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初めての魔王との戦闘

 魔王が突撃してきたと思ったら見えない壁のようなものにぶつかった。

 いや、薄っすらと術式が見える。


「サンキューダハーカ」

「礼より早く動くぞ」

 そう言ってダハーカは道場の床に術式を一瞬で書き上げどこかに転移した。

 見渡す限りの草原、確かにここなら被害は抑えられるか。

 ここにいるメンバーは俺とリル、カリンにオウカ、アオイにダハーカの六人だ。


「ここってどの辺だ?」

「極東近くの草原だ。確か獣の魔王の縄張りだ」

「……他の魔王巻き込んでんじゃん」

 こんな話をしている間もあの鷲の魔王は急速に近付いている。

 いくらデカくて飛んでるとは言っても速過ぎるだろ。


「仕方がない。あのガルダは炎による攻撃は凄まじいものだ。しかもスキルに『龍喰い(ドラゴンスレイヤー)』がある以上私とティアマトは不利だ」

「え、あのでっかいのがガルダ?ならカリン説得できないか」

 そう言うがカリンはまだ放心状態だ。

 仕方ないので揺すって無理やり起こす。


「カリン!」

「………………パパ、どうしよう」

「何がだ?」

「あの人………私を連れて帰るって」

 連れて帰る?

 つまりあのガルダはカリンを連れ返しに来たって事か。

 そうなるとカリンは戦わせない方がいいな。


「カリン、お前は戦うな。それと皆も今回は俺の中に居てくれ」

「リュウ!?馬鹿な事言わないで、あれこそ一人で戦うなんて無茶よ!」

「安心しろリル、別に正面から戦おうって訳じゃない。ただの説得のためだ。それにあいつは怒りだか焦りだかで正気じゃない」

「それなら余計!」

「俺ならこの鎧のおかげで熱による攻撃は効かない。俺が一番安全なんだよ」

 こんな話をしている間にも魔王はどんどん近付いて来る。

 ダハーカの転移で逃げたとしてもあの魔王は必ず追い駆けて来る、その繰り替えしをしていればそれはただの鼬ごっこだ。


「では私達はリュウ様の体内から魔力のサポートをいたします。流石に今回は分が悪いかと」

「私も魔術に関する事ならば体内からサポートする事は出来る。任せろ」

「……私は……邪魔にならない様体内に居るのだ」

 オウカだけは少し悲しそうに言う。

 カリン同様魂の眷属ではあるがまだまだ幼い、経験も少ないので出来る事は少ない。

 だから俺は一応言っておく。


「オウカ、確かにお前はまだまだ弱い。けど将来強くなる可能性が一番高いのはオウカだからな」

「そう……なのか?」

「当たり前だろ?これだけ強い連中に囲まれてんだ、自然と強くなる。まぁそのために色々頑張らないといけない事もあるけどな」

 頭を優しく撫でながら言うとオウカはどこか安心した様に甘える。


「分かったのだ。必ず強くなってリュウを助けるのだ」

「ああ頼む」

 そうしてドラゴン組は体内に入った。

 あとはリルとカリンだけ。


「早く二人も入んな」

「パパ、残っちゃダメ?」

「今回はダメだ。危険過ぎる」

「カリン、今回だけはリュウに任せましょう。飛べない私と弱いあなたじゃ攻撃手段はない」

「でも炎なら」

「あれは魔王よ。たとえ同種でも、いえ、同種だからこそ実力ははっきりと分かれるものなの。だからね」

「……分かった」

「いい子ねカリン。リュウ戦わないで」

「初めっから逃げ勝つつもりだ」

 そういって残った二人も体内に入った。

 俺は軽く準備運動をしながら魔王を待つ。

 このスピードならあと十秒ほどか、わずかな間でも少しは動ける準備をしないとな。

 そう思って準備していたら強い熱気を感じた。

 どうやら魔王が炎の球を出したようだ。


 俺は冷静に全戦闘系スキルを発動させる。

 今回使う武器はロウ、理由は蒼流はアオイの爪で出来た刀、つまりドラゴン。相性が悪い。

 それにロウなら魔力の込め方次第でリーチに関係なく攻撃する事が出来る。それも理由の一つだ。

 とりあえず火球をロウの斬撃でぶった切る。

 そのまま魔王に当たりそうになったが魔王は軽く避けた。

 翼を空中でしまい華麗に避ける。


 二つに分かれた火球はそのまま草原に当たり焼くが俺達には関係ない。

 魔王は再び翼を大きく広げ上昇すると今度は連続で火球を放ってくる。

 俺はダハーカのサポートで燃える範囲外に転移した。

 まだ俺の知識じゃ見えない所への転移は出来ないが目に見える所、またはあらかじめ座標を固定しておいた場所なら転移できる。

 ついでに言うとタイガに渡した紙が座標の固定だ。


「おーい!聞こえるかー!」

 避けた先で大声を上げるが魔王は気にせずまた火球を放つ。

 う~ん。このままだと話しすら聞いてくれなさそうだ。

 仕方ないので乗り気じゃない奴の力を借りよう。


『嫌だ!魔王となんて戦いたくない!僕は平和主義者なんだ!』

 嫌々言ってる精霊王君の力を借りようと思う。

 スキル『精霊王の加護』は精霊王の召喚及び精霊魔術の使用がスムーズに行なえる事が出来るスキルだ。

 精霊魔術でも魔力は消費するが今回は逃げの一手で問題ないのでガンガン使おう。

 ダハーカの魔術もあるがその場合制御するのは俺になるので出来れば使いたくなかったが精霊魔術なら精霊王がサポートしてくれる。


