『一体化』の正しい使い方
カリンの母親が現れた。
カリンはまだまだ子供だし、普通は親元に返すのがいいのだろう。
しかしカリンは俺の娘兼嫁でもある訳だしそう簡単に返すつもりもない。
そこはカリンの選択に任せるしかないのか……
抱き締め合ってる親子を無理やり引き裂く様な事はしたくない。
「カリン、私の元に帰って来てくれるか?」
「え」
「お前は我らガルダの姫、そこのおかしな人間と共にいるより安全だ。それにいつかは私の跡を継いでもらいたい」
「でも」
「カリン様、できれば帰って来て頂けませんか。我らは最強の一角、しかしあまり多くはいないのです」
カリンが抱き締められながらも俺に助けを求める。
『パパどうすればいい?』
『今回は自分で考えて答えを出しな』
少し冷たい言い方だったかもしれないが今回ばかりは自分で答えを出してもらわないといけない、助言のしようがないしこればっかりは自分で決めてもらわないと。
俺の思考が届かない様に念話だけを切っておく。
どんな結果になるかは黙って見ておこう。
「…………ごめんなさい!」
そう言ってカリンは母親の腕から離れ俺に抱き着いてきた。
魔王とその妹は茫然としている。
よほどこの結果になるとは思っていなかったのだろう。
「私はパパと離れたくない!お姉ちゃんとかオウカちゃんとも離れたくないの!私は確かにお母さんの娘だけどパパの娘でもあるの‼」
「カリン……」
「それに私は旅を続けてたい!どこかに留まってお姫様をするより色んな所に行って色んなものを見ていたいの!」
魔王はただただカリンの言葉を聞いている。
俺はカリンの事を強く抱きしめた。
俺を選んでくれた嬉しさと隣にいてくれる安心が俺を包んだ。
しかし魔王は娘に振られて何か嫌なオーラが出ている。
娘を奪われた怒りが魔王を包む。
「…………何故、何故母ではなくその男を選ぶ?何故母の元に帰ってこない?何故人間を選ぶ!?」
魔王は怒りのまま巨大な鷲の姿に戻る。
その目とオーラから巨大すぎる怒りが伝わってくる。
『なんで魔王を怒らせてるの!早く逃げようよ!』
精霊王が俺の中で叫び続ける。
確かにこの炎は危険だな、かと言って逃げ切れるとも思えないしなぁ。
『パパ!私を使って!』
『いや使えって娘を盾にしろって事か?嫌だぞそんなの』
『そうじゃなくてウルお姉ちゃんが許可をくれたから思いっきり『一体化』出来るようになったの!』
思いっきり一体化出来る?なんじゃそりゃ?
そう疑問に思っているとカリンの炎が俺を包み込む。
熱くはないけど温かい、炎が包んでるのに火傷一つしない。どうなってんだ?
『説明してあげようか?』
『ウル、説明頼む』
『『一体化』って言うのは本来魂レベルで行われる危険なものなの』
『危険?今までそんな兆候なかったぞ』
『私が魂にまでアクセスしない様に邪魔してたの。リュウの事だから簡単に受け入れて変形してもおかしくなかったし』
『変形とは?』
今恐ろしい単語が現れた気がしたんだけど。
『簡単に言うと魂が混じっちゃうの。ダハーカの場合はあくまで死んでスキルとしていたから問題なかったけど彼女たちは生きている。生きている魂が混じっちゃうとまず精神が汚染される。軽くて互いの思考、重くなると二人を合わせた後に割ったような感じになる。つまり自分が自分ではなくなるの』
『汚染……』
『その次は肉体の変化、リュウの周りの女の子たちは皆強力な魔物ばかりだからね余計変化しやすい』
『その変化って具体的には』
『リュウの身体の一部が魔物の身体の一部に変化する。足かもしれないし腕かもしれない、顔かもしれないし胴体かもしれない。そこは魔物の特徴にもよるけど使い過ぎたら二度と戻らない』
二度とって、俺そんな使い勝手の悪いスキルでずっと体内に皆を居させたのか!?
