異常
また少しだけ時間をさかのぼる。
ここでの戦闘はカリンとダハーカの戦い。相手をしているのはトンボだ。
種族名はオーガリベル。トンボの中でも特に速度に特化した魔昆虫である。
深い森林の中でも超高速で飛び回る事が出来る種族だ。
その超高速にカリンとダハーカは手を焼いていた。
「あ~もう!逃げてばっかりじゃないあの虫‼」
『落ち着けカリン。確かにあの速度こそがあのと虫の最大の特徴だが、それ以外は我々の足元にも及ばん』
「そう言うけど!」
トンボの速度はとてつもない。
一撃が当たれば簡単に詰むであろうトンボだが、その速度が様々な不利な点を補っている。
カリンの火炎攻撃は避け、ダハーカの術も即座に逃げる。
そして一瞬の隙を付いて牙で肉を食い千切ってこようとする。
一瞬の隙を使って最も速度のある攻撃を使ってくる。
完全なヒットアンドアウェーだ。
隙のない攻撃に無駄のない攻撃と聞けば聞こえはいいが、要は逃げながら攻撃している。
正面から戦わない相手にカリンは苛ついている。
それも戦術である事は頭で理解できているが、今までその様な敵に会った事がない。
トンボはこうして話をしている隙に急にこちらに舞い戻り、攻撃しようとしたところを広範囲攻撃で当てようとするがまたすぐに逃げるトンボ。
もう既に何十回と同じ事を繰り返していた。
「あ~!本当に嫌いあの虫‼」
『少し待て、もうすぐ罠にかかる』
そう言ってトンボがとある空間を飛行していると、突然動きが鈍くなった。
それはダハーカが魔術で用意していた罠、それにトンボが掛かった。
トンボは黒い光を放ちながら明らかに速度が落ちている。
『これなら簡単に仕留められるだろう』
「ありがとダハーカさん!」
そう言ってカリンはトンボに急速に近付く。
トンボは飛んで逃げようとするが魔術によって普段よりも速度が出ない。
そうしている間にあっさりとカリンの蹴りで地面にたたき落され、あっさりとカリンの炎に焼かれて焼死した。
「……遅いとこんなに仕留めやすいんだ」
『それは仕方がない。一点特化型の中でも特に顕著な魔物だ。その突出した力がなければ簡単に死ぬ』
「これで幹部か……」
倒すまでは大変だったが倒してしまうと少しあっけなさを感じる。
それ程までに長所を封じると弱い相手だった。
「……他に幹部が出てきたりとかしないよね」
『恐らくないだろう。他に大きな気配があるがおそらくリュウが戦っている者ぐらいだろう』
「ならすぐにパパの元にっ!」
向かおうとした時に何かがこちらに向かって攻撃してきた。
攻撃してきたのは樹魔、それの蔓が伸びて攻撃してきていた。
「ちょっと!そんな樹魔に近い所で戦ってたっけ!?」
『そんなはずはないはずだ。となると……やはりか』
ダハーカがそう言うと攻撃した樹魔だけではなく、普通の木々も表面の色が変色し、樹魔へと変わっていく。
そしてその樹魔は蔓を伸ばしてカリンとダハーカに襲い掛かってきた。
「ちょっと!またこの樹魔と戦わないといけないの!?終わったんだから早くパパの方に行きたいのに!」
『………………』
「ダハーカさん?」
『妙だ』
「え?」
『たとえ樹魔であってもこれだけ早く樹魔になる所見た事がない。これは異常だ』
先程まで普通の木だったものがあっと言う間に樹魔に変わっていく。
その姿は長く生きてきたダハーカでも初めて見る変化。
それを緊急である事を察して即座に樹魔を腐らせる。
「ダハーカさん‼これ相当ヤバいんじゃないですか!」
『かなりヤバい。マークを呼んで来い。ここいらの木々を腐らせないとこの森は全滅だぞ!』
「わ、分かった!」
そう言われ慌てて飛ぶカリン。
その後にすぐさま同じように空へ逃げるダハーカ。
彼であれば樹魔ごとき何ともないが、これだけの異常に何か原因があるのではないかと推測する。
「これパパにも教えないと危ないよね」
『そうだな。戦いの事はともかくこれは別件として報告しておいてくれ』
「分かった」
カリンは念話で周囲の状況を全員に伝える。
伝えられなかったのはリュウだけだ。
戦闘に集中しているせいか伝えられなかったがリルには伝わったので恐らく大丈夫だろう。
そしてダハーカはこの森の異変にいくつかの予想を立て、思考するのだった。




