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タフな王子

 王子は俺の声に気にせずリルに求愛を続ける。


「私は魔王候補と呼ばれる程の力も持っている。それにこれでも国の王子だ、贅沢に暮らす事も可能だ。もしこの求愛に答えてくれるなら欲しい物をいくらでも貴女に届けよう。だから私の妃になってくれないだろうか?」

『えっと、普通に無理』

「え!?」

「だって私には既に旦那様がいるもの」

 人型に戻りながら俺の腕を組むリル、そのまま俺の腕に頬擦りし始めた。

 そうだそうだ!こいつ俺の嫁だぞ!

 しかし王子はしつこかった。


「しかしその男は人間。我々より弱い存在だ!何故そんな人間を旦那と言う!」

「王子!それ以上無様な姿を見せないでください。彼女は既に夫となる殿方と一緒にいるのです。諦めてください」

「他の強い種族ならともかく最弱の人間だぞ!俺が人間より弱いはずがない!」

「普通ならそうですがこの人間は違います!分からないのですか!」

「ふん。それはつまりお前以上の力を持っていると言う事だろうが俺より強いはずがない!」

 あ~もうダメだ。こいつ気に入らねぇ~。

 狐秘書が援護射撃してくれてるがもう我慢できん。

 躾のなってない犬に躾といくか。


「おいそこの犬コロ、なら一勝負しないか?」

「勝負だと?人間が俺に?」

「そうだ。ルールは簡単、どちらかが参ったと言うまで。これでどうよ?」

「リュウ?」

「ふん、良いだろう。この人間より俺の方が強いと証明してやる」

「お待ちください!せめてお互いの命を奪わない程度でお願いします!」

 この狐秘書、意外と修羅場とかくぐってそうだな。

 頭だけじゃなく経験も多そうだ、戦った時この犬より狐秘書の方が苦戦するんじゃないか?


