表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
151/238

side 人間

更新大分開けてしまってすみません。

更新再開します。

 ラエルから出発して早三日たった。

 軍勢は大森林の北側を通り、進行する。


 この軍勢の中、唯一馬に乗っているのは枢機卿達のみである。

 本来魔物退治の際には馬を使わない。魔物を目の前にした馬が暴れ、振り落とされる恐れがあるからだ。振り落とされている間に魔物に殺されては目も当てられない。さらに言ってしまえば馬に踏みつけられ死亡する可能性も排除できる。

 しかし守りの要たる枢機卿達は騎士でも軍人でもない。普段は教会で祈りを捧げ、神と信者のために尽くすのが彼らの仕事だからだ。それ故彼等には長期間歩く訓練すらした事の無いほぼ一般人と変わらない。

 それでは進行に支障が出るとなり、彼等だけ馬に乗っているのだ。


 軍勢は枢機卿や大司教を中心に置き、他の騎士や軍人がその周りを固めるように配置されている。枢機卿及び大司祭達の結界は円柱型になっており、枢機卿達の力を最大限に生かすための布陣だ。

 こうする事で騎士や軍人達を守る事もでき、なおかついきなり枢機卿達が魔物に襲われる恐れも少なくしている。


 騎士達の配置は最前はラエル軍、中間はライトライトの騎士、最も枢機卿達に近い位置に居るのが教会の騎士達だ。

 このような配置になったのはラエル軍が最も多いと言う理由だけではなく、その軍全体の動きを妨げないように騎士達が混ざらないようにした、という理由もある。


 そして現在、彼らは順調に行軍している。

 そんな中、ナレル枢機卿は一人不安そうな顔をしていた。

 彼は魔物討伐には一度も参加した事が無い。それどころかろくな喧嘩すらした事の無い、大人しい枢機卿だ。

 現教皇に変わってからは信仰や信者を増やした数のみではなく、若い頃の魔物を討伐した功績なども反映されるようになった。実際に教皇の弟子達は若き日は司祭などではなく教会の騎士や魔術師であった者の方が多い、そこから年老いたのちに枢機卿へと位を上げた者ばかりである。

