会議終わり
翌日。
俺とガイは再び会議室で会って相談していた。
「こっちは問題なさそうなんだが……そっちはどうだ?」
「かなり混乱しているな。来るとしてもリル様とお付きの方と思っていた様だからな、フェンリル様のご家族が揃って参られるとは思ってなかったらしい」
「ですが同時に大変国王様もお喜びになっております。憧れのフェンリル様をお目にかかる事が出来ると」
「その代わり人数は五人だけだけどな、普通はもっと大勢で舐められない様にするもんだろ?いっその事フェンリル大集合にする?」
「それは待ってくれ‼そうなると大混乱だけでは済まないぞ!」
ちょっと言ってみただけなのに、とんでもない反応だ。
そんなに憧れの存在を迎えるのに大変なのか。
「あ~今のは冗談だからそんなマジで反応しないでくれ。そっちに行くのは爺さん達一家だけだ。あとはお留守番。流石にフェンリル全員が居なくなるのは縄張り争い的にも、居てもらわないと困る」
「フェンリル様の居る土地をそう簡単に奪おうとする者がいるのか?」
「普通に居る。直接的な戦闘能力と言うよりは、知恵とか色々使ってくるだろうしな。知能の高い魔物も結構いるし、後は成体になったばっかりの若いドラゴンとかがな、たまーにちょっかい出して来るんだよ」
「確かに、東側では最強であっても、他の所から来るものは存在する、か」
「特に若いドラゴンとかがね……龍皇の苦労がちょっとだけ分かった」
どれだけ知能が高くても、結局は魔物だ。
力が全てなのだから口よりも手が先に出る。
しかもアトラスの軍勢を退けた若いドラゴン達が活気づいている。
少しでも強くなるため、上の存在と戦い、成り上がろうとしているのだ。
中には堂々と決闘を俺の元に申し込んでくる奴もいる。
その辺は個人差が多く、周りの物を壊したり、小さな子を脅して決闘を促す者もいる。
で、礼儀の正しい子だろうが、悪い子だろうが、関係なく全員ぶっ倒すのが俺のお仕事。
まぁ礼儀の悪い子はカリンやオウカが代わりにぶっ飛ばす事も結構ある。
アオイも二人にはもっと経験を積んで欲しいと言う言葉もあり、礼儀のない奴らは任せている。
逆に礼儀のある子は俺がちょうどいい感じで手加減をして倒す。
その後はその子にアドバイスを送って終わりだ。
爺さんやアオイ曰く、強者が弱者にそういうアドバイスをするのも必要な事だとか。
「そっちのそういうのないのか?決闘騒ぎ的な話は?」
「俺にはないが獅子やトラ、象には一時期多く来ていたぞ。この大森林でどれ程強くなったのか、確認という部分もあったようだが、やはり隊長としての格が欲しいというものはやはり多い」
「勝ったら出世できるのか?」
「少しはな。隊長に必要なのは武力だけではなく、率いる力も求められる。それに試験もあるからな、そう簡単に獅子達に勝ったからとは言え、すぐに隊長にする訳にはいかない」
「その辺はやっぱり国だな。それで試験ってどんな感じなんだ?俺も参考ぐらいにはしたい」
筆記はあるのか、実技の内容はどんなものか、そのうち必要になるかも知れないのだから聞いておきたい。
ガイは少し考えてから口に出す。
「そうだな……筆記はほぼなく、実技の方が多いか」
「ほぼって事はあるんだろ、内容的にどんな感じだ?」
「主に隊長になったらどんな事をしたいか、そして志望理由だな。実技では本人の戦闘能力に指揮能力を試す。戦闘、指揮ともに対戦式になっている」
「対戦?直接戦闘はともかく、指揮でどうやって戦うんだ?」
「疑似的な兵としてゴーレムを使用している。といってもワラで出来た兵なので耐久性も速度も低い。だからこそ指揮によって大きく力の差が出る」
ゴーレムと聞くと石をイメージするが、なるほど、ワラでも出来るんだ。
ゴーレムはそこら辺の素材を利用して作られた魔術式人形だ。
素材によって戦闘能力や移動速度は大きく変わり、作った術者によっても大きく動きが変わる。
例えば普通の魔術師の場合、いい素材を使ってもゴーレムが聞く命令は単純なものしか理解できない。
複雑な動きは術者の力量によるから、いい素材を使えばいいとは言えない。
「でも何でワラのゴーレムなんだ?」
「生産性とどれだけ壊れも大した被害が出ないからだ。それに使う兵が弱い方がいい指揮官を生み出す事が出来る」
「つまり雑魚をどれだけ生かせるかが重要って事か。結構性格とか出るんじゃないか?その試験」
「かなり出る。一点突破を目指す者も居れば慎重に戦う者も出る。数は同等数にしているからはっきりと兵の使い方が上手い下手が分かる」
俺だったら落ちそうだな、その試験。
それに作戦のほとんどはアオイとかマークさんに任せっきりだし、爺さんとか長老達に教えてもらおうかな?
群れをきちんと導くのも必要な能力だ。
あと頼れそうなのは……アトラスかな?
「……俺もがんばろ。それでこっちは決まったが、そっちからこっちに来るのは決まってるのか?」
「もうすぐ決まる。父上は敢えてこの国を知る者には行かせないと仰っていた」
「そりゃ何も知らない人が来た方がいいか。その方が偏見なくこの街の良い悪いは分かるだろうし、当然か。それでどんな人が来そうなんだ?」
「恐らくお父様の近衛騎士団が中心となって来るだろう。全員が人狼の集団だ」
「人狼か……普段って人型?それとも獣人型?」
「人型だ。だが飯の量は人狼として何も変わらん」
「まぁ肉は狩れば用意できるからいいけど。それからガイとタマさんってどうするんだ?近衛騎士の人が来るまで待つ?それともフェンリル一家と一緒に行く?」
「フェンリル様のご案内として俺とタマが任された。今から馬車を送るのでは遅いし、馬車はでは快適にとは言えないからな」
「あ~酷いらしいな。道が揺れたり何とか」
庶民の俺は乗った事がないが、ドルフ曰くそんな便利な物じゃないらしい。
速度を出し過ぎれば尻が痛くなり、はねたら頭をぶつけるとか。
速さを求めるのなら馬に乗っていく方がよっぽど早いらしい。
「それにフェンリル様を乗せるだけの馬車も用意出来ていない。一応王族の馬車はどうだと話には出たみたいだが、結局却下された」
「そりゃあくまでも王族が乗るためだもんな、反対されるだろうよ」
「そうではなくもっといい馬車であるべきだと。俺もそう思った」
「……爺さん達の事持ち上げ過ぎじゃないか?そりゃ俺だって尊敬してるし、凄い人だって思うよ。でも持ち上げ過ぎじゃ……」
「それだけ憧れがあるという事だ。元々我々の一族はフェンリルに憧れながらも、フェンリルになれなかった一族。どうしても天上の存在のように感じてしまうのだ」
どんだけ憧れてるんだよ、過激な人とか居ないよな?
こう、好き過ぎて暴走しちゃう人とか。
「まぁ何となく分かったよ。それでどれぐらいで準備は終わる?」
「今日を含めてあと六日だ。国総出での歓迎となる。といっても期間が短いからな……不備がないとは言い切れないな」
「それってこっちの移動込みか?けっこ速いぞ、爺さん達の足」
「この国から俺が走って二日ぐらいだが?」
「あ~なら半日かかるかどうかって所かも。間に合いそう?」
「……六日後にご案内でいいだろうか。じゃないとこちらの準備が間に合わん」
「それじゃそう爺さん達に伝えとくよ」