皆は無事か!?
『……大丈夫よ。だから言ったでしょ、私が邪魔をしてたから魂までアクセスしてないって』
『一番心配なのはウルだぞ!一番ウルが魂に近い所に居るんだからな!』
『大丈夫、確かに近い場所に居るけど触れてない』
どこか嬉しそうに話すウル。
しかし次の言葉は真剣そのものだった。
『でも今はカリンちゃんが魂レベルで『一体化』してる。離れる時は私も協力するから汚染とかはないと思うけど、もし戦ってるときに無理やり離されたらその時は二人の安全は保障できない』
『……無理やり引っ剥がす事も出来るのか』
『強烈な攻撃を受けたりするとね。だから気を付けて、私もカリンちゃんの事妹の様に思ってるんだから』
あいよ、ぜってぇ負けねぇよ。
『行けるかカリン』
『はぁはぁ。うん準備いいよ……』
『あ、今カリンちゃんはリュウの魔力に当てられてちょっとした興奮状態になってるから』
何か不安だ……興奮っていうけど何かエロい方で興奮してるような息遣いだし、これから戦うって時にそれは大丈夫かな~。
何か頭の中で『カリンちゃん近付き過ぎちゃダメ!』って声も聞こえるし不安しかねぇ……
ただ一体化の効果は凄いものの様だ。
カリンのオーラが守っているだけではなく、何故か背中に赤い翼まで生えていた。
他に変化した部分は見当たらないがとりあえず飛行は楽になっただろうな。
魔王は一体化した俺を見てさらに怒りを露わにする。
魔王は羽ばたきまた空へ飛び立つ、俺もカリンの翼を広げると同時にさっき使っていた重力軽減の魔術と風の力を併用した。
するとまた制御に失敗した。
再び魔王の腹に頭突きパート2、しかもさっきより遥かに速く飛べる。
さらに言うと翼があるので細かい制御も可能になった。
カリンのオーラのおかげで触れなかった魔王の熱の体にも触れられるようにも可能になっていた。
「娘の選択ぐらい受け入れろバカ親!」
そう叫びながら戦闘は本格化した、魔王は俺に向けて火球を放つがそれごとロウで斬る。
火球は斬る事が出来たが魔王の羽は何枚も重なっているようで結果は羽を少し散らしただけ、と言っても一応はカリンの母親なので殺すのは止めておこう。
仕方ないので俺はロウを鞘に戻し、近接戦で決める事にする。
一応ダハーカや精霊王にも魔王に効く魔術を検索してもらったがかなりの魔力を使用する上級魔術のようだし、決め技にもならないので止めた。
結局いつもの付加術をいつも以上にかけておいただけで、いつもの殴り合いになった。
芸がないな俺。
そして翼や魔術を駆使し、魔王をひたすら殴る。
カリンのおかげで自身の熱が通じない事をようやく分かったのか魔王は巨体な足で攻撃する。
しかしその動きは今の俺には遅い。
なんせ魔王は巨大な鷲のままで鋭い足の爪さえ避ければ簡単に上半身を殴ることが出来る。
頭に血が上り過ぎているのかそんな事にも気づかないこの鷲は本当に魔王なのかすら怪しくなってきた。
また一発殴ろうとした時魔王はまた人型になっていた。
「貴様。私の事をひたすら殴りおって、調子に乗り追って!」
「殴られる奴が悪い」
そう言ってまた殴ろうとすると魔王はさっきまでと違い、素早い動きで俺をかかと落としで地面に蹴り落とした。
魔王相手に油断するのダメかもしれないが油断してた。
しかし今の蹴りは中々の威力、カリンの蹴りよりも重い。
地面に出来た大きなクレーターの真ん中で感じていた。
翼を折り畳み、今度は地上での近接戦に変わる。
俺は殴ってばかりいるが魔王は蹴りを中心とした攻めのせいで中々攻めきれない。
ロウを使った戦いならリーチだけは補えるだろうがそれだけじゃ勝てない。
「どうした!やはり口だけか!」
魔王の声にムカついた俺は魔王の蹴りをわざと食らう。
魔王はニヤリと笑ったがむしろ都合が良いのは俺の方だ。
魔王の蹴りを正面から受けたダメージは大きいがこれで一方的に叩き付けられる。
俺は魔王の足を両手で掴んでいた。
「ちっ!」
魔王は翼を広げて空中で残った足で攻撃しようとしたがその前に俺が魔王を地面に叩き付ける!
