フェンリル家族会議
「と言う訳で爺さん達は獣王国に行ってもいいですか?」
「構わんぞ」
「構わないんですか!?」
その日の内にフェンリル一家を招集した。
今は俺の家の会議室にいるので皆人型になっている。
リルの言葉通り、獣王国に行くのかどうか確認するためだ。
でもまさかそんなあっさりと……
「旅とはまた久しぶりですね、あなた」
「そうじゃの。この大森林に住むと決める前は旅をしていたからの~。久しぶりの旅はよきものになりそうじゃ」
「しかしリュウよ。娘の言葉を疑う訳ではないが、そのガイと言う男は信用してよいのか?」
「ガイの言うフェンリルへの憧れって所は真実だと思いますよ。リルが獣王国の縄張りに入った際には、多くの方々から求婚されていましたし」
「ほう。それでその者達はどうなった」
「リルが全員やっつけちゃいました」
「まだ求婚される可能性は」
「獣王国じゃ人妻に手を出すの禁止らしいですよ。なのでもうないかと」
「ならいい」
ガイがリルを巡って俺とやり合った事は黙っとこう。
親父さんにバレたらどうなる事やら。
「それでリュウに確認するけど向こうは戦う意思はないのね?」
「そう話していますよ奥さん。王族、ライカンスロープの一族が王族らしいですし、それに爺さん達が戦ったら絶対国が滅びますよ?」
「それ程までに弱いの?リュウのような方はいないの?」
「1番強いのがガイらしいですからね……まぁ戦闘の経験などを含めればどうなるか分かりませんが」
「あら、てっきりリュウのような方がいるのではないかと期待したのに」
「お母様、リュウのような者がそうそこら辺に居られても困ります。そうしたら我々が最強を名乗れなくなるのは時間の問題ですよ?」
リルよ、最強うんぬんはカリンの母ちゃんも言ってくるだろうからちょっと待って。
そりゃ獣系の魔物の中では最強かもしれないけどさ。
「俺からですが今回はあくまでも使者として行って欲しいんです。友好関係を築くために、互いに無駄に傷つけあう事がない様に、そのためのものです。その事を忘れないで下さいね」
「……リュウも王の器になって来たの~。喜ばしい事じゃ」
「そうですねあなた。このままいけば我らの種族は安泰、のんびりとした時間の中で朽ちる事が出来るでしょう」
「そうじゃな。その時は共に朽ちてくれるか?見送るのも見送られるのも儂は堪える」
「ええ、その時は共に」
「縁起でもない事は言わないで下さい‼それに爺さんは俺の血を定期的に飲んでる内はそう簡単に死にやしませんよ‼」
爺さんは定期的に俺の血を飲んでいる。
流石に出会ったばかりの時の様に、大量の魔力を必要としている訳ではないが、それでも後遺症の様に魔力の消費が激しい。
人間で例えるのなら、どれだけ鍛え続けても体力の衰えだけは止める事が出来ないと言った感じだ。
と言ってもその消費した分だけ俺の血を飲ませているのだから、そう簡単に寿命を迎える事はない。
「お義父様、そのような事は言わないでいただきたい。我らフェンリルとなった者達からみてもお義父様は特別な存在なのですから」
「そうですよお父様、娘の私はお父様の血を引いている事、それが何よりの誇りです」
「そう言ってもらえるのは嬉しいがのう、そろそろ引き際じゃと感じるんじゃがの……」
「爺さん、それなら俺が立派になってから朽ちてくれ。爺さんが安心して寿命を迎えるぐらいには立派になりてぇよ」
「……リュウ」
「あらあなた、涙が」
「嬉し泣きなら問題あるまい!だが確かに目元もゆるくなってしまったのう」
爺さんが静かに涙を流している。
それを見ているとリルが俺を軽く引っ張った。
「ん?どうかしたか?」
「リュウの目標って高すぎない?お爺様とかダハーカとか目標が高すぎる気がする」
「そんな事言われてもな……爺さんの孫であるリルを娶ってんだ。なら爺さんぐらい強くならないとダメじゃね?」
「もう。リュウったら過保護」
そう言いながら嬉しそうに頭を俺の胸に擦り付けるのはどう言う事かな?
