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閑話 オウカ対クワガタ 2

『全盛期』によって成長したオウカは再びクワガタと拳をぶつけ合う。

 先程まで足りなかったリーチの差は身体の成長によって埋められている。さらに魔力量も増えており、子供の頃の姿に比べてさらに重たい拳を繰り出す事が出来ていた。


 クワガタは四つの腕で拳を繰り出すが中々上手くはいかない。

 オウカが成長した事で的が大きくなったはずなのに、身体能力は既にクワガタを上回っていた事により攻撃が通りにくい。


 だがすぐにクワガタはオウカの弱点を見切る。

 それは身体の急成長によってオウカ自身がその成長した力を扱い切れていない事だ。

 未来手に入れるはずの力を今手に入れた事は脅威だがそれを使いこなせていないのなら話は別とクワガタは恐れず拳をオウカに入れる。


「もらった!!」

 クワガタはそう叫びながら連続でオウカの鳩尾を狙って四つの拳を決める。

 オウカは殴られ、大樹に激突する。大樹は大きな音を立てながら倒れていく。

 クワガタは少し息を整えてオウカの主の後を追おうとした際に声が聞こえた。


「ま、この程度なら防げるか」

「っ‼」

 すぐさまクワガタは後ろを振り向き、オウカをの様子を確認すると何て事のない様子で平然とこちらに歩いて来るオウカを見た。


「何故だ!確かにお前の腹に拳を‼」

「くらったよ。でもリュウみたいにやってみたら上手くいった」

「一体何をした!」

 クワガタは警戒して武器を取る。

 クワガタが握ったのは四本の青龍刀、彼が愛用する武器だ。

 ケロッとした様子でオウカはどのように守ったのか説明をする。


「なに、大した事じゃないよ。よくお婆様やリュウがやってる事と同じ、私のお腹だけ人化を解いてドラゴンの鱗で守っただけ。人化するドラゴンは皆出来るから」

 それを聞いてクワガタは早過ぎると感じた。

 それはつまり未来の自分の力を制御できているという事だ。身体全体ならそれ程制御できていなくともドラゴンの姿に戻れるだろうが、身体の一部分だけとなると話は違う。

 既に力を制御しつつあるという事だ。


 そんなオウカがなんてことない様にしているのが恐ろしく感じる。

 さらにオウカは何かを確かめる様に手を握ったり開いたりを繰り返している。


 そして笑った。

 その笑みはとてもリュウに似ていた。戦闘を楽しんでいる時のリュウの笑み、それは敵に恐怖を与える恐ろしい笑みだ。


「もう問題ないでしょ。それじゃこれから本気でやるから注意してね」

「敵に対して注意などっ‼」

 その瞬間オウカの拳が目の前に迫っていた。

 クワガタはそれを青龍刀で防いだが先程までの拳の重さが全然違う。

 速く、重い拳。この戦いで初めてクワガタは力で押し負けた。


 そして気配でクワガタは分かる。ラッシュだ。今の速度と重たい拳で次の攻撃をしようとしているのが分かったからだ。

 すぐさまクワガタは青龍刀でその攻撃を捌くがその気迫に驚かされる。

 確実に仕留める。そう言った意志が拳の一つ一つ強く籠められている。


 先程までとまるで違うとクワガタは感じだ。

 クワガタはすぐさま二本の腕でオウカの攻撃を捌き、残り二本の腕でオウカに攻撃する。

 オウカはそれを感じて笑いながらさらに拳を速く動かす事で対応した。

 青龍刀を素手で防いでいるオウカだが既に手から腕にかけて人化を解除している。それでもクワガタの青龍刀は鋭いからか、薄く鱗が切れている。だがオウカの致命傷を与えるには程遠い。


