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後始末

「…………誰?」

 突然誰かも分からない青年に決闘を申し込まれた。

 青年は極東の浴衣を着ている所を見ると地元の人かと思ったが強い魔力を感じる。

 こいつは魔物だ。

 だが魔王はこいつが誰なのか分かっているのかあちゃーと言った感じの反応を見せている。


「知り合いか?」

「……さっき言った魔王候補だ」

「え、こいつが?」

 もう一度見るがそんな魔王ぽくない、特別がたいが良い訳ではないが筋肉が全くない訳でもない。

 でもやっぱり威厳と言うかオーラと言うかそう言ったものが感じられない。


「おい人間‼受けるのか受けないのかどっちなんだ!」

「じゃ受けない」

「な!?」

 そう言って残ってる茶をまたすする。

 面倒事はしばらく無視してたいんだよ、帰れ帰れ。


「受けなかった場合、こちらの不戦勝として要求を呑んでいただきます」

「要求って俺何かした?」

「先日我々の縄張りでそこの魔王様と戦いましたよね」

「ああ戦った」

「ですのでその後始末をお願いしたいのです」

 そう言ってた茶髪の女性が詳しい事を書いた羊皮紙を渡してきた。

 書いてある事を読むと大きく三つ。

 一つは縄張りを勝手に使い、ボロボロにしたことを謝罪してほしい。

 二つ、穴凹と焼け野原にした土地を自分で直せ。

 三つ、謝罪として金払え。

 この三つの内最初の二つはまぁ個人的には構わないが金払えがなぁ。

 その金額は金貨千枚、払える訳がねぇ。

 前に稼ぎまくった金はまだ余裕はあるけど千枚もない、そんな中払える金などある訳がない。


「…………これ決闘受けても金払えって事はないよな?」

「ありません。ですが二番目の要求は受けていただきたいと思っています」

「なら三つ目がなしなら要求を呑んでもいい」

「ありがとうございます。ではこちらに」

「待て待て待て、なぜあっさりと決まった。そこは決闘を受ける流れではないのか?」

「は?何言ってんのお前、それは既に断ったじゃん。決闘受けるなら今の話はしないだろ」

「そうですよ王子、決闘よりも草原を直す方が先決です」

 秘書っぽい人も俺に同意してくれる。

 そうだそうだ!大人しく直すから黙ってろや。


「…………」

 王子と言われた青年は物足りなさそうな顔をしているといきなり固まった。

 何を見つけたのか視線を追ってみるとそこにはリルが居た。


「リュウ、何かあったの?」

「ああリル。実は今からあの草原を直してくることになった。少しお留守番頼む」

「え、何で今更?」

「この二人に直せって言われたんだよ。あの草原こいつ等の縄張りだったんだと」

「あーそう言う事。なら私はあの草原で一っ走りしてきていい?最近思いっきり走ってないから運動不足で」

「まぁそれはこの二人に言ってくれよ。さっきも言ったろ、こいつらの縄張りだって」

「よろしいですか?」

「走るだけなら構いませんよ。ただし工事の邪魔をしない範囲でお願いします」

「許可貰った」

「じゃ、久しぶりに二人で行こうか。ところであっちの魔王には同じこと要求しなかったの?」

「要求した際、金品を渡すという事で収束しました」

 そっちは金で解決か。

 意外と金持ってんだな。


「で、走って行く?それとも転移?」

「走って参ります。王子も行きますよ」

「あ、ああ」

 何か王子の様子が妙だな。

 ずっとリルばっかり見てると言うか……

 そして俺達は後をアオイに任せて走り出した。

 秘書っぽい人の正体は巨大な狐で尻尾が三つもある。

 王子は狼の様だが骨格は人間に近いので恐らく正体は『狼男』だろう。

 ついでに俺はリルの背中に乗って移動中、リルは嫌がるどころか何故か嬉しそうに走っている。

 で、現場に到着するとそこには様々な獣人が集まって穴を埋めていた。

 ほとんどは哺乳類ベースの獣人が多いがたまに『半人半蛇ラミア』の様な爬虫類もいる。


「皆様!この方が全て直してくださります!」

 リルの背に乗った俺を尻尾で指しながら言う狐秘書、その言葉で俺が張本人の一人だと分かったようで俺を睨む。

 確かにこのとばっちりを受けたら恨み言の一つは言いたくなるだろな。


「えっとまず皆さんすみませんでした!ここは責任を持って直しますので皆さんは下がっていて下さい!」

 そう言うと少し戸惑ったような顔をしていたが大人しく穴から出ていた。


『それじゃ少し走って来るね』

「あまり遠くまで行くなよ」

 それだけ言うとあっという間に走って行ったがそんなにストレスでも溜まってたのか?

