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戦争終了

 俺は一瞬の交差の中で膝を付いた。

 魔力の消費が激し過ぎるし、全スキルの使用は想像以上に体力を消耗した。

 膝を付いた状態でも呼吸が苦しい。心臓が早鐘を打ち、汗が止まらない。

 魔力の方はウルから補給されるが今は止めてもらっている。この状態で魔力を一気に補給されると身体の方が耐えられない。

 こうなると次の目標はこの反動にも耐えられる身体作りと言ったところか。


 背を向ける魔王の方からも、どさりという音が聞こえた。

 振り向くと魔王が倒れている。

 正面から崩れ落ちたのか、地面に顔を付けていた。


 敗れたのはどうやら魔王の様だ。

 と言っても俺の場合皆の支えがなかったら確実に負けていただろうが。


「リュウ様、大丈夫ですか」

「マークさん。ありがとうございます」


 マークさんが肩を貸してくれる。

 こういう時は格好よく一人で行くものだと思うが今の俺には無理だ。

 俺の中にいる皆も疲れているし、素直に甘えさせてもらおう。


 マークさんの方を借りながら魔王の元に向かうと、すでにその周りには魔昆虫達が魔王を護るように空中に留まっていた。

 仲間にも慕われいる様で、魔王の近くに居なくとも、こちらの様子をうかがう様に近くの木々の隙間から様々な昆虫達がこちらを見ている。

 そんな彼らを刺激しない程度に近付き、声を掛ける。


「死んではいないはずだよな、魔王」

「…………離れよ、殺意はない」


 その一言だけで魔王の周りに居た昆虫達は道を開ける。

 その間に俺はマークさんに渡された物を飲み込む。

 飲んだのはフェニックスの涙、以前カリンの母親から貰った物だ。

 流石に体力までは治らない様だが、身体に溜まっていた疲労や傷などは癒された。初めて使ったが随分と凄い効き目だな。


 これを飲んだ事によりようやく一人で歩けるぐらいにはなった。

 そしてウルからの魔力供給も行われ、少しマシになっただろう。

 魔王は膝をついて言う。


「忠誠を誓う。故に生き残った者達はなにとぞ」

「お前の部下をどうこうする気はない。忠誠を受け取るからとりあえず大森林に行った連中に戦争が終わった事を伝えてくれ。こっちからも連絡」

『連絡は私の方からグウィバーにお伝えしました』

「……したからそっちも早く伝えてくれ」


 相変わらず仕事が早いなアオイ。

 となると次は話し合いだな、色々聞きたい事がある。


「ありがとうございます。すぐに連絡を」

「それからどこかで話をしたい。お前がせめてきた理由とか色々な」

「では城の方に案内します。そちらでならゆっくりと話が出来るでしょう。案内せよ」


 という事で俺とマークさんは初めて魔王の城に入る事となった。

 つなぎ目のない蟻塚の様な城は先程の戦いの余波ではビクともしていない様だ。随分頑丈な作りの様だし、とても過ごし易い空調を保っている。

 魔王は足を引きずりながら俺と共に話をするための場所に向かう。


 それにしても本当に立派な城だ。

 全て土の色と言うのは少し味気ないような気がするが、構造や部屋の配置などはとっても合理的な作りをしているように感じる。

 ドルフ達ドワーフに見せたらどんな反応をするだろう。武具の製作だけではなく、建築と言うか、作るもの全てに興味があるようだからきっと良い反応をするだろう。

 再現できる出来ないまでは分からないが。


 そうして進んでいる間に一つの部屋の前で止まった。

 案内をしていた蜂型の昆虫が扉を開けるとそこは会議室の様だ。


「お座りください」


 言われるがままに勧められた席に座る。

 魔王は俺が座った席の少し離れた席に座る。

 多分こちらが上座なんだろうか、魔王の連れの一体が悔しそうな気配をしている。

 別に席に対してこだわりはないが、こういう時は何も言わない方がいいんだろう。


「それじゃ話を聞かせてくれ、何故大森林を狙った」


 テーブルに肘を置き、少しだけ威圧的な格好をとる。

 特別覇気も何も使っていないから本当に格好だけなのだが。

 それを聞くと魔王は言う。


「……その理由は樹魔にあります」

「あの森の外側にあった樹か」

「はい。あの木々は元々はただの樹木でした。私が幼い頃からある人間には加工の難しい樹でしかありませんでした。当時はまだまだ我々魔昆虫の数も少なく、平穏を保ってきました。しかし我が魔王となり、発展のために新たな魔昆虫を増やしている間に、樹魔の数も増えていきました」

「樹魔ってそう簡単に増えるものなのか?マークさん」

「……おそらく今回の場合は魔昆虫が増えた事による魔力が原因でしょう」

「魔力が?」


 余りよく分からないが……大森林のは何ともない様に感じるが?


