式典前日
ドルフの護衛について考えつつもダハーカの結界の試験の事を一度住人や爺さん達を集めて説明する。大規模な試験であり、不備や何らかの問題が起きた際に説明してほしいと伝えた。
一番初めに反応したのはドラコニュート達だった。結界の不備で街に入れなかったらと危惧している。
その辺の詳しい説明はダハーカ自身に説明してもらったところ、問題ないと言ったので一応安心はしたと思う。
そしてコクガ達がようやく帰ってきた。新しく連れて来た人達は魔物達を見て膝を震わせていたが特に襲う事もなかったので教育の様なものはコクガに任せよう。それでいきなり訓練としてティア達に混じって鬼ごっこに参加、疲れ切って気持ち悪くなっているものも多くいたが切り抜けたと言って良いだろう。
「リュウ、あの人達誰?」
「知り合いの部下達、ここで鍛えたいんだと」
「ふーん。私達と同じか」
そういうティアはかなりたくましくなった。並みの事では動じなくなり、今も昼飯を狩っている途中なのに何気ない会話をするくらいにはなった。以前苦労していた熊と戦っているがもう慣れた様だ。
いや、慣れたっと言うよりは俺同様爺さん達と比較してしまっているんだろう。あれに比べれば問題ないと。
タイガや他のパーティーメンバーも大分たくましくなった。
特にローゼンさんはたくましくなった。以前の様な泣き言は言わず、黙々とどのようにすれば倒せるのか、どうやったら避けられるのか考えて行動している。
元々頭は良いんだろうし、急な環境の変化でおそらくその頭が上手く働かなかったんだろう。でも今は落ち着き、魔術による直接攻撃がダメなら魔術で起こした副次的なもので攻撃したり防御している。
ついでにだが今はリューズさんとローゼンさんと名前で呼んでいる。様子を見たり訓練に付き合っている内に覚えたし、そう呼んで構わないと了承もとった。
そして個人的にはそろそろ個人授業に移っても良いかな?っと思っている。
元々鬼ごっこは基礎的な体力とこの大森林で生きるための基礎を身に付けてもらうためだ、それがもう慣れたというのなら次の段階に進んでいいだろう。
具体的には……俺やリル達との実戦練習?あ、これ爺さん達とやってる事そんなに変わんないや。
取り合えずタイガやローゼンさん、マリアさん辺りはダハーカにでも任せよう。魔術で困った時はダハーカに頼るのが一番。
後の前線で戦うメンバーは力の一点化などの技術的な所か、グランさんには一度教えたしそこはアオイとかにでも任せるか。
それから街で新黒牙のギルドは既に建築中、地下はなく地上二階建ての建物にするんだとか。カガが言っていた通信施設はギルド内の一室に作るとか、土地を広く確保しておいたのでその分三階を作らなくて良くなったそうだ。
そこでコクガ達に仕事を依頼、もうすぐ来るドルフ達の護衛、金はあるしきちんと依頼として出させてもらった。最初は世話になった分今回はタダで良いと言っていたがそういった貸しはもっとデカい事が起きた際に協力してもらう予定のため、それはまた今度の時にと言ったので金を払って依頼した。
それとグウィバーさんへのプレゼントはやはりドワルから購入する事にする。カガの持ってきた通信用水晶で連絡を取った際に驚かれたがとにかく宝石の付いた贈り物用の剣を購入、グウィバーさんへの贈り物だと言ったら一番いい物を売ってくれると言っていたので期待しよう。
後はカリンの母親がいつ来るのかが気になるが……いつ来てもいい様にとりあえず飯と酒の準備だけはしておくか。
そして結界の方だが予定通り張ったが今の所は問題らしい問題は起きていない。今の所は結界を潜った際の感触が落ち着かないとか、結界のせいで街の中の音や匂いが分からなくなったなど対処しにくい問題ばかり出てきた。
その辺の細かい事をダハーカに伝えたが改善されるかは不明、相当細かい制御が必要らしく少し時間が掛かると言っていた。
そしてさらに数日が過ぎる。
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「お~ドルフ、久しぶり」
「リュウさん、本日はありがとうございます」
本日の昼過ぎ、ドルフ一行がこの街に着いた。今回は素材の売買なのでドルフが来るのはちょいと大げさではないかと思ったがまぁいいか。
俺の隣にはアオイとマークさんの二人が居る。マークさんは商人であった頃の実力を生かして素材を高く売って欲しいし、これから買う物が偽物であったりしない様に確認してもらう。
まぁそんな事をするようには思えないけど。
それからアオイには単にドラゴンが喜ぶ物か判定してもらうために頼んでおいた。
やっぱりこういう物は同種の目でもてもらうのが一番だろう。
「それでは素材の保管場所に案内します」
素材は何故か俺の屋敷内にある蔵で保存、薬草の類はかなり多い。精霊王曰く、森に入る人間が少なくなったのでその分採取されなくなったので余っているそうだ。
それをエルフの人達に採取してもらい、森に害のない程度に採取してもらった。
その薬草がある蔵へ案内すると部下の人が状態を確認している。
「ドルフ様、とてもいい状態です」
「そうですか、では買って行きましょう。それからリュウさん、例の品を持ってまいりました」
そういってまた部下の人が持ってきたのは宝石をあしらった豪華な箱、その中には注文していた実用性無視の剣が入っていた。
「これが例の?」
「はい、ドラゴンが喜ぶような金銀宝石をあしらった宝剣です」
「本当に目が痛い、これ本当に喜ぶかな?アオイ?」
「喜びますよリュウ様」
「そっか。それじゃこれにするか。マークさん、値段交渉よろしく」
「お任せ下さい」
マークさんが綺麗な礼で頭を下げた後、俺は後を任せた。値段交渉とかよく分からないし、現在の素材の価値もよく分からない。
ならよく知っている者に任せるのが正しいだろう。
その後ティア達にある事を伝えるために移動する。
「お~い元気に修業してるか~」
「あ、リュウ。元気に修業してるよ」
色んな魔物がティア達を見る様になったのであまり見張っておく必要がなくなったがそれでも毎日見に入っている。それが龍皇国との約束だし頼んでおいて後はほったらかしという訳にもいかない。
それと嬉しい事に現在のティアは知性ある魔物にあまり敵対心が出なくなっていた。そりゃ子供のフェンリルとかは吠える程度で言葉で話し合う事は出来ないがそれでも仲良くしている。
「リュウさん、たまにはこっちに付きっ切りになって下さいよ。私にだって仕事があるんですから」
「悪いなアリス、この間肉奢っただろ?」
「もうちょっと欲しいですね」
俺相手に交渉とはやる様になったなアリス。でもとりあえずその涎は拭け、女なんだから。
「リュウ君今日はどうかしたの?」
「そろそろ皆さんには次の段階に進んでもらおうかと思って話しに来ました」
「次?次は何するんだ?」
リューズさんが落ちていた石を拾いながら聞いてくる。確かあの石、めっちゃ堅いんだよな、後は特に利用方法とか知らんけど。
「そろそろ各自の特徴ごとに修業してもらおうと思いまして、今日はそのお知らせです」
「以前各自がやった奴か」
「そうですグランさんそれぞれの要望、希望を基に特化させていきます。あ、でもティアは俺が付き合うから」
「分かった。前にやった眼に頼らない方法だっけ」
「それもな。その他にアオイとかにも修業に付き合ってもらうから」
素直に頷く勇者パーティーにほっとしながらあともう一つ報告する。
「それと明日は修行休みな」
「え、お休み?」
相当意外だったみたいで戸惑うティア達、そこまで意外か。
「明日はみんな忙しいんだよ、だからティア達はその間ゆっくりしてていいぞ」
「あ、そういう理由なんだ。つまり修業に付き合えないって事なんだ」
「そういう事、だから明日は龍皇国でお祭りなんで楽しんできな」
「ああ、そういえば何かの式典の準備をしていたね。リュウもそれに参加するのかい?」
「そりゃ必要な事だからな」
必要な事でもあるが祝い事なら参加したいじゃないか。明日は久しぶりに俺と眷族達が全員集合する。最近は仕事の関係で会うのはいつも晩飯の時ぐらいだし、俺も嫁達と一緒に祭りに参加したいんだよ。
「リュウは……明日忙しいの?」
「午前中だけな。午後からは嫁達と一緒に祭りを楽しむ予定だ」
「えっとその……」
何やら言いずらそうにしているティアにパーティーの女性陣がぐっと拳を握りしめている。
ティアは意を決したように俺の目を見て言った。
「あ、明日一緒にお祭り巡ってくれませんか!」
何故か先程の修業より疲れているように息を荒げながら強い目線を送る。
祭りか……そういやティアとタイガと一緒に巡ったのは本当に子供の頃だけだったな。俺はタイガも誘おうかと思ったがやめた。もし三人で遊ぶような感じならこんな表情にはならないだろう。
それにまぁ……たまには付き合っても良いよな?
「分かった。一緒に行くか」
そういうとティアは本当にうれしそうな顔になった。どうせ俺がこの話に乗った事はウルにも知られているだろうからもし帰ってダメだと言われたら土下座でもしよう。
許して……くれるよな?
と言っても祭りは三日間行われる。流石に初日はダメだろうから三日目にティアと遊ぶか、嫁達とは二日目に遊ぼう。
頭の中で計画を練り、ティア達とは離れた。
明日は祭りだ。