『僕を当てにするのは止めてよ!』

『仕方ないだろ。ダハーカはドラゴンだからガルダの攻撃は致命傷になるし、リルは飛べない、カリンじゃ実力不足だしあと頼れるのはお前だけなんだよ』

『うう、とんでもない奴と契約しちゃったな……』

『後悔先に立たずだ。諦めろ』

『分かったよ。その代わり僕は絶対外には出ないからね』

『むしろそうしてくれ』

 精霊王のサポート付きで精霊魔術を使用する。

 今回使用するのは風系統でフライと言う魔術だ。

 簡単に言えば風の力で空を飛ぶだけの魔術、さらにダハーカの魔術で重力を軽減する。

 ダハーカの重力系の魔術は最低でも中級からの魔術だがただ身体を軽くするだけなら俺にも出来る。

 精霊王のサポートがあるとは言え少しでもスピードを上げる事が出来るならそれに越した事はない。


「翼はないけど飛んでみますか!」

 そして俺は空を初めて飛んだ。

 ただ計算外だったのは思っていた以上に勢いがあった事。

 身体能力の強化に重力の軽減、それによって俺は思っていた以上にスピードが出た。と言うか出過ぎた。

 それによって起こったのは魔王の腹に頭突きをくらわしたと言う結果だけだ。


「っか」

 魔王が軽く息を吐きだす。

 頭突きをくらわした後は精霊王がマジダッシュ、大慌てで地上に戻った。


『何やってんの!?思いっきり攻撃してるじゃん!』

『いや、初めての飛行だったので加減間違えた』

『止めてよホントに!』

 でも攻撃を受けて魔王は少し冷静になった様だ。

 瞳は怒りに染まってるのは変わらないが知性的なものを感じさせる。


 魔王は今度は渦状に炎を放った。

 空に居るという有利性を失わないまま攻撃を続ける。

 しかし俺も今ので大体の飛行する感覚は覚えた。

 なので今度は失敗せずに空を飛ぶ。


 今度は空中での近距離戦となった。

 魔王の体長はおよそ14メートル、俺よりだいぶデカいがそこは問題にならない。

 逆に懐に入りやすいし、手がない分脚しか使えないのは不利だ。

 なのでそこを衝いて今度は魔王を殴る。

 ただそこは流石魔王と言うべきか、魔王は全身から熱を出すことで俺は直接触れられない様にしてきた。

 仕方なく長距離で魔術を放つが全て焼かれた。


 このままじゃジリ貧だなと思っていると極東で見たもう一羽のガルダがようやく来た。

 何が魔王に向かってギャーと鳴くと魔王は人の姿に変化した。

 カリンと似た姿、違う部分はスタイルの良さはあちらの方が良いと言うところか。

 二十代半ばあたりか、髪は赤と金が混じったポニーテールで服は今まで見た事がないものを着ている。

 身体のラインを強調するようなぴったりとした紅い服に金の鳥の刺繍が施されたものだがスカートの部分の端は切られていて足を動かし易い構造になっている。


「貴様‼雛を返せ!」

「あ、喋った」

「早く私の雛を返せ!」

「……もしかしてカリンの事か?」

 そう言えばカリンが連れて帰るとか言ってたな。


「カリン?雛の事か?」

「俺の中にいるガルダの名前だ。合ってるか」

「そうだ。その子は私が長い間探し続けた私の雛、早く返せ!」

「ちょっと待て、俺とカリンが出会ったのはフォールクラウンだぞ。何で魔王の雛があの山に居た?」

「そこは私から話させていただきます」

 そう言って前に出て来たのはまたカリンに似たストレートの女だ。

 こちらはようやく二十歳になったかどうかという見た目、年が近いせいかこの人の方がカリンに似ているような気がする。


「姉さまはおよそ十年間自身が生んだ卵を探しておりました。理由はとある人間が姉さまの卵を盗み出したのがきっかけです。どうやらその連中はガルダの雛を狙っていたらしく我々もその人間達の事はすぐに見つけ出し、制裁を加えたのですが卵だけは見つからなかったのです」

「つまり行方不明になった卵がカリンだと」

「はい」

 俺に説明してくれる女の人が話している間も魔王はイライラとしているが話が終わるとすぐに突っかかってきた。


「だからその子は私にとっても、そして一族にとっても大事な子。早く返せ」

「話と事情は分かった。でも少しだけ待ってくれ、カリンにも話しないと」

 そう思って声を掛けようとする前にカリンは出て来た。

 魔王はカリンの姿を見て顔を綻ばせる。


「えっと、こんにちは」

「そう硬くならなくて良い、私の事が分かるか?」

 魔王は期待と不安の混じった顔でカリンを呼ぶ。

 カリンは少しずつ魔王に近付き、確かめる様にじっと見た後抱き着いた。

 魔王はそんなカリンを優しく抱きしめる、カリンはまだ何か確かめる様にしていたがすぐに甘える様になった。


「この魔力……お母さんの魔力だ……」

「そうか、分かるか。分かってくれたか……」

 先ほどより強く抱きしめる魔王。

 いやあの表情はただの母親か。

 ただただ娘の無事を祈っていた母親だ。

 カリンの叔母?だと思われる女性も涙を拭いている。


 さて、こっからは俺の問題か。

 カリンを親の元に返すかどうか、大きな選択を待ち受けているのは目に見えていた。

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