 オウカはしゃがんでクワガタの足元を蹴って崩した。

 それに対してクワガタは翅を広げて飛ぶ事で倒れる事を避ける。

 少しの間クワガタは空中で息を整える。


 だがすぐにオウカは翼を広げて飛び出した。


「翼もあるのか!」

「当然!」

 オウカはクワガタに頭の上からかかと落としで地面に落とす。

 青龍刀で守ったが地面に落とされた際に巨大なクレーターが生まれた。それでも倒れなかったのは流石と言うべきだろう。


 そしてオウカは空中にいたまま息を吸い込んだ。

 クワガタは即座に回避行動を取る。

 そのクレーターにめがけてブレスを使った結果、辺りの木々ごと吹き飛ばされていた。


 この森の樹木は普通の樹木ではない。

 精霊が宿る樹木とは違うが、人間が加工して使ってる樹木と比べてればその強度は段違いであり、人間から見れば喉から手が出るほど貴重な素材である。

 燃えにくく、鉄よりも頑丈な樹木を市場に出せば大きな価値が生まれる。


 その木々が一体のドラゴンの手で根元から爆風で吹き飛んだ。

 それこの森にとって異常事態であり、本来であればあり得ない状況だった。

 このままでは森そのものが吹き飛ばされると警戒したクワガタが距離を縮めて接近戦を再開する。

 それは得意の状況を作り出すためと言うよりはこれ以上森に被害を出させないためと言った方が正しい。


 オウカとクワガタの激しい接近戦の余波で暴風の様に吹き荒れる。

 この森にいる他の昆虫達も加勢に行きたいが、それがただの邪魔になる事も分かっていたので手を出したくとも手が出せない。


 そしてクワガタはようやく攻勢に出れた。

 クワガタが気付いたのはオウカの攻撃が素直過ぎた事。フェイントを混ぜる事もなく真っ直ぐ拳で殴って来る。

 勢いが強過ぎて気付くのに遅れたがこればかりは戦闘の経験差なのでどうしようもない。


「はぁ‼」

 気合いの入った声と共にオウカに迫る青龍刀、オウカは二つは受け止め、もう二つは食らった。

 斬撃としてのダメージはないがそれでも衝撃としてのダメージは与えられた。

 それでもオウカは怯まない。

 むしろ掴んだ手から冷気が青龍刀を通して感じられた。

 クワガタは掴まれた青龍刀を放して引くと、青龍刀の原型は変わっていないが刀身だけではなく柄からも冷気が漏れ出している。


「何故だ。何故貴様が冷気を操れる。貴様はドライグの様に火炎を得意としてるはずだ!」

「それはあくまでも能力の一つ、それに忘れてない?」

「忘れている?」

「お母様の事」

 そう言われて思い出した。

 白龍女王グウィバーはドライグとは真逆の性質である冷気を操るドラゴンである。


 しかしオウカが戦う際には基本的に火炎ばかり使っていたのでドライグの血を強く引継がれたと勘違いしている者が多くいる。

 確かに現在、『全盛期』を使う以前の状態でなら使えなかっただろうが現在は違う。

 オウカの理想とする進化、それは父と母、そして祖母の力を1つに纏めたのが彼女の理想だった。

 それ故現在の彼女はドライグの炎を使い、グウィバーの冷気を操り、屈強であるティアマトの肉体を持った存在を理想として進化したのだ。


「まさか……グウィバーの力も!?」

「得てるよ。と言ってもこの状態にならないとまだ使えないけどね。それじゃそろそろ決めよっか」

 そう言ってオウカは魔力を高める。

 高めた魔力は巨大な竜巻のように変化する。それはドライグの熱とグウィバーの冷気によって生まれた副次的なものだ。

 冷たい空気と熱が同時に発生した事による竜巻である。


「くっくうう‼」

 踏ん張るがその竜巻に飲まれない様に耐えるのがやっとなほどのエネルギーである。

 引きずり込まれるほどの竜巻は既に空中にいた昆虫達を巻き込みながらさらに巨大になっていく。

 そしてオウカは動いた。


「はああぁぁぁぁ‼」

 オウカの拳はクワガタの鳩尾に決まり、クワガタは真っ直ぐに飛んで行った。

 森の木々をぶつかった衝撃でへし折りながら勢いは止まらない。

 オウカが起こした竜巻はクワガタを追う様にして飛んで行く。


「はぁっはぁっうっ!」

 全力を使ったオウカは強制的に『全盛期』が解除される。

 そして残ったのはいつものオウカ。幼いドラゴンに無数の昆虫達が群がろうとした時に、蒼い炎で昆虫達が燃やされた。


「よく出来ましたね、オウカ」

「お婆……様」

「ゆっくり休みない。あとは私が相手をします」

 ティアマトはそう言ってオウカをそっと抱き上げる。

 オウカは疲労とティアマトに抱かれている安心感により、あっさりと眠った。

 そしてティアマトは言う。


「この子は誇り高い私の孫です。もしこの子に手を出すのであれば、この森ごと焼き尽くす‼」

 本物のドラゴンの威光により、昆虫達は逃げ出した。

 その光景に悪魔は苦笑いをする。


「凄まじいですね。あなたの咆哮は」

「ああしておけば問題ないでしょう。それはリュウ様の元に向かいましょう」

「そうですね。こちらの仕事は終わりましたから」

 そう言って二人はリュウの元へ向かった。

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