VS昆虫魔王3
俺は今まで使えなかった、全スキルの同時使用を発動させる。
俺のオーラはそれぞれの特徴を捉えたものへと変化する。
狼の耳と爪、鷲の翼、ドラゴンの角に鱗と人型の何かに変化する。
この状態に特別呼び方はない。ただ皆の力を集めて変化させただけの状態。でもこれがたまらなく落ち着く。
ロウと蒼流もようやく本気が出せるとでも言わんばかりにテンションが高い。
これだけのコンディションなら勝てる気がする。
魔王も先程の本気のオーラを全身くまなく覆いつくす。
先手は俺の方が早かった。
特に緊張もない、自然な状態で踏み出した脚は、まるで圧縮した時間の中で動いたかのように魔王が反応できていない。
少し近過ぎた感じがするが容赦なくロウを振るう。
「‼」
そして初めて魔王が驚きに満ちた感じがした。
ロウが迫っている方の上下の腕二本で守るが斬り落とせないまでも深く斬る事が出来た。
でもまだ足りない。
確実に勝つための力が足りない。
俺は自身に身体強化の付与、そしてロウと蒼流の力を高めるために武具強化の付与も同時に行う。
少し離れた魔王に対して今度は蒼流を振るう。
蒼い炎と、金の混じった紅い炎が混じり、さらに厳かな炎が刃として魔王を襲った。
炎は魔王を襲ってはいるが、ほとんどは魔王を包むオーラに守られている。
だがそれは想定内。それでも炎は魔王のオーラを燃やし続けるのでこのまま魔王のオーラを減らす事が出来る。
魔王は前たまま拳を繰り出すがそれらの動きはさっきまでより良く見える。
これはリルの動体視力のおかげか?
『これは私の目だよ、パパ』
違った。カリンの目だった様だ。
ちょっと怒った感じがするので素直に謝って礼を言う。
するとカリンは俺の中で『えへへ』と笑う声が聞こえた。
魔王との戦闘中だと言うのに笑みがこぼれる。
それだけリラックスできていた。先程より緊張していないが、緩み切っている訳でもない。
丁度いい緊張感と言った感じだ。
魔王は角の部分に魔力を集めて砲撃の様に雷の攻撃を行う。
それは魔術で盛り上げた土壁で防ぐ。
ダハーカの魔術知識から、これは攻撃が目的ではなく目くらましである可能性が最も高いからだ。
とてつもなく激しい発光の中、予想通り魔王は魔術を放ったのと同時に俺の後ろに回っていた。
俺は振り向く事もなく、ドラゴンの尾で魔王をはじく。
だが魔王はそのぐらいでは吹き飛ばず、オーラの尾を掴んでいる。
だが俺の魔力も少し口に溜めた。
振り向いて放出するのはドラゴンのブレス。オーラで出来た尾など気にせず魔王に向けた。
魔王にブレスが直撃し、この森の木々が一直線に吹き飛ぶ。
オウカ、アオイ、ダハーカの三人のブレスを一つに纏めたものは凶悪としか言い表せられない威力で森がなくなる。
魔王は四本の腕で身を守っている状態で立っていた。
ブレスの影響で魔王を燃やしていた炎まで吹き飛んでしまったのは誤算か。
即座に追撃としてロウと蒼流を振るう。
高速で移動するだけではなく、細かな転移の連続も行い翻弄しながら振るう。
と言ってもやはりこの魔王は堅い。
オーラが圧縮され、密になっている事も原因だろうが、とにかく防御に重点を置いた魔王の様だ。
結果、俺は外骨格の隙間を狙ってロウや蒼流を突き刺す。
ロウを突き刺せばそのまま魔力を放出して直線上にある肉と外骨格の間を貫き、蒼流で突き刺せば肉と外骨格の間を燃やす。
流石に筋肉を引きずり出す事は出来ないが、蒼流によって内側から燃やす事は出来る。
魔王もなすがに内側からの攻撃に堪えたのか、跳びながら引く。
