怒られた
「ただいま」
普段より遅い帰宅だ。いつもはもっと早く帰って来て晩飯の準備をするんだが今日は修行の事や色々あって遅れた。
皆腹空かせてないと良いけど。
「お帰りなさいませ。御夕飯はこちらでご用意させていただきました」
「あ、悪い。結構遅れたからな、もう皆飯食ったか?」
「まだですよ。準備には間に合わないと思い、料理はしていましたが作りたてです」
「あ、リュウお帰り!ご飯丁度出来たよ」
アオイの説明中にリルが現れて手招きする。どうやら本当に今出来たばかりの様だ。
「今行く。でも本当に悪いな。普段は作らせてもらってるのに」
「私としてはこの方が通常ですよ。屋敷の主が趣味ならいざ知らず、妻や屋敷の者に自ら料理などいたしませんから」
「ま、それも俺の我儘なだけだけどな。調教師のスキルを生かす場を出来るだけ作りたかっただけだし」
「リュウ様は多忙なのですから少しぐらい甘えてください。夜だけではなく」
「…………ま、これから甘えさせてもらうよ」
「お願いします」
俺としては十分甘えさせてもらってる感じなんだけどな。
森の異常や魔物を狩りに来た人間が居ないかの監視、街の建設作業に魔物と龍皇国の者の小競り合いなど目の届かない部分を手伝ってもらっているので十分だ。ダハーカは町を守る結界の開発など頼んでいるし。
しばらくは慣れるまで頑張りたいところだな。
食堂に入ると俺とアオイ以外は皆座っていた。料理を前に大人しく待ってる。
「遅れて悪かったな。それじゃ食おう」
そう言うとすぐに食事が始まった。メイド達の料理は極上だし本当に美味い。
基本的に森で狩ってきた動物や知性のない魔物がメインのはずだがいつもよくこんなに狩って来るな、本当に今年は飽食の様だ。
「リュウ、こんな時だけど良い?」
「ん?どうした」
「聖女の事、良いの?脅威になる気がするけど」
リルの懸念はもっともだ。今日になるのなら今の内に殺す方が得策だと俺も思う。
でも敵は聖女だけじゃない。その後ろに居る教会連中が厄介だ。調べたところ、それなりに強い存在も多く居るそうだし、何より例の教皇。あの魔物嫌いをどうにかしないと国として認められる事は一生ないだろう。
例え現教皇が死んだとしても新教皇が現教皇と同じ思考をしているのなら戦いは長引く、その時俺が居るとは限らない。魔王化の影響でまだ人間であるのかは謎だが一応普通の人間同じ寿命であると想定するなら今の内に脅威を減らしたい。
そのための投資の様なものだ。今回は。
「恐らく脅威になる可能性が高いがその時は俺が戦うから問題ない。戦う場所も森ではなく他の場所でするさ。マークさん、今の聖女はどうしてる?」
「現在の聖女は教会本国に向かって移動中です。この調子ならおそらく四日後には到着するかと」
「そうか。聖女の監視もしながら他の仕事も任せるだろうから無理せず監視を頼む」
「お任せ下さい」
「そう言う事なら問題ないけど」
何故かリルは浮かない顔をしている。やはり聖女は相当危険な存在と認識しているのだろうか。
「あ、私も報告。精霊王が樹を切っても良い場所あるって」
カリンに任せたのは前にエレンから聞いた要望に適した場所探しだ。
カリンは翼を持っているので移動しやすいし上空から見る事で分かる事もある。なので土地に関する仕事を任せていた。
と言っても実際に検討するのは精霊王達で、どの樹を切っても良いか、切ってはいけないのか調べてもらっている。とりあえず今は畑として使っても良い場所とエレンの言っていた花畑にしても良い場所を探してもらっていた。
「そこって町から近いのか?」
「ちょっと歩くけど遠いって言う程の距離じゃないよ。ちなみに畑もその近くに作っても良いって。でも樹を切るのに少し苦労しそう」
「そう言う時こそ他の魔物達にでも協力してもらえば良い。魔物達からの反対意見もないんだろ?」
「ないよ。それじゃ今度お願いしてみるね」
「頼んだ」
「……ご飯ぐらい仕事の話をしなくても良いのに」
リルがそう言ったのが聞こえたが仕方ないだろ。皆に話しておく会話としてはこう言う場の方が楽だし。