この甘えん坊め。
「してリュウ。友好と言うからにはこちらも手土産を持ってく必要はあるんじゃろ?」
「え、ああその辺はガイと相談しながらにしようと思います。ガイの国も爺さん達を招くために準備したいと言っていますので、その間にと」
リルを撫でてると爺さんが聞いてきたので慌てて手を放した。
それから親父さん、いい加減唸るの止めてくれって。
「それで獣王国とはなにが名産なんじゃ?」
「ガイとタマさんの話によると果物や放牧が中心の様です。平坦な草原らしいです」
「そうか。では土産は何が良いかのう?」
「それは俺の方から聞いておきますので、それにガイの方とも話さないといけないので」
土産が何がいいとかは直接聞けばいいのだ。
だからまずはこちらの調整を始めにしておかないといけない。
「ところで主な交渉みたなものはリルに任せていいか?」
「交渉って何するの?」
「別に本格的な交渉をしてほしい訳じゃない。ただこちら側が不利になったり、舐められるような事にはならないようしてほしいってだけだ」
「その時は殴っていい?」
「止めろ。はっきりと否定すればいいだけだ」
「しかしその獣王国は儂らに友好的ではなかったのかの?」
「あくまでも俺個人の感想ですが、崇めているのはフェンリルのみと考えています。他の皆に関してはどう考えているのか分かりません。フェンリル以外は雑魚、なんて考えでない事を願ってはいますが」
その辺の線引きが分からない。
ガイやタマさんは俺や他の皆の実力をよく分かっている。
でも知っているのは本当にほんのごく1部だけだ。
プライドだってあるだろうし、もし知っていてもそれは龍皇や精霊王のような有名どころだけ。
っと言うのが俺の予想。
実際縄張りには行った事があると言っても、それは末端の末端だ。
国の端っこの所でフェンリルと出会ったと言うだけで、俺やカリン達の事を知っているとは思いづらい。
こっちは生まれたてほやほやの町なのは分かっているが、だからと言って侮辱をそのまま受け入れるつもりは毛頭ない。
流石に俺達とアトラスとの戦争の事は知っているだろうから、即戦争と言う事にはならないだろうが、どんな場合でも強者が偉いと言う考えは変わらない。
それが魔物の世界であり、とてもシンプルで分かりやすい世界だ。
「それから皆さんには獣王国がどんな国なのか、見て感想を教えて欲しいんです」
「獣王国の感想。それは些細な事でもいいのか」
「はい、親父さん。出来るだけこの国との違いを教えて欲しいんです。地形だけではなく生活の仕方、食文化、巣の作り方など、色々です。一応文化交流ですから、質問とかはしやすいかと」
「なる程、この大森林との違いを知りたい。という事でいいのだなリュウ」
「はい。それであっています」
「うむ。新たな土地の獲物となるもの、天敵となるもの、走りやすい、走りにくい場所など調べるのは重要な事じゃな」
「本格的に調べる事はしなくていいですから。あまりしつこく聞いたりすると侵略目的とか考えられても厄介ですから」
「では程々に見ておくとするか」
これで一応の話し合いはいいか。
息を深く吐き出しながらイスに寄り掛かる。
これで最低でも暴走はないはずだ。
「それじゃ俺からの話は以上です。聞いてくれてありがとうございました」
「なに、儂らにも重要な話ではあったからの。では旅行の準備をするとしよう」
「では私はリュウから貰ったスカーフを巻いて行こうかしら」
「なら私もリュウからのスカーフを巻いて行きましょう。お揃いですね、お母様」
「……妻よ、リュウになびいてはおらぬよな?娘だけではなくお前まで離れてしまったらと思うと」
……結局旅行気分が消えてないと思う。
そう思いながら見送ると、リルが俺の膝の上に座って甘えてくる。
「それじゃリュウ。私には思いっ切り甘えさせて」
「え、なんで?」
「だって数日は離れないといけないんでしょ?ならその分リュウに甘えておきたいの。数日分」
「まぁそのぐらいなら別に」
「それじゃ今夜、ベットでね」
「え、ちょっと待って。甘えるってそう言う意味?本当に待って、最近皆何故か張り切ってるから本当に調整させて」




