獣王国との交流
「本日は魔昆虫の王、アトラス様に勝利、おめでとうございます」
「……確かに将来有望と言われてはいたが、まさか1年もしない間に他の魔王に勝つとはな」
「俺自身よく勝てたと思うよ。最後は結局みんなにおんぶに抱っこって言うずるっぽい勝ち方だったけどな」
勝利祝いとして持ってきてくれたタマさん、それにガイだ。
ガイからの贈り物はマークさんが受け取る。
こういう時は直接物を受け取るようなことは滅多にないらしい。
「そう言うが勝ちは勝ちだろう?アトラス様は魔王の中でも防御力に長けたお方、その防御力を破るとはどこまで強くなれば気が済むんだ?」
「さぁ?俺はとにかくこの群れを守る事が出来ればそれでいいんだ。そのために世界最強になる必要があるってんならなるっきゃないか?特別力への固執はねぇよ」
「ガイ様ももう少しリュウ様の様に群れをお大事にしてくれれば……」
「止めろタマ!今では少しずつだが俺だけの群れを築き上げているではないか」
「それに気が付くまでが遅いのです。今回リュウ様の勝利は、リル様をはじめとしたリュウ様のお仲間がいてこその勝利だと予想できます。強者が1人だけでは覆せない物もあると、もっと早く気付いていただければ私もここまで小言を言わなくて済むのです!」
「だから今は獅子や虎、象達を中心に俺の群れを築いている最中だろが‼」
「あ~姉弟喧嘩はそこまでにしてくれ、それでその獅子達はどうしてる?元気か?」
激しい喧嘩になる前に止める。
そう言うと二人は気恥しそうに顔を赤くして俺に向きなおす。
「三人とも元気だ。こちらで学んだ事を中心に新しい訓練を指導している」
「指導って事はやっぱりあいつら偉かったんだな。下手に出てくるから分かり辛かったけど」
「当然だ。元々俺の護衛として選ばれるほどの実力者だ。今では団長職に就いてもらっている」
「ところでガイの親、国王の反応はどうなんだ。嫌な顔してない?」
「むしろお喜びになっております。強いつながりを持てるやもしれぬと国王様も王妃様もお喜びです」
喜んでいるのなら何より。
これで俺の国を侵略する気か!?なんて思われたら面倒だからな。
特にそんな気がないのにそう思われると。
そう思っているとタマさんの方から一枚の羊皮紙をテーブルに置かれる。
なんか書いてるな。
「王妃様からご許可を取り、交流を深めてみないかと進言した際にこれをいただきました」
「……獣王国からの書類か。えっと?………………ふ~ん、文化交流ねぇ。文化って言うけどそんなに歴史ないぞ。つい最近できたばっかりの町なんだからさ」
「これを機に父上は本格的にこの国と交流を深めようとお考えだ。俺からも進言してはいたが随分と行動が早い。恐らくリュウ達の事を脅威とも思っているんだろう」
「それにこの国にフェンリル様がおられる事も理由でしょう。我が国にはフェンリル様を崇める一族がおりますので」
「爺さんを崇める一族?まぁ確かにかなり強いのは認めるが、憧れとかじゃなくて?」
「当然憧れもあるでしょう。ですが獣人、犬や狼の獣人はみなフェンリル様を崇める事でその力の恩恵を受けようとするのです」
「ちなみに父上も当然その中の一人だ。元々ライカンスロープはフェンリル様に憧れを抱くのは当然と言える。ライカンスロープではない犬や狼の獣人一族も憧れだからな」
随分爺さん達は憧れてるんだな。
そういやカリンの一族も地元じゃ神様として崇められてるって話だし、案外強過ぎる存在は神様扱いされるのは当然なのかな?
俺は嫁の家族で師匠って感じでしかないけど。
「となると……俺とリルが草原に行ったとき、結構な騒ぎになったんじゃなねぇの?」
「大騒ぎになった。色んな意味で」
「色んな意味?」
「ガイ様や他の者がリル様に求婚した際に羨ましいと言う嫉妬と、リュウ様を怒らせた際にフェンリル様の一族が攻めて来るのではないかと恐怖したのです。その際ガイ様は国王様に酷くお叱りを受けました」
あ~怒られたんだ。
元々人妻に求婚するのはダメってのは暗黙の了解らしいし、しかもフェンリルの嫁貰った俺のリルだったからってのもあるのか?
