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閑話 オウカ対クワガタ 1

 リュウと魔王の戦闘が始まる少し前にさかのぼる。


 現在オウカとクワガタ型の魔物が戦っていた。どちらも基本力で押すタイプなのだがオウカの方が若干押されていた。

 戦闘の経験差という点もあるがもっとも戦い辛い点はその体格差だ。

 オウカはドラゴンと言えどまだまだ幼体、手足も短く、軽い。魔物同士の戦いの中で体格差が絶対という事はないがそれでハンデというものはある。

 そのおかげで防戦一方となっていた。


 しかも相手は熟練した魔王の幹部、簡単に懐に入る事すら難しく中々得意の接近戦では上手く戦えない。かと言ってブレスや魔術と言った長距離攻撃などでは堅い外骨格に守られて思ったようにダメージが通らない。

 かと言って外骨格を今の自身の実力では砕けない事もオウカは悟っていた。


「どうした龍皇の娘!この程度か!」

「黙れ虫!もうすぐ貴様を倒せるわ‼」

 と強がってみたものの、いい手がある訳ではない。自慢の拳は届かず、ブレスではダメージは低い。そうなると……早々に奥の手を使うしかないと結論付ける。

 しかしその奥の手にオウカ自身まだ慣れていない。本来であれば長い時間を掛けて得るはずの力を前倒しにして使う力なのだから当然とも言える。


 しかしオウカは任された。リュウに任された。

 それがとても心地いい。


 リュウは普段の仕事でも何でも基本一人で行う。まだまだできた町が出来たばかりなので心配だという感情もあるのだろうが、基本的に自分でしないと落ち着かない性格なのだと感じている。

 そして何より心配性だ。自分にとって大事なものを肌身離さず持っていないと不安なのだろう。


 そんな性格だから逆に不満もあった。

 頼ってほしい、任せてほしい、信頼してほしいという気持ちがあった。

 祖母であるアオイやマークも似たような感情は持っている。そのためにここにいると。


 オウカは幼体という事であまり町の仕事でも目立って何かをするという事はあまりない。精々町の者と龍皇国の者が喧嘩しない様に見張っているぐらいだった。


 でも今回は違う。

 共に戦場に来て魔王の幹部の一体と戦いを許してくれた。正直加勢しようしたときはここでも信頼されていないと思って不満だったがすぐにリュウはリル達を連れて魔王の元に向かってくれた。それが迷いのあるものであっても、嬉しかった。


「……戦闘中に何を笑っている?」

 頭では様々な事を考えていても戦闘は続いている。

 クワガタは怪訝そうにオウカを見ながらも殴り飛ばす。

 オウカは両手をクロスさせながら身を守ったがその衝撃で後ろにある樹に激突した。樹はぶつかった衝撃でへし折れてしまったがオウカは防御の姿勢のまま笑っていた。


「何、リュウが魔王の所に無事着いた様なのでな。安心しただけなのだ」

「ち、やはりダメだったか」

 突破される事も想定内だったのだろう。あまり動揺の様なものは感じない。

 ほんの少しだけクワガタは主の方を見ていた訳だがふと気付いてオウカの方に目線を戻す。

 オウカの周囲に異変があった。まるで陽炎の様なものによって周囲が歪んで見えたからだ。


 オウカは立ち上がり、ギラギラした目線でクワガタを見る。

 その瞬間クワガタはオウカを全力で殺しにかかった。

 その目線は幼い者の目線ではない。成体のドラゴンが敵を見る目線そのものであったからだ。


 ほんの少し前なら確かに殺せたはずの拳をオウカは受け止めた。

 クワガタは残りの三つの拳も繰り出したが全て受け流され、逆に腹部にとても重たい蹴りが入った。


「がっ‼」

 それはこの戦いで初めて上げる苦痛の声、蹴られた際の勢いで離れたが腹部の外骨格が少し歪んでいた。

 右下の腕でその部分を触りながらも、目線はオウカから離さない。


 そしてクワガタは気が付いた。

 オウカが急激に成長している事に。

 身長は伸び、手足も伸びる。女性らしいくびれに胸部や臀部も女性らしく成長する。

 成長するオウカが自身の変化を見ながら言う。


「これはリュウが『魔王』になった際に貰ったスキル。私の身体を一時的に急成長させるスキル。と言ってもドラゴンにとって良いとも悪いとも言えるんだけどね」

 少々声も低くなり、さらに女性らしくなったオウカ。成長は既に女の盛りとでも言うべき程に成長していた。

 手足は長く、女性の特徴である胸部や臀部も豊かに成長していた。

 そんな自身の身体を確かめる様に触れているだけでも色気を感じる。


「ねぇ魔王の幹部さん。どうして私達ドラゴンには多彩な種族がいると思う?」

「なに?」

「前にリュウが言ってたの、最強の種族なら一種類だけも良いんじゃないか?って。でもそれは私達が進化しやすい種族だからよ」

「どういう事だ」

「簡単な事よ。空を飛びたいと思ったドラゴンには翼が生え、泳ぎたいと思ったドラゴンには水かきが出来る。言ってしまえば周囲の影響や環境に影響されやすい種族なの。熱い環境に適した者、寒い環境に適した者、水に適した者、空に適した者。そう言った環境の変化や自身の思いで私達は姿形を変えていく」

 ドラゴンの歴史は人間の歴史よりはるかに長い。

 伝承によればドラゴンの先祖は一体しかおらず、そこから他種族との繁殖と進化の繰り返しによって現在の最強の種族と言われるまでになった。


 当時は環境が安定しておらず、厳しい環境であったと聞く。

 その環境に適合するために進化しやすい身体を手に入れたという事だ。


「と言ってもこのスキルに関しては良くも悪くもなんだけどね」

「聞く限りあまり悪くないように聞こえるが」

「言ったでしょ?周囲の環境で変わるって。簡単に言うとこの状態になったら将来この姿にしか進化できなくなっちゃったのよ」

 オウカのスキル『全盛期』は自身の肉体を最大に引き出せる年齢にするというスキル。

 幼い者はその年齢になるように成長し、年老いた者はその年齢になる様若返る。


 ただしそれは人間が使った際の場合だ。

 魔物も寿命を迎えれば死ぬが肉体的に衰える事はない。つまりどれだけ寿命に近付こうとも肉体は若々しいまま年老いていくという頃だ。

 しかしドラゴンとなると少し違ってくる。


 ドラゴンは周囲の環境によって進化する魔物、つまり幼いオウカが使用した場合周囲の環境や心身の影響に関係なくその姿に固定されてしまうというデメリットがあるのだ。

 つまり将来周囲の環境に合わせて進化しようにも進化できなくなってしまった。


「だからお婆様にきちんと将来の姿をイメージできるようになってから使えと言われたわ。まぁ最初から決まっていたのだけれどね」

「……化物が‼」

「化物?魔物だから当然でしょ?そのぐらい強くなければリュウの隣には居られない」

 将来あった無限の可能性を捨て、未来を一点に集中したオウカを見てクワガタは戦慄する。

 魔物は基本的に強くなるために進化する。ドラゴンの様な速度ではないけれど魔物であれば当然の行為だ。強く生き残るために環境に適合し、進化を止めない。

 その当然の行為を全て捨て去り、今に全てを注ぎ込んだのだから当然とも言える。


「どっちにしろ今勝たないと未来はない。なら」

 そう言って拳を構える。

 その拳を構えた姿はどことなくリュウに似ている。


「未来を今作らなきゃ」

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