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…………誰か来た

 魔王の一撃は流石の一言だった。

 鋭い鷲の爪は付加術と覇気で守っていた身体に易々と食い込む。

 さらにそこからゼロ距離で放たれた炎は俺の身体を突き抜ける。

 魔王の爪が離れ少しふら付いたがそれでも俺は倒れる事だけは何とか耐えた。

 倒れてしまったら何のためにこの危険な賭けに乗ったのか分からない。

 ただ気力だけで立って、魔王を睨む。


「………まさか本当に耐えきれるとは思わなかった」

「……それじゃ」

「合格だ…………仕方ない、娘は預ける」

 そう言われると気が抜けて膝から崩れ落ちそうになったところをカリンが支えてくれた。

 おいおい、正面から受け止めたら汚れるだろ。


「ダハーカさん!パパが‼」

「今回復させる!傷を見せろ!」

 ダハーカが本来の姿の状態で俺を診る。

 おそらく黒焦げた俺の胴体があるんだろう。


「ち!ここまで酷いと治療しずらい!」

「何で!私の羽が使われてるのに何で火傷してるの!?」

「それがお前の母親の力という事だ。そしてこれがリュウがお前を表に出さなかった理由だ」

 あ~あどうやら革鎧が焼け散ったみたいだな。

 ドルフが拵えてくれたいい鎧だったのにな。

 また素材を獲ってこないと。


「お母さんやり過ぎ!」

「し、しかしこうでもしないと実力は測れない」

「パパを虐めるお母さん何て嫌い!」

 どさりと何かが落ちた音がした。

 しっかしマジで大変な事になってるみたいだな。

 大怪我過ぎたのか火傷のせいなのか痛覚が麻痺してる。

 しかもこんな時だからなのかスキル『自己再生』が『高速再生』に変化してる。

 俺も死にたくはないが俺の中でも大忙しの様だ。

 ウルが俺を死なせまいと魔力をどんどん流してくれている。


「ダハーカ、これをその方に」

「それは!貰うぞ」

 何かが俺の口に入った。

 たった一滴の水で何が出来るんだってんだよ。

 しかしその水を飲んでから痛覚が戻った。

 そして焼け焦げた皮膚が高速再生する。


「ん、今のは?」

「パパ‼」

「フェニックスの涙、治癒効果のあるポーションだと思ってくれればいい」

 カリンが俺に抱き付き、ダハーカは人の姿に戻った。

 他の皆も抱き付いてくる。

 一人一人頭を撫でていき、心配かけたと一言言った。


「で、魔王のあの状態は一体?」

「あれは先程カリンの言った嫌いの一言で崩れ落ちた魔王だ」

 なるほど納得。

 真っ白な灰になりかねないほど真っ白になっているのは娘に嫌いと言われた母の姿か。

 妹さんにやり過ぎですよと言われる度に髪の先が本当に灰のように散っている様に見えるのは俺だけか?


「あー、それじゃカリンは貰っていくぞ」

「…………出来ればたまに顔を見に行くのはいいか?」

「カリン次第だ。どうだカリン」

「……炎の使い方とかキックの仕方を教えてくれるなら」

「本当か!」

 カリンの許可が出て喜ぶ魔王、何て言うか魔王の威厳が形無しだな。

 最初の威圧的な気配はどうした?


「では次に来るときは私直伝の炎と蹴りを教えよう。ではいくぞ妹」

「はい姉さま。ではカリン、また」

 そうして二人は飛んで帰った。

 それよりこの戦闘跡とかは何もしなくていいの?

 そりゃあ魔王の炎で焼けちゃった所とかはどうしようもないかも知れないけどさ。

 穴凹ぐらいは直さなくていいの?


