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焦り

 昼から晩まで修業した訳だが結局魔王にろくにダメージを負わせる事すら出来ずに終わった。

 正直言って悔しい。以前戦った時は少しでもダメージを与える事が出来たのに今回は全くと言っていいほど与えられていない。

 しかもこの後自分で飯を作らないといけない。地味にキツイ。


「やはり空中戦には向いておらんな。素直に地上戦の方に徹した方が良いと思うぞ」

「でも何の心得もないよりはマシじゃない?」

「それでも基礎だけにした方が良い。手あたり次第に手を出してもどれも半端に終わってしまぞ。もともと人間は空を飛べぬのだからな」

 それを言われればそうだがちょっと悔しい。

 魔王の案に乗るとすれば俺は一度相手を地面に落とさないといけない。その後は無理矢理地上戦に持って来て俺が得意な戦法に持ち込む、そんなところか。


 確かに魔王の言う通りに苦手なものを克服しようとして得意な事がおざなりになってしまえば問題外だ。それだけは確かに避けたい。


 そう思いながら帰っている途中、爺さんとダハーカに会った。

 ティアは爺さんに咥えられていた。疲労からか、息を荒くしているがそれ以外は大した事はなさそうだ。


「爺さん、ダハーカ。ティアは大丈夫か?」

『問題ない。限界まで暴れておったから疲れ果てているだけじゃ』

『しかし今日の組手は勇者にしてはいい動きだった。少し焦っている雰囲気はあったがな』

 焦る?確かに昼から急に力を付けたがるようになっているように感じたが、一体何から焦りを感じているのかが分からない。

 聖女に関する情報は不明だし、それとも昆虫魔王が攻めてくるからその前にっと言った感じだろうか?


 力を求める事は悪くない。けれど急に力を求めても旨く力を得られるとは限らない。

 俺の力を求める最初の理由は森で生きていけるだけの力だったからそれは既に達成できていると言っていいだろう。

 その後は……リル達嫁を守るために、だからどこが力の終着点なのかは分からない。だからがむしゃらに力を求めているだけだ。


「ティア、大丈夫か」

 本人に聞いてみると目をうっすらと開けて俺を見る


「リュウ……これで、強くなれる?」

「さぁな。そればっかりはよく分からん。お前にとって強くなったの意味が分からないし、お前の望む強くなったなのかは分からないからな」

「…………リュウは……たまに難しい事を、言う。でも、まずはこの森で、生きれるぐらいに、強くなれる?」

「それならなれるさ。俺と言う『調教師』が生きれるだけ強くなれたんだから」

 そういうとほっとしたようにティアは眠りについた。それとも気絶か?


「爺さん。俺の方から龍皇国に送って来る」

『飯の時間が遅くなるが……』

「爺さんも舌が肥えたな。最近じゃ子供達も俺の飯をせがむようになった」

『仕方がない事じゃ。美味く、強くなりやすいのならば皆求めるじゃろう。早く帰ってこい』

「ああ。ダハーカもちょっとだけ晩飯待ってくれ」

「出来るだけ早く帰ってこい」

 ダハーカが人型になりながら言う。それじゃ早めに済ませようかね。

 俺は寝息を立てるティアをそっと爺さんから受け取る。両手で受け取り、速く、そして起こさないように静かに森を走る。


 寝息を立てるティアの顔から焦っている理由は当然分からない。けれどその焦りがティアを自爆させてしまうような事態だけは避けたい。

 転移装置に着くと最近改良されたので複数人で転移出来る様になった。複数と言っても十人までだが。それで二人纏めて龍皇国に行く。


 直ぐに到着した後真っ直ぐ城に行く。

 その途中でタイガ達に会った。


「よう。そっちの修業はどうだ?」

「あ、リュウ。順調だよ。それよりティアが急に別な修業を始めたから驚いたよってごめん、ティア寝てるの?」

「ああ、爺さんが運んでる最中にな。あと任せてもいいか?」

「うん、分かった」

 そう言った後にタイガにティアを背負わせる。

 マリアさん、アリスはティアの寝顔を覗き込んでいる。


「俺達も次の修業に移ってもいいよな?」

「はい、そのつもりです。と言っても魔王が攻めて来るかも知れない状況なのでみっちりとはいかないと思いますが」

「わたしとしては助かりますよ。修業初日の様な急なものは苦手です」

 魔術師の人が情けない事を言うが魔術組はそんな厳しくない…………はず。


「多分大丈夫なはずですよ。前衛の皆さんは技術的部分を、後衛の皆さんは知識と魔術の理解ですから。まぁ教える側が無茶な事を言いださない限りですが」

「不安になる事を言わないでもらえませんか!」

 でも教える側がね、魔物ですから。どうなるか分かんないんですよ。

 それに教えるのはあいつらだし。


「とにかく明日からは午前は鬼ごっこ、午後は各自分かれて技術面の強化に入ります。ティアに関しては別の特訓になりますが」

「さっきの急な別行動の事?本当に危険はないんだよね」

「ある程度の危険はある。と言っても殺される様な事はさせない」

「…………ならいいけど。あんまり無茶させないでよ、色々抱え込みやすい性格だから」

 タイガが真剣な表情で言う。

 確かにティアは色々抱え込みやすい性格だ。おそらく感じた焦りもそこにつながると思う。

 それが溜まり過ぎれば自爆につながる事も目に見えている。だから俺は目を放さないでおく。


「それじゃまた明日な」

「また明日」

 タイガ達に別れを言った後改めてアリスを呼ぶ。


「どうかしました?」

「ちょっと頼みたい事があってな。ティアの事見張っててくれ」

「え、何でです?聖女様の様に暴れる様子はないはずですけど……」

「暴れる心配はないと思うがちょっと別件。単にあいつが焦っている様に見えるから無茶をしないか見張っててくれ」

「分かりました。無茶しようとしたら止めればいいんですね?」

「頼んだ」

「その代わりご飯奢って下さいね」

 軽い様子で受けてくれたが俺は逆に安心した。

 最近は暗部の人間としての成長はとても大きい。静かに近付き止めてくれるだろう。

 俺はその場で転移し、晩飯の準備にかかる。

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