 つまり彼は今時珍しく、信仰のみで枢機卿まで上り詰めた者なのだ。


 そんな彼が初めて参加する戦いがこの『大森林の魔物討伐』なのだから不運この上ない。

 ナエル枢機卿は今も視線をあちこちに送って落ち着きがない。

 そんな彼を見て隣に居た大司祭が声を掛けた。


「大丈夫ですか、ナエル様」

「いえ、初めての事なのでどうしても落ち着きません。やはり煩かったでしょうか」

「仕方がありません。初めての戦場が大森林となれば誰でもそうなるでしょう」

「そう言っていただけると落ち着きます。貴方は戦場に出た事が?とても落ち着いているようですが」

「戦場っと言う意味では何度か。と言っても私もこのような形で参加したのではなく、あくまで後方で傷付いた騎士の皆様を癒していた程度です。とても悲惨なものでした」

「そうでしたか。私はずっと教会で皆様の声を聞き、懺悔や後悔を聞いてくる事しか出来ませんでした。私はここで一番足手まといかもしれません」

「そんなはずがありません。今回の討伐は重要なもの、教皇様も何かお考えがあってこそナエル様に任命されたのでしょう」

「そうだとよいのですが……」

 ナエルはそれでも心配している事に大司教は謙虚な方だと捉えた様だがナエル自身はそう考えてはいない。

 数少ない自身の活躍した場面では常に自分は確実に安全だと言われる場所に居て、ただ結界を張っているだけだったからだ。

 自身が居た国の支部ではそれでも結界を張って守ってくれた者と言ってくれたが自分ではそう思ってはいない。

 ナエル枢機卿は謙虚と言うよりは臆病者と言った方が正しいだろう。


 そんな時、周囲からざわめきが起きた。

 ライトライトの騎士達が輝きだしたのだ。突然の事に皆が慌てたがすぐにライトライトの騎士達は消えてしまった。

 この輝きが転移による物であり、そしてこの軍勢の中に転移を扱う魔術師などいない事は皆知っている。


「敵襲‼全員戦闘配置につけ!」

「ナエル様!」

「はい!」

 ナエル枢機卿はすぐさま祈りを神に捧げるように手を組みながら結界を張り、自身と皆を守る。

 軍勢は皆背を合わせ全方位を警戒する。

 そこに上空から炎が落ちてくるのが見えた。その炎は結界に当たり、軍勢を守っている様に見えたが何故か炎は消えず、当たった場所でいまだに燃え続けている。その事を怪訝に思ったが今のところ問題は起きていない。


「遠方より魔物を確認!」

「数は‼」

「五体です!しかし全て獣人です!」

「獣人か。たった五体とは言え大森林に住む魔物、注意し、団体で攻めよ!決して連携を止めるな!」

 たった五体と思っても一体の魔物に対して二十人の兵を出したラエル軍、合計百人の軍人が五体の魔物に魔術を使って攻めるが象の魔物が他の魔物の盾となり、真正面から受けたが傷一つない。象の魔物はその巨大な力と防御力を生かし、力任せに兵士達を武器で殴り、まとめて数人潰していく。

 その事に軽く動揺した隙に狼と虎の魔物が高速で騎士達をその鋭い爪で鎧ごと切り裂いて行く、まるで紙の鎧を着ていたかのようにあっさりと切り裂かれる鎧に二体の魔物はつまらなそうに人間を殺して捨てる。

 獅子の魔物は強い咆哮で兵士達を怯ませながら一人一人の首元に噛み付き、絶命させる。

 尾が三本ある狐の魔物はまるで何事もないかのように歩きながらも尾で兵士達を貫いたり、払うように叩き付けるだけで人間を殺す。

 それでも諦めまいと武器を振り上げるがどの魔物達も素早く避けられたり、頑丈な皮膚や鬣で攻撃が通らない。

 更に兵を動かそうとした時に枢機卿の顔がとても青くなっていた。


「どうかしましたか枢機卿」

「あの……炎が……結界を」

 枢機卿の言葉を聞いて結界の上にいまだ炎が燻ぶっているのが見えた。いや、先程よりも強く燃えている様に見える。

 その炎が強く燃えるたびに枢機卿の顔が青ざめていくのが目に見えて分かる。しかし正体不明の攻撃があった以上この防御を捨てるのはあまりに愚策だと考えているがあまり長くは持ちそうにない。

 そう判断した後、ラエル軍の指揮官の動きは早かった。


「全員結界が張っている内に戦闘準備を急げ!すぐに結界が解けるぞ!解けた後は枢機卿の事は教会の騎士達に任せ、我々はあの魔物達の討伐に動く!」

 その言葉でラエル軍は武器を構え、戦闘配置に着く。

 そしてあまり間もなく、結界が解けてしまった。枢機卿の魔力が尽きたのだ。


「突撃!」

 ラエル軍の指揮官が声を張り上げて言うとラエル軍は魔物に向かって突撃したが上空から巨大な紅い羽根が飛来、ラエル軍の頭上に降り注いだ。

 降り注いだ羽根は兜を易々と貫通し、そこいらには羽根のせいなのか、はたまた血のせいなのか分からなくなるほど紅い死体が散乱していた

 生き残った騎士達は上空を見上げると太陽の光で分かり辛かったが確かに巨大な鳥が空を飛んでいる。


「あれにも魔術を放て!」

「ダメです指揮官!遠すぎて届く前に魔術が霧散してしまいます!」

「なら盾で羽根だけでも防ぎ続けろ!流石にこちらに降りてくる事はないはずだ」

 ラエル軍は魔物の討伐に力を注いでいる中、教会の騎士団は枢機卿を守る事に力を注いでいた。大司祭数人がかりで結界を張り、亀のように守りながら枢機卿の回復をしている。

 魔物の討伐も彼ら、教会の騎士にとって重要な事ではあるがそれ以上に枢機卿の命を繋ぐ方が重要だった。あまりにも長時間結界を張っていたせいか、魔力が底を尽きかけ、とても衰弱している。

