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まずは鬼ごっこ

 俺は玉座の間から出てティア達を迎えに行った。修業は大森林で行うので移動時間も含めると出来るだけ早く行動した方が良い。集合場所とかは話していなかったので直接部屋に行く方が楽だろう。それに万象感知でどこに居るのかは分かるしな。

 感知で分かったのは男女で部屋が違い、大部屋に居る事。どうやら家族連れ用の大部屋を貸した様だ。その方が監視もしやすく、負担も少ないって事かな?

 とりあえず俺は男子部屋の方から声を掛けた。


「おーい、準備出来てるか?」

「うん。出来てるよ」

「魔術師の人、ローゼンさんだっけ?なんかやつれてるけど大丈夫か?」

「龍皇と会って少し疲れたみたい。でも準備は出来てるよ」

「そっか。じゃ、次は女子を呼びに行くから中庭で待ってて」

「了解」

 そんじゃ次は女子部屋だな。女子部屋は男子部屋から一部屋挟んだ所にある。

 しかし何故かメイドの一人が扉の前で立っていた。


「リュウ様、現在勇者殿達は着替えております」

「あ、それで扉の前に居たのか。それじゃティア達に伝えといてくれないかな?着替え終わったら中庭に集合だって」

「承知しました」

 まだ着替えてたのか。何でこう人間の女ってのは時間が掛かるんだろ?どうせ動きやすい服に着替えるだけだろうに。それとも本気用の甲冑でも着こんでるのか?

 色々考えながら中庭に着くとタイガ達男子組は既に居た。タイガ、グレンさん、ゲンさんは準備運動をしながら。

 鍛冶師の人は何か修業とは関係なさそうな物を拭いたりしている。ガラス管を丁寧に拭いたり、何かの採取道具なのか大きめの瓶を拭いている。

 魔術師の人は小さくうずくまって暗い雰囲気を出している。


「よ、準備よさそうだな」

「そうだね。僕達はリュウのやり方を経験してるけど他の三人は正直不安かな。一応僕やグレンさんの方で説明した時はローゼンさんがものすごく嫌そうな顔をしてたよ」

「普通の魔術師は身体なんて鍛えないだろうからな。そりゃ浮かない顔になるわな」

「あいつにはいい機会だと俺は思うがな。バカにしてた分、苦労すればいい」

 グレンさんが悪そうな笑みを浮かべながら魔術師の人を見てる。ティアの話曰く、様々な事でよく喧嘩していた関係だと言ってた。

 俺は次にゲンさんに聞いてみた。


「どうです?調子は?」

「緊張してるって言った感じか。お嬢ちゃん達がボロボロになるのを見てたからこの企画が決まる前から準備してたよ」

「そこまでですか」

「普段諜報を中心にしてると体力とかも使わないからな。こういうのは訓練時代以来だよ。手加減してくれよ」

「俺は今日直接鍛える事はしませんよ。今日は軽めの体力作りですから」

「本当に軽いんだよな?」

 不安そうに言うゲンさんを置いておいて何やら不気味な笑みを浮かべている鍛冶の人に声を掛けた。


「ガラス管を拭きながら何笑ってるんですか?」

「おうリュウ。これから大森林に行くだろ。それで貴重な素材を採取できたらと思って準備してたんだよ」

「多分そんな余裕ないと思いますよ?」

「一応だよ一応。ちゃんと修業の方もするから見逃してくれって」

「見逃しはしますが壊れても知りませんよ?」

「その辺は自分でどうにかするって」

 そう言って笑う鍛冶師の人、本当に大丈夫なんだよな?

 そして最後、ストレスに弱そうな魔術師の人。


「大丈夫ですか?」

「ああ、リュウ君。よく君は龍皇に対して怖じ気付かなかったね。私はあの場に居るだけ動けなくなったよ」

「ま……慣れですね。この森に住んでからかなりお世話になってますから」

「そうなのかい?ああでも私が国王の護衛に慣れたのと似たようなものなのかな?」

「俺の場合はちょっと違いますけど多分似たようなものじゃないでしょうか?」

「そうか慣れか……ごめんね。私は少し考えすぎてしまう事が多いから心配をかけたね」

「いえ仕方ないですよ。相手が大物なんですから」

 少しだけリラックス出来た様なので安心した。


「すみません!遅れました‼」

 声が聞こえたので振り返ってみるとティア達が駆け寄って来た。時間が掛かっていたにしては軽装備、なんに時間が掛かってたんだ?


「そんじゃ全員集まったところで修業始めるぞ。まずは大森林に向かうから。修業内容は歩きながら説明する」

「ここから大森林まで歩いて行くの?」

「設置型の転移装置で行けるからそっから大森林に行くぞ。だから思う存分修業しな」

 町を建設する際に一緒に作った転移装置、普段はここから工事をしてくれているドラコ・ニュートやリザードマン達が転移している。その分町に近いがその後町から離す様に移動すれば問題ないだろう。