「言ってしまえば樹木の進化です。魔昆虫が増えた事により、身を守るために魔力を利用したのでしょう。その結果魔昆虫の天敵である樹魔に進化したと推測できます」

「天敵?樹魔、樹が虫の天敵?」


 そんな話は聞いた事がない。

 確かにこの森に侵入する時も話していたが、畑の野菜とかが虫に食われるぐらいなら分かるが、その逆は信じられない。

 だが魔王は頷いて肯定する。


「より正確に言うならば樹魔の毒です。あの毒が生物、特に我々魔昆虫にとって有毒であり、新たな土地を手に入れる必要がある。と判断したのです」

「そうなるとあの樹魔の撤去は必要不可欠だな……魔王はあの毒に耐えられるのか?」

「我の場合はもって二十分程でしょう。他の者は耐える事が出来ずにみな養分にされているのです」


 ふむ……つまり樹魔をどうにか出来ればもう侵略してくる事はなさそうだな……

 となると樹魔を全て切り倒し、伐採……そうなると住処が減るか。

 侵入するまでちょっと時間掛かったし、それが円形に全てとなると時間も手間もかかる。

 出来なくはないだろうが……ああでもそれじゃ結局同じことの繰り返しか。


 戦争が終わってこれから戻ってくる連中の事も考えると魔力を散らす何かが必要だ。

 ダハーカの結界なんかを当てにしたいが……維持の面でそれは難しい。

 一応こっちの樹木のためにも益虫と呼べる虫をこちら側に引っこ抜きたいが、それはこの場所にだって必要な存在のはずだ。勝ったからと言って暴君みたいな事をして恨まれたくはない。

 う~ん。


『ちょっといいかな』

『ん?この声は精霊王か?』

『そうそう僕だよ。ちょっと魔王に相談させてもらってもいいかな』

『まぁいいが、変な事は言うなよ』


 一応釘を刺してから精霊王を召喚する。

 一瞬の光の後に現れた精霊王に、魔王以外の昆虫達が驚いている様に見える。


「初めまして、昆虫の魔王。僕は精霊王だ」

「お初目に掛かる精霊王。この度はどのようなお話でしょうか」

「いや~僕にも樹魔ってものを見てみたいと思ってね、見に来たんだ」

「精霊王?それなら俺の記憶を読めばわかるだろ」

「直接見てみたいんだよ。それにどうせ甘い君の事だ、この魔王君の事を気に入ったからこの森の事をどうにかしたいんでしょ?」

「そりゃね。忠誠を誓われたんなら守る必要はあるだろ」


 当然だと思い普通に言う。

 そう言うと魔王は驚いたような雰囲気を漂わせる。

 俺なんか変な事言ったか?


「やっぱり身内に甘いよね。甘々だよ」


 精霊王がうざったい態度で言うのでとりあえず潰した。

 すると今度はアオイが出てきて俺に言う。


「リュウ様、身内の者に確認をとったところ、樹魔を好んで食べるドラゴンが見つかりました。その者をこちらに派遣すれば樹魔の撤去は容易かと」

「出てきて大丈夫なのか?アオイ」

「問題ありません。もともと私は梅雨払いに徹していましたので体力や魔力をそこまで消費していません。お気遣いありがとうございます」

「それは助かるがその後はどうする?樹が大きく育つのにはってあ」


 掌の下で伸びている奴がいるのを思い出した。

 そうだ、精霊王こいついるじゃん。

 でも問題はまだある。


「そのドラゴンは大食漢なのか?この辺の樹魔を食いつくせるだけの。そしてそれにどれぐらいの時間が掛かる?それに精霊王こいつの力を借りるとしてもその後の魔力に関してはどうする?」

「それこそ普段全く働かない精霊王の力を借りましょう。精霊には魔力を分散させる力があります。別に木々だから樹木の精霊の力を借りなければいけないと言う訳ではありません。魔昆虫に嫌悪感のない精霊を呼び寄せれば問題ないでしょう。大地の精霊が妥当ではないでしょうか」

「なる程。そんじゃ暇そうな精霊を派遣してもらうか。というかいい加減起きろ精霊王」

「潰しておいてそれはないんじゃない!?そんなことしてるからいつまでもティターニアに嫌われるんじゃないかな!?」

「興味のない女に嫌われても何にも感じねぇよ。平穏のために働け」

「どうして、どうして僕だけいつもひどい扱いなんだ……」

「それが嫌なら俺の方で勝手に派遣させてもらうぞ。この間土の精霊でノームって子達と知り合ってさ、その子達ならどうにか出来るんじゃないかな……」

「ちょっと待って、え?ノーム達?」

「なんか仲のいい友達と一緒だったみたいでさ、仲良し四人組って感じだったぞ」

「それ最上級精霊だから!しかも何?よりもよって一番無口なノームと仲良くなったの?どうやったの?」

「俺の魔力を精霊好みに変える実験をしながら散歩してたら偶然会った。何も言わないけど何故か一緒に居たぞ」

「本当に君人間?何で人間じゃない存在とばっかり仲良くなるの!?しかも結構重要な存在とばっかり!!」


 そんな事言われてもな……自分でもよく分からないし。


「お、お待ちください‼我々の復興は我々が行います‼ですからそこまでの事していただなくとも」

「あ~その辺の事はいいから、単に俺がまた魔王に攻められたら困るからやってるんだから。それとも本当に止める?本当にお前達の力だけで復興できるのか?」

「それは……」

「安心しろ、俺が別にこの土地には興味がない。忠誠を誓うのならお前はこの地を護り続けろ。これはそのための土台作りだ。気にするな」

「……更なる忠誠を誓います」

「よし。そんじゃ家帰ってちゃんと休んだらこっちの樹魔問題も片付けるぞ」


 こうして戦争が終わり、その後片づけの準備をするのだった。

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