作戦
「今回人間達を迎撃するのはリュウが行うがリュウよ、作戦はどうなっている」
「はい。まず人間の戦力の一部をダハーカの協力によって弾き出します。その後私達が敵の迎撃に向かいます」
「リュウの群れだけでか?三万もの軍勢をたった数体で?」
「いえ、戦場に出るのは私とリル、そして一応カリンを連れて行きます。他のメンバーと皆さんは私達が漏らしてしまった際に動いていただければ十分です」
「……本当にそれだけでいいのか?」
「情報収集などの面から見た場合精霊王と精霊達に大分頼っていましたので戦闘ぐらいは我々で動かないといけないと思います。それにダハーカの術で遠くに跳ばす予定ですので敵戦力は減ります。問題ありません」
「では精霊王とティアマト様はこの言葉どう思う?」
俺から精霊王とアオイに移った。
精霊王は少し考えながら答える。
「一応彼は僕の契約者な訳だけど多分問題ないと思うよ。それだけの力は持ってる」
その言葉に長老達は騒めく。三万の騎士達相手に勝てる者は少ない。
殺すだけなら出来る者はそれなりに居るがその場合は大抵一方的な殲滅での話だ。決して戦闘ではない。
アオイはすぐに答えた。
「リュウ様なら問題ないでしょう。私とダハーカを倒した方です。実力に問題はありません」
アオイはアオイで信頼してくれているようだ。
アオイには今回も俺が漏らしてしまった敵の排除に回ってもらう。実力は折り紙付きだし最も安心して頼める人だ。
「リュウよ、私が相手にした時と今回の人間三万の騎士、どちらが厄介だと思う?」
「ダハーカに決まってんだろ。お前の眷属はお前同様強い奴でも平然と向かってくる。しかもよく統率も取れている。でも今回の相手はそれに比べたら雑魚同然だろ。あいつ等は人間、デカい力の塊にビビる」
「そうなるだろうな」
笑いを噛み締めながら言うダハーカ、だってそうだろ?お前一人と眷属達を相手するより人間相手にする方が楽に決まってる。
俺らが話していると長老達が何故か俺らを見ていた。
司会進行の老ドラゴンが話を進める。
「ではリュウ、作戦の続きはあるか?」
「これは迎撃のための作戦ではありませんが防御として精霊達を森の浅いところに配置していただきたい。それなら我々が直接確認するよりは安全のはずです。後コクガ、敵さんの侵入経路は分かった?」
「はい存じております。彼らはラエルから向かいますがあくまで狙いは魔物の様ですので大森林を大きく迂回してから攻め込むようです」
「真っ直ぐ来ないのか、てっきり精霊側のルートから来るとばかり思ってた」
「それは無いかと、精霊の領域は最も木々の多い場所ですので軍として移動するのは難しいのです。かと言ってむやみにドラゴンの領域に踏み込もうものなら魔物と戦う前にドラゴン達によって殺されてしまいます」
「なるほどね。それで南側と北側どっちから来そうだ?」
「現在の情報では北側から攻め込む予定のようです。ラエルはやや北寄りですし騎士達の体力的な配慮と兵站のためかと。それにまだ雪が本格的に降る時期ではありませんのでそのためでしょう」
「情報ありがとコクガ。ちなみに大森林からどのぐらい離れて迂回すると思う?」
「魔物の鼻や耳で察知されることを考えておよそ十キロは離れると考えています」
「なら北側を中心に精霊の配置をお願いします精霊王」
「はいはい。でも北側中心って事は南側は配置しなくていいの?」
「いえ南側もお願いします。別動隊が存在する可能性も捨てきれないので」
「相変わらず精霊使いが荒いな君は。今回は仕方なく協力してあげる」
「ありがとうございます」
情報の確認をしながら会議を進めていると龍皇が手を挙げる。
「我々が協力する事はないのか?」
「あえて言うなら警戒を強めて頂ければ十分です。この国に多くの魔物を受け入れてくれたのは知っています。これ以上負担をかける訳にはいかないかと」
「そ、そうか」
「そして各長老達には各魔族に警戒を促してください。大森林への侵攻はそう遠くない間に訪れます。警戒だけでもしていればだいぶ状況は変わります」
この言葉に長老達は頷く。中には龍皇国に身を置いている者も居るが一日でも早く元の生活に戻りたい者は多いだろう。
そのために計画を成功させなければならない。
「それと精霊王様、後で人間達がどのルートで進行してくるか話し合いたいので時間よろしいですか?」
「それならここで話そうよ。地元の魔物の方が詳しいだろうからさ」
「……そうですね。ではお願いできますか?」
こうして会議は進んでいく。北側の長老達の話を聞きながら精霊王の力で地図を作製、ここは入り易い、ここは入り難いと話しを纏めていく。
途中コクガの協力で入り易くても入って来ない所、入り難くても入って来そうな所と丸とバツを地図に付けながら話は加速する。
ただ一つだけ懸念すべき事が出てきた。
「オルムさんが通った跡?」
「そうだ、あのドラゴンデッカいだろ?だからたまに西から中心地に向かってデカい獣道みたいなのが出来るんだ。俺はそれを人間が知ってるかが心配だ」
「確かに真っ直ぐ進むルートが出来ているなら問題ですね。迂回するよりよっぽど楽で速い。龍皇様!オルムさんってどうしてますか!」
「ん?あ奴なら冬眠している。やる事がないと言って穴に籠っている。しかししばらくは出てこないように言っておこう」
「ありがとうごさいます。その道があるのとないのとでは話が大きく変わりますからね」
これで懸念は一つ減った。
その後もしばらく会議を続けていると外が暗くなっていた。
「今日はここまでとする。解散」
会議室からぞろぞろと廊下に出るいい時間だし今日は爺さん達のとこに帰るか。
そんな時龍皇から声をかけられた。
「どうだ、今日ぐらいは泊まっていかないか。オウカの事も色々聞きたい」
「あ、ごめん。今日は爺さんのところに帰る予定だから」
「む、そうか。しかしリュウ、なんだか俺に対して軽くなっていないか?」
「何の事でしょう」
そんなつもりは無いんだがとにかく今日は帰ろ。
「アオイ、リルってどこにいるんだ?」
「オウカ様の部屋です。ご案内します」
アオイの案内でオウカの部屋に行く、気配と魂の繋がりのおかげでどの辺にいるかは分かるんだが城の構造は詳しく知らないからな。
ただ謎なのは龍皇も付いて来ている事だ。
「グウィバーもオウカの部屋に居るのだ。だから私も行く」
なるほど。では一緒に行きますか。
廊下を移動している間の話題はもっぱらオウカの事だ。
「オウカも自身の力のなさについて考えるようになったか」
「俺としては子供だから仕方ないって感じだけどドラゴンから見たら違うのか?」
「そうだな。ドラゴンは力の塊、力ある存在に魅了される事も多いが子供の時はそれがさらに強い。憧れとでも言えばいいだろうか、それが後々進化への道標となるからとても大切な時期でもある。ただリュウは強過ぎる、憧れの存在があまりに高い所に居るゆえ不安なのだろう」
憧れか。
俺はとにかく強くなる事そのものに憧れてたから特にこれといった明確な目標みたいなのはなかったな、とにかくがむしゃらに力を求めてたっていうのが正しいだろう。
「オウカもドラゴンだったという事か。良いではないか、憧れが大きければその後も大きく育つだろう」
ダハーカさん、さらっと言うけどかなり大変な事だぞそれ。まぁ俺の力なら普通に成長しているだけで案外あっさり同じぐらいになるかもしれないけどさ。
そう思いながらオウカの部屋前に着くと中から話し声が聞こえる、この声はグウィバーさん?




