使者
かなり久しぶりの投稿なのに短くてすみません!!
獣王国の人達を出迎える準備をしながら六日後、リル達が獣王国に行く準備が整った。
ほんの五人だけだが重要な外交なので、群れを率いる者として盛大に送り届けることにした。
「これから皆さんには獣王国に向かってもらいます。あくまでも友好に事を進めたいのでいきなり喧嘩事は避けて下さい、でも決して舐められることはないように。こちらにもプライドと言うものはありますし、互いに手を取り合えるようでなければこの話は断ってもいいのですから」
そう言うと爺さん達はうんうんと頷いている。
そしてここから仕事のことも言う。
「手を取り合えると思ったら獣王国のことをよく見てきてください。こちらは生まればかりの国、他国のいい文化はできるだけ取り入れ、この国をよりよくするための切っ掛け作りにもなります。お願いします」
そう言って頭を下げると、お留守番のフェンリル達が遠吠えをした。
短いが言いたいことは言った、あとは送り出すだけだ。
そう思っていると、リルが俺に手招きをしている。
俺はリルに近づいて何だろうと思うと、いきなり抱きしめられた。
そのまま俺の胸に頭をこすり付ける。
つい愛おしくて、少し強めに抱きしめる。
リルは少しの間そうしてから顔をあげて言った。
「行ってきます」
「行ってらっしゃい」
そしてリル達一家はガイとタマさんの案内で大森林から旅立った。
ちょっと爺さん達にからかわれてたけど。
-
リル達が旅立って次の日、獣王国の使者が現れた。
ガイに教えてもらった獣王国の旗印を付けた馬車が列をなして町の入り口に入ってきたのだ。
馬車、と言っても引いているのはデカい犬だ。
あえて言うなら犬車?
先頭から入ってきた馬車から猿の獣人が現れ、真ん中の馬車の扉を開けた。
その馬車から降りたのは人狼の女性三人だ。
片方の人は長身でショートカットの女性、もう片方は小柄で髪の長い子だ。
ぱっと見は凸凹コンビだな。
おそらく二人は一歩下がっているので、中心の女性が一番偉いんだろう。
その女性が口を開いた。
「はじめまして、リュウ様。私は獣王国の使者、名をマナと申します」
「ご丁寧にどうも。私はリュウ、この町の長をしております」
さわりは大丈夫だろう。
アオイから何の反応もないし、無難なはずだ。
だがそれはこの人だけみたいだな。
他の二人から嫌な感じがする。
と言ってもまぁこんなところで堂々と――
「マナ様、本当に人間がこの町の長なのですか?その人間ではなく、周囲のドラゴンやカルラが長では?」
……まさか言ってくるとは思わなかったな。
まぁ魔物から見たら当然の反応か。
魔物から見たら人間なんて雑魚の代表格だし、正直疑っているのだろう。
それに伝説級の存在も多いからな……
この言葉に分かりやすく殺気立っている物が大在居る。
こりゃまとめるのも大変だぞ。
「マナ様、私が確かめてもよろしいでしょうか」
「なにを言っているのです。ガイの報告でもあったでしょうが、この方が長であると」
たしなめる様に言ってるが……ふむ。
それにガイか。
「それでも確かめる必要はあるでしょう。参ります」
そう言って双剣を持って俺の前に立つ人狼の女性。
名前はもっていない様だが、この場合はどうしたもんかな?
素直に俺が出るべきか、はたまた誰かに頼むべきか。
そう悩んでいると、俺の前にアトラスが現れた。
「ここは我にお任せください。新参者としてこのような些末な事はお任せいただきたい」
いや、過剰戦力だろ。
確かに俺達の中では新参者だよ。でも魔王じゃん。
その子見て見ろよ、すでに震えてるぞ。
尻尾はぴったりと股にくっ付いているし、何度もちらちらとマナさんの方を見ている。
マナさんはそんな様子を見て一言だけ言った。
「殺さないようお願いします」
「受けたまった」
この一言に女性は狼耳までぴったりと頭につけてしまった。
そりゃ怖いよな、俺だって死ぬと思ったもん。
そう思っていると、マナさんともう一人の女性が俺の前に来る。
「このような事をしてしまい申し訳ございません。リュウ様の武勇は存じていますが、あの子の様に信じていない者も居まして……」
「そりゃ魔王でもない元人間ですからね、そう簡単には信じられないでしょう。ではこちらにどうぞ」
決闘中の女性をおいて、俺は来客用の宿へと通した。
この宿はドルフ監修のもと建てられたお偉いさん用の宿泊施設である。
森で狩った魔物の素材やら樹木なんかを使い、それなりに豪華な宿にしたのだ。
と言っても財宝系はあまりないので、結構シンプルな感じになってしまった気がする。
ドワルとかの客室はもっと豪華だもんな……龍皇とかから宝石の類買っておいた方が良かったか?
「このような素朴な部屋で申し訳ありません。鉱物の方はあまり取れなくって」
「この絨毯……なかなかいい素材を使っているんですね」
「ええ、最近アトラスの方から来た蚕の魔物が居まして、その子に作ってもらったんです。いい触り心地でしょ?」
「え、ええ。とても素晴らしいです」
それはよかった。
ちょっと表情が硬いのは何でだろう?
「この生地、スカイシルクで出来てるわよね」
「しかもこれ、かなり細かい細工までされています。それにスカイシルクはストレスにとても弱い魔物です。ちょっとしたストレス一つで糸の品質が大きく変わると」
どうやらスカイシルクの品質に気になったらしい。そこは『調教師』の腕の所だ。
現在の俺の国では素材を生み出す魔物を中心に成長させている。今回のスカイシルクの様に、ちゃんと飯を食わせて世話をすれば安定して素材を生み出す魔物に力を注いでいる。
意外と魔物の中には脱皮や角の生え代わりなどで自然と素材を落とす魔物が居る。
さっき言ったスカイシルクの他に、鹿や脱皮する爬虫類系の魔物を中心に育ててみた結果、マークさんも認める高品質の素材がよく取れる様になった。
今ではその素材を売る事で結構いい値段で取引している。
ちなみに現在取引しているのはフォールクラウンだけ。あとはコクガ達が狩った獲物がどっか適当なギルドに売られている事ぐらいか。
「まだまだ造りかけの町ですが、ごゆっくりと見て回って下さい」
「リュウ様自らご案内していただけないでしょうか。一つ大きな願いがあるのです」
「なんでしょう」
何やら真剣な表情で聞くマナさん。
商売系の話ならマークさんを呼ばないとな……
「ぜひ、ぜひフェンリル様にお会いしたいのです‼」
…………こ、ここでもか~
憧れってのは聞いてたがここでも出るもんなんだな。
でも一応言っておこう。
「現在ここに居るのは直接血がつながったものではなく、進化によってフェンリルになった者達ですよ。現在は獣王国の方に行っているので……」
「構いません!この国には多くのフェンリル様が住んでおられると聞いています‼ぜひ、ぜひ一目だけでも!」
マナさんが頭を下げると隣に居た人も頭を下げる。
と言うかこんな事で頭下げていいの?この団体の大頭でしょうが。
ちょっと俺の中でなごみながら穏やかに言う。
「おそらく獣王国のみなさんもお会いしたいでしょうから皆さんで行きましょう」
「全員で行ってよろしいのですか!?」
「はい。人懐っこい子供達も居ますので、その子達だったら触れられるかも」
「急ぎ皆に伝えなさい」
「御意!」
そう言ってお付きの人は飛び出して行った。
フェンリルの人気パワーマジでスゲー。