「おっら!」
ノンストップで叩き付けられる魔王は悲鳴を上げるが俺は地面に叩き付けるのを止めない。
連続で辺りに小さなクレーターを作りながら魔王を叩き付ける。
ただやはり魔王というべきか振り回されている中で火球を俺の顔にぶつけた。
その衝撃で片足を離してしまい、魔王は解放された足で攻撃して一度離れた。
俺は魔王の蹴りで打撲、いや、鷲の強力な足の爪でできた切り傷の方が目立つ。
魔王はさっきの攻撃で美しい髪は土だらけでぼさぼさ、何度も叩き付けた影響か少し首を痛めたようだ。
だがお互いしっかりと地面を踏み締めている。
「まさか娘の力を借りているとはいえここまでできるとは思っていなかった」
「俺もまさかここまで地上戦が出来るとは思ってなかった」
「しかし貴様は何者だ?勇者は女だと聞いている。では貴様は何者だ」
「俺はリュウ、ただの調教師だ」
「……ああ。なるほどあの悪魔が気に入ったという人間が貴様だったか」
「悪魔?」
「魔王にも集会のようなものがあってな、その際面白い人間がいると聞いた。まさかその男が娘を連れまわしているとは思っていなかったがな」
魔王の集会で俺の名前が出たって相当ヤバい事になってんじゃないか?
魔王を目指してるから今の内に潰そうとかじゃないよな?
「何でも悪魔と契約の話をしたそうだな。その悪魔をいずれ手に入れるつもりか?」
「俺が気に入った奴なら人種どころか種族を気にするつもりはねぇよ。悪魔だろうが何だろうがな」
「そうか。では一つ提案をいいだろうか?」
「提案?」
「次の全力の一撃を耐えたら貴様の勝ち、耐えきれんかったら私の勝ち。どうだ?」
「………勝った方がカリンを連れ行くって事か」
「そうだ。どうする?」
正直殺す気のない戦いにこれ以上時間と体力は使いたくない。
ただ耐えきれるかな~
「ならさっさとしようか。これ以上はカリンが悲しむ」
戦いが始まってからカリンはずっと不安そうだった。
カリンは俺を選びはしたが別に母親の事が嫌いな訳じゃない、むしろずっと探していた母親の事が好きなはずだ。
だからカリンはずっとこの戦いを不安そうに見ていた。
「では本気の一撃を見せよう。避けるなよ」
そう言って魔王は空へ大きく飛んで行った。
俺の目でも見えないほど高く飛んだ魔王は急激な降下で俺に迫ってきていた。
足を鷲のものに戻し急降下するのと落下スピードでさらに威力を増し、その鷲の足はガルダの炎を纏っている。
あの本気と言うのは嘘じゃないな、マジで殺すつもりの一撃だ。
俺は防御系付加術全てと全魔力を覇気に変える事で防御力を最大にまで引き出す。
まるで太陽が落ちてくるかのようなイメージだ。
普通ならこんな攻撃避けるがこれはもう受けた勝負、逃げる訳にはいかない。
あとはただ強く地面を踏みしめるだけ、後はただ魔王が来るのを待った。
そして魔王の全力の蹴りが俺を襲った。