「それでは私の方からも一つ報告しよう。もう直ぐ結界が完成する。完成後は直ぐに展開して良いのだろ?」
「あ、念のため他の所で試してからにしてくれダハーカ。一応アオイやマークさんの意見も聞きたい」
「では完成後、改めて報告しよう」
こんな調子で結局飯が終わるまで話し合った。
その時は既に皿の上の物は食い終わっていたし仕事の事で話す事も終わったしもういいだろう。そう思い今は自室のベットでごろごろしている。
そうしていると狼の姿のリルが入って来て俺に擦り寄って来る。
「ん?どうした?」
俺がそう言っても何も言わずにただ身体を擦り付ける。理由とかは分からないが取り合えずリルの頭を撫でる。
そうしていると他の女性陣、カリンやオウカ、アオイも入って来る。この三人は人型のままだ。
「あ、お姉ちゃんもう甘えてる」
「私よりも子供っぽい所があるのだ」
「リュウ様、失礼します」
「あれ?皆も来たんだ。なんか報告でもあんのか?」
「お父さん仕事の話ばっかり、ただ甘えに来ただけだよ」
「リュウよ。少し仕事に力を入れ過ぎではないか?こうして会いに来た時も報告だ仕事だと。もう少し好きにしても良いのでは?」
「私はリュウ様を甘やかしに来ました。仕事を真面目に取り組む点はよろしいですが少々お疲れの様です。ですので少しマッサージでもしてリラックスしていただこうかと」
「……俺そんなに疲れた顔してた?」
リルを撫でているのと反対の手で自分の顔を触ってみるがやっぱり分からない。
リルはようやく口を開いた。
『疲れてるって言うよりも私達に全然構ってくれないじゃない。帰って来たらご飯食べて、お風呂入ってすぐ寝ちゃうじゃない。お陰で寂しい』
「あ、悪い。確かに最近構ってなかったな」
思い返すと戦後の町計画の時から余り構ってやれなかったかも知れない。協力してくれる魔物の集めだとか龍皇や精霊王との話し合いなど少しずつ構ってやれない時間が増えていたかも。俺自身忙しく感じていたしほったらかしにしてたかも、こりゃ反省しないと。
そう思っているとアオイがそっと俺の後ろに回って肩を揉んでくれる。あ~なんか気持ち良いんだよなこれ。
「リュウ様、一度寝てください。全身マッサージしますので」
「あ、私も手伝う」
「私もなのだ!」
「ありがとうございます、カリン様、オウカ様。では動けないようにしっかり押さえこんでください」
え?なんか不穏な話が!?
「いだだだだだだだだ!ちょ!マジで痛い‼痛いって‼」
「身体の疲れを取ると同時にお仕置きです。意外とすっきりしますよ」
「ど、どこでこんな事を‼」
「ハガネ様にお聞きしました。東ではこう言ったマッサージが良いと」
師匠ー!なんてものをアオイに教えてくれたんだ!
「それに最近は修練も余りしていないでしょう。そう言った事も含めて矯正します」
「た、助けてくれリル‼カリン‼オウカ‼」
「私も手伝います」
「天誅ー」
「放ったらかしの罰なのだ」
「マジかぁぁぁぁ‼」
こうして俺は痛いマッサージを行使されまくった。アオイに様々な体勢にされゴキゴキと身体中から音が鳴る。最後の方は抵抗を止め、諦めた。仕事ばっかで放ったらかしにしてた罪は思っていた以上に厳しいものだった。
「これでお終いです。スッキリしたでしょう?」
「あぁ痛かった。でも確かに効果はあったな」
マッサージと言うよりは体の筋肉や骨の位置を矯正した様だが効果は確かなものだ。先程より身体がよく動く。
ベッドに寝るとリル達は俺に被さる様にくっ付いて来る。
「今度はどこをマッサージするつもりだ?」
「今度は私達をマッサージしてほしいな。エッチな意味で」
「……今は発情期じゃないよな?」
「関係ないよ。人間はこう言うのを愛情表現でもするって聞いたよ」
「まぁ……間違ってもないか」
他の人のそう言う話は聞いていないが俺もしたいし深くは考えなくていいか。
「ならパパに甘やかしてほしいな」
「私も良いのか?」
「オウカ様はまだ身体が成熟していませんので軽くお願いします」
どうやらマッサージするのは決定事項の様だ。
「なら全員そこに寝ろ。甘やかしてやる」