肩で息をしているのが分かる程にダメージを与える事が出来た様だ。
「………………何だ、その強さは」
「何だって、そりゃ弱っちぃ人間が、仲間の力におんぶに抱っこって言う情けない力だろうよ」
「それだけではない。何故お前はそこまで身を任せられる?その力はお前を人間ではなくなるかも知れない力だぞ」
その予想はとっくにしてた。
実際に『一体化』をあまりにも強くし過ぎるとお互い二度と元の身体に戻れなくなるかも知れないリスクがある。
それに対して正直に言う。
「まぁ確かに、完全に一体化するのは嫌だな」
「ならば何故」
「だって完全に一体化したら子供作れないじゃん」
そう言うと魔王は「は?」といった表情になる。
俺は構わず言う。
「言ったろ?普通に団らんしたいって。その中には当然俺だって含まれる。言っちまえが我欲なんだよ。俺が幸せだと感じるために、俺の中にいる嫁達と完全には一体化したくはない。そうしたら将来嫁達との間に子供が出来ないだろ。だから完全に一体化するのはなしだ」
「……それなら、余計に謎だ。何故そんな中途半端な状態でここまでの力を引き出せる」
「さぁな?それはきっと、お互いに一緒にいたいと思ってるからじゃねぇの?」
どうしてここまでの力が出せるのか、そんなの詳しく考えた事などない。
ただ言えるのは一つだけ。
この状態で俺は、負けられない。
「……そうか。では我もお前の言う我の縁のために、拳を握ろう」
少し息を整えた後、拳を握り直した魔王から雷のようなものが全身をバチバチとはじけさせる。
見ただけで分かる。あれが本気中の本気だ。
俺もオーラをより密にしてロウと蒼流を握り直す。
少しだけの静寂、そして魔王は突貫してきた。
初めは蒼流で斬ろうとしたがオーラに阻まれて斬る事が出来ない!
さらに全身の雷が蒼流に伝わって軽く痺れる。
残りの三本の腕が迫ってくるなか、それらは防御魔方陣で守り続ける。
ドンピシャで展開する魔方陣はエネルギーの消費は少ないがやはり度胸が居る。
しかも相手は魔王だ。普段の雑魚を相手にするのとはわけが違う。
一撃一撃が必殺の威力を持った魔王の拳は、魔方陣に当たる度に激しい火花が散る。
受けている間にロウで腹部を貫こうとしたが、堅い。
外骨格が明らかにさっきよりも堅くなっている影響か。
少しの血が流れただけでろくなダメージになっていない。
だが勝機はある。
先程までに比べて魔力の消費が格段に上がっている。
流石の魔王も魔力がなくなれば…………
それはあまりにも恰好悪いか。
魔力切れによる勝利は勝利だったとしても、それを狙った戦法はあまりにも相手に失礼だ。
なら、正面から勝負するだけだ!
全スキルの全力使用、これは中にいる皆にも負荷がかかるが了承済みだ。
『その代わりさっさと勝負付けてよ』
『パパファイトー‼』
『決めてしまえ!』
『お供させていただきます』
『お前なら決められるだろう』
『リュウ、リュウの夢をこの魔王にも見せてあげて』
『分かったよ‼』
少し引いてロウと蒼流を構える。
魔王も引いて魔力を腕の一本に集中させている。
お互いに次の一撃で終わらせる気と言う事だ。
最大限にまで研ぎ澄ました感覚が、ほんの一瞬だけ静かな時間を作る。
そしてお互いが同時に動き、すれ違う様に互いに一撃を食らい合った。
お互いすれ違った状態から動けない。
魔王の拳を食らったわき腹が激痛を訴える。おそらく骨も砕け、肉も潰れているだろう。
だがまだ立てる。
痛いが、まだ動ける。
向こうも倒れる気配がない以上続行かと思ったその時。
どさりと、倒れる音がした。




