証拠
「Y、協力してくれるってさ」
私の報告に、二人は頷いただけだった。
場所は、例のごとく、放課後の図書室である。
「いろいろ決まったところでさ、」
発案者はKだった。
「こういうのって…証拠、必要と思わん?」
にやりと笑ったK。
「何する気かは分からんけど、やめとけ」
Hが身震いしながら止める。
珍しいほどの爽やかな笑顔のまま、KがHへ顔を向ける。
「分からんのやったら黙っとってくれん?」
「こいつ話し合う気が0だ!」
「わかる!」
私が勢いよく同意すると、Kはあからさまな舌打ちをした。
「で?うちの案を聞くん?聞かんの?」
「「…聞く」」
「まぁもうほぼ喋っとるようなもんやな。証拠って言った時点でもう分かっとるやろうけど、」
Kはついさっき舌打ちをしたことを全く感じさせないほどの笑顔で、言い放った。
「…録音、しかないやん?」
悪魔のような、黒い笑顔で。
「いっ…いやいやいや、録音て!」
「いよいよ犯罪じみてきたな…」
勢いよく否定する私と、頷くH。
「犯罪も何も、うちらがしよることは何?立てこもり計画やん?」
今更犯罪がどうとか抜かすな、とKは呆れ顔だ。
いやそれにしても……私は学校に不必要なものを持って来たことがないくらいには優等生だ。
「えーと、そもそも録音する機械とか持ってなくない?」
「お前デジカメ持ってない?」
「デジカメ?それは持っとるけど…」
カメラは写真撮るものであって、録音するものではない。
Kの意図が分からず、Hと共に首を傾げる。
「あ」と声をあげたのはHだった。
「ビデオ機能」
「それ」
「あぁー」
納得した。
目的は音を記録することなのだから、映像も撮れたって問題はない。
「デジカメならうちらだって扱いきるしね。上手いこと考えたなぁ、K」
「せやろ」
「じゃあそういうことで」
頼まれる前に逃げるが勝ちだ。
Hを残してさり気なく図書室を後にしようとした私の背中に、Kは容赦なく言葉を被せた。
「明日、絶対持って来いよ」
「……はい」
逃げきれなかった。
その日の夜、泣く泣くランドセルにデジカメを入れたのは言うまでもない。