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遊びの後

「……とりあえず鬼ごっこしようか」

 リュウが狩りに出かけた後、取り残された私達はリュウの言う通り鬼ごっこをしようと考えていた。一分後と言っていたしとにかく今はこの場から逃げないと。


「本当にこれが修業になるんでしょうか?」

 ようやくヒカリが喋った。リュウの事を警戒していたので話し掛け辛かったがもう良さそうだ。


「思っている以上に修業になりますよ。それじゃ僕はお先に」

「その、皆さん頑張りましょう」

「そうだな。必死に逃げねぇと大変な目に遭うだろうからな」

 経験者は早々に逃げる。まだフェンリルの子供達は尻尾を振って待っている。可愛く見えるがその本性は決して可愛くはない事を知っているので私も逃げよう。


「ヒカリ、ローゼンさんにリューズさん。本気で逃げてくださいね、多分助ける余裕なんてありませんから」

 一応一言だけ言ってから逃げだす。多分もうすぐ始まる。走りながらマリアさんに教えてもらった付与術を自分に掛ける。まだそんなに慣れていない術なので一つ二つしか掛けれないがないよりはマシだろう。

 それにしてもリュウの言う通り森の中はとても走り辛い。整備されておらず、木の根や石、コケなどが足を滑らせる材料となるので足場にも注意しないといけない。

 そう言えばゲンさんは直ぐどこかに行ってしまった。おそらくスキル全てを使って隠れる事でやり過ごそうと考えているのかも知れない。情報部隊長の名は伊達じゃないと改めて知った。


 走っていると狼の遠吠えが聞こえた。恐らく鬼ごっこが始まったのだろう。

 ここから私は狩られる対象として追い掛け回される。リュウが以前教えてくれた事を全て使って逃げ切ろう。

 そう思い私は木を登り始めた。相手はフェンリルの子供と言えど狼である事に違いはない。樹の上には来れないはず。そう思っての行動だ。

 これで一応の逃げ場が出来たと安心しているととても素早い動きで追い掛けて来る姿が微かに見えた。まだ目で追い切れないが以前教えてもらった気配を察するやり方ならどうにか分かる。

 やって来たのは二匹の子供、おそらく匂いを頼りにここまで来たのだろう。立ち止まり、頻りに顔を動かしていると子供達が同時に私を見つけた。そして何となく嫌な予感がした。

 私は大慌てで逃げ出すと何と子供達が跳んで来た!


「嘘でしょ!」

 恐らく風の魔術を使って飛距離を伸ばしたのだろうが普通じゃあり得ない光景だ。確かに風を利用した速度を速くする術は知っている。しかし巨木の枝に飛び移る程の威力はないはずだ。単なる身体能力の差なのか、はたまた術の熟練度が違うのかはっきりとした理由は分からないがとにかく今は逃げないといけない!

 樹の上で枝を足場に鬼ごっこは続いたがそう言えばもう一匹はどこに行った?

 そう思った瞬間黒くて柔らかい物にぶつかった。何だろうと思っているとフェンリルの子供が先程よりも大きくなった状態ではっはと息をしていた。どうやら一匹が誘導し、もう一匹が待ち伏せていた様だ。


「あ~あ。負けちゃった」

 そう言って大人しくすると待ち伏せしていた子が私の襟を噛んで樹から飛び降りる。つい目を閉じてしまったがまるで衝撃を感じさせない様に降りてくれたので私は無傷だ。

 本当に狼なんだよね?猫じゃないよね?

 そう感じているとこの子は私を咥えたままどこかに向かう。恐らくスタート地点に戻るのだろう。そう言えばこの鬼ごっこ、いつまで続ければいいのだろう?


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「ふう。今日はこんなもんで良いか」

「リュウさんって事ある毎にビックボアの成体を狩ってますけど好きなんですか?」

「好き嫌いというよりは量が多いからな。大抵この一匹でおチビ達の飯は稼げるし、多く生息してるからな。オークじゃ何十匹狩れば済むか分からないし」

 今日偶然見つけたビックボアの群れの中から年老いた一匹を狩り、引きずって持ち帰っていた。相当の婆さんボアだった様でもうすぐ死ぬような雰囲気があった。そう言った場合は赤ん坊を狙わず、こういった年寄りから狩っている。

 不思議なもので特に抵抗らしい抵抗もなく静かに殺されるのだ。俺はそんなボアの命を奪い、今日の飯として食う。相手の死期の近さを察するのも爺さん達から教わったな。


「でもこのボア美味しいんですか?市場で出てる年老いた鶏なんかはあまり美味しくありませんけど」

「意外と美味いぞ。熟してるって言えばいいのかな?多分魔力があるから年食っても若々しい肉体なんじゃないか?きちんと検証とかした事無いからはっきりとは分かんないけど」