そしてガイはタマに顔を赤くしながら怒鳴る。
「し、仕方がないだろう‼あの憧れのフェンリル様の血を引く方だぞ!それにあの美しさだ、求婚しても仕方がない‼」
「その人妻に手を出さない、という暗黙のルールを作ったのはガイ様の先祖である初代国王でしょう。それを王族が破っては民に申し訳がありません」
「……そういやずっと思ってたんだけどさ、普通の野生動物って基本的に年上好きじゃん。しかも出産経験のあるような相手に。それなのに人妻に手を出すなってやっぱそこは獣人だからか?」
野生の雄が出産経験のある年上の雌に気を持つのは、一般的には自身の遺伝子を持った子が確実に育つ可能性が高いからと言われている。
獣人はそんな野生動物の血を引いているのなら人妻に手を出すなんて普通じゃね?っと後になってから思った。
まぁリルはまだ俺の子産んでないけど。
そう言うと再びタマさんが説明してくれる。
「それは歴代の王族がライカンスロープだからです」
「えっと?」
「狼の群れの性質はご存知だと思いますが?」
「狼の群れって、あ」
狼の群れで番となった者同士は生涯その相手と一生を過ごす。
つまり一途って奴だ。
だからこそ浮気なんてしないし、仲睦まじく過ごしている。
その性質がガイの先祖達にもあったとしたら。
もしパートナーがいる相手を奪ってしまったら。
大問題だな。
「つまりあれか。自分達が浮気しない性質だから、他の連中も浮気しないのが普通だって思ってたって事か?」
「そのような感じです。獣王国は多民族国家、国王様達をはじめとした狼系の獣人、その恩恵にあやかろうとした犬の獣人達、その噂を聞いてやってきた猫系の獣人、象の様な草食系の獣人、そしてラミアのような蛇の獣人などが集まって出来た国です。ですが王はライカンスロープ。なので王の常識を身に付けざる負えなかったのです」
なるほど。
トップがそうだったから皆もそうしたと。
だから暗黙の了解か。
「と言っても離縁は多少あります。死に別れたりするのが多いですが、その際は独り身として見られるのでその場合は問題ありません」
「ガイ、俺を暗殺しようとするなよ。リル目的で」
「しないわ‼そのような理由で命を捨てるつもりはない‼そこまで命知らずではない!それに勝つ方法も殺す方法も思い付かん」
「それならいいや」
ちっこい謎が解けスッキリした。
本当に小さい謎だったんだけど。
と言っても交流を深めるか……
正直戦後処理で忙しいんだよな……
俺やらなきゃいけない仕事も結構あるし、俺自身が行くわけにはいかないな。
かと言ってアオイやマークさんは行かせたくないからな……
「私が行ってこようか?」
そう言って入って来たのはリルだ。
俺はちょっとだけため息を付いてから言う。
「リル。ガイは今回客として来てんだ、ノックぐらいはしろ」
「いいじゃない、知らない仲じゃないし。それにリュウだって交流は深めたいって思ってるんでしょ?」
「まぁな。で獣王国に行かせる相手が居ないんじゃ……」
「だから私が行こうかって言ったの」
その言葉にガイとタマさんが驚いた表情をする。
正直俺も驚いた。
「いいのか?それに爺さん達と今一緒に居るんだろ?許可はあるのか?」
「それでガイとタマに相談なんだけど、私達の一族をどれだけ受け入れる?」
「一族と言うと」
「お爺様やお父様と一緒に行くって事。どれぐらいなら受け入れられるかな?」
「ちょっと待て、爺さん達も連れて行くのか!?」
流石に全員で行く事はないだろうが……それでも大森林の支配者の一角だぞ、森を離れて大丈夫なのか?
「うん。お爺様孝行にちょっと旅行に連れて行ってあげたいなって思ってて、それに私達フェンリルと敵対関係になるつもりはないんでしょ?」
「そのようなつもりは毛頭ない‼だが申し訳ないが人数は絞らせてほしい。国もフェンリル様が来られるとなるとそれなりの準備をしないといけない」
「それってどれぐらい掛かる?」
「連絡用魔道具がございますので確認後にご連絡させていただきます。そして失礼ですがご予定の人数はどれぐらいでしょう?」
「私とお爺様にお婆様、お父様とお母様で5人かな?流石に全員で行くわけにはいかないから」
「ありがとうございます。ではそのようにお伝えします」
「と言うかリル、これ旅行じゃないからな?お仕事だからな」
「大森林と敵対関係ならない様にすればいいんでしょ?お土産は何がいいかな?」
「あ~美味い肉でいいじゃない?」
「それじゃ準備しておこうっと。決まったら教えてね~」
「あ、おい!あとで細かい決め事相談するからな!爺さん達も呼んどけよ‼」
「分かった!」
部屋を出る直前に何とか言えたが、あのフットワークの軽さはフェンリルだからか?
それとも強者の余裕?
とにかくボーっとしてるガイを起こさないと。
「あ~ガイ?大丈夫か?」
「……分からん。フェンリル様とその血を引く方々が来るとなる特に総出で出迎える事になるだろう。あまり時間をかけたくないが……」
「最低でも一週間はかかるのではないでしょうか?フェンリル様をお迎えする準備なども必要でしょうし」
……大丈夫そうじゃないな。
とにかく今はあれだな。
「今日はこの辺で一度話は止めよっか。お互い仕事が増えちゃったし」
「そうだな。今日中に父上に報告する。詳細は明日また話し合おう」
「それが無難かと。はぁ、憂鬱です」
タマさんが滅多に崩さない表情を崩してる。
出迎える側はいつでも大変だよな。
うん。




