要望、改善
アル長老とエレンをそのまま連れて街の様子を見ていると久しぶりにアリスに会った。最近は忙しく、書類の上でしかやり取りをしていない。
「お~い、アリス」
「あ、リュウさん。視察ですか?」
「まーそんなとこ。どうだこの街、魔物中心の街造りだから不便してないか?」
「そんな事無いですよ。家は広いし、美味しいご飯も食べれますし、近くに川もありますし」
「でもやっぱり井戸ぐらいは欲しくないか?」
「まーあったら便利だとは思いますけどそんなに今すぐって言う程でもありませんよ。実際無くても困りませんし」
「そうか?エルフの人達にも聞いてたんだがどうも皆欲が無くてな」
「ですがリュウ様のおかげで安心して暮らせる場所があるのです。恩を返すためならいざ知らず、己の欲のために発言するつもりはありませんよ」
あ~本当に参考にならねぇなアル村長。欲が無さ過ぎる。
人間が発展してきたものの中には欲もあったのは目に見えている。だからこそ馬を調教して乗ったり荷物を運ばせるために使ったりとして来たのにこいつらは……
アリスに関して今までの環境が酷過ぎたせいか満足してるし、ほんとどうしよう。
「なぁ、本当に何かねぇのか?特にアリス」
「何で私なんですか?」
「欲深そうなのがお前だからだよ」
「何ですかその評価!私そんなに欲深くありませんよ‼」
子供みたいに怒るアリス。だって魔物の皆に聞くより人間の方がやっぱり欲は大きいと思うじゃん。
アル長老は魔物に近い分欲が少ないし。
「我儘っぽくても良いからなんかないか?」
「それじゃ……休みを下さい」
「あれ?俺が考えてた要望と違う」
「これでも私、毎日働いているんですよ。大森林内の調査とか隊長からの報告を纏めたり、ですから休みを下さい」
「あ、うん。分かった。調整するな」
アリスが休む時ってグダグダしてるイメージが強いな。フォールクラウンでの様子を思い出す。
俺がため息を付いているとそんな時に今度はコクガ達が見えた。今日も強くなるため、色んな魔物達と喧嘩してきたのだろう。
あいつらなら平然と言いそうだ。
「おーいコクガ達!今日はどうだった?」
「今日もまた素晴らしい訓練となりました。この者達もようやく私の若い頃と同等ぐらいには強くなれたかと」
「そりゃよかったな。お前ら」
「いいとも言い切れないですよリュウ様。毎回死ぬ思いをしているんですから」
「逃げ方が単純過ぎるんですよ。もっと隠れたりしたらどうです?」
「それで逃げ切れんのはお前ぐらいだよ‼俺等みたいな戦闘派に隠密行動は向かねぇんだって」
相変わらず合わないようで合ってるなこの二人。
俺やコクガなどの目上には敬語を使う戦士のコウガと普段から敬語な暗殺者のカガ、黒牙の幹部だ。二人とも正反対の性格のくせに中々良いコンビネーションを見せてくれる。
俺も初めて二人と対峙した時は厚い信頼関係にある者同士だと感じた。
普段はこうしてよく喧嘩してるけど。
「まーまー、今日はこの辺で。今回は聞きたい事があって来たんだ」
「リュウ様自らですか?」
「ああ、特に人間に近い体格の奴らを中心に聞いてたんだがこの街に不満ってないか?少しでもいい街にしたいから聞いて回ってたんだが中々いい答えが返って来なくてな、それでお前らにも聞きに来た」
コクガの疑問に答えるように言うと、三人は悩むように考え出す。
この調子だと言い案は出ないか?
すると一番に声を上げたのはコウガだ。
「そうですね。俺としては飯とかの店が欲しいと考えてました。この町は本当に住むためだけって感じなので。でも人間との交友は避けるのならどうしようもありませんが」
「あ~店な。確かに住宅ばっかりでそう言うのはないな」
「リュウ様はどう思ってんですか?人間との交友てのは。人間の俺が言うのも何ですが」
「……個人的には正直早いと感じてる。魔物が住む町だ。素材目当てでこっそり殺しに来る連中が居ないとは限らないからな。しばらくは龍皇国とかで我慢してくれ」
「いえ、俺も無茶だと思って言いましたから気にしないで下さい」
店……魔物が営業する店?でも考えればいいのか?
いやでも金どころか物々交換の概念すらなさそうだし難しいか。
「なら私もよろしいでしょうか。私はこの街に『黒牙の狼』のギルドを建てたいと考えておりました。そのご許可をいただきたい」
「え、あっちのギルドはどうすんだ?俺としてはこっちにギルドを移しても大変だと思うけど」
「その大変が要るのです。最近の若者はどうも腑抜けておりまして、なのでこちらで一から修業を付けたいと考えておりました」
「黒牙のギルドメンバーってどのぐらいいたっけ?」
「二十五人でございます。と言いましてもこれは現本部にいる者達の数であり、諜報を中心とした者達を含まない場合ですが」
「……相談してから決めさせてもらう。弱いと言っても他の皆は気にするだろうからな」
「承知しています」
コクガからはギルドの移設願いか。諜報のメンバー含めてじゃない分マシだと思うがそう言う交渉術かも知れないからな。一応慎重に行こう。
「で、最後にカガだがなんか要望あるか?」
「……なら僕は通信施設が欲しいです」
「通信施設ってどんな感じなんだ?」
「ギルドにもあった水晶の他に長距離通信を行うための施設があるのです。私は諜報系の幹部なのでそう言った情報設備は重要なのです」
「なる程、新しいギルドを建設する事になった時に一緒に建てるような感じでもいいか?」
「それで問題ありません。通信施設だけあってもほぼ意味はありませんから」
カガは情報施設か。この辺の技術は龍皇国の人達に任せても良いのか?
多分魔術的な部分もあるだろうしダハーカにでも頼むか。
「ありがとな三人とも、ようやく参考になった」
「参考になったのならよかったです」
「と言っても我儘な感じだったけどな」
「良いんじゃないですか?リュウ様はその我儘から街を良くしようとお考えの様ですし」
三人は話をしながら帰っていった。現在のあの三人はギルドと街を行ったり来たりを繰り返しているからこその要望だったのだろう。最初に来た他の二人は今はギルドに待機中だとか。
「でも店、か。金の概念すらない連中の街に作るとなると……ん?」
ちょっと考えているとエレンが俺の服の裾を引っ張っていた。
俺はエレンの目線に合わせる様にしゃがんでから聞く。
「どうかしたか?」
「……たけ……」
「ん?」
「精霊さんと一緒に、お花畑、作りたい」
「ああ、そう言う事」
つまりエレンからの要望はお花畑か。アル長老は窘める様に言っているがそのぐらいはかまわないぞ。
「そうだな、街の癒しスポット的な場所はいるかもな。検討しとくか」
そう言うとエレンは嬉しそうにはにかんだ。
アル長老には悪いが少しだけ支援させてもらうぞ。管理は多分精霊とエルフの人達に任せる事になると思うけど。
「そんじゃそろそろ仕事に戻りますか。アオイ、マークさん、一度龍皇国に行ってティア達の事を言いに行こう。ちゃんと言わないといけないからな」
「では私が転移させます」
「頼んだ。それじゃ皆さん、また」
こうして俺はアリスやエルフの皆と分かれて龍皇国に向かった。
そういや店って龍皇国から出店してくれねぇかな?もしくは……ドワルに頼むか?