「まぁ俺は良いぞ。人間などいつでも殺せるしな」

「俺も構わない。こんなの殺して後が面倒になるのは嫌だ」

 こいつを殺して後から仇討ちに来られても面倒くさい。

 この犬は俺を睨んでグルグル唸っているがまるで怖くない。

 狐秘書とリルを遠ざけて俺と犬は対峙する。


「貴様、俺が勝ったらあの方を妃として迎え入れさせてもらうぞ」

「無茶言うな、あれは俺の女だ。やる訳がないだろ」

 そう言うと王子は狼男の姿へと変わり遠吠えをする。

 俺は全スキルを発動させて構える。

 そして少しだけこいつで実験をしようと考えていた。


 実験とは今の俺が殺意を持って殴った場合どうなるか。

 最近狩りもしていない、一番最近殺意を持って戦ったのは裏ギルド殲滅の時が最後だ。

 と言ってもかなり軽くだったし、全力とは言えないがあれ以来殺意を持って殴った事はない。

 カリンの母親の時は倒す事を考えていたし、しばらく殺してない。

 だからついでにここで試してみようと思う。


 そして武具がない状態でどこまで戦えるかも実験の一つだ。

 今の俺は丸腰、革鎧も焼けたし刀は道場にある。

 だから俺は今の状態でどこまで戦えるのか実験、検証したいと考えていた。

 まぁろくに死の恐怖も知らないこいつではろくな検証は出来ないと思うが。


「お前だって所詮ただの狼男にしか見えないが?」

「俺は『上位人狼ライカンスロープ』!ただの人狼ではない!」

「あっそ」

 どこが上位なのか全く分からないがフェンリルの格下ってのは分かるよ。


「それでは始め!」

 頑丈そうな亀の獣人が言った。

 俺は言うと同時に王子の懐に入って鳩尾に深く拳を入れた。

 王子は変身して二メートルちょいと言った所まで背が高くなった。

 おかげで懐に入りやすい。


「がっは」

 王子は簡単に吐血するが構わず連続で拳を入れる。

 一撃一撃に殺意を込めてひたすら殴る。

 最後の一発だけは空に高く打ち上げる様に殴った。

 物理攻撃耐性もフェンリルにはほど遠い、次は魔術耐性でも測ってみるか。

 両手に魔力で作った球を用意して犬に当てる。


 最近分かった事だが線のように放つより球体状の方が消費魔力が少なくて済む事を知った。

 だから少ない分多くの数で攻められる。

 地面に落ちる前に数十発、当たるたびに小規模な爆発が連続で起こる。

 軽く当てると犬は既に変身すら保てないほどズタボロになっていた。

 殺意は込めたが全力ではないのに情けない。

 こんなのが王子じゃ苦労しそうだなこの国。


 俺は王子から参ったと言わせるために王子に近づく、王子は無様に這いながら俺から逃げようとしていた。

 途中狐秘書が怯えながら俺に立ち塞がったが「止めは刺さない、参ったと言わせるだけだ」と言うと俺の隣から離れず付いて来た。

 俺は這う犬の首を掴んで無理やり顔を合わせる。

 犬の顔は傷と涙でぐしゃぐしゃだ。


「これで分かったか?」

 犬は必死に頷く。


「なら参ったと言え」

「……参り…まひた」

 顔もぐしゃぐしゃだからかろくに呂律も回らない。

 でも確かにこいつは参ったと言ったので隣にいる狐秘書に渡した。

 狐秘書は一言「申し訳ありませんでした」と言うと獣の状態になって犬を尻尾の一つで優しく包むとおそらく国がある方に歩いて行った。

 狐秘書とすれ違う様にリルが俺の所に来る。


『やり過ぎ』

 俺の頭にリルが狼パンチを軽く入れる。

 俺はそっぽを向きながら頬を掻きながら言う。


「すまん」

『そんなに気に入らなかった?』

「当たり前だろ。俺の嫁だってのにあのガキ」

『リュウは独占欲も強いんだね』

「……重いかな」

 少し迷惑かなと思いながら聞いてみる。


『重いね。でも自分の妻を取られると思っての行動だし仕方ないんじゃない?』

「そう言ってくれると助かる」

『私だって最初カリンちゃんが従魔になるって思った時嫌だったから』

「え、そうなの?」

 初耳だった。

 今じゃすっかり仲が良いからそんな事、考えた事がない。


『だって最初は私だけだと思ってたからね。今じゃ大所帯だけどこれはこれで今は気に入ってる』

「そっか」

『それじゃ帰ろっか』

 リルの背中に乗ってリルは軽く走り出す。

 程よい風とリルの毛並みが心地良い、結局殺意のこもった全力は出せなかったがまぁいいか。

 俺はリルの毛に顔を埋めて堪能しながら帰った。



 数日後。

 精霊王から貰った情報を整理しながら昼休憩中にまた魔王が来た。

 最近の魔王の楽しみはカリンを自分の膝に座らせる、または膝枕するのがブームらしい。

 カリンは恥ずかしながらも抵抗はしない。

 カリンも何だかんだで母親とのコミュニケーションが嫌いな訳じゃない、ただ他の人に見られるのが恥ずかしいだけだ。


「ほう、あの不吉な力は貴様の殺気だったか。そこまで怒った理由は何だ?」

「魔王候補のガキが俺のリルに求愛しやがったからだよ」

「それは確かに気に入らぬだろうな。しかし娘達も怖がっていたぞ」

「それも聞いた。そんなに怖かったか?」

「怖かった。初めはパパだって気付かなかったもん」

 膝枕されているカリンに聞いてみるとどうやら相当怖かったらしい。

 オウカはアオイに抱き着いたとか、そのアオイと師匠はしばらく警戒態勢でピリピリしてたとか色々聞いた。

 その発生源が俺だと分かると皆に驚かれた。

 そんなに意外かね?


「そう言えばダハーカに向けた殺気とは違う気がするな。今更だけど」

「それは感情の問題だろ。気に入らないと言う感情があそこまで不吉にさせたにすぎん」

「それはあるかも、ダハーカの時は楽しかったからな」

「…………あ奴との戦いが楽しいとは貴様も壊れているな。久しぶりに肝が冷えたと言うのに」

 ダハーカと魔王は俺がいない間に体術限定の試合をしていたらしい。

 その際ダハーカのいつまでも倒れない狂気に近い感情に魔王はビビったとか。


「あれほど蹴ったと言うのに倒れないのは恐ろしく感じた」

「分かる分かる。もしかしてダハーカの一番怖い所は禁術じゃなくてあのタフさかも」

「そうかもしれん」

 お互いに茶を啜り一服、そう言えばあの魔王候補って魔王達から見てどのぐらいの位置付けだったんだ?


「ところであの魔王候補めっちゃ弱かったんだけど」

「まぁ所詮数百年の間に魔王に至るかもしれないと言う範囲だからな。まだ弱いのは仕方ない」

 魔王はまた茶を啜る。

 でもどうしようかな、あの時だいぶプライドへし折っちゃった気がするんだよな。

 大丈夫かなあいつ?

 そう思っているとまた遠くから候補君の気配がした。


「ふむ、報告には聞いていたが意外と復活が早いな」

「報告って?」

「なんでも訓練場でひたすら身体を虐め抜いていたそうだ。理由は知らん」

 へぇ。

 メンタル弱いと思ってたが意外とタフだな。

 だって泣いてたし。


「それで貴様はどうする。追い返すか」

「話に来たなら話を聞いてからだ。追い出すかどうかはその時決める」

 穏便に済むと良いな。

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― 新着の感想 ―
リュウがゴミくず過ぎて残念です 南の魔王候補かつ獣人の王族である王子とフェンリルの長の一族であるリルが結ばれるのは立場的にも種全体としても祝福される運命的な出会いなのに、それをたかが自分の一人の気持…
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