「へー。だから魔物の皆さんは若いんですね」

「爺さんも人間型だと若く見えるしな。魔物の時間の感覚にもよるんだろうけど」

 アリスに付いてきた子は早くこのボアを食べたそうにそわそわしている。それでも食べないのは狩った者が優先的に食べるという事と、偉い物から食べるという躾を爺さん達から受けているからだ。この辺は動物も人間もあまり変わりないな。

 今回狩ったのは二人と一匹なので、この子が三番目に優先的に美味い所を食えるのだから滅多にない事だろう。それと何故かアリスがそれなりに偉い地位に居るのは意外と驚きだったりする。正確に言うと子供以上、大人未満の地位だから微妙な場所だが。


「おーい。ただいまーってまたこれか」

 子供達が鼻先でつんつんされているのは勇者パーティー全員だ。皆地に背を付けて荒い息を整えている。

 特にひどいのは魔術師の人だ。


「随分白熱したみたいだな。食前の軽い遊びとして言ったんだがそんなにか」

「ゲホッゲホ……リュウ、食前の、運動じゃない」

「思いっきり、修業じゃない……!ゲホ」

「それより飯だ。ここで調理するから少し待ってな。喉渇いたなら血でも飲むか?」

 そう言ったら全員が思いっきり首を振った。ダメか。そんな汚くないのに。

 俺は包丁代わりにロウで綺麗に捌いていく。一応皮は取っといているのだがいい加減売りにでも出すかな?大森林のは貴重になってきてるらしいし。

 他の遊び終わったばかりの子供達ははっはと涎を垂らしながら大人しく待っている。俺は皮を捌き終えると腹から切り裂き一番美味い内臓を取り出す。次にアリスだがアリスはもも肉が好み、そこをアリスが食べる分だけ切り取る。


「もういいぞ」

 そう言った瞬間子供達は我先にと腹に頭を突っ込んで内臓を食べる。顔を血塗れにしながら食べる姿何となく気持ちいい。普段は大人達が食べ終わった後の肉が多い子供達にとってはたまにしか食えない貴重な食材なのだ。この森に入ってから気が付いた事の一つだ。内臓は美味い‼


「じゃ、こっちはこっちで調理するか」

「あっれ?あっちで食べるんじゃないの?」

「あっちで食うのは朝と夜だけ。昼は自力だ。今日は俺のを分けるが明日から自力で頑張れよ。その分朝は軽い遊びシリーズにしとくから」

「全然軽くない……」

 聞いてきたのはティアで文句を言ったのはタイガだ。後方支援系にはきついのかマリアさんと魔術師の人から魂が抜け出るようなイメージが見えた気がするが気にしないでおこう。そうしないとこの森は生き抜けないからな。


 俺はあらかじめ用意しておいたフライパンで焼くだけの簡単な飯を作る。乾いた枝を薪にして魔術で火を点け焼いていく。途中森で生えてた香草も一緒に焼きそれでお終い。

 ジャイアントボアの焼肉完成!


「ほいアリスの分」

「ありがとうございます!いただきます!」

 アリスは早速肉に齧り付く、アリスもワイルドになったもんだ。前までトイレ探そうとしたり、ナイフやらフォークやらを使ていた頃が懐かしい。今では手掴みで食ってる。

 食べ終わった子供達は寝息を立てる。やはり表面と言うか肉の部分が結構残っている。大好きな内臓ばかり食べた証拠だ。でも残った肉はティア達に食べさせよう。

 俺は一足先に焼いた内臓を食ってるけど。

 余った肉を綺麗にそぎ落とし、次々と焼いていく。そうすると一部の人の腹が鳴った。

 鳴いたのはグレンさんとゲンさんだ。ティアは腹を鳴らしたりはしないがじっと肉を見ている。


「こっちはお前らの分だから食っていいぞ」

「本当かリュウ!」

「分けるって言ったじゃないですか」

「素直に食わせてもらうぞ」

「ティアも食え」

「でも手とか洗ってないし、フォークも」

「手は自分で水の魔術でも使って洗え。それと手があんだから手を使え。アリスの様に」

「…………」

 両手で肉を持ち、食い付く姿は女とは思えない物になっているがご愛敬。洗ったデカい葉に置くとちょっと戸惑いながらも教会式の祈りをしてから食い付いた。マリアさんやタイガも少しずつ復活し、肉に手を付けるが聖女だけは手を出そうとしない。


「食わねぇのか?」

「結構です。断食には慣れておりますので」

「そんな事言ってると倒れるから食っとけ。ここには宗教も何も関係ないんだから」

「結構です」

「あっそ」

 そんな無理に食わせる程の仲でもない。食いたくないなら食わなきゃいい。

 俺は肉を焼きながら接するのだった。

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