独断
飯の後、少し休憩を取っている。子供達も腹いっぱいになったのか、欠伸をして寝ようとしている。やっぱり子供は食って遊んで寝てを繰り返す方が健康っぽく感じる。
そしてティア達の一部、グレンさんと鍛冶師の人が食い過ぎでダウンしていた。何とも情けない。
「二人とも大人なんですからその辺の加減ぐらい出来てくださいよ」
「すまん」
「あ~美味かった」
木に寄り掛かって腹をさする姿は何とも言えない。とりあえずこの二人が回復するまでは休憩だな。元々食ってすぐ修業、と言うつもりはなかったけど。
ただ一部暗い雰囲気を出している人が居た。マリアさんと魔術師の人だ。
「どうしたんですか?肉、口に合いませんでした?」
「あ、美味しくいただきました。でも……」
「あれを見た後だと少しですね……」
と言って目を逸らすのでその先を見ると綺麗に骨と皮だけになったボアの姿がある。まだ一部血が付着していてちょっと生々しかったか?
「あ~目の前で捌いたのでちょっと気持ち悪くなっちゃいましたか?」
「いえ、旅で現地調達と言う事はたまにありますのでお気になさらず。ただ……」
「ジャイアントボアを倒すのはちょっと」
魔術師の人の後にマリアさんが続く。つまり狩るのに自信が無いって事なのか?
「まぁ、俺も最初大変でしたしすぐこのぐらいは狩れるようになりますよ。と言っても俺の場合は剣ででしたが」
「魔術で斬れますかね?」
「魔術耐性は低い方なので斬れますよ。と言っても大きいので一発で斬るとしたら少し苦労するかもしれません」
「だから剣なんですね。それでも十分凄いと思いますが」
「リュウちゃんの力って有名人で言うと誰ぐらいになりますかね?」
「どうでしょうか?ティアさんも超えていますしそうなると魔王と同等でしょうか?」
「それは言い過ぎじゃありませんか?リュウちゃんだって人間ですよ」
マリアさん、すみません。称号魔王なら持ってます。お陰で正直まだ人間であるかよく分からないんですよ。
それにカリンの母親以外の魔王をよく知らない。倒したのは偽物だったしカリンの母親には力に耐えただけで勝てたかどうかと言われたら多分勝てなかったと思う。
まだ魔王になる前だったと言う事もあるが基本的に強大な力を持った長命種には経験の部分で大きく差が開いている。そう言った事を考えると魔王になったからと高を括っては簡単に滅ぼされるだろう。俺の事に気付いているかどうかも分からないが。
「ま、ジャイアントボアは中の下、ぐらいの強さなのですぐに追い越せますよ。それに一人で狩れなんて言うつもりもありませんし。ティア達と協力してくれば良いんですから」
「私の場合は攻撃力弱いから心配なんだけどね」
「付加術も使えますし主に回復の方が専門なんですよね。ならそちらに集中しても良いのでは?多くの仲間が居るんですから
「ありがとリュウちゃん。それじゃ防御はローゼンさんに任せます」
「待って下さい‼そこは状況に合わせて分業としましょうよ‼もともと私は攻撃魔術の方が得意なんですから!」
そんな会話を後にして次に向かったのはアリスとゲンさんの二人だ。
アリスに懐いているフェンリルの子供に恐る恐る触ろうとしている姿はなんだか不思議な感じだ。アリスは子供の腹に抱き着いている。
「隊長、そんな風にしなくても大丈夫ですよ」
「だがフェンリルに触れるのはこれが初めてだぞ。普通はビビるって」
「もう隊長はビビりですね。私はすぐこの子と仲良くなりましたよ。ね~」
アリスの声に反応して更にアリスを包むように丸くなる。アリスは嬉しそうに包まれるがゲンさんは手を引っ込めてしまった。
「何してんですか」
「ん?リュウか。ちょっと触れてみたくてな」
「意外とこういうの好きですか?」
「特別好きと言う訳でもないが貴重だなと思ってな。触れてみようと思ったんだがどうもタイミングが」
「隊長、この子達本当に良い子ですよ。嫌がってもいませんしドーンと行ってみましょう」
「相手は子供とは言えフェンリルだぞ!失敗したら腕がなくなる」
腕で済めば良いけどな。親父さんの時は普通に死にそうになった事の方が多かった気がするしな。
実戦に近い修業の時は大抵親父さんが出て来たからな……
「別に変な所に触らなければ大丈夫ですよ。まずは顔の前に手を出して待ってみましょう。後はこの子の方から接してくれるのを待つのも一つの方法ですよ」
「……その方が安全そうだな」
そう言ってそっと手を伸ばすゲンさん。肝心の子供は何だか眠たい様でウトウトしてる。
今日は無理そうだな。
「今日は諦めましょうか」
「……そうだな」
「隊長残念。リュウさん、私も少し寝ますね」
「おう、お休み」
「お休みなさいです」
そう言ってすぐに寝た。ほんとアリスはすぐに寝れるよな。子供の方ももう寝てるし、早く大きく育てよ~
「ゲンさんはどうします?」
「俺もどっか適当に過ごす。寝てる間に魔物に襲われたくないからな」
「それは多分大丈夫だと思いますけどね。じゃ、また」
正直に言うと大人のフェンリル達がちゃんと見守っているので問題はない。と言うかフェンリルを襲うとする生物と言うか魔物がそもそもいないのだ。爺さんを怒らせるとヤバいからな。
そして次にティア達に会おうと思って探すとどうやら町の方に向かっている様だ。気配は三、おそらく聖女も居る。と言うか聖女の発案の可能性が高い。
まだ町は完成してないしティア達はともかく聖女は信頼していない。一応脅してはおいたがそれでも聞かないなら無理矢理連れ戻すしかないな。ティアの仲間って事もあるし出来るだけ穏便に済ませたいところだが……
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「ヒカリ、どこに向かってるの?」
「あの多くの魔力を感じる場所です。修業と言って移動した時に何かから遠ざけようとしていた気がしますから」
「行かない方が良いんじゃない?リュウだって秘密の一つや二つあるでしょ」
「その秘密が問題なのです。相手は普通じゃないのですから」
ヒカリは私達の食事が終わるとすぐに行動を始めた。ヒカリがリュウの事を信用していない事は分かっているが行動に移すのが早過ぎる。気付いた私はタイガを連れてヒカリと共に行動していた。
あくまで予想だが多く魔物が揃っているであろう場所はおそらくリュウが作っている途中の町ではないかと予想している。リュウは最近慎重に行動している気がした。まだ断片的な事しか知らないがおそらく町の魔物のために頑張っているのだろう。
その町に興味は私もあるが勝手に覗いてはいけないと思う。
「でもすごく怒られると思うよ。あの時本気で言ってたじゃない」
あの言葉は本気だ。冷たく、確実に殺そうとしている者の目だ。
「ヒカリ、考え直してくれないかな?君の行動が僕達にも影響すると思うと気が気じゃない」
「それは殺そうとした場合のみですよ。ただ覗くだけなら問題ありません」
「とっくにばれてると僕は思うけどな」
「それでも確認しないといけません。信用していないのは私も同じですから」
これは一問題起きそうな気がする。
 