「では私達も帰るぞ。そしてリュウはこの後休め、いくらウルが魔力を補っているとは言えかなり消耗している」

「そうだな、今日はゆっくりと寝させてもらいたい」

 今日は肉体的にも精神的にも疲れた。

 師匠への言い訳はアオイにでもしてもらおう。

 そして俺達はダハーカの転移で道場に帰った。


 帰った後師匠にこっぴどく怒られた。

 師匠もあれが魔王だと言うのは気付いてたみたいだし当然と言えば当然か。

 アリスからもお怒りの言葉を受けたこの事をどう隊長に話せと。

 完全に自分の事だけで考えてやがる、でも今日の修業はアリスのみで他の皆はお休みとなった。

 おかげでアリスはくたくたになり寝る時はあっさり寝た。


 で、次の日。

 朝の修業も終わり昼食後の休憩をとっていると二羽の鷲が飛んできた。

 赤い二羽の鷲は足で何か小さなものを片足に一つずつ持っていた。


「お母さん!何で来たの!?」

 うん、流石に分かってたよあの二人だって。

 すると二人は足で持っていた物を俺の前に転がした。

 何だろこれ?中身は液体の様だが。


「それはフェニックスの涙だ」

「あ、これで俺の怪我が治ったんだ」

 とても小さな入れ物の中に涙が一滴、まさかこんな一滴の涙で助かるとは思ってなかった。

 でも俺の腹はもう治ったはずだが……


「これお母さんからのお土産だって、それとこの前の謝罪の品って言ってる」

「なる程、ならありがたく貰っていくか。アオイ、仕舞っといて」

「承知しました」

 近くに居たアオイに涙を渡す。

 俺が持ってたら戦闘中に壊す可能性が高い、それにアオイならきちんと管理してくれそうだしな。


 途中師匠が魔王に会って腰を抜かしていたが今は問題なく俺の修業に付き合ってくれている。

 古武術の動きを学んでいる間、カリンは魔王から炎と蹴りを学んでいる。

 魔王はここでは人の姿にはならず鷲の姿のままだったがこれは仕方がない事らしい。

 この前の騒ぎで気楽には来れなくなった。

 実は今もお忍びで来ているんだとか。

 そんな魔王が居る生活にいつしか俺は慣れてきていた。


「へー、魔王って今は五人いんだ」

「私を含めて、ではあるがな」

 そして現在、俺と人型の魔王は道場の縁側で茶をすすっていた。

 何度もカリン目的で来ている間にいつの間にか仲良くなってた魔王。

 話はもっぱらカリンの事ばかりだが今は他の魔王について話を聞いている。


「まぁ私達が争った場所に居る魔王はまだ候補、ある意味貴様と同じだ」

「ん?何で俺が候補に入ってんの?」

「前に悪魔が面白いと言っていただろ。実は貴様と勇者の試合を記録した物を見てた、所詮八百長のつまらぬ試合ではあったがそれでも素質は誤魔化せんよ」

「だからって候補はないだろ」

「だが貴様の話を聞く限り『魔王』になる気はあるのだろ?なら私が後押しをしてもよいぞ」

「『魔王』になるのはとある目的のため、別にあんた等みたいな魔王になる気はないよ。まず民を束ねろとか俺にそんな技術も知識もねぇよ」

 魔王とは人間の間では魔族の種族をまとめた者であり、俺が求める『魔王』はただの称号だ。

 称号はスキルと違いそれまでの行いによって手にはいるもので、スキルのように修業だけでどうにかなるものではない。

 事実ダハーカも称号『魔王』は持っている。

 大昔から多くの人間を殺してきたダハーカが持っていないはずがない、けれど人間から魔王と呼ばれる事はない。


「なぜだ?魔王になればある程度の権限と土地を手に入れる事が出来る。その地は基本魔王同士の不可侵条約によって平和を手に入れる事もできるぞ?」

「それは確かに魅力的な話だが俺にその地を支配する能力があるかどうかは別だろ。まず俺家すらないし」

「ないのか?城とまでは言わないが家ぐらいはあるだろ」

「ない。もともと最初の師匠、フェンリルの爺さん達が狩りのために家を必要としなかったからその後も家を建てるって概念すらないんだよ。雨風凌げるならでっかい木の下で十分だったし」

「しかしドラゴン達は城を持っていただろ」

「そこに居候でもしろってか?ヤダよそんなみじめな生活」

「ならオウカの婿になっていただければ良いではありませんか」

「久しぶりに来たな、婿攻撃」

 アオイが俺と魔王に新しいお茶を淹れてくれる。

 そのまま正座して真面目な態度でアオイは話を続ける。


「城と土地が欲しいのなら我が国の新たな王に」

「ちょっと待てアオイ。話がスケールアップしてないか?」

「スケールアップなどしておりません。元々オウカの婿になるとは龍皇国の新たな王になると言う事、その事を視野に入れず婿になれとは言いませんよ」

「む、待てティアマト。この物は私の娘の婿、つまり次ぐなら私の縄張りの方がふさわしいのでは?」

「ご冗談を。ただの山の洞穴にリュウ様はふさわしくありません、私も妻の一人として断固、反対させていただきます」

 とりあえず俺を挟んで親、祖母喧嘩は止めてくれ。城なんて想像しただけでも掃除と維持が大変そうだ。

 それにさっきから蒼いドラゴンと紅い鷲のオーラ的なものが出てるから仕舞えって。


 そんな時それなりに強そうな気配が俺に向いていた。

 その先には二人、俺と一つ二つしか違わなそうな青年と金髪の女性が俺と魔王を睨んでいた。

 青年は俺に指を突き付けながらこう言った。


「貴様に決闘を申し込む!」

 ………………いや誰だお前?

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