 また聖女が俺にキツイ目線を送るが無視した。


「リュウ、この装置とかもだけど人間の町より相当設備が良いんじゃない?」

「それはどうだろう?俺んとこはまだ発展中だし、何とも言えねぇな」

「……この国以上に発展させる気なの?」

「せめて同等にならなきゃ俺の夢は実現しないだろうよ」

 小声でティアと話すとため息が聞こえた。呆れているような感じに聞こえる。


「それじゃ修業説明始めるぞ。今回は軽い鬼ごっこだ。ティア達が経験した奴な。経験した事の無い人達は大丈夫か?」

「例の狼との鬼ごっこですか。ちなみに付加術はよろしいのですか?」

「おい!ずりーぞローゼン!」

「良いですよ。ルールは鬼ごっこなので捕まらなければそれで良いです。ただし殺し合いにならない様に気を付けてくださいね」

 最低限のルールだけは言っておいて後は何でもあり。鍛冶の人はずるいだのなんだの言っているが生き残るのにずるいも何もない。


「なら俺もアイテムを使わせてもらうぞ。良いよなリュウ」

「戦わない物でしたらご自由にどうぞ」

「良し。なら新開発のこいつで実験してやる」

 何やら実験とか言ってるが不良品じゃないよな?


「そういやアリスはどうする?一緒に逃げるか?それとも俺と一緒に待つ?」

「私も鬼ごっこに参加しますよ。あの子達と最近遊んであげてなかったので」

「じゃ、アリスも参加な。それと一応注意事項だが森の中はもちろん整備されていないので足元注意でお願いしますっと。ここだここ」

 俺達は町の外れにある小さな石製の前に着いた。四角い俺の腰ぐらいまでしかない小さな石、それにダハーカが付与してくれた転移の術でもう一つの俺の町にある全く同じ石に転移出来る。俺は先にそれに触れて魔力を流すと一瞬で転移した。

 俺が転移した後すぐに一人ずつ転移してくる。これの欠点は一人ずつしか転移出来ない所だな。改良したほうが良いのか……

 ま、それはまた今度考えよう。俺はティア達を連れて町から遠ざけながら修業場所に移動した。


「随分と深いな。ここまで奥深くに来るのは初めてだ」

「皆初めてだと思いますよ。大森林の中心部にはまだ誰も確認出来ていない化物が存在すると言う噂ですから」

 そんな噂があるんだ。ま、確かに化物じみた連中が居るのは間違いない。

 そして俺は途中で止まり、笛を吹いた。人の耳には聞こえない笛、いわゆる犬笛と言う奴だ。それを吹いて子供達を呼ぶ。


「リュウ、その笛壊れてない?」

「と言うか何を呼ぼうとしたんですか?」

「ん?壊れてないしちゃんと呼べてるぞ。ほら来た」

 まだ遠くの場所からフェンリルの子供達が走って来るのが見えた。木陰に混じって近付いて来るため黒い毛並みが上手く姿を隠している。

 そして一匹がアリスに跳びかかった。


「キャッ!」

「‼アリス!」

「もう脅かせないでよ」

 ゲンさんはアリスが跳びかかられた事で驚いていたが問題ない。この子は特にアリスと仲の良い子供だ。実際今もアリスの顔を舐めて、尻尾を思いっきり振っている。

 他の子達はお行儀よく待機中だ。


「こーら、そこまでにしな。一緒に居たいのは分かったからそろそろ止めとけ」

「そうだよ。すぐに遊んであげるからちょっとだけ待ってね」

 アリスがそう言うと素直に他の子達と同様にお行儀よくお座りをした。


「そんじゃ修業を始めます。この子達と鬼ごっこ、鬼はこの子達で逃げるのは皆さんです」

「…………リュウ、多過ぎない?」

「え、多いか?普通だろ普通」

「普通じゃないよ‼こんなに多くの子達と鬼ごっこだなんて絶対に直ぐ負けちゃうよ‼」

 子供の数は全員で十四匹、出生率が低いせいであまり多くないと俺は思っているのだが多いか?


「でも十四対九人だろ?俺よりマシじゃん」

「マシってまさか」

「こいつら全員対俺一人に比べれば十分勝率上がるだろ」

 俺の修業時代は常にこの子達と鬼ごっこをしていた。爺さんは『子供達のいい狩りの練習にもなる』と言って集団で襲い掛かれたものだからマジで地獄。たまに親父さんとか大人のフェンリルも混じっての鬼ごっこ大会の時は本当にあの手この手で逃げまくるしかなかった。

 それに比べれば自分に襲って来る割合が少しでも減るだけでも十分楽になると思う。


「そんじゃ一分後にスタートな。後俺ちょっと居なくなるから」

「え、何で!?」

「飯の調達だよ。基本自給自足の毎日だからな。お前らもこの森で生きるならそこまでしてもらうぞ。今日は俺が狩って来るから良いけど」

「自分でこの辺りの魔物を狩って食べるんですか?自分の力だけで?」

「あ、そこはパーティー組んで良いですよ。俺もいきなり一人で狩りしてた訳じゃありませんから」

「なら私も行きます。この子も一緒でも良いですか?」

「どうする?遊ぶのと狩りするの?」

 アリスに懐いてる子に聞くと一度だけ鳴いて尻尾を振る。問題ない様だな。


「じゃ、一狩り行ってくる。見張りは既に呼んだから殺そうとか考えるなよ。殺そうとしたら、殺すから」

 魔術師の人が一番ビビっていた。聖女はさらに警戒を強くしていたが相変わらず俺は無視、アリスと子供を一人連れて狩りに出かけた。

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