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side 大聖堂

 教会本国にある大聖堂の前に一人の女性が現れた。ボロボロの鎧で身を包み、武器も長い時間整備されていない様に見える。しかも雨の中を移動していたのか、ずぶ濡れで泥などで汚れている。

 大聖堂に居た者達は戦帰りの騎士でも来たのかと思っていたが長い前髪を後ろにどかすとその場にいた者達は驚いた。

 女性はその姿を見て動揺する聖職者に言う。


「突然の訪問、申し訳ございません。教皇様はご在でしょうか?」

「はい、今は執務の最中かと……どうなさったのですか?聖女様」

「教皇様に会わせていただいてもよろしいでしょうか?少々ご報告がございます」

「わ、分かりました。それよりお傷などは」

「自分で治しています。問題ありません」

「左様ですか、ではすぐに」

 聖職者が去ったのを見て鎧や武器を外す。札は濡れて使えないので聖堂の隅に置き、改めて自分の姿を見た。

 泥や返り血だけではなく途中襲われた魔物によってできた鎧や服の損傷が激しい、鎧の隙間から受けた攻撃によって多少の傷もある。

 正直この姿で大聖堂に入る事もためらったが他に服はないし、金もない。あまりにも大聖堂に入るには相応しくない姿だったが仕方がないと諦めた。

 彼女は一度出て服を絞ったがそれでもまだ汚いのは分かるがこれ以上はどうしようもない、改めて大聖堂の入り、大聖堂にある像の前で祈りを捧げる。


 像は魔物に剣を振りかざす男性、赤ん坊を抱きかかえる女性の二種類が一つになった像である。男性の像は戦いを意味し武力をもって護る男神であり、女性の像は慈悲を意味し愛をもって護る女神だ。

 基本的に祈りを捧げる際にはどちらか一方の像の前で祈りを捧げる。

 戦いに関する祈りなら男神、戦争や決闘の前に男神から勇気と力を得るために捧げる。愛に関する祈りなら女神、結婚や妊娠した際などに女神から寵愛を知るために捧げる。


 意味によって祈りを捧げる像を選ぶのが通常だが彼女は男神と女神の間で祈りを捧げた。その事にも大聖堂に居た者達は驚いた。

 意味によって祈る像を選択するため、女性が男神に祈る場合もあるし、男性が女神に祈りを捧げる事もあるがその中間、つまり男神と女神に祈りを同時に捧げる者は少ない。

 多くの場合は男性、戦場に立つ騎士が妊娠した妻のために祈りを捧げるなどと言った特殊の事がない限り祈る事はない。もしくは何らかの覚悟を決めた者の多くがその男神と女神に祈りを捧げる。

 その事をもちろん知っている大聖堂にいる者達は何事かと思う。

 その光景を教皇も見ていた。


「どうなさったのですか、聖女ヒカリ。突然の訪問に神々への祈り、ただ事ではないようですが」

「突然の訪問、申し訳ありません教皇様。本日は教皇様にお願いがあって参りました」

 ヒカリは教皇を居た事を知ると祈りから教皇に向けて騎士としての礼で返す。


「お願いを聞く前にまずは服と身体の汚れを落としましょう」

 そう教皇が言い、ヒカリを招く。隅に置いていた鎧とレイピアは既に聖職者達に回収されている。教皇の世話役であるシスターは笑いながらも何も言わず、ただ教皇に付き従っている。

 大聖堂にある身を清める場所とは違う場所に通された。


「ここで身を清めてください。他の者に頼み、替えの服も用意しましょう。シスター、彼女を綺麗にしてあげてください」

「承知しました」

 教皇が部屋からいなくなり服を脱ぐ。シスターは魔術で作り出した温水でヒカリを洗い出した。


「あの、一人で洗えますが?」

「教皇様は綺麗にとおっしゃいました。それに聖女様は疲労も溜まっている様ですから」

 そう言いながら手際よく泥を洗い流していく、人に洗ってもらう事に違和感を思いつつも素直に洗われる。

 実際ここまで走って来たのだし、夜も一人では魔物どころか野生の獣に襲われる可能性があり、ろくに休めてもいなかったのでありがたかった。

 大人しく洗われ終えると下着から服まですべて貸してもらった。服に関してはシスター服だったが特に違和感なく着こなす、騎士として過ごしていた時間が長いが本来はシスターであるのだから当然と言えば当然である。

 その後教皇の部屋へと通され向かい合う。


「それでお願いとは?」

「私を聖騎士団へと入団させていただけないでしょうか」

 シスターが淹れてくれた紅茶に口を付けていた教皇がその手を止める。確かに聖女が聖女と呼ばれる以前に聖騎士団、教会が所持している騎士団、に入団しないかと誘った事はあるが勇者と共に居ると決めた彼女自身が断った話のはずだからだ。

 教皇はカップを置き彼女に聞く。


「それはまた突然のお話、我々としましては嬉しい限りですが勇者様はその事をご存じで?」

「いいえ、ティアとは違う形で力を得たかったので」

「ご説明していただけますか」

 そして彼女は話し始める。大森林での修行の事、巨大な狼型の魔物に追い掛け回された事、そしてティアの幼馴染と決別した事を話した。

 そして自分で考えた結果、聖騎士団にに入団する事が最も良いと考えに至った事を教皇に伝えた。


「そうでしたか、それは大変でしたね。それにしても大森林に、ですか」

「はい、私はティアと違う方法で力を得たくてここに参りました」

「……勇者ティアとは別の道を歩むことにためらいはないのですね」

「道は違えど目指すものは同じだと信じていますから」

「分かりました。では私の方から聖女ヒカリを聖騎士団への入団手続きをしましょう。それまではゆっくりとお休みください。シスター、彼女に部屋の手配を」

「分かりました、教皇様」

 こうして聖女ヒカリの聖騎士団入団は正式に決まった。

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