一段落
目が覚めるといつもの天井ではなくウルの顔があった。それと頭に感じる感触がいつもの枕と違うのでおそらく膝枕をしてくれている。なんか温かくていいな。ウルは俺の顔を覗きながら笑って言った。
「おはようリュウ」
「おはようウル。って何か身体が上手く動かない」
「仕方ないよ。魔王になったばかりでまだ体と魂が馴染んでない、本当にまた無茶をして」
「今回は皆に頼ったし、ろくに戦ってなかったと思うんだが……」
「やっぱり人間の身で魔王になるのは反動が大きかった。魔物だったら気絶する事もなくすんなりと魔王になってただろうから。それに一気に魂を集めたのも原因、反省して」
「……は~い」
素直に非を認めると頭を撫でてきた。そう滅多に頭を撫でられることが無いので何だか気恥ずかしい。でも何だか気持ちもよくて大きな欠伸をしてから聞いた。
「ウル、今日は何だか明るいな」
「だってここ外だもん。当たり前じゃない」
「え?」
そう思って顔を動かすと龍皇国にある俺の部屋の中だった。つまり俺は
「……やっとお前を自由にできたんだな」
「別に嫌だった訳じゃないよ。でも今はもっと明確な繋がりがあるから心地良いのもホント」
「やっと一つの目標が果たせた」
「次はどうするの?」
「次は……世話になった魔物が安心して暮らせるように頑張ってみるか」
「頑張るのはいいけど無茶はダメだからね」
「はいはい」
ああ、何だか全てが心地いい。俺の好きな皆と一緒に居るこの空間がとっても良い。
そう思っているとウルが真剣な顔をして忠告する。
「リュウ、先に行っておくけどあまり馴染んでない状態で力を使っちゃダメ。一週間は暴れたり実験とか言って魔術を使うのもダメ」
「さっきの馴染んでないってのと関係あるのか?」
「大有りだよ。馴染んでないのは魔王の力だけじゃなくて私の力も馴染んでないの、その状態で使ったら身体のどこかが爆発して最悪死んじゃうから」
「本当に怖いな。まぁウルの力に関しては前に聞いてたけど」
ウルの力を俺は受け入れる事が出来た。でも本当に受け入れただけで制御などは全く出来ていなかった。その影響でウルは俺の身体が壊れないよう常に俺の中に居る事で、俺が受け入れたウルの力を代わりに制御してくれていたのが真実である。
今ウルが外に居るという事は自分で制御できるようになった、という事だが馴染んでいない今の状態では前とそんなに変わっていないという事のようだ。
「でも結構長い事ウルの力を馴染ませてきたと思うんだけどな」
「魔王になった影響で一時的なものだけど、さっき言った一週間はダメ。その後は私が直接制御方法を教えるから今だけは安静にしててね」
「今日から一週間か、長いな」
「あ、すでに三日経ってるから後四日だよ」
「そんなに寝てたのか。てか動けないのって寝てて身体が固まってるからじゃね?」
「それもあるかも」
そう言って俺達は軽く笑った。後四日か。
ティア達は大丈夫かな……相手は魔王だし、今の状態じゃろくに戦えないのは自分でも分かる。ゲンさんとかも無事だと良いんだが……
悩んでても意味ないか。今はティア達の運と実力を信じるしかない。今はとにかく魔王の力とウルの力を馴染ませる事に集中しよう。今出来るのはそのぐらいだ。
「あ、所でリル達は?」
「そこで寝てる」
首もあまり動かせないので眼だけを動かすと確かに皆寝てた。動物状態のままでとても癒される。リル、カリン、オウカの三人しか見えないがアオイとダハーカはどこに居るんだろ?能力が使えない以上索敵も使えない。
そう思っているとアオイとダハーカ、それとなんかイケメンが居た。
「おはようございます。魔王への進化、お喜び申し上げます」
「ようやくここまで来たか、しかしまだ馴染んではいない様だな」
「リュウ様おはようございます。今回は私との契約、ありがとうございます」
「……最後の誰?」
「え?」
あ、スーツの人がなんか固まった。こんなイケメン知り合いに居たか?
