表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
158/238

side 勇者 戦後

 アンデットの魔王を倒して早くも数か月が過ぎた。

 いや、この表現は違う。倒したのは私ではないのだから。それも他の皆は私が倒したと信じている。

 リュウがあの炎でアンデット達を浄化し帰った後、グランやマリアさん達がすぐにこちらに来てアンデットの魔王が私によって倒された事になった。

 実際にはリュウが倒した訳だがその場で言える訳もなく、帰ってからリュウを知っている皆に言った。皆あの蒼い炎が私の術でない事ぐらいは分かっていたのであっさりと納得してくれる。

 そして私達は自分の力の無さに嘆いた。


 勇者と言われているのに結局リュウの功績を奪ったのだ。それが堪らなく恥ずかしいし、悔しい。私はなんだかんだで常にリュウに頼っていたのかもしれない。辛い戦闘の中の心の支えに、自分が頑張る切っ掛けにしてきた。

 でもそれが実際の戦争まで頼ってはいけない。リュウはリュウでやる事があるようだし甘えてばかりではダメだ。帰ったら戦後処理をした後、リュウの住む大森林へ向かおうと決めた。

 それにはリュウを知る皆も賛成してくれたし、リュウの知らない他の三人も付いて来ると言った時は驚いたけどそこはリュウと相談してからだ。流石に魔物と共に暮らすリュウといきなり合わせるのは良くないと分かる。


 でも仕事は難航した。

 魔王との戦闘の後処理は比較的簡単に片付いたが、問題は大森林へと向かった騎士とラエル軍達の事だ。何故か大森林へと向かったライトライトの騎士達だけが訓練場の地面に首だけ出してはまっていたという奇妙な事件も含め、情報が全くない。

 はまっていた騎士達もいきなり転送されて他の教会の騎士やラエル軍がどうなったのか分からないと言っていたので転移された場所を捜索、そしていくら調べても何も分からない。

 そして今だから言うがこの事件の真相は正体不明であり、参加していた者達は皆行方不明となった。

 まさか皆調教師の策略によって命を奪われたとは思わないだろう。


 ------------------------------------------------------------------------------------


「タイガ、戦後処理の仕事はこれで終わり?」

「そうだね。やっと長期休暇が取れるよ」

「でもいいのかな?私達が居なくても」

「問題ないんじゃないかな?あの魔王以外は人間と戦争をしようとする動きはないみたいだし、それに僕達の場合はただの休暇じゃないんだから良いんじゃない」

「修業のため、だもんね」

 大森林へ向かい、修業する計画は決まっている。ただ他のリュウを知らない三人を連れて行くとなるとそう簡単には行けない。

 魔物と仲良くする存在、ヒカリが一番反応しそうだ。


「それにフェンリルの事もあるからね。戦争でうやむやになったけど、元々フェンリルを倒そうとしていたのにそのフェンリルに修業を付けてもらう事になるんだからね」

「そう思うと不思議、リュウって本当に何者なんだろう。もうただの幼馴染として見れないよ」

「それは僕もだよ。魔王を倒す『調教師』だからね」

 それを聞くと私は情けない。勇者なのに……護りたい人に護られるなんて恥ずかしい。

 一人机に伏せて唸っているとドアがノックされた。


「どうぞ」

「ティア、大森林での修行の日時は決まりましたか?」

「あ、ヒカリ。もう少しだけ待って。案内人の人とまだ連絡が届いてなくて……」

「そうですか。それにしても大森林への案内を引き受けるとはどんな人物ですか?相当の実力者でないと案内何て引き受けるとは思えないのですが……」

「信用できる人だから安心して。それと本当に良いの?長期間の修業予定だから色々入り用もあるだろうし」

「構いませんよ。流石に魔王を超える魔物が現れるとは考えにくいですし、私自身も強くならなければ」

 私をしっかりと見て言うヒカリ。

 戦争の後、ヒカリは自分が一番最初に倒れた事を恥じていた。しかも気を失っていたのだから本当はあのまま死んでてもおかしくないと考えていたそうで、私同様更に力を求めるようになっていた。


