?
だが協会は俺を異端者として扱うと言うのなら人間世界で偉くなる方法はない。国と言う組織よりも強いのが教会と言う組織。おそらくギルドの方でも厳しいだろう。
となると魔物として偉くなる?どうやってだよ。
偉くなったとしても精々自分の群れの中での話だ。と言うか一応この街のトップなんだよな……これ以上偉くなる方法がない。
どうすっかな。
-
そしてさらに2日経ち、マナさん達を見送る準備をしていた。
マナさん達はフェンリル達を一通り抱き締めた後、出発の準備を終えた。
「お世話になりました」
「こちらこそ、良い交友になったと感じました。ぜひまたお越しください」
「ええ。その時は初代フェンリル様に合わせて下さいね」
「ぜひ。爺さんはほぼ隠居状態なので多分会えますよ。基本的に子供達の世話をしているので」
「それはいい事を聞きました。それではまた」
「また次回の交流で」
そしてマナさん達は去って行った。さってと、いつも通りの仕事に戻りますか。
流石に爺さん達は直ぐ帰って来る訳でもないし、待ってても仕方ない。それに帰る時はリルが念話を寄こすって言ってたし、大丈夫だろう。
「リュウ様、お話よろしいですか」
「コクガ。コウガにカガも、何かあったか?」
「リュウ様の異端が、正式に教会から発表されたようです」
「ほう、随分と動きが早いな。ナレルの話じゃ早くても半年は協議に時間が掛かるって言ってたはずだが」
「おそらく以前から協議には上がっていたのでしょう。それが今回、異端者として表に出てきたっという所ではないかと」
異端ね……一体俺がどんな教義にひっかったのやら。
そしてコウガとカガも言う。
「俺達が売ったこの森の素材も教会の連中が寄こせと言ってきた所があるらしい」
「その者達はみな教皇の息がかかった者だと察しがつきます。おそらくこの森に攻め込むための準備ではないかと」
「それならしばらくはドルフ達に売るか。いや、実験段階だったあれに回すか?結構形になってきたって言ってたしな……」
コクガはこれのつぶやきに思い当たる所がったのか、「ああ。あれですか」と言う。コウガとカガはよく分かってなさそうだ。
とにかく戦争準備だな。それからこの森に攻めてきた時に言い訳を考えておかないと。
龍皇を後ろ盾に縄張りを主張するか?それとも精霊王?この2択である場合、説得力があるのは精霊王か。
一応精霊王は中立を宣言しているらしい。
特別人に与する訳でもなく、あくまで世界のバランスを保つための存在として人間の偉い人達の中で主張したそうだ。と言っても人間からすれば大昔の事で、ろくに覚えていないだろうが。
そして龍皇の場合だと更に攻めてくる可能性が高い。ドラゴンが攻めてくると言う状況で、やっぱやめようと言う状況になれば嬉しいのだが、そうならずに余計張り切られては面倒だ。
よし。精霊王の後ろ盾を得て縄張りを主張しよう。
こういう時契約していると本当に助かるな~。
「リュウ様!急ぎお耳に入れて欲しいことが!」
珍しくアトラスが慌てた様子でやって来た。
彼は基本的に寡黙で冷静な男だ。そんなアトラスが声を荒げるという事は、相当の急ぎなんだろう。
「なんだ。お前が慌てるなんて珍しいな」
「それ程の事態でございます。このような事態が急変していく中に申し上げるのも心苦しいのですが――」
「簡潔に頼む」
そう言うとアトラスは跪いたまま言った。
「他の魔王より我に連絡が入り、リュウ様を『魔王』として認めたいとの連絡が入りました!!」
…………………………マジ?