男のくせに妖艶と言うか?腹の底は見せないタイプと言うか?怪しげと言うか?
「リュウ分かんないの?って能力が使えないから仕方ないか」
「む?なんだ、まだまだ未熟だな。私の時はそのような事がなかったと言うのに」
「では私から説明させていただきます。この方は新に受肉した悪魔、前の名はマークです」
「え、ええええぇぇぇぇぇぇ‼」
このイケメンがマークさん!?顔どころか雰囲気までまるで違うじゃん!今までの雰囲気はいずこに!?
「それ程まで驚かれる様な事でしょうか?」
「驚いたよ‼今までのちょっと裏があるような顔はどうした?」
「あちらの方が仮初の姿です。元々人型に近い姿でしたがこちらの方が本来の姿ですよ」
「マジか、マークさんこんなイケメンだったの」
「さんはお辞め下さい、今は契約によりリュウ様の下僕です。ですので私に敬語は不要です」
あ、何か前にもこんな事があった気がする。あ~これはアオイの時と同じだ。
それともう一つ確認したい事もあるけど……
「今普通にマークって言ったけど名前って元々マークなのか?」
「いえ、それは人間の振りをしていた時に使っていたので偽名です。本来の私に名はありません」
「そっか。なら新しく名前を付けて」
「待ってリュウ。今の状態で『名付け』したら死ぬよ。とりあえず今は止めて」
ウルからストップがかかった。そっか今の状態じゃろくに魔力もないから名付けも出来ないのか。あっぶね。
「なら四日後に名前をやるよ。それと契約更新の対価ってどのぐらいいるんだ?」
「いえ、名も対価もいりません。今回の契約の対価も普通ではありえないものでしたのでお好きにお使いください。リュウ様の一生分の対価は既にいただいてます」
そうだったんだ。てっきり魂とかは俺が取っちゃったから十分か不安だったんだけどね。
「なら名前だけはやるよ。俺が不便だし、それに強い方が俺も得だ。でも四日後になるけどいいか?」
「構いません。名をいただけるのならさらに励みませんといけませんね」
「仕事みたいなのは今の所ないから眷族同士で仲良くしてくれ」
「承知しました」
「リュウよ、この悪魔と少し遊んでも良いか?この者なら良い戦いになるだろう」
「その辺は相談して決めてくれ。後絶対に二次被害は出すな」
「善処しよう」
頼むから笑いながら言うのは止めてくれ、何か仕出かしそうで怖いんだ。
「私はお食事の方を用意してまいります。しばらく召し上がっていらっしゃらなかったので消化の良い物を用意してまいります」
「それとリュウ様、あの捕らえていた人間の方はどういたしましょう?」
「枢機卿の事か?そう言えばどうなってんの?」
「現在はこの城の地下牢にて大人しくしております。特別、情報を共有する術などは検知されなかったのでそのまま牢の中におります。それと自身以外の騎士や兵を失った事に酷くショックを受けているご様子です」
「……暇な時で良いから尋問してくれないか?教会の事情を聞くために捕らえたんだ、決して拷問はするなよ。後が面倒だからな」
「では言葉巧みに色々聞きだして見せましょう。ダハーカ様、試合は尋問の後でもよろしいでしょうか?」
「構わん。しかし早めに頼む」
「ではさっそく尋問にかかりたいと思います。失礼します」
「私も食事の準備に参ります」
「私は暇だから若いドラゴンの根性でも鍛えるか」
そう言って皆部屋から出て行ってしまった。こんなウルの膝枕状態で頼んでおいてなんだが威厳もへったくれもねぇや。
「また賑やかになりそうだねリュウ」
「それは確かにな」
今まで以上に賑やかで、楽しくなるのは目に見えている。なら楽しめばいいか。




