養蜂契約
今回は虫の事をよく知っている長老の指示に従う。町の方に被害を出さない事も重要なのでここで女王蜂以外は確実に殺さないと。
長老の仲間は等間隔に離れ、長老の指示を待つ。しかし軽い動きでもかなり速い蜂の動きに付いて来れるのだろうか?
そう思いながらもじっと草陰に隠れ気配を殺す。隣に居る長老から肩を叩かれた。
「儂らが周りにおる蜂を仕留めるでな、お主は女王バチを傷付けずに捕まえてくれ。女王バチは他の蜂より速いでな、儂らでは捕まえられん」
俺が女王バチ捕獲担当か。どう捕まえるかな……網の類は持ってないし……素手は怖いけど今は何の道具も持ってないんだよな……
女王蜂の大きさは丁度俺の掌ぐらい。なら後ろから捕まえれば危なくないかな…………
「蜂を捕まえる時は必ず後ろからいくのじゃ。でないと手を食い千切られ、毒針で刺されるぞ」
あ、やっぱ正面から行うのは愚行みたいだ。そういやあの毒針どのぐらい強力な毒なんだろう?怖いから聞かないけど。
蜂の動きを見ていると交尾後はどこか巣を作れる場所を探している様だ。おそらく食料としてこの花畑の近くに作るつもりなんだろう、そのぐらいの予想は出来る。
すると長老は手を上げた。攻撃準備の合図だ。
草むらから音を立てない様に気を付けながら体勢を整える。長老が手を振り下ろした時が攻撃開始だ。
長老は蜂の動きを見ながら一瞬の隙を探している。じっと気配を殺しながら蜂の動きを注意深く観察し…………手を振り下ろした。
俺達は長老の合図で一斉に飛び出す。
すぐさまに女王の周辺を飛んでいた蜂が攻撃を開始する。
攻撃対象は先陣をきっていた俺の様だがその攻撃は長老と同じ種族の魔物の手に捕らえられた。長い腕と手が鞭の様に蜂の背後から振り下ろされ、捕まった。
女王蜂はすぐさま逃避しようとしていたがそこは俺が許さない。後ろを向いていた分少しは捕まえやすかったのも幸運だったのかも知れない。
人差し指と中指の間に蜂の首を挟め、潰れない程度に残りの指で動きを拘束した。
「これで蜂騒動は終わりじゃな」
長老は捕まえた蜂を腹から食い千切っていた。他の蜂を捕まえた人達もむしゃむしゃと蜂を食ってる。
俺の掌の中にいる蜂は必死に逃げようと針を動かすが身体の構造上前にしか動かせない。
「それでどうします?養蜂するにしたって巣を作らせないといけませんよ。あとその場所も」
「………………どうするかの」
そこまで考えてなかったのか。それにしても女王蜂以外は皆殺したがこいつ一人で生きていけんのか?途中疲れたんだか諦めたのか女王蜂も元気なくして来たしな……
女王蜂を掴んだまま悩んでいると変な声が聞こえた。
『アノ、殺サナインデスカ?』
動物が出す肉声とは違う声、動物っぽくはなく、何というかこう……風を切った感じの声がした。
「長老?」
「儂の仲間ではないな」
『ココデス。ココ』
一応声がしたのは俺の掌から、まさか。
「女王蜂……なのか?」
『ハイ。ワタシデス』
女王蜂が羽を震わせながら声?を出す。
「お前、どこから来た」
『南ノ森カラデス』
「そこに何で巣を作らなかった」
『家族ガ多過ギテ作レル場所ガナカッタカラ、ココマデ来マシタ』
ふむ、直接関係があるのかまでは分からないが南の森ってのが魔王の森と見ていいのかも知れない。
でもまずはこちらの話を聞いてもらうか。
「俺はこの森の管理者の一人だ。ここに住みたかったら条件を飲め」
『ドノヨウナ条件デショウ?』
「養蜂と言う言葉は知ってるか?」
『………………分カリマセン』
「簡単に言えばそちらの生活を保障する代わりに蜂蜜をもらうような感じだ。それを受け入れてもらいたい」
『殺サレナイノデシタラゼヒ。シカシ巣ヲ作ルトコロカラデスノデ、今スグニハ…………』
「そのぐらいは分かっているそれからお前の種族は木を苗床にする魔物か」
『イエ、ワタシタチノ種族ハ動物ノ掘ッタ穴ヲ住処ニシマスノデ、直接木ヲ巣ニスル事ハアリマセン』
「そうか。それからこの花畑を管理しているエルフや精霊が来るから決して攻撃しない様に」
『承知シマシタ。ソレデハ巣ヲ作レル場所ヲ探シテマイリマス』
女王蜂を手から離してやるとあまり速くない速度で巣を作れる場所を探し始める。
「良いのか?それにあの条件では幼虫が食えん」
「精霊王にはとっくに連絡してます。それに南の森から来たのは本当の様ですし一応の監視は必要でしょいう」
「そうじゃろうな。それより幼虫」
「数が増えるまでは待ってください。生活を保障するって言ったんですから」
そういうと長老達は落ち込んだ。
そこまで食いたかったか幼虫。