「そうだね。皆で強くなろう」

「やっぱり二人は良い関係ですね。僕は魔術師なので隣で戦えるようになりたいです」

「タイガさんだって立派ですよ。後方からの正確な支援、私も見習わなくては」

「ありがとうございます」

「それじゃ案内の人が来るまで」

 と、言葉をつづけようとした時にまたノックされた。


「はい」

「失礼します。ティア様にお会いしたいという方が参りました」

「名前は?」

「その、リュウと言う方です」

「え!今どこに居るの!」

「一階の訓練場に居ます。しかも一部の者がリュウ殿に試合を申し込んでまして」

 私達は話を聞いて慌ててリュウが居るという騎士達の訓練場に向かった。

 訓練場に着くとそこには欠伸をして待っているリュウが居た。しかしリュウの周りには腹を抑えている若手騎士達がうずくまってる。

 恐らく試合で返り討ちにでもあったんだろう。それに前に帰って来た時に一部の私のファンである人がリュウに対して不満を持っているのも知っていたので試合を挑むのは目に見えていた。


「ん?おうティアにタイガ、久しぶり。修業の事について話し合いに来たぞ」

 木刀で肩を叩きながら余った片方の手で手を振りながらこっちに歩いて来る。


「この状況回避できなかったの?」

「いや~俺も最初は大人しくしてたんだぞ。グランさんに案内されて暇ならここで見学でもしとけーって言われて見学してたら喧嘩売られてさ。ついやり過ぎちまったみたいだ」

「鎧来てるはずなのに何で皆お腹抑えてるの?」

「前にもお前に教えたろ?力を一点に集める奴が得物を持ってる状態でも出来るようになっただけだよ。それより俺の知らないお前の仲間って?挨拶ぐらいはしねぇと」

 頭を掻きながら気まずそうに言うリュウは本当に変わらない。いい意味でも、悪い意味でも。

 魔王になった者の中には性格が大きく変化する者も居るらしいので少し不安だったが、どうやら何ともないようだ。

 少しほっとしながら私はまずヒカリを紹介する。


「それじゃまずこの人が《聖女》のヒカリ、よく一緒に戦ってる」

「……ヒカリです。調教師と聞いてましたがお強いみたいですね」

「ま~それなりに。動物を相手にしてるのでどうしても体力とかが要るんですよ。それといつもティアがお世話になってます」

「いえ、私もティアにはお世話になっていますのでお気になさらず。それよりあなたが大森林への案内を?」

「はい。あそこは第二の故郷みたいになってますからかなり詳しいですよ」

「なる程、それは安心です」

 ヒカリもリュウも普通に話しているようで安心した。握手もしているし第一印象歩そんなに悪くないはずだ。


「それで他の二人は?仕事中か?」

「そんなところ、こっちに来て。ゆっくり話したいから」

 こうしてリュウを私の執務室に移動させた。

 あれ以上あそこに居てもゆっくり話せそうにないし、他の騎士達に注目されっ放しになるのも居心地が悪い。

 執務室に入って私達は対面して話を始める。


「リュウ自身が案内に来るとは思ってなかった」

「俺もまさか自分で行っていいとは思ってなかった。それでそっちはフルパーティーで来るのか?」

「そうなるね。私、タイガ、グラン、マリア、ゲンさん、ヒカリ、リューズさん、ローゼンさんの八人。大勢だけど大丈夫?」

「大丈夫じゃないか?こっちも開発とかしてるし、ようやく形になったばっかりで正直宿っぽくはないけど」

「リュウ、そっちの事業も進んでるのか」

「進んでるぞタイガ。と言ってもまだまだ試行錯誤も多いけどな」

 少しは事情を知っているが本当に進んでるんだ。

 知識ある魔物のための町造り。

 理想程度では前から聞いていたけど本当に進んでいると聞くとまだ信じられない。


「何か事業をされているのですか?」

「大したものじゃないですけどね。それにまだまだ開発途中ですし。で、ティア達はいつごろから休み取れるんだ?」

「準備だけは大丈夫。でも申請後になるから今日申請しても明日になると思う」

「じゃ、明日また来るわ。それとももう少し準備とか掛かるか?」

「大丈夫。それじゃ明日お願い」

「了解。それじゃいったん帰るな、明日何時ごろが良い?」

「昼からでいいか」

「了解タイガ。そんじゃまた明日な」

 そう言ってリュウはあっさりと帰った。

 なら私達も最終荷物チェックと申請をしないと。

 リュウとの修業の毎日、絶対に厳しいものになるだろう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