覚悟
長老とは早めに離れ、屋敷に戻っていると精霊王から連絡があった。
俺は念話で答える。
『ちょっと!魔王が森を狙ってるって本当なの!?』
『本当だよ。カリンの母親から入った情報だし信憑性は高い』
『絶対に阻止してよ‼昆虫型の魔物って精霊の宿っている樹木を好んで巣にするタイプが多いんだから!』
『それに関しても龍皇とも相談したいからさっさと家に来い』
『もう会議の準備は整ってるよ……』
『こっちももうすぐ着く』
走っていたので早くも街の中には到着している。
真っ直ぐ屋敷に行き、アオイが必要と言った会議室に向かう。まさか本当に使う事になるとは。
「ごめん。遅れた」
「本当に僕達にとって大変な話なんだからね‼しかもよりにもよって昆虫の魔王だし」
「そう言うな精霊王。むしろこの事態が後手にならず良かったと見るべきだろう」
既に精霊王と龍皇はいた。その後ろには従者と思われる精霊とドラコニュートが立っていた。
俺も残った一席に座る。椅子はアオイが引いてくれたし、この場にはアオイだけではなくマークさんもいる。
「それじゃ魔王襲来してくるかもよ会議を始めましょう」
「まずリュウよ、今回の話の情報元はガルダの女王からであっているのだな」
「そうです。今日遊びに来たのでその際に教えていただきました」
「む……となるとおそらくその情報は正しいと見るべきか」
「今はカリンと一緒にいる様ですので呼びますか?」
「いや、ただの確認だ。呼ばなくていい」
「と言うかガルダの魔王がいるんだからその魔王に護ってもらおうよ」
「どこまでも他人任せだな精霊王、たまには働けや」
「僕にだけ厳しくないかな!普段リルやカリンには甘々な癖に!」
「今は関係ないだろ。それより真面目に会議だ」
普段から他の精霊に頼っぱなしのくせしてよく言うな。まだぶつぶつ文句たれてるが無視して次。
「現在虫に詳しい長老達に協力してもらいながら森の外から来た外来昆虫を探してもらっています。資料として提出するにはまだまだ時間がかかります」
「そうか。こちらも昆虫に関して調べているがあまり我々の領域には現れていないようだ。それにあまり虫に関心はない方だからな」
「仕方がありませんよ。ドラゴン種は堅い鱗が特徴の一つ、蜂やサソリの様な毒虫に対しても抵抗力が強いのですから。で、そっちはどうなんだ精霊王」
「…………龍皇との扱いの格差が気になるけど……急遽精霊達には緊急勧告を流しておいたよ。樹木や花々から生まれた精霊はパニック状態、当然と言えば当然だけど何も言わずにいつか起こる事態を見過ごすわけにはいかないからね」
「それでどのぐらいのパニックになってるんだ」
「土や岩、火に水、風の様な精霊は他人事の様にしか感じてないから……全体の四割ぐらいかな?」
「想像より多いな。やはり森の中だと木々の精霊が多いな」
「そりゃ多いよ。かと言って精霊の本体と言える木々を移動させるのも問題があるし、僕たちが担当している領域全体に目を配る事が出来なくなる。だから色々頭を抱えさせているんだよ…………」
う~ん。これは本当に面倒な事態だ。
それに出来れば戦争は避けたいんだよな……面倒だし、戦える存在も少ない。龍皇国から戦える人を借りるのも手だが今回は防衛戦、ドラゴンの攻撃力じゃ被害が大きくなりそうだ。
情報を得ているのだからこちらから攻めれば良いと言えばそれも手の一つだが殲滅するようなことはしたくないし、理由もないし……というかさっき言った通り自爆しそうな感じがかなりするし……
「リュウ様、少々よろしいでしょうか?」
「マークさん、なんかいい案思いついた?」
「いい案とは言えませんが以前よりこのような要望が来ております。これと併用する事で向こうにも、理が生まれるのではないかと」
そういって手渡してきたのは一枚の要望書、内容は害虫について。
何でも最近畑が出来た事により元々あちらこちらに居た虫たちが集まってきているのだという。しかもその虫たちは花や葉を食べるタイプの害虫で駆除が難しいとの事、現在は虫を食う魔物達に協力してもらっているそうだがほとんどは食用にすらならない小さな虫ばかりだとか。
でかいバッタの様なものも食っているそうだが若者からは飽きたという声も上がっている。
「…………つまり虫を食う虫を昆虫の魔王から派遣してもらおうって事か?」