 枢機卿と言う立場も当然あったが、それよりも彼の人望によって生かそうとする者の方が多い。


「戦場はどうなっている」

「最初に現れた五体の魔物の対処と、新たに現れた鳥型の魔物と交戦に苦戦しています。それよりナエル様は」

「あまり状態が宜しくない。恐らく無理をして結界を維持してくださったのだろう」

「この後の動きはどういたしますか?」

「ラエル軍と共闘しこの場を切り抜ける。その後は状況を見て撤退するか決めよう」

「しかし撤退したら」

「命あっての事だ。多少の罰は覚悟しよう。それよりナエル様の方が不安だ」

 先程に比べれば顔色は良くなったがまだ安心はできない。逃げ帰る事さえ難しい状況なのだから。

 馬は既に逃げてしまったし、ナエル枢機卿は結界と回復術以外はあまり魔術が使えない。それもあって、この場から逃げると言う選択肢はあまりに生還確率が低かった。

 なので教会の騎士団も戦場で魔物を少しでも早く討伐出来るようにラエル軍に参加しようとした時に今度は音もなく、巨大な狼が姿を現した。

 巨大な狼は先程の魔物達よりも素早い動きで兵士や騎士を食い千切っていく。更なる絶望が彼らを襲った。狼は遊ぶように戦場に割って入り、人間を蹂躙していく。それだけで残っていた人間の半分が死んだ。

 それでも遊び足りないような様子を見せた狼は更なる人間おもちゃを探して戦場を走り回る。そして一つの結界の中に居る人間達を見つけた。

 狼は結界内から出てくる魔術に避けもせず、食らうが目立ったダメージは全くない。それどころか結界に前足を掛けて力づくで結界を壊そうとしている。

 そして結界を踏み潰した。大司教数人がかりで張った結界はあっけなくただの前足によって破壊された。

 狼は枢機卿に興味があったのか顔を近付けるが狼の恐怖に負けたのか枢機卿の側を離れて逃走を図ろうとした騎士があっと言う間に追いつかれ、結界の様に前足で踏み潰された。

 さらに目の前で殺された事によって大声を出しながら逃げようとした騎士達を面白そうに追いかけてあえて一人一人遊びながら殺していく。


「何だこの狼は、こんな魔物聞いた事がない‼」

「教会の!もう戦場を維持する事すら難しい、ここは引くぞ!」

「しかし逃げ切れるとは!」

「戦い、勝つ事の方が困難だ!既に逃げだした者達も多い!あとは我々だけ!」

 そう言っている時に上空の鳥が急降下して戦場に降り立った。紅い羽根と金の混じった美しい羽根をしているこの鳥型の魔物は知っている。

 ガルダ。

 現在魔王を名乗る魔物の一体と同じ特徴、それが先程からずっと戦場の上を飛んでいたと思うとなぜ今まで自分たちが生きていたのかも分からない。

 しかし更に不思議な事は続いた。魔物達が攻撃を止めたのだ。

 その隙にと逃げようとした兵士や騎士も居たがそいつらは皆動きの速い狼に食い千切られた。

 そしてさらに信じられないのは、その魔王の一角となった存在と同種の背中から一人の人間が降りてきた事だ。

 その男はラエル軍の指揮官と教会の騎士団長を見て丁寧に礼をしてから言った。


「はじめまして。俺はあの森に住んでいるしがない人間の一人だ。今日は貴方方を殲滅するために来た」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
これ以上強くならないようにサボってただけか 理由が可愛いw妊娠かと思ってたんだけどナー
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