魔王との修業
飯を食った後俺とティアは爺さん達の前に立っていた。
『なぜ勇者がいる?その者は別の修業ではなかったのか?』
「早く俺と似た実力になりたいんだって。いくつかランクを落とした状態で組手してあげてよ」
『それでは……儂が行うか。儂ならある程度は実力を知っておるし、誤って殺す事は無いじゃろう』
「うん。ありがとう。で、俺の方は誰と修業してくれるんだ?」
「私だ。昨日リュウが私の蹴りを覚えたいと言っておっていたのでな、私が指導する事になった」
「よろしくお願いします」
魔王に頭を下げた後、他の人達を見る。
ダハーカと龍皇はどうするんだろか。
『では私は勇者の方に行くとしよう。魔術に関しても指導しておいた方が良いだろう?』
『私は国へ帰ります。勇者の方はこれ以上増えれば壊れそうですし、リュウの方は魔王に一任しましょう』
ダハーカは爺さんの手伝い、龍皇は帰るのか。何もないし帰っても問題はないか。
それから魔王の蹴り……あれ本当に覚えておきたいんだよな、基本的に蹴りを混ぜた攻撃はしてないからそろそろ覚えたい。
『では勇者よ、互いの邪魔にならないよう少し離れるか』
「分かりました」
「ティア‼」
爺さんとダハーカについていくティアに少しだけ呼び止めた。
振り向くティアに真剣に言った。
「絶対に諦めるな。諦めたら、死ぬぞ」
そういうとティアは頷いた。その姿は凛々しく、最初の修業の時に比べると大分まともになったと感じる。
そしてティア達の後ろ姿が見えなくなった時、俺は魔王に向き合った。
「それでどんな修業をするんだ?」
「なに今までと大して変わらん。組手だ。但し条件として攻撃に使って良いのは脚とガルダの力のみとする」
「分かった」
俺は脚に力を籠める。いつでも動けるように。
一呼吸程の静寂の後、すぐに蹴り合いが始まった。
先制は魔王、蹴りを俺の顔面に向かって横から来る。
俺はその蹴りをしゃがんで回避、地についてる方の足を蹴りで払うが倒れる事はなかった。翼で空中に居たまま上段からかかとが落ちてくる。
頭に攻撃が食らうのは回避できたが代わりに肩に攻撃が当たった。
重たい攻撃の影響により肩が外れた。おそらくこれでも弱く攻撃した方だろう、本気でやれば今ので腕が一本なくなっていただろう。
俺も魔王に跳び膝蹴りで攻撃できたが空中に居たせいかあまり手ごたえが感じない。
「……意外と攻撃手段が限られるもんだな」
「そういうものだ。それ故に大抵の私の領民は魔術が得意だ。攻撃用としてな」
「その魔術やら魔力攻撃が効かないから鳥類型魔物の中で一番強くなれたって事か」
「その代わり直接戦闘は得意ではないがな」
そりゃ魔術が得意な中で直接戦闘まで得意だったら勝てっこないな。と言っても魔王の蹴りの威力は本当に凄まじい。
これで直接戦闘は不得意と言っているのだから堪らない。
再び戦闘が始まるが脚だけの攻撃となるとやはりなかなか当たらない。カリンのスキルによって翼形のオーラで低空を飛びながら攻撃しているがやはり動きは魔王の方が上だ。
戦い慣れた空中戦ではあまりにもこちらが不利、そして戦い方が俺と全く違う。
違うと言える理由は足腰の使い方だ。
俺は本当に上半身を支える土台の様に踏ん張ったり、走ったりする事でしか使って来なかったが、魔王はその足腰を完全に武器として使っている。
おそらく足腰の柔らかさが可能としているのだろう。
あくまで人間の場合だが、女性は子供を産むために下半身の関節が柔らかいと言われている。それに対して男にはそんな機能は付いていないので逆にがっしりとつながっている。
と言ってもそれが魔物に対してどれぐらい通じるのかは不明だが女性型なのでそうであると仮定する。
にしても本当に捉えにくい。魔王の脚が長いせいか途中で軌道が変わる事も多く、脚だけで捌くのは容易ではない。
手が使えれば以前に様に掴んで、無理矢理俺の得意な方に引きずり込む事が出来ると思うが……今はルール上できない。それにそれをやったら修業ですらなくなってしまう。
一応見切るために『生存本能』などを使ってはいるがあくまでそれは避けたりするため、攻撃には使っていない。
さらに言うと慣れない空中戦と言うのもうまく捌けてない理由の一つだろう。
空中では踏ん張れない。空中ではいくら足を掻いても意味がない。空中では足場などない。
俺の一番最初の師匠は爺さんだ。爺さんから逃げ切るための脚、戦い続けるための体力など様々な物を学んだ。でもこの空中ではほとんどが意味をなさない。
いざと言う時の回避や行動のために足は常に残してきた。腕や上半身に傷は多くても、足と下半身は傷付けない様にしてきたのはそのため、いつでも地上で動けるようにだ。
でもそれは今は出来ない。
空中でオーラを噴出して加速しても容易に避けられる。これが本当の経験、そして種族の差による欠点なんだろう。
俺は空中戦に全く合っていない。
そして俺はまた魔王から地上に蹴り落される。
もうこれで何度目だろうか?
「…………ふむ。やはり空中戦は苦手か」
「どうもその様で。しかも蹴りの可動域も狭い、正直勝てる気がしない」
「では止めるか?」
「いや、やる。弱点をそのままにしてたらそこから殺されちまう」
「しかし空中戦の才は全くない様だ。ならば落とす事を考えた方が良いのでは?」
「…………と言っても中々上を取らせてもらえないからな、どうするかな」
「それも修業だ。もう少し来い」
「せめて何らかの感覚ぐらいは掴みたいもんだな!」
再び立ち向かうが全くダメージを与えられない。
本当にどうするかな?
 