 でも確かにここの所思いっきり走るような場面は少なかったかも、フォールクラウンでは闘技場の中だけだったし、今は師匠の所で毎日道場に居る。

 うん、全く走る場面がなかったな。

 今度森に帰って爺さん達一緒に狩りでもするか、大分会ってないと思うし、それに教会の事もある。

 一度帰るのは絶対か。


「それではお願いします」

「はいよ~」

 気の抜けた返事で作業を開始する。

 それじゃ頼むぞ精霊王!


『結局僕がするんだね。まぁこういう土地を直すのが僕の本来の仕事だけど』

 そう言って精霊王は俺の魔力を使いクレーターだらけの焼け野原を直していく。

 と言っても魔力は俺一人が供給してはいるけど作業員は精霊王一人ではない、正確に言うとこの辺に居る精霊達が作業員、精霊王は現場監督とでも言うべきか。

 土の精霊が凹んだ土を直し、火の精霊が直った土に活力を与え、風と水と草の精霊が草原を直していった。

 すでに燃えてしまった部分に同じ種の草の種を蒔き、精霊の力で一気に育った。

 俺はその光景を茫然と見ていた。


 いや、だってさぁこんなちっこい連中がせっせと土地を直してるのは何かシュールだ。

 なんかチビ共を働かせてると罪悪感が。


『まぁここまで順調なのはリュウの魔力のおかげなんだけどね』

『ん?そうなのか?』

『土地を直すのに魔力は多く使うからね、普通にしてたら二日はかかるよ』

 ふ~ん。初めて見るから実感ないけど。

 それより何か五月蝿いな、酒でも飲んでんのか?

 そう思いながらも草原は精霊達の手によって綺麗に直された。

 地面も前みたいに平らになったし、焼けた部分は既に新しい草が生えている。

 新しい所と古い所は色の違いで分かるがまぁこのぐらいは大目に見てもらおう。

 後はあの狐秘書に確認を取ってもらうか。


「おーい、狐秘書さん。チェックお願い」

 そう言うと狐秘書さんは獣状態で草原を確認する。

 確認と言うよりはただ草原でごろごろしている様にしか見えないが……


『素晴らしいです。以前より草も大地も生き生きとしている』

「それじゃこれでお終いでいいか?」

『はい。これで依頼は終了です。しかし随分と早く綺麗に済みましたね』

「こういうのを専門とするのが居たからね。しかし向こうが騒がしいが酒でも飲んでんのか?」

『いえ、行なってるのは求愛です』

 え、求愛?求愛でこんなに盛り上がってんの?

 カップル成立したとか振られたとかそんな感じか?

 とりあえず狐秘書と一緒にその場所に行くと想像とは全く違った光景が広がっていた。


 倒れている屈強な戦士、そして今も求愛相手に突っ込みぶっ飛ばされる戦士、倒れながらも必死に這い上がろうとする戦士と様々な戦士達が一人の女性に蹴散らされている。

 身体能力に定番のある獣人の猛者達がそのたった一人に向かい玉砕していく。

 戦闘範囲外には女性の獣達がその光景を茫然と見ている。

 そして俺はつい大声を上げてしまった。


「何やってんのリル‼」

 そう、獣人相手に無双していたのはリルだった。

 草原で走って来るんじゃなかったの!?


「申し訳ありません。リル様には手は出すなと言ったのですが一部の者が求愛した際にこうなりまして」

「求愛から何で無双に変わってんの!?」

「獣人の求愛は気に入った異性と決闘し、勝利する事で結婚できます。しかし今回は数が多いのでこうなったのでしょう」

「求愛行動が決闘ってとこにも色々突っ込みたいがあいつ俺の嫁だぞ?」

 そう言うと狐秘書は目を大きくして驚いた。


「それは困りました。我が国では人妻に手を出すなと言うルールがあるのですが」

「何で人妻限定なんだ」

「いえ、暗黙のルールと言うものです。しかしこの状態では誰も上手くいきそうにありませんが」

 確かにずっとリル無双が続いている限り求愛が上手くいきそうにはないな。

 そう思いしばらく待つとリルが遠吠えをした。

 どうやら終わったみたいだな。


『ふう。あー楽しかった』

「何やってんのリル」

『あ、リュウ。何か決闘しろって言われたから皆倒した』

「あれ求愛らしいぞ」

『え、知らなかった』

 そう言いながら俺にめいいっぱいの甘えを見せるリルの腹を撫でまわした。

 その光景に涙を流す獣人の戦士達、そりゃさっきまで求愛してた相手が思いっきり甘えてる光景を見たら泣くな。


「いっぱい遊んだなら帰るぞ」

『はーい』

「少し待ってくれ!」

 これから帰ろうとした時に王子から待ったがかかった。

 何だよ一体、と思っていると王子はリルの前で膝を付いてこう言った。


「リル殿!どうか私の妃になってほしい‼」

「あ?」

 その言葉に俺の方が先に反応した。

 そして自分でも驚くぐらいのどすの利いた声で王子を見下ろしていた。

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