龍皇国会議
リルの背中に乗って少し走ってもらうとすぐに龍皇国の門が見えてきた。
「少し、速過ぎませんか!?」
「こんなもんだよ。ほれ降りるぞ」
コクガはリルの背に必死に掴まっていたが俺にとっては慣れたものだ。
門が近付くにつれてゆっくりとスピードを落とすリルはきれいに門の目の前で止まった。
俺たちが降りた後、リルが人型になるとコクガはまた驚いていたが一々突っ込むのも面倒なので無視した。
「こんちは。門を開けてもらってもいいかな?あとこいつは俺の配下だ」
「は、はい!かいもーん!」
門番の人が声をかけると大勢のドラコ・ニュートが門の前に立ち一斉に押す。
前はオルムさんが一人で開けていたがこれって人力だったのね。
「これもう少し楽に開けられないの?」
「も、申し訳ございません!この門は対魔術用障壁でもありますので魔術は受け付けないのです!」
龍皇国式の敬礼をしながらどこか緊張したように言うドラコ・ニュートに少し違和感を覚えるが知らない人間が居るからじゃないよな?
そう考えている間に門は開いた。
では通らせてもらおう。
「ま、まさかドラゴン達が国を築いているだなんて……」
「そりゃドラゴンだって生物なんだから群れるさ。それじゃ城に向かうか」
「あの巨大な城の事ですか?」
「あそこで会議をする。さっき頼んだ情報ってどのぐらい溜まってる?」
「まだ基礎的な事だけです。急がせますか?」
「いや、いい。こっちでもそれなりに情報は集めていたしその裏付けが取れるなら問題ない」
あとはのんびり歩いて城に向かう。
城までの一本道だけでも大分人影減っている事に俺は気付いた。
リザードマン達は完全に見かけないし、冬場は苦手なのかドラコ・ニュートもちらほらと見る程度しかいない。
城下町に行けば増えるかと思ったが全く増えず、むしろ住居に籠っているようだ。
「皆寒いの苦手みたいね」
「そうみたいだな。見た目トカゲが多いしきっと変温動物なんだろうさ」
「変温動物?」
「外の気温によって自身の体温も変化する生物の事、ちなみに俺やリルみたいに体温が一定なのは恒温動物な」
「へー」
ちょっとした知識をリルに入れつつ城に行くと今度は近衛ドラコニュートが城の門を開けてくれる。
コクガはずっと国の様子を見ていて忙しない。
中庭に来るとアオイが出迎えてくれた。
「ドライグ様はこちらです」
「オウカはどうした?」
「グウィバー様と共にいらっしゃいます。リル様はどうなさいますか?」
「ならカリンちゃんと一緒にいようかな。アオイさんもいるならリュウ一人でも問題ないだろうし」
「承知しました。ではリル様は他の者に案内させます。リュウ様とコクガ殿はこちらに」
さらっとコクガを認めてない発言があったな。
アオイは認めた者には様をつけるが認めてない者には殿と言う。
コクガの事は判断中ってとこか。
広い城の中を進み、大きな扉の前で止まった。おそらくここが会議室なんだろう。
「私は今回リュウ様の従者として会議に参加させていただきます。よろしいでしょうか?」
「他に従者として参加している仲間っているか?」
「ダハーカ様がおります」
「……マジか」
「その事についても説明してほしいと話に出ています」
「話すよ。そのあとに会議って事でいいのか」
「はい」
ま、仕方ない内容か。
皆でぶっ倒した邪龍がひょっこり現れたら、そりゃどういう事だってなるのは当然か。
しかもとどめを刺した張本人の従魔になっているおまけ付き、聞きたくなるな。
そう思いつつも扉は開いた。
すでに話に参加する者達、龍皇に精霊王、そして長老達も居た。
ダハーカと戦った時の長老達だけではなく、エルフの長老アル長老も居る。しかし表情は以前の柔和なものではなく、長老として部族の命運を決めるために来たようなピンと張り詰めた雰囲気だ。
ダハーカが座っている隣の席に座り、アオイとコクガがそれに続く。
全員が座ったのを確認した老竜が声を上げる。
「これより大森林へと侵攻する人間達への対策会議を行う。そしての前に我らが友、リュウにその邪龍の説明をしてもらう。良いな」
「分かりました。説明させていただきます」
「では説明を求める」
俺は立ち上がり軽く呼吸を整えた後長老達に説明を開始した。
「彼、アジ・ダハーカを仲間に迎えたのはダハーカを倒した直後になります。彼は私に倒された後魔王として褒美を与えると言いました。その際に私が望んだ褒美は彼と友になる事だと言いました。結果、彼は自身の魂を私に渡し、復活した際に友になるという契約をしました。そして現在まで彼は意味もなく暴れる事はせず、ご覧の通り共に行動をしています」
「つまりあの倒した時にはすでにアジ・ダハーカと契約を交わしていたと」
「はい」
この説明に長老達は話を始める。
どうやら俺を無下にする事も出来ないし、かと言ってダハーカだけを攻撃する訳にもいかないという内容の様だ。
一人の長老が手を上げて俺に聞いてくる。
あの人はダハーカ戦に参加した長老の一人だ。
「彼は本当に我々を攻撃する意思がないのか確認したい」
「だってよ、ダハーカ」
「ふん。愚問だな、俺が今最も倒したいと思っているのはリュウのみだ。他の有象無象など興味ない」
そんな言い方でいいのか?下手すりゃ攻撃されるぞ。
強いから問題ないけど俺の評価は下がりそうなんだが。
「ではリュウを倒した後はどうする?」
「次の強者を探すだけ」
「…………リュウ、決して敗れるなよ。お前が負けない限りはこちらに意識は向かないようだ」
「負ける気はありません。そのために人間を倒そうと考えているのですから」
「その事についても聞きたい。リュウは同種の人間を殺せるのか?」
その言葉に頷く長老達が意外と多くいた。
だから俺は言った。
「殺せます。同じ人間でも理想も違いますし、遠くにいる同種です。殺した所で何とも思いません」
その言葉で俺に警戒心を強める長老達がいた。
魔物では同族殺しや家族殺しは最も重い罪であり、もしそんな事をした者が居たとしたら群れから追い出されるか、殺される。
それを平然と言った俺を警戒するのも無理はない話なのは分かる。
しかし。
「人間はあまりに多く存在しすぎる、たとえ同族であっても殺し合う事はあります。土地の奪い合いや資源の奪い合い、たとえ武力によるものではなくてもよくある事です。そして私は皆さんを知性の無いただの化け物の様に殺しにくる彼らが気に入らない、なので殺します」
「…………二度と故郷の土を踏めなくなる可能性の方が高いが?」
「構いません。俺がここに居られるなら」
「他にリュウに質問のある者は」
納得はしていないが俺の言葉に嘘はないと判断したのか微妙な顔をする長老達、おそらくこれは種族が違うからこそ出てくるものなんだろう。
人間は昔から人間同士で殺し合ってきた。
もちろん魔物によって同盟や多くの村が集まって国になった所もある。
しかしそれはかなり稀なケースだ。
実際のところは侵略による土地を奪った国の方が多いし、武器なんかの軍事的な発展も結局は魔物対策より人間対策の方が多い。
つまり魔物は種族の違う存在と多く戦ってきた価値観と、人間は同種族と多く戦ってきた価値観の違いでしかない。
「では大森林に侵攻してくる人間への対策会議に移る」




