……意外な苦労
軽くしてくれた修業後、俺は外で飯をいろんな奴に振る舞っていた。
何故そんな状況になっているかと言うと、最初に言った飯作るからが原因である。全員でっかいし、普段の生きるための食事とは違うので大量に食う。
なので修業後、それぞれ狩りをして好きなもの持ってきてもらう代わりに俺が野外用調理器具で飯を四人に振る舞っていたのだが…………いつの間にか大勢が食料を持って俺を見ていた。
最近はリルだけじゃなく、フェンリルの子供達も調理された物を食べる様になっているし。獣同然に生きていた魔物の皆も、俺の作った飯で強くなれると言う噂を聞いてそれぞれ好物を持ってきていたと言う訳だ。
それで結果、何かあった訳じゃないのに皆で大騒ぎになってしまった。
ちなみに現在は屋敷のメイドにも手伝ってもらいながら肉を捌き、調理は俺が主力となって皆に飯を配っている。
まぁ…………悪い状況じゃないんだけどな。
昆虫の魔王が攻めてくる。それはつまりこの街や龍皇国、精霊達全員が協力して立ち向かう必要があるのだから、俺の飯で全員が強くなれるのであれば俺はそれでいい傾向と言えるだろう。
…………と言っても俺は全然飯が食えてない訳だが。
「リュウ様、リュウ様もお食べ下さい」
「え、でもまだまだ居るぞ」
いつの間にやら建設作業員であるドラコニュートやエルフの人達まで集まって飯を食いに来ている。もちろん食糧を持って。
それらが集まり、まだまだ長蛇の列と言えそうな気がするが……
「リュウ様はこの後も修業に励むのですからそろそろ我々にお任せ下さい」
「いやでも」
「今並んでいる方々はただ美味しい料理を食べに来ただけですのでリュウ様のスキルで強化しなくても問題のない方々です。そろそろリュウ様がお食べにならないと午後の修業に支障が出てしまいます」
「…………分かった。厚意に甘えるよ。そんじゃ俺の分の飯ある?」
「あちらに取っておきましたのでお召し上がりください」
「ありがと」
一度礼を言うとメイドも頭を下げた。
俺は他のメイドが飯を取っておいていると言う場所に案内される。
…………そこには山の様に飯が並べてあった。しかも他に人は居ない。
「え、この量どうやって用意したんだ?」
「リュウ様が調理したものを少しずつこちらに運ばせておきました。冷めますと美味しくないと思われますので精霊に料理の保温を任せてあります」
ちらっと見ると確かに小さなトカゲ型の精霊が料理の近くで寝そべっている。あれが保温にになっているかは見た目で判断するのは難しいが。
「これ全部俺一人で食っていいの?マジで?」
「大丈夫です」
「本当に一人で全部食うぞ?」
「お召し上がりください」
それでは早速と椅子に座り、ナイフとフォークを持つ。修業後飯の事ですぐに食えなかったから腹はとても減っている。すぐに手を付けた。
上品に食べている訳ではないが、かと言って下品にガツガツ食う訳でもなく飯を胃袋に収めていく。俺が作った物なので特別美味いって感じる事はないがとにかく腹に収める。
空になった皿からメイド達が食器を下げてくれる。遠くにある料理を俺の前に運んでくれるのでどんどん食える。本当にありがたい。
「リュウってすごい量」
「ん?ああティアか、どうかしたか?」
「あ、ご飯は食べてていいよ。それにしても凄い量だね」
「メイド達が取っておいたんだって。本当にありがたいよ」
飲み込んだ後にティアと会話しているので変な話し方にはならない。と言っても目線はやはり料理に向いてるし、失礼っちゃ失礼なのかも知れないけど。
「それ全部食べるの?」
「食うよ。残すなんてもったいない。それより何か用事か?」
「うん。私の修業だけもっとレベルの高いものにしてくれないかな」
「本気か?修業初日何てスンゲー音を上げてたくせに」
「さっきのリュウの修業見てた。あれを見たら私の実力なんて本当に低い、だからもっと強くなりたいって思ったの」
「その向上心は買うが……なんだって急に?」
「強くならなきゃ見てもらえないから」
見るって何をだ?何から見てもらえないんだ?
「とにかくお願い。リュウと同じ修業をさせて」
「……いきなり過ぎるから少しレベルを落とした物ならいい。けど俺と全く同じ修業はさせられない。その前に身体を壊すだろうからな」
「それで強くなれる?」
「確実にな。と言っても俺の場合は完全に剣術だなんだってのを知らない所から始まった訳だから、今から戦い方を変えると結局強くなれないだろうから今の戦い方をベースに、だな」
「分かった。でも私にも出来る事だったらちゃんと修業付けてね」
「おう」
…………部屋から出るティアをちらっと見てから考える。普通急に力が欲しい、なんて状態は焦りなんかから来るものが多いと考えていたが……焦っている様子には見えないな。
俺と爺さん達の修業を見たって言うけどそれに刺激されたのか?おそらくほとんどの動きに目すら追いつけていないと思うがそれが刺激に?
それに俺の師匠達って大抵魔物なんだよな……ハガネ師匠なら何とかなるかも知れないが剣と刀は違う武器だって聞いてたし、同じ剣で師匠レベル知り合いっていたかな……
ってあれ?この味俺の飯じゃないな。かと言ってアオイの味付けに似てるけど微妙に違う。
メイド達との味付けとも違うし……
「これ誰が作った飯だ?」
「こちらはリル様がお作りになりました」
「え、リルが?」
「アオイ様にご教授をいただいております。これも良妻になるためだと言っておりました」
「そうか……」
ちょっと焦げている所もあるが美味い。肉の上にかかっているソースはアオイの作る物によく似ているがおそらく自分なりに考えて作ったのだろう。
「あとで礼を言わないとな。それから御馳走さん」
「全ての皿は私達が下げますので修業までお休みください」
「そうさせてもらう」
と言ってもおそらく爺さん達のタイミングで始まるだろうけどな。あまり時間はないだろうからリルを探す。さっきの飯の礼を言わないとな。
そう思い、探そうとしていると少し遠くから顔だけ出してこちらを見ていた。
「どうしたリル?」
「……感想、聞いてみたくて」
「俺もそれが言いたくてリルを探そうと思ってたところだ。御馳走さん。美味かった」
「……ちょっと焦がしちゃったけど?」
「問題ない。美味いって思ったんだからそれでいいだろ」
笑いながら近づくと嬉しそうでもあるが恥ずかしい様にも見える表情で赤らめていた。俺はそんなリルの頭を撫でながら言った。
「ありがとう。美味かった」
「うん。頑張った甲斐があった」
「それじゃ午後の修業行ってくる」
「さっきみたいにいきなり始めたらダメだからね」
「おう」
爺さん達がこっちに向かっている気配がするのそろそろ修業の様だ。