「左様です。先程リュウ様が確保いたしました、アーミービーの様な花々の受粉を手助けする存在もよろしいかと。あれは人間には対処しきれないというだけで対処できるものからすれば食べてよし、蜂蜜だけを食べるも良しの優れた蜂です。知人の話によりますとアーミービーの蜂蜜は難病を治す薬にもなるとか」
「…………確かにそういった運用も出来るだろうな。だが住処はどうする?アーミービーは穴の中に住み着くからいいが木々を住処にする存在も多くいるだろう、そいつらはどうする?」
「そういった者たちには別な住処を用意しましょう。木々に住まうより素晴らしい住処を与えれば木々に住まう事はないかと」
まぁ……そうだろうが相手は昆虫だからな……寄生する危険な昆虫とかなら知ってるがそういう昆虫を育てる知識はないからな……
「龍皇、今意見が出ましたがどう思いますか」
「それはそちら側の利益にしかならんはなしだからな。アーミービーの蜂蜜を分けてくれるというなら別だが」
「食べた事があるんですか?」
「妻が以前食べた事があると言っていた。何でも至高の甘味の一つだとか」
「……結構高く売れそうだな。アーミービーの危険性も混ぜたらボッタクリ価格でも適正価格になるだろうな。ああでもその前に花の種類と数の方を増やすのが先か、そこはエレンと相談して…………龍皇、蜂蜜の生産が安定でき次第龍皇国にも卸しますので前向きにご検討いただけないでしょうか?」
「ああ、楽しみにしている。あとは精霊王次第だが」
「ぼ、僕は反対だよ‼確かに有益な昆虫がいるのは認めるけどその虫たちの住処は僕たちの場所になりそうじゃん!」
「その辺は俺も調整できるように頑張るって。俺だって流石に生物に寄生する昆虫は呼びたくないし、そこまでお人好しじゃない。その辺は戦争を回避できたらにしよう。まずは魔王に相談して昆虫の魔王に連絡できないか聞いてみます、その結果次第では戦争という大規模な事にはならないかと」
「………………リュウよ、一応聞いておくが戦争を回避は出来ると考えているか?」
「それはまだ何とも。ですが回避できるように」
「リュウ様、これは人間の戦争ではないのです」
龍皇が聞いてくるので答えたが途中アオイが口をはさんだ。
とても珍しい。メイドとして仕えている時は基本アオイは何も話さないし邪魔をしない、けれど口をはさんだという事は何か大きな失態でもしたのか俺?
アオイは俺に言い聞かせる様に言う。
「人間同士であれば双方に利益を生む状態になれば戦争を回避できる。それは確かにある事です。ですが今回魔物同士の戦争。たとえ双方に利のある話を持ち掛けたとしても必ずどちらが上なのか決める必要があります。ですので戦争は回避できません」
ああそうか、力ない存在は力ある存在に潰される。そして俺の力がどれぐらい大きいものか知られていないし俺も知らない。
ならば一度戦って力を示さないといけない。
力ない存在の共存はという言葉は、ただの命乞いだ。
「……分かった。俺の思考はまだまだ人間よりだったみたいだ。教えてくれてありがとねアオイ。龍皇も」
「口をはさんでしまい、申し訳ございません」
「ティアマト様が言うのなら構いません。それにリュウにとって重要な事ですから」
俺と龍皇に頭を下げるアオイ、それを龍皇は朗らかに許す。
となると。
「アオイ、どんな戦いになるかまだ不明だけど準備を。それから俺の仕事を少なくしてくれ、鍛え直すから」
「承知しました。では重要な仕事のみリュウ様に回し、残りは私やマークが行います」
「頼む。マークさんも悪いね、俺の我儘に付き合わせちゃって」
「言ってくれて構いません。私はリュウ様の下僕、不肖マーク、全力でお仕えします」
「本当にありがとう。アオイ、魔王に数日でも留まって貰えないか交渉してくる」
「修業ですね。おそらくカリン様も一緒になると思いますが」
「カリンと一緒に居て良いと言えば快く引き受けてくれそうだが……妹さんの方は真面目だからな。数日と言っておいた方がいいだろう」
本人はずっとここに居ても良いと言いそうだが魔王としての仕事もあるだろうし、程々が一番だ。
「今回はリュウに任せるが良いか、我々では間違って森まで焼き払ってしまいそうなのでな」
「僕は戦争に参加したくない……けど森を守るためだから久しぶりに本気出すよ」
「ほう、精霊王が本気を出すとは何千年ぶりだ?」
「それだけ平和だったのにな……」
精霊王はため息を付きながら言う。
本当に戦いたくないんだな。
「それじゃ攻めは俺が担当、守りは龍皇と精霊王が担当でお願いします」
「ああ」
「分かったよ」
それじゃ早速準備といきますか。




