Y
Yは、クラスのリーダー的男子だ。
男子たちからの信頼は厚いし、Yならば男子たちの本心を聞き出せる。
でも…。
私は気がかりなことを二人に伝えた。
「あいつ多分、誰かに何か聞かれたら何でも答えるよ」
Yは男子たちに信頼されているのと同じくらい、男子たちを信頼している。
秘密なんて、守れそうもない。
「知っとるよ」
応えたのはKだった。
Kは続ける。
「やったら、計画は伝えんかったらいいやろ」
「計画伝えんで、男子にあの先生のことどう思っとうか聞いて報告してくれん?って言うん?怪しさ満点や」
「そこはお前の腕の見せ所」
「うちはそういうの下手なんよ!Kがやってくれたらいいやん!」
「ふーん…うちが?」
Kは試すように私を見据えた。
面倒くさい、とかいう理由で断られると思っていたが、意外な反応だ。
意外というか、肩すかしというか…。
私は考える。
YとKが話しているところを、見たことはない。
Kならきっと上手く計画を伏せて用件だけを伝えることは可能だろう。
しかし、Kが嫌味のひとつも言わずに話すことが出来るだろうか。
会った人は全員友達と思っているYと、人類を敵と見なしているK。
この二人が、仲良く、会話を…?
私は首を横に振って、溜め息をついた。
「…うちがやるわ」
「やろ?」
Kはドヤ顔だ。
人と仲良く出来んことでドヤ顔すな!と言いたいところだが、言っても無駄なので諦める。
ずっと黙っていたHが「それと」と付け足した。
「俺には聞かんでいいって言っとって」
「えぇ、説明面倒やし嫌や」
「黙って聞かれとったらいいやん」
私やKに否定されて、Hは苦笑いした。
「俺、Yくん苦手なんよね。何かテンションが高すぎて合わん」
納得した。
昼休み、校庭でクラスの大半の男子とボール遊びするYと、教室で一人囲碁を嗜むH。
そんな二人が合うわけがない。
「そういうことなら、それとなく伝えとくわ」
「頼むわ」
後に、同じ部活に入ったYとHが親友になるなんて、この時は思いもしなかった。
次の日の放課後、近所の公園にYを呼び出した。
軽く雑談しつつ、話を持ちかけた。
「いいよ」
二つ返事だった。
さり気なく伝えすぎただろうか、と不安になるくらいに。
「え、そんな簡単に答えていいと…?」
「うん」
「理由とか気にならんの?」
「言わんかったってことは聞かれたくないっちゅうことやろ?聞いてもいいんやったら聞きたいけど」
「いや、言えんのやけどさ…」
「そうやろ」
よっしゃ、当たったー!とYが笑った。
……いい奴だ。
普段話しているのがあの二人だから余計にそう思う。
「ちなみに、Yは先生のことどう思うん?」
「俺ぇ?」
えー、と唸ったYは、答えた。
「…嫌い、かな」
「えっ」
聞いておいて意外だった。
Yに嫌いな人がいるなんて。
ふざけてはいるがしっかり授業を受けているし、目立って怒られているのを見たこともない。
「なんで嫌いなん?」
そう聞くと、Yは授業中でも見たことがないような真剣な顔をした。
「正しいとか正しくないとか俺には分からんのやけどね、…友達が泣かされた」
「友達?」
「本人が知られたくないやろうけん誰とは言わんけどさ」
Yは続ける。
「俺、友達泣かされて黙っておれるほどいい子やないし、弱虫やないんよね」
Yが友達に信頼されている理由が、わかった気がした。
こんなに熱い奴が、好かれないはずがない。
クラスのリーダーがYで良かった、と捻くれた私でも思う。
Yが無邪気に笑う。
「やけん、俺はお前に協力する。何でも頼んでな」
「うん、ありがとう」
「よし!絶対にSの仇とってやる!」
「いや言うとるやん!誰とは言わんのやなかったん!」
「あ、やべ。まぁいいや。Sには内緒な」
焦った様子もなく笑うY。
憎めない奴とはこういう人のことだろう。
そう思って、私も笑